運命の番はこの世に3人いるらしい

さねうずる

文字の大きさ
31 / 48

30 明日からヒートです

しおりを挟む

綺麗すぎて落ち着かないと思っていた一ノ瀬さんの家。

5日も経てばだいぶ慣れてきた。
まだコンシェルジュさんの前を通る時とマンションの共用スペースは緊張するけど、部屋の中はだいぶ自由に動き回れる。


最初は、掃除も料理も何もしなくていいと言われていたので、汚しちゃいけないとか、洗濯物出すのにも恐縮しっぱなしだった。
(一ノ瀬さんは洗濯物はほぼクリーニングの人。)

けど、僕の様子に気付いた一ノ瀬さんが
キッチンも洗濯機もアイロンも掃除機も好きに触っていいと言ってくれたので、今はかなり気楽だ。


汚したら自分で掃除できるし、お腹が空いたら自分で作ればいいし、寝る部屋も客間を僕専用にしてくれたから、プライバシーも守られている。


夜はリビングで一ノ瀬さんとテレビを見たり、ゲームをしたり、ちょっとだけ晩酌したり、もはや気分は老夫夫。

隣で並んでソファに座ってる時なんか部屋の中なのに手なんか繋いじゃったり、肩抱かれちゃったり、なんやかんやスキンシップも増えてる気がする。


もしかしたらなかなか運命の番が現れないから形式上の恋人感をワンステップ上げてみたのかもしれない。

ただ、あの時みたいな濃密な接触はしていない。
勇士くんが現れる気配はないし、匂いをつける必要がなくなったんだろう。

それか一回抱いてみて、やっぱり僕みたいな見た目のやつは違うなって思ったのかも。


・・・・でも、それでもいい。
だって今、すごい幸せなんだ。
手繋いでもらえたり、頭撫でてもらえたり、すごくすごく優しい顔で微笑んでくれたり。
このまま運命の番が出てこなければ、僕にとってそれほど喜ばしいことはない。

まぁ、ただの夢だけどね。


取り敢えず僕がすべきことは、荷造りだ。
明日の土曜日からホテルに泊まる。
職場には来週分の休みの連絡をしてあるし、オメガ用ホテルも予約した。

あと、内緒で一ノ瀬さんのハンカチを一枚拝借してしまった。
どうしても彼の匂いのついたものが欲しくて。
事前に同じものを購入して差し替えておく念の入れようだ。
僕ってばヤバい?




「明日からホテルに移りますね。
10時くらいに家を出ます。」

「おう。気を付けて。」

一緒に夕飯の冷麺を啜りながら明日の予定について話す。
せっかくの土曜なのにホテルに缶詰は勿体無いけど、ヒートはオメガの宿命だからしょうがない。


「帰りは月曜の夜か遅ければ火曜日くらいになりそうです。」

「分かったよ。」


一ノ瀬さんはにこやかに頷いていた。


「そうそう、今日取引先のところに行ったんだけど近くに美味しい杏仁豆腐のお店があってさぁ、買ってきたんだ。」


冷麺を食べ終わると、一ノ瀬さんが冷蔵庫から白い箱を出してきた。
中には美味しそうな杏仁豆腐。

食後のデザートにぴったりだ。


「わー、この杏仁豆腐すごく美味しいですね。」

「だなー。なんか普通のより濃い感じがする。」

「はい。今まで食べた中で一番かも。」



って会話をしたところまで、覚えてる。
でも、それ以降の記憶がプツリと途切れていたーーー。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【完結済】どんな姿でも、あなたを愛している。

キノア9g
BL
かつて世界を救った英雄は、なぜその輝きを失ったのか。そして、ただ一人、彼を探し続けた王子の、ひたむきな愛が、その閉ざされた心に光を灯す。 声は届かず、触れることもできない。意識だけが深い闇に囚われ、絶望に沈む英雄の前に現れたのは、かつて彼が命を救った幼い王子だった。成長した王子は、すべてを捨て、十五年もの歳月をかけて英雄を探し続けていたのだ。 「あなたを死なせないことしか、できなかった……非力な私を……許してください……」 ひたすらに寄り添い続ける王子の深い愛情が、英雄の心を少しずつ、しかし確かに温めていく。それは、常識では測れない、静かで確かな繋がりだった。 失われた時間、そして失われた光。これは、英雄が再びこの世界で、愛する人と共に未来を紡ぐ物語。 全8話

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

処理中です...