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1巻
1-2
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「ああ、『溝鼠』ね……そういえば何か月か前も汚らしい『溝鼠』が後宮内の残飯を漁っていたって話題になっていたわね。あの『溝鼠』なら確か捕まって、牢に入れられたような……」
「その話なら聞いたわ。私の知り合いの、そのまた知り合いの女官が見たんですって。早朝に仕事をしていたら皇帝付きの衛兵が捨てていたらしいわよ。その『溝鼠』の死体を」
女官たちは嗤笑しながら渡り廊下を通り過ぎる。
女官たちがいなくなり、声が遠くなっても、笙鈴はしばらく息を潜めてその場で待っていた。
(もう出てもいいかな……)
おそるおそる顔を出して渡り廊下に誰もいないことを確認すると、ようやく安堵の息を吐く。
上級女官たちが話していた「溝鼠」というのは、笙鈴の前に下級女官をしていた者のことに違いない。笙鈴に嫌がらせをしてくる先輩女官たちが、笙鈴が来る前に嫌がらせをしており、彼女は笙鈴と入れ違いになる形で後宮から追い出されたと聞いている。
なんでも笙鈴と同じ方法で嫌がらせをされ、とうとう空腹に耐えきれなくなって皇帝一家の残飯に手をつけてしまったところ、それが皇帝付きの衛兵に知られて手酷い罰を与えられたという。そして、後宮から放り出されたと聞いている。
だがその後に下級女官の姿を見た者がいないことから、実は下級女官は処刑されており、骸は後宮の外に捨てられたのではないかというのがもっぱらの噂だ。
(そんな酷い扱いを受けるなんて……)
だが、食べ物に困ったことのない上級女官たちからしたら、残飯を漁っていたら同じ女官であろうが仲間でもなんでもなく、全て溝鼠としか感じないのだろう。
実際に下級女官の笙鈴は数日おきにしか身体を流せず汚い格好をしているので、溝鼠のような見苦しさは否定できなくないが……
そんな考えに捉われながらも、笙鈴は他の者たちと鉢合わせをしないように注意深く周囲を見渡す。そして誰もいないことを確認すると、鳴り続ける腹を抱えたまま、建物の陰に隠れながらまた歩きだした。饅頭の匂いを辿るようにして……
そのまま少し歩くと、わずかに開けられた窓から小さな煙が立ち昇る古ぼけた建物が見えてくる。
笙鈴はもう一度周囲を見まわし誰もいないことを確認すると、やっとたどり着いた建物の中に入っていく。
「こんばんは~! 今日もつまみ食いに来ました!」
「まったく……今日も食い物の匂いに釣られてやってきたのか、鼠娘」
出迎えたのは、油染みで汚れた藍鉄色の長袍を着た料理人の青年だ。
艶のある漆黒の長い髪を頭の上で一つに結び、年の頃は笙鈴より十ほど上と思しい。
しかしその青年の厳めしい罵声も、笙鈴には気にならない。というのも、彼の手には見るからに具がぎっしりと詰まった、蒸し立ての包子が載った皿があるからだ。
青年は笙鈴の視線の先が自身ではなく、自身が持つ皿に向かっているのに気付くと、眉間の皺を深くする。
「よくもまあ、飽きもしないで俺の料理を食べに来るものだな」
「えへへ……だって竜さんの作る料理はどれも美味しいんだもん」
「やっぱり、鼠だな」
「鼠じゃありません! もう、年頃の娘に失礼じゃないですか!」
ぶっきらぼうな竜の言葉にもめげず笙鈴がそうっと包子に手を伸ばそうとすると、竜は大げさな溜め息を吐く。
「手ぐらい洗え」
そして皿に伸ばしかけた笙鈴の手をパシッと叩いて皿を持ち上げると、そのまま卓に持っていってしまった。
笙鈴が叩かれた手にふーふーと息を吹きかけていると、竜は背を向けたまま呆れたように話す。
「つまみ食いする気で来たのなら、いつまでもそこに突っ立っていないで中に入ったらどうだ?」
「は~い! じゃあお言葉に甘えて失礼します!」
笙鈴は言われた通りに手を洗うと、卓に着く。
そこには先程竜が置いた包子以外にも、水餃子、小籠包、春巻き、麻婆豆腐、白湯などがすでにところ狭しと並んでおり、ますます空腹を刺激された。
竜は笙鈴に「鼠娘」という口さがない罵声を浴びせてくるが、こうして笙鈴のためにいつも料理を提供してくれる。だから笙鈴にとって竜が言う「鼠」は、女官たちが蔑んで言う「溝鼠」という言葉とは違った響きをもって感じられる。
笙鈴は料理に目を輝かせながら、まだ料理を作っている竜にちらりと視線を移す。
竜は料理人ながらも引き締まった身体つきをしており、重い鍋を軽々と扱う腕は、袖から覗く部分だけでもほどよく鍛えられているのが一目で分かる。背中に流した長い髪を揺らしながら真剣に調理に向き合う横顔には、どこか気品さえ感じられた。
竜には絶対に言わないが、実はその料理人らしからぬ貴族のような佇まいは、異性にまったく興味がない笙鈴でも時折魅了されそうになることがある。
「おい、食わないなら下げるぞ」
そんな思いに耽っていると竜に言われ、笙鈴は慌てて目を卓に戻す。
「だめですよ、そんなのっ! いただきま~す!」
それからお腹がペコペコの笙鈴は、夢中になって食事に手をつけ始める。
白い湯気を立てる蒸し立ての包子は中身の肉と野菜の餡から溢れ出てきた旨みを濃縮した汁が熱々で、舌を火傷しそうになる。白濁した汁物である白湯には、ほどよく煮込まれた野菜がたっぷり入っていて、出汁として使用したのか魚介の味がした。
きつね色に揚げられた細長い春巻きはパリパリと音を立て、中に詰まった筍や椎茸などの餡はひき肉や春雨と絡み合ってトロトロと口中でとろけ合い、噛めば噛むほどに旨みが溢れた。
火を通した焼餃子はサクッと焼かれた皮の触感がたまらない。ほのかに香る胡麻油が韮と葱の刺激的な匂いと絡み合い、白菜の甘みと脂身を多く含んだ豚肉の具を引き立てた。普段食べる瑞々しい水餃子も喉ごしがよく食べやすいが、焼いた餃子も春巻きとは違った趣と新しさがあった。
豆腐が賽の目状に均等に切られた麻婆豆腐は、辛さを連想する赤色をしていながらも、唐辛子の量を調整しているのか辛過ぎずに食べやすい。とろみのある餡の中にコクのある甘みをわずかに感じられるので、呑み込んでしまうのがもったいないくらいだ。強火で炒めた時に消えてしまう大蒜や生姜などの香味野菜の香りをほんのり残しているので、ますます食が進むのだった。
卓いっぱいの料理を箸を休ませることなく食べ続ける笙鈴の前に茶を置きながら、竜は呆れた顔をする。
「しかし、今日もよく食うな?」
「どれも美味しいです! まともな食事は昨日ぶりなので、いくらでもお腹に入りそうな気がします」
「……昨日ぶり? いくら下級女官でも食事くらい出されるだろう」
「そうなんですけどね。その……ちょっと色々理由がありまして……」
「理由? どうせ卑しい鼠娘のことだ。料理が少なくて食べ足りないんだろう」
「違っ……いえ! 実はそうなんです。料理が食べ足りなくて困っていて、あははは……」
心配をかけさせたくないと、とっさに笙鈴が言葉を濁したからか、それ以上は竜も何も聞いてこなかった。その代わりに、どこか訝しむように眉を顰める。
「……まだ試作の段階だが、湯圓もあるぞ。食後に食ってみろ」
「いいんですか!? ありがとうございます。食べます!」
笙鈴は目の前に並べられた料理をすっかり平らげ、試作品と言いつつも完成度の高い湯圓――餡を餅粉で包んだ甘味も堪能した。
◆
笙鈴が初めて竜と出会ったのは、後宮で働き始めたばかりの頃だった。
その日も笙鈴は先輩女官たちの嫌がらせが原因でたびたび食事を捨てられ、お腹を空かせていた。だが後宮に来たばかりということもあって、その頃はまだ先輩女官たちが笙鈴に嫌がらせをしていると知らず、自分だけ食事が出されないことを不思議に思いつつも働いていたのだ。
笙鈴は、この日はとうとう空腹が限界に達してしまい、なんでもいいから口にしたくて仕方なくなった。生えている草花に食べられるものがないかと薄闇の庭を探しまわる。
すると――風に乗ってどこからか饅頭や胡麻油の匂いが漂ってきたのだ。そして匂いを頼りに白壁の穴を通り、見知らぬ建物沿いに進むと、竜が料理を作るこの場所にたどり着いたのだった。
竜と出会った時の笙鈴は今よりもっと薄汚れた格好をしていた。そのせいか竜からは開口一番に「溝鼠!!」と言われて外に追い払われた。けれどもおこぼれだけでももらえないかと外から中の様子を窺っていたところ、しばらくして竜が完成した料理を一口も食べずに捨てようとしていた。ちなみに後から知ったが、あまり上手くいかなかった試作品だったらしい。
笙鈴は半泣きになりながら竜にしがみついた。そして自分が空腹であることを竜に話し、捨てられるところだった料理をくれないかと頼んだのだった。
竜は最初こそやめるように言ってきた。だが包子を持った笙鈴が泣きながら食べている姿を見ているうちに情が湧いたのか、はたまた呆れ果てたのか、作った料理を無言で出してくれるようになったのである。
◆
「は~! 今日も美味しかった!」
「本当に変わった鼠娘だな。俺が料理に毒を盛っていたらどうするつもりなんだ?」
笙鈴が食後に茶を飲みながら月餅を食べていると、竜が嫌味を言うように声を掛けてきた。
「えっ、竜さんが毒を盛るんですか? まさか竜さんは暗殺者とか?」
皇族が毒殺されるというのは、この仙皇国の歴史の上では珍しいことではない。
そういえば何度か竜の料理を食べに来ているが、笙鈴は竜が食べているのを見たことがない。竜に料理を食べないのかと聞いたがそのたびに無視されるので、何か理由があって食べないのかもしれないと考えていた。
ちなみにこの場所で竜が料理をするのは夜だけだ。仕事を抜け出して昼間に来ても、ここには竜どころか誰もいない。それもあって笙鈴は、竜は皇族の夜食を担当する料理人ではないのかと思っている。夜食担当の料理人はいつでも料理を提供できるよう毒見役も担うため、皇帝の信任を得ている者の中から選ばれると聞いたことがある。男性である竜がここにいるのも、そのためだろう。
きっと昼間の竜はどこか別の場所で休み、夜間になるといつ皇族から夜食の所望があってもいいように、ここで待機しているのだ。
「……お前の食欲に呆れているだけだ。本気にするな」
「いたたたっ……!」
そんなことを考えていると竜に人差し指で額をグリグリと押されて、笙鈴は声を上げる。
竜は人差し指を離すと、「茶のお代わりは?」と茶壺を持ち上げる。
「お代わりください……」
笙鈴が額を押さえていると、竜は茶壺から茶を注いでくれた。
「まったく……ここで食わせないと、お前のことだ。その辺に落ちているものでも平気で拾い食いするだろうからな」
「心配してくれるんですか?」
「お前は本当に随分とおめでたい頭をしているな」
「そ~ですか? そんなことはないと思うんですけど~!」
「言っておくが、褒めてるわけじゃないぞ」
笙鈴が笑っていると、竜は冷ややかな視線を送ってきたのだった。
竜にはぞんざいな扱いをされているが、笙鈴にとってこの場所での時間は、空腹を満たすだけでなく、唯一気楽に話せる相手と過ごす貴重な時間だった。
後宮で働く笙鈴には竜以外、親しく話せる間柄の者が誰もいない。先輩女官たちは意地悪を繰り返してばかりでまともに口をきいてくれず、宦官の中にも親しい者はいない。たまに言葉を交わすことはあるが、本当にただそれだけだ。
笙鈴と話をしてくれるのは、夜半だけここで料理をする竜のみ。といっても、笙鈴が一方的に話すばかりで、竜はたまに相槌を打つだけだが。
後はただ聞き役に徹しているのか、無視しているのかよく分からなかったが、笙鈴はそれでよかった。後宮で働く孤独な笙鈴にとって、この時間だけが数少ない人の温もりを感じられる至福の時だったからだ。
その時、竜が自分の分の茶から口を離してそっと息を吐くと「ところで鼠娘」と珍しく話しかけてきた。
「最近、氷水……様はどうしている?」
「氷水様って……皇帝陛下の一人娘の氷水様ですか?」
藪から棒に振られた話があまりにも意外な内容だったこともあり、笙鈴は首を傾げてしまう。
氷水は七歳になる仙皇国の皇女であり、この世界で唯一、飛竜皇帝の血を引く娘でもある。
氷水の母親は、仙皇国から遠く離れた西の国から同盟の証として嫁いできた王女だ。いわゆる、政略結婚である。
皇后となった彼女はその翌年には妊娠、出産をした。その時に生まれたのが氷水だ。
西の国特有の白い肌に日の光のような金髪、澄んだ青い目をしていた皇后。そして仙皇国人らしい黒髪、黒目の飛竜。二人の血を引いた氷水は、白い肌に漆黒の髪、澄んだ青い目をした可憐な姫として誕生したという。
笙鈴は間近に見たことはないが、両親が見目麗しい顔立ちをしていることもあり、氷水も非常に美しいと噂されている。子供特有の愛らしさも合わせ、氷水より美しい者は存在しないという話だ。そのうちとうとう後宮内では「仙皇国一の美少女」とまで言われるようになっていた。
(なんで急に氷水様のことを尋ねてくるんだろう……?)
そう考える笙鈴をよそに、竜は続ける。
「そうだ。最近の氷水様の様子はどうだ。元気にしているか?」
「どうかと聞かれても……私は下級女官なので、皇女様に直接お目通りできる身分でもないですし……」
そもそもどうして一介の料理人である竜が皇女の様子を聞くのか笙鈴には不思議だった。皇族の夜食を担当しているのかもしれないが、氷水が元気かどうかは料理人の仕事とは関係ない気がする。
「些細なことでもいい……最近、表舞台に出てこないだろう」
「ただの料理人である竜さんが、どうして皇女様を気にするんですか……? あっ! まさか美少女って噂の皇女様に、邪な感情を抱いているとか?」
「はぁ……こっちにも色々と事情があるんだ」
笙鈴にからかわれ、竜はうんざりした顔で返事をする。
竜が皇女を気にする理由は気になるが、あまり深く追及しても竜が料理を食べない理由を尋ねた時と同じで無視されるかはぐらかされるだけだろう。時機が来て、そのうち教えてくれるのを待つしかない。
そう考えた笙鈴は、氷水について思い出そうとする。
笙鈴は下級女官なので、皇女である氷水に直接会うことは叶わない。皇族たちに直接会えるのは側付きである上級女官くらいで、笙鈴のような下級女官はせいぜい遠くから姿を見るだけで精一杯だ。
(仮に近くに来ても、叩頭するから顔が見えないんだよね)
皇族と間近で会う機会があったとしても、笙鈴たちは皇族が許すまで顔を伏せていなければならない。なので顔を見ることはなかなか難しい。不用意に頭を上げれば、不敬としてその場で斬り捨てられかねない。
「遠目から見ただけですが、お元気そうでしたよ」
笙鈴は仕事中に偶然氷水を見かけた時のことを思い返してそう答えた。といってもかなり離れたところから目にしただけなので、詳しいことまでは分からないが。
「でもそういえば皇后様が亡くなってから、なかなか後宮内のご自分の宮から出てこなくなったらしいですね……」
氷水の母親であり飛竜の妻でもあった皇后は、二年前に病気で亡くなった。それ以来、氷水は籠りがちになり、ほとんど自室がある宮の外に姿を見せなくなったと聞いている。飛竜も皇后亡き後、別の女性を皇后に迎えていない。
世継ぎのために飛竜には早く別の女性を後宮に迎えてほしいと官吏たちは言っているらしいが、未だにそんな気配すらない。
国の将来を危惧した――あるいは外戚となって皇帝に取り入ることを目論む――重鎮たちが自分の娘や孫娘を後宮に送っても、すぐに飛竜によって送り返されてしまうとのことだ。
「やはり母親を亡くしたのが原因か……」
竜が独り言のように小さく呟いた。
「氷水様が宮から出ないのも気になりますが、そもそも氷水様の父親である皇帝陛下は、どうして氷水様に会いに来ないんですかね?」
月餅を食べながら笙鈴が尋ねると、手の中で茶器を揺らしていた竜の手が一瞬だけ止まったように見えた。
「それは……おそらく、皇帝陛下には皇帝陛下なりの考えがあるんだろう」
「そーなんですね」
「それより鼠娘」
「なんですか?」
笙鈴は月餅の最後のひと欠片を呑み込むと、茶に口をつける。
「お前、氷水様の身辺を探れるか? 特に氷水様を傷付ける者がいないか調べるんだ」
竜の言葉に驚いて飲んでいた茶が気管に入ってしまい、笙鈴は「ゴホゴホッ……」とむせる。
「えっ……! なんで私が!? というか、なんで竜さんがそんなことを気にするんですか!?」
「散々餌付けしただろう。タダ飯食いをする気か。鼠娘」
「え、餌付け……!?」
鼠に食べさせるから餌付けか……と納得するわけにもいかず、笙鈴は断固として断る。
「嫌ですよ! ただでさえ仕事で忙しいのに、氷水様を探る機会なんてありませんよ! 氷水様が気になるなら、竜さんが探ればいいじゃないですか」
「俺には色々と事情があるんだと言ってるだろう」
わざとらしく目を逸らした竜に、もしかして竜が夜食を作っている相手は氷水ではないかと笙鈴は考える。氷水が竜の作った夜食を食べないから、心配して様子を探るよう頼んでいるのではないかと。
餌付けというのは心外だが、竜に世話になっている笙鈴は仕方なく言う。
「その話なら聞いたわ。私の知り合いの、そのまた知り合いの女官が見たんですって。早朝に仕事をしていたら皇帝付きの衛兵が捨てていたらしいわよ。その『溝鼠』の死体を」
女官たちは嗤笑しながら渡り廊下を通り過ぎる。
女官たちがいなくなり、声が遠くなっても、笙鈴はしばらく息を潜めてその場で待っていた。
(もう出てもいいかな……)
おそるおそる顔を出して渡り廊下に誰もいないことを確認すると、ようやく安堵の息を吐く。
上級女官たちが話していた「溝鼠」というのは、笙鈴の前に下級女官をしていた者のことに違いない。笙鈴に嫌がらせをしてくる先輩女官たちが、笙鈴が来る前に嫌がらせをしており、彼女は笙鈴と入れ違いになる形で後宮から追い出されたと聞いている。
なんでも笙鈴と同じ方法で嫌がらせをされ、とうとう空腹に耐えきれなくなって皇帝一家の残飯に手をつけてしまったところ、それが皇帝付きの衛兵に知られて手酷い罰を与えられたという。そして、後宮から放り出されたと聞いている。
だがその後に下級女官の姿を見た者がいないことから、実は下級女官は処刑されており、骸は後宮の外に捨てられたのではないかというのがもっぱらの噂だ。
(そんな酷い扱いを受けるなんて……)
だが、食べ物に困ったことのない上級女官たちからしたら、残飯を漁っていたら同じ女官であろうが仲間でもなんでもなく、全て溝鼠としか感じないのだろう。
実際に下級女官の笙鈴は数日おきにしか身体を流せず汚い格好をしているので、溝鼠のような見苦しさは否定できなくないが……
そんな考えに捉われながらも、笙鈴は他の者たちと鉢合わせをしないように注意深く周囲を見渡す。そして誰もいないことを確認すると、鳴り続ける腹を抱えたまま、建物の陰に隠れながらまた歩きだした。饅頭の匂いを辿るようにして……
そのまま少し歩くと、わずかに開けられた窓から小さな煙が立ち昇る古ぼけた建物が見えてくる。
笙鈴はもう一度周囲を見まわし誰もいないことを確認すると、やっとたどり着いた建物の中に入っていく。
「こんばんは~! 今日もつまみ食いに来ました!」
「まったく……今日も食い物の匂いに釣られてやってきたのか、鼠娘」
出迎えたのは、油染みで汚れた藍鉄色の長袍を着た料理人の青年だ。
艶のある漆黒の長い髪を頭の上で一つに結び、年の頃は笙鈴より十ほど上と思しい。
しかしその青年の厳めしい罵声も、笙鈴には気にならない。というのも、彼の手には見るからに具がぎっしりと詰まった、蒸し立ての包子が載った皿があるからだ。
青年は笙鈴の視線の先が自身ではなく、自身が持つ皿に向かっているのに気付くと、眉間の皺を深くする。
「よくもまあ、飽きもしないで俺の料理を食べに来るものだな」
「えへへ……だって竜さんの作る料理はどれも美味しいんだもん」
「やっぱり、鼠だな」
「鼠じゃありません! もう、年頃の娘に失礼じゃないですか!」
ぶっきらぼうな竜の言葉にもめげず笙鈴がそうっと包子に手を伸ばそうとすると、竜は大げさな溜め息を吐く。
「手ぐらい洗え」
そして皿に伸ばしかけた笙鈴の手をパシッと叩いて皿を持ち上げると、そのまま卓に持っていってしまった。
笙鈴が叩かれた手にふーふーと息を吹きかけていると、竜は背を向けたまま呆れたように話す。
「つまみ食いする気で来たのなら、いつまでもそこに突っ立っていないで中に入ったらどうだ?」
「は~い! じゃあお言葉に甘えて失礼します!」
笙鈴は言われた通りに手を洗うと、卓に着く。
そこには先程竜が置いた包子以外にも、水餃子、小籠包、春巻き、麻婆豆腐、白湯などがすでにところ狭しと並んでおり、ますます空腹を刺激された。
竜は笙鈴に「鼠娘」という口さがない罵声を浴びせてくるが、こうして笙鈴のためにいつも料理を提供してくれる。だから笙鈴にとって竜が言う「鼠」は、女官たちが蔑んで言う「溝鼠」という言葉とは違った響きをもって感じられる。
笙鈴は料理に目を輝かせながら、まだ料理を作っている竜にちらりと視線を移す。
竜は料理人ながらも引き締まった身体つきをしており、重い鍋を軽々と扱う腕は、袖から覗く部分だけでもほどよく鍛えられているのが一目で分かる。背中に流した長い髪を揺らしながら真剣に調理に向き合う横顔には、どこか気品さえ感じられた。
竜には絶対に言わないが、実はその料理人らしからぬ貴族のような佇まいは、異性にまったく興味がない笙鈴でも時折魅了されそうになることがある。
「おい、食わないなら下げるぞ」
そんな思いに耽っていると竜に言われ、笙鈴は慌てて目を卓に戻す。
「だめですよ、そんなのっ! いただきま~す!」
それからお腹がペコペコの笙鈴は、夢中になって食事に手をつけ始める。
白い湯気を立てる蒸し立ての包子は中身の肉と野菜の餡から溢れ出てきた旨みを濃縮した汁が熱々で、舌を火傷しそうになる。白濁した汁物である白湯には、ほどよく煮込まれた野菜がたっぷり入っていて、出汁として使用したのか魚介の味がした。
きつね色に揚げられた細長い春巻きはパリパリと音を立て、中に詰まった筍や椎茸などの餡はひき肉や春雨と絡み合ってトロトロと口中でとろけ合い、噛めば噛むほどに旨みが溢れた。
火を通した焼餃子はサクッと焼かれた皮の触感がたまらない。ほのかに香る胡麻油が韮と葱の刺激的な匂いと絡み合い、白菜の甘みと脂身を多く含んだ豚肉の具を引き立てた。普段食べる瑞々しい水餃子も喉ごしがよく食べやすいが、焼いた餃子も春巻きとは違った趣と新しさがあった。
豆腐が賽の目状に均等に切られた麻婆豆腐は、辛さを連想する赤色をしていながらも、唐辛子の量を調整しているのか辛過ぎずに食べやすい。とろみのある餡の中にコクのある甘みをわずかに感じられるので、呑み込んでしまうのがもったいないくらいだ。強火で炒めた時に消えてしまう大蒜や生姜などの香味野菜の香りをほんのり残しているので、ますます食が進むのだった。
卓いっぱいの料理を箸を休ませることなく食べ続ける笙鈴の前に茶を置きながら、竜は呆れた顔をする。
「しかし、今日もよく食うな?」
「どれも美味しいです! まともな食事は昨日ぶりなので、いくらでもお腹に入りそうな気がします」
「……昨日ぶり? いくら下級女官でも食事くらい出されるだろう」
「そうなんですけどね。その……ちょっと色々理由がありまして……」
「理由? どうせ卑しい鼠娘のことだ。料理が少なくて食べ足りないんだろう」
「違っ……いえ! 実はそうなんです。料理が食べ足りなくて困っていて、あははは……」
心配をかけさせたくないと、とっさに笙鈴が言葉を濁したからか、それ以上は竜も何も聞いてこなかった。その代わりに、どこか訝しむように眉を顰める。
「……まだ試作の段階だが、湯圓もあるぞ。食後に食ってみろ」
「いいんですか!? ありがとうございます。食べます!」
笙鈴は目の前に並べられた料理をすっかり平らげ、試作品と言いつつも完成度の高い湯圓――餡を餅粉で包んだ甘味も堪能した。
◆
笙鈴が初めて竜と出会ったのは、後宮で働き始めたばかりの頃だった。
その日も笙鈴は先輩女官たちの嫌がらせが原因でたびたび食事を捨てられ、お腹を空かせていた。だが後宮に来たばかりということもあって、その頃はまだ先輩女官たちが笙鈴に嫌がらせをしていると知らず、自分だけ食事が出されないことを不思議に思いつつも働いていたのだ。
笙鈴は、この日はとうとう空腹が限界に達してしまい、なんでもいいから口にしたくて仕方なくなった。生えている草花に食べられるものがないかと薄闇の庭を探しまわる。
すると――風に乗ってどこからか饅頭や胡麻油の匂いが漂ってきたのだ。そして匂いを頼りに白壁の穴を通り、見知らぬ建物沿いに進むと、竜が料理を作るこの場所にたどり着いたのだった。
竜と出会った時の笙鈴は今よりもっと薄汚れた格好をしていた。そのせいか竜からは開口一番に「溝鼠!!」と言われて外に追い払われた。けれどもおこぼれだけでももらえないかと外から中の様子を窺っていたところ、しばらくして竜が完成した料理を一口も食べずに捨てようとしていた。ちなみに後から知ったが、あまり上手くいかなかった試作品だったらしい。
笙鈴は半泣きになりながら竜にしがみついた。そして自分が空腹であることを竜に話し、捨てられるところだった料理をくれないかと頼んだのだった。
竜は最初こそやめるように言ってきた。だが包子を持った笙鈴が泣きながら食べている姿を見ているうちに情が湧いたのか、はたまた呆れ果てたのか、作った料理を無言で出してくれるようになったのである。
◆
「は~! 今日も美味しかった!」
「本当に変わった鼠娘だな。俺が料理に毒を盛っていたらどうするつもりなんだ?」
笙鈴が食後に茶を飲みながら月餅を食べていると、竜が嫌味を言うように声を掛けてきた。
「えっ、竜さんが毒を盛るんですか? まさか竜さんは暗殺者とか?」
皇族が毒殺されるというのは、この仙皇国の歴史の上では珍しいことではない。
そういえば何度か竜の料理を食べに来ているが、笙鈴は竜が食べているのを見たことがない。竜に料理を食べないのかと聞いたがそのたびに無視されるので、何か理由があって食べないのかもしれないと考えていた。
ちなみにこの場所で竜が料理をするのは夜だけだ。仕事を抜け出して昼間に来ても、ここには竜どころか誰もいない。それもあって笙鈴は、竜は皇族の夜食を担当する料理人ではないのかと思っている。夜食担当の料理人はいつでも料理を提供できるよう毒見役も担うため、皇帝の信任を得ている者の中から選ばれると聞いたことがある。男性である竜がここにいるのも、そのためだろう。
きっと昼間の竜はどこか別の場所で休み、夜間になるといつ皇族から夜食の所望があってもいいように、ここで待機しているのだ。
「……お前の食欲に呆れているだけだ。本気にするな」
「いたたたっ……!」
そんなことを考えていると竜に人差し指で額をグリグリと押されて、笙鈴は声を上げる。
竜は人差し指を離すと、「茶のお代わりは?」と茶壺を持ち上げる。
「お代わりください……」
笙鈴が額を押さえていると、竜は茶壺から茶を注いでくれた。
「まったく……ここで食わせないと、お前のことだ。その辺に落ちているものでも平気で拾い食いするだろうからな」
「心配してくれるんですか?」
「お前は本当に随分とおめでたい頭をしているな」
「そ~ですか? そんなことはないと思うんですけど~!」
「言っておくが、褒めてるわけじゃないぞ」
笙鈴が笑っていると、竜は冷ややかな視線を送ってきたのだった。
竜にはぞんざいな扱いをされているが、笙鈴にとってこの場所での時間は、空腹を満たすだけでなく、唯一気楽に話せる相手と過ごす貴重な時間だった。
後宮で働く笙鈴には竜以外、親しく話せる間柄の者が誰もいない。先輩女官たちは意地悪を繰り返してばかりでまともに口をきいてくれず、宦官の中にも親しい者はいない。たまに言葉を交わすことはあるが、本当にただそれだけだ。
笙鈴と話をしてくれるのは、夜半だけここで料理をする竜のみ。といっても、笙鈴が一方的に話すばかりで、竜はたまに相槌を打つだけだが。
後はただ聞き役に徹しているのか、無視しているのかよく分からなかったが、笙鈴はそれでよかった。後宮で働く孤独な笙鈴にとって、この時間だけが数少ない人の温もりを感じられる至福の時だったからだ。
その時、竜が自分の分の茶から口を離してそっと息を吐くと「ところで鼠娘」と珍しく話しかけてきた。
「最近、氷水……様はどうしている?」
「氷水様って……皇帝陛下の一人娘の氷水様ですか?」
藪から棒に振られた話があまりにも意外な内容だったこともあり、笙鈴は首を傾げてしまう。
氷水は七歳になる仙皇国の皇女であり、この世界で唯一、飛竜皇帝の血を引く娘でもある。
氷水の母親は、仙皇国から遠く離れた西の国から同盟の証として嫁いできた王女だ。いわゆる、政略結婚である。
皇后となった彼女はその翌年には妊娠、出産をした。その時に生まれたのが氷水だ。
西の国特有の白い肌に日の光のような金髪、澄んだ青い目をしていた皇后。そして仙皇国人らしい黒髪、黒目の飛竜。二人の血を引いた氷水は、白い肌に漆黒の髪、澄んだ青い目をした可憐な姫として誕生したという。
笙鈴は間近に見たことはないが、両親が見目麗しい顔立ちをしていることもあり、氷水も非常に美しいと噂されている。子供特有の愛らしさも合わせ、氷水より美しい者は存在しないという話だ。そのうちとうとう後宮内では「仙皇国一の美少女」とまで言われるようになっていた。
(なんで急に氷水様のことを尋ねてくるんだろう……?)
そう考える笙鈴をよそに、竜は続ける。
「そうだ。最近の氷水様の様子はどうだ。元気にしているか?」
「どうかと聞かれても……私は下級女官なので、皇女様に直接お目通りできる身分でもないですし……」
そもそもどうして一介の料理人である竜が皇女の様子を聞くのか笙鈴には不思議だった。皇族の夜食を担当しているのかもしれないが、氷水が元気かどうかは料理人の仕事とは関係ない気がする。
「些細なことでもいい……最近、表舞台に出てこないだろう」
「ただの料理人である竜さんが、どうして皇女様を気にするんですか……? あっ! まさか美少女って噂の皇女様に、邪な感情を抱いているとか?」
「はぁ……こっちにも色々と事情があるんだ」
笙鈴にからかわれ、竜はうんざりした顔で返事をする。
竜が皇女を気にする理由は気になるが、あまり深く追及しても竜が料理を食べない理由を尋ねた時と同じで無視されるかはぐらかされるだけだろう。時機が来て、そのうち教えてくれるのを待つしかない。
そう考えた笙鈴は、氷水について思い出そうとする。
笙鈴は下級女官なので、皇女である氷水に直接会うことは叶わない。皇族たちに直接会えるのは側付きである上級女官くらいで、笙鈴のような下級女官はせいぜい遠くから姿を見るだけで精一杯だ。
(仮に近くに来ても、叩頭するから顔が見えないんだよね)
皇族と間近で会う機会があったとしても、笙鈴たちは皇族が許すまで顔を伏せていなければならない。なので顔を見ることはなかなか難しい。不用意に頭を上げれば、不敬としてその場で斬り捨てられかねない。
「遠目から見ただけですが、お元気そうでしたよ」
笙鈴は仕事中に偶然氷水を見かけた時のことを思い返してそう答えた。といってもかなり離れたところから目にしただけなので、詳しいことまでは分からないが。
「でもそういえば皇后様が亡くなってから、なかなか後宮内のご自分の宮から出てこなくなったらしいですね……」
氷水の母親であり飛竜の妻でもあった皇后は、二年前に病気で亡くなった。それ以来、氷水は籠りがちになり、ほとんど自室がある宮の外に姿を見せなくなったと聞いている。飛竜も皇后亡き後、別の女性を皇后に迎えていない。
世継ぎのために飛竜には早く別の女性を後宮に迎えてほしいと官吏たちは言っているらしいが、未だにそんな気配すらない。
国の将来を危惧した――あるいは外戚となって皇帝に取り入ることを目論む――重鎮たちが自分の娘や孫娘を後宮に送っても、すぐに飛竜によって送り返されてしまうとのことだ。
「やはり母親を亡くしたのが原因か……」
竜が独り言のように小さく呟いた。
「氷水様が宮から出ないのも気になりますが、そもそも氷水様の父親である皇帝陛下は、どうして氷水様に会いに来ないんですかね?」
月餅を食べながら笙鈴が尋ねると、手の中で茶器を揺らしていた竜の手が一瞬だけ止まったように見えた。
「それは……おそらく、皇帝陛下には皇帝陛下なりの考えがあるんだろう」
「そーなんですね」
「それより鼠娘」
「なんですか?」
笙鈴は月餅の最後のひと欠片を呑み込むと、茶に口をつける。
「お前、氷水様の身辺を探れるか? 特に氷水様を傷付ける者がいないか調べるんだ」
竜の言葉に驚いて飲んでいた茶が気管に入ってしまい、笙鈴は「ゴホゴホッ……」とむせる。
「えっ……! なんで私が!? というか、なんで竜さんがそんなことを気にするんですか!?」
「散々餌付けしただろう。タダ飯食いをする気か。鼠娘」
「え、餌付け……!?」
鼠に食べさせるから餌付けか……と納得するわけにもいかず、笙鈴は断固として断る。
「嫌ですよ! ただでさえ仕事で忙しいのに、氷水様を探る機会なんてありませんよ! 氷水様が気になるなら、竜さんが探ればいいじゃないですか」
「俺には色々と事情があるんだと言ってるだろう」
わざとらしく目を逸らした竜に、もしかして竜が夜食を作っている相手は氷水ではないかと笙鈴は考える。氷水が竜の作った夜食を食べないから、心配して様子を探るよう頼んでいるのではないかと。
餌付けというのは心外だが、竜に世話になっている笙鈴は仕方なく言う。
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