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昔の因縁 (裏では2)
しおりを挟むレオは寝室に移動したと思ったら、部屋の中をくるくる巡回し、壁を突き破って外へ出た。
「レオーー!!おまっ、これ帰ってきたらハルに怒られるぞ!」
そんなゼノウの叫びなぞ我関せずで、レオは匂いだけに意識を集中させる。
「ガウッガウッ」
「背中に乗れって言ってるんですかね?」
「神獣の背中に乗るとか恐れ多いな。まぁ、そんなこと言ってる場合じゃないか。」
二人が恐る恐るレオの背中に跨ると、風の速さで走り始める。
寝静まった街を飛ぶように走り抜け、行き着いたのは街外れの高台だ。
一年前に別の場所に立て直したため、この高台はすでに使われていないのだが、高台の上から灯りが漏れていた。
「誰かいるな・・・・。」「ですね。バレないように様子を見ましょう。」
オリバーがまず高台の中に飛び、中の様子を確かめる。
「一階には誰もいません。階段の幅も十分あるので、レオも入れますよ。というか人間に戻れないんですか?」
首を横に振る。
魔力コントロールの上手くないレオは戻るには少し時間が掛かるのだ。
3人で中に飛び、静かに階段を登っていくと、争っているような声や笑い声が聞こえてきて、レオの心臓がばくばくと力強く脈打った。
階段を登り切ると扉があり、声はその中から聞こえているようだ。
「嫌だっ!もうやめっ!グッ、」
「ははっ、魅了魔法のおかげですげえ欲情してんのにお前のフェロモンのせいで中々出ねえなーw
お前のフェロモンって近くで嗅ぐとこんなすげーのなw
長く楽しめていいわー、これ。
ほら、もっと奥まで咥えろ。」
声を聞いた瞬間、頭の中でグツグツと何かが煮えたぎるのが分かった。
毛が逆立ち、怒りで目の前が真っ赤になる。
ハルはオリバーの静止の声も聞かず、地獄の底から響くような唸り声を上げ、ドアを粉微塵にした。
「グゥワ゛ルルル゛ー」
突然現れた大きな獣に中にいた人間は動きを止め、今入ってきた獣に視線を向ける。
レオが部屋を見回すと部屋の端には震えるリンダンの姿。
でもそんなものより――――――
レオの目が鋭く、ただ一点を捉える。
手足を縛られた状態で髪を鷲掴みにされ、男の股間部に顔を押し付けられているハルの姿。
それを見てレオはプツリと自分の中の何かがキレるのが分かった。
ハルは服を裂かれてほとんど引っ掛けているだけの姿だ。
顔は涙で濡れており、殴られたようなアザがいくつもある。裂かれた服の隙間からは血が滴り落ちていた。
あぁ・・・・ダメだ。抑えが効かない。今まで一度も感じたことのないほどの強烈な怒りの感情に脳みそが支配される。
この男は・・・・今、ここで、殺す。
レオが男を噛み殺そうと唸りをあげて一歩、また一歩と近づく。
すると、追いついたオリバーとゼノウが両サイドからレオの首にしがみついた。
邪魔する二人を振り払おうと前脚を振り上げたとき、ゼノウたちの声が耳に届く。
「やめろ、レオ!今はそんな奴よりハルの身の安全だ。」
「そうです!この男は私たちが捕まえますから、まずはハルをっ!」
ハル……。そうだ……ハルが一番大事だ。
ボロボロの姿で呆然とこちらを見ていたハルと目が合うと、レオは考えるまでもなくハルの方へと駆け寄った。
獣の姿では抱き締めることさえできない。
ゼノウとオリバーに取り押さえられ床でのたうち回る男を横目に、レオはハルの頬を厚く大きな舌でチロッと舐めた。
「・・・・王太子様?」
「くぅん。」
鼻を鳴らして情けない高い鳴き声をもらす。
「助けに来てくれたんですか?」
「ガウっ」
「なんで?」
なんで?
そんなの決まってる。
言葉の出ない獣の姿がもどかしい。
黙ったままハルを見つめていると、床でのたうった男が叫び声をあげる。
「そいつは俺のだ!もともと俺のために用意されたオメガだ。父上が勝手に捨てただけで、生きてたんならまだ俺のもんに違いねぇだろうがよっ!
体中に俺の証残してんだから!ギャハハハ」
レオがやはり殺そうと男に向き直ると、すかさずゼノウがシールド魔法で男を小さい箱に閉じ込めた。
身動きが取れないほどぴっちり箱の中に詰まった男は何やら叫んでいるらしいが全く声は聞こえない。
「五月蝿いから暫くそこに入ってろ。
あんたもだ、リンダン。」
バレないようにゆっくり扉を抜けようとしていたリンダンをゼノウは男と同じく箱に閉じ込めた。
泣きながら何か叫んでいるが興味もないため、レオはすぐに顔を逸らす。
バタッ
レオ達が男とリンダンに気を取られている間にハルは突然意識を失った。
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