1 / 16
1巻
1-1
しおりを挟む
第一章 餌付け開始
「お腹、空いた……」
誰に言うともなく呟いた掠れ声は、腹の音に紛れるように小さく響き、桜が散り始めたばかりの春宵の中に消えていった。
薄汚れた裾の襦裙に、底の擦り減った沓。そして抱えている竹籠の中には、山のように積まれた衣類が入っている。
見るからに重そうな竹籠を持っているのは、小柄な黒髪の少女だった。
「わっ……」
少女が竹籠の重みに気を取られていると、襦裙の裾を踏んで転びそうになる。籠から洗濯物が落ちかけるのを、どうにか体勢を立て直して踏みとどまると床に置く。
そして袖で額を拭うと、安堵の息を漏らした。
「ふう、よかった~。危うく洗い直しになるところだった」
少女はあかぎれが目立つ手で竹籠の中の洗濯物を整え直し、再び籠を持って歩きだそうとする。しかし――
ぐぅ~……
彼女のお腹からは情けない低い音が聞こえてきた。
「はあ、お腹空いた……」
少女――高笙鈴は、眉を下げて辺りを見まわし、空腹で鳴り続けるお腹を押さえる。
笙鈴の容貌は、麗人とは言いがたい。薄汚れた頬と痩せぎすの身体は、襤褸のような服装と相まって貧弱さを強調している。適当に洗って頭の後ろで結った黒髪も、日の出前からの仕事によって形が崩れかかっていた。
笙鈴はふらついてしまうような空腹にもめげず、洗濯が終わったばかりの衣類をそれぞれ部屋に戻していた。機敏に働く彼女の様子にはどこか小動物のような愛らしさがあった。見目こそ襤褸を纏い、乙女らしからぬ姿ではあるが、まっすぐな黒い目には輝きと利発さが宿っている。
そうして笙鈴が洗濯物を部屋に戻す作業を半分ほど終え、次の部屋に向かっていた時だった。
突然部屋の外から、情けない女の声と衛兵と思しき男の声が聞こえてくる。
「ま、待ってください! せめて、話だけでも……!」
「ええい、うるさい奴だな。これは主上のご命令なのだ。逆らう者には容赦はしない!」
「皇帝陛下は何か勘違いをなさっているのです! 私が出入りをする商人と手を組んで、後宮内の調度品や皇族方の所有品を横流ししていたなど……!」
衛兵が槍で地面を打ったのか、鈍い金属音が聞こえたかと思うと女が「ひぃ!」と悲鳴を上げる。
「もう決まったことだ! 今更変えるわけにもいかん。この決定が不服だと言うのなら、無実の証拠を示してみろ!」
「そんな……私や家族にも生活があるのです! うちは貧しい農村で仕送りが……」
女の言葉が途切れたかと思うと、「んんっー!」と唸る声、石畳の地面を蹴る音が聞こえてきた。
やがて唸り声は金属が擦れる音と重いものを引きずる音と共に、徐々に遠ざかっていった。
(また誰かが追い出されたんだ……)
様子を窺っていた笙鈴は一人そう考える。
おそらく女は猿轡をされて衛兵数人がかりで身柄を取り押さえられ、王城の外に連れていかれたのだろう。地面を蹴って抵抗していたようだが、鎧を纏った屈強な衛兵たちには敵うわけがない。
しかし、後宮から追い出されただけならまだいい方だろう。昔、王城に出入りする商人と癒着していたという女官が捕らえられた時は、本人だけではなく一族全員が処刑されたとのことだった。笙鈴は後宮に来た当初こそ驚いたものの、今ではすっかりさっきのような状況にも慣れてしまった。
それよりも、笙鈴には気がかりなことがあった。
(今の女の人、下級女官だろうな……明日からまた仕事が増えるのは嫌だな……)
ただでさえ人が少ないのに、と笙鈴は溜め息を吐くと竹籠を持ち直す。
(本当は助けてあげたいけど……)
誰かが追い出されそうになっているのに出くわすたびに、いつもそう思う。そのたびにやるせない気持ちになる――
(でもそうしたら今度は私が追い出されて、家族に仕送りができなくなっちゃうかもしれない。だから助けられないけど……やってないのに無実の証拠を示せ、なんて言われても……さすがにこのやり方は無茶苦茶だよ)
笙鈴は自分の中で渦巻く感情をぐっと抑えるように竹籠を持つ手に力を込めると、もやもやしながらも残りの衣類を片付けることにする。
ここは――仙皇国にある四つの州の一つ。皇帝のお膝元である、花州にある王城。どこまでも高く白い石造りの城壁に囲まれた王城の広大な敷地の中には、いくつもの宮や建物が立ち並んでいる。
その中でも季節の花々が彩る中庭に隣接し、姦しい女官たちの笑い声が響く、赤土造りの建物の一角。笙鈴がいるこの場所は、仙皇国の皇帝一家が住まう後宮だった。皇帝に特別の許しを与えられた衛兵や官吏以外は、男性の立ち入りが禁止されている。
本来なら貧乏な下級官吏の娘である笙鈴が働ける場所ではないのだが、これにはちょっとした縁と理由がある。
この国の皇帝――飛竜は、非常に疑り深い性格の持ち主であり、気に入らない衛兵や側仕えの女官を次々と後宮から追い出していた。
飛竜の側近たちが衛兵や女官を何人補充しても、主人である飛竜が片っ端からクビにしてしまうので、後宮は常に人手不足であった。側近たちが人手を求めて探しまわった結果、とうとう笙鈴にまで声が掛けられたのが数週間前だ。笙鈴は当時上級官吏の家で下働きをしてはいたが、後宮とはまったく縁がなかったにもかかわらずだ。
ただし後宮勤めといっても下級女官のため、仕事内容はそんなに難しいものではない。広い後宮内の掃除や大量の衣類の洗濯などだ。しかし飛竜が追い出さなかった数少ない下級女官と、他の下働きの者たちだけで手分けするにはやや厳しい仕事量であった。
その分、給金がよかったので引き受けたものの、笙鈴はとある事情によりまともに食事を与えられず、常にお腹を空かせていた。
これなら上級官吏の家で下働きをしていた頃の方がまだよかった。野菜の屑を煮たような粥や汁物が中心で量も少なかったが、毎日朝と夕には必ず食事が提供された。今のように食べるものがまったくない状況になったことはない。
(でもここで私が後宮勤めを辞めたら、故郷の弟妹たちもお腹を空かせることになるし……)
笙鈴にはまだ幼い弟妹が五人いる。地方で下級官吏をしている父の稼ぎに加えて、病弱な母が細々と続けている内職だけでは、食べ盛りの弟妹たちを満足に育てられない。そうなると、やはり笙鈴の仕送りも必要になってくる。故郷に住む家族のことを考えると、笙鈴は働かざるを得なかった。
ようやくその日に洗濯した衣類を全て元の場所にしまうと、笙鈴はすぐに下働きをする女官たちの厨に向かう。
空腹にもかかわらず笙鈴の足取りは軽く、弾むような勢いだ。
(今日はいつもより早く仕事が終わったから、夕餉が残っているかも!)
そんな期待と共に急ぐ笙鈴だったが、厨から出てきた者によってその望みは打ち砕かれてしまう。
「あら、今になって来たの?」
厨から出てきたのは笙鈴の先輩にあたる下級女官たちであり、笙鈴が食事を取れない原因でもあった。笙鈴は及び腰になりながらも口を開く。
「洗濯物は全て片付けました。それで夕餉を受け取りに……」
「そうなの。でも残念ね。さっき全部空になってしまったの。今日はいつもより早く人が集まったからかしら」
「そ、そんな……」
肩を落とす笙鈴を嘲笑しながら先輩女官たちが去っていく。
これもいつもと同じ陰湿ないじめだと、笙鈴には分かっていた。それでも米粒の一つも残っていないかと、一縷の望みをかけて厨に入る。
しかし女官たちの言う通り、すでに食事の提供が終わったのか、下級女官たちの食事を担当する恰幅のいい女性料理人が後片付けをしていただけであった。
笙鈴が近づくと、料理人は人好きのしそうな顔を曇らせて言う。
「あれ? 笙鈴じゃないか。この時間まで仕事だったのかい?」
「は、はい。そうなんです。それで今から夕餉を食べようと……」
「おかしいね……笙鈴の分は、あんたの仕事仲間の女官たちが受け取って、さっき空の器を返しに来たところだよ。忙しくて本人は返す暇がないから、代わりに来たとか言って」
「そ、そんな……じゃあ、料理は残ってないんですか?」
笙鈴は諦めきれずに尋ねたが、本当に何もないらしい。
笙鈴が後宮の下級女官としてやってきた日から、先輩女官たちによる嫌がらせは続いていた。いじめられる理由に心当たりはなかったが、強いて言うのならば、ここで働き始めた初日に仕事の速さを女官長に褒められたからかもしれない。
前に働いていた上級官吏の家は来客が頻繁にあり、特に泊まりがけの急な来客が多かった。そうした日は通常の仕事に加えて、来客の対応も増えるので、仕事の丁寧さに加えて迅速さも求められた。そのため、自然と速やかに仕事を完遂する癖が身についたのだが、それが気に入らなかったのかもしれない。
聞いたところによると、笙鈴に嫌がらせをしてくる先輩女官たちの大半は、下級女官より格下の身分である下婢の出身だという。そこから血のにじむような努力を重ねて、ようやく下級女官に這い上がったのが彼女たちであるらしい。
後から入った笙鈴が女官長に認められて、やがて今よりもいい待遇になるかもしれないのが――例えば後宮全体の下働きではなく、皇帝一家が暮らす宮での仕事を任されるかもしれないのが許せないのだろう。下級女官であっても家柄や身分の高い者からの推薦を得られれば、そんなことも夢ではない。
先輩女官たちの所業は仕事の押しつけだけならまだいい方で、笙鈴が掃除したばかりの廊下や洗ったばかりの洗濯物を汚されることもあった。今のように食事をもらえないのもよくあることで「笙鈴は仕事で忙しいから代わりに受け取っておく」と料理人に言っては笙鈴の食事まで受け取る。そして自分たちで食べているか、料理人に内緒でどこかに捨てているのだった。
そのため、笙鈴は上級官吏の元で働いていた頃より飢えるようになった。加えて上級官吏の屋敷で働いていた頃とは比較にならない仕事量の多さもあって、痩せ過ぎだった身体がますます細くなってしまった。
料理人は笙鈴の様子を見て困った顔をする。
「あたしも注意しておくべきだったね。本当にごめんよ。後で他の人たちに内緒で何か届けようか?」
「でもそんなことをしたら規則違反ですよ。食材が減っているのがばれたら、今度は料理人さんが皇帝に罰せられてここから追い出されるかも。私なら大丈夫! 今晩くらい我慢できます」
笙鈴はこの料理人も自分と同じく、家族への仕送りのために地方から出稼ぎに出てきて、後宮で働いているという噂を聞いていた。
下働きの中には、地方から仕事を求めて王都に出てきた者たちも多い。その誰もが仕事と、実家に仕送りする金を求めてやってきている。ここを追い出されて困るのは笙鈴だけではない。この料理人も同じ境遇である以上、迷惑はかけられない。
「そうかい……? でも無理はするんじゃないよ。倒れてしまうからね」
まだ心配そうな顔をする料理人にもう一度「大丈夫です!」と返しつつ、笙鈴は厨を後にする。
とはいえ――
「お腹が空いたな……」
料理人には心配をかけたくなくて嘘をついたが、本当は昨日の夜から水しか飲んでいない。
昨日の夜も今日の朝も、食事を受け取った笙鈴が食べようとしたところで女官長や宦官が呼んでいると先輩女官から嘘をつかれ、席を離れている間に食事を片付けられてしまったのだ。
項垂れていると、再び腹の音が鳴る。
だが笙鈴は首を横に振ると、力強く立ち上がった。
「大丈夫! だってまだ望みがあるもんね!」
笙鈴がこっそり後宮の庭に出ると、外はすっかり宵闇に包まれていた。
灯りを持っていない笙鈴は建物から漏れる光を頼りにして、どうにか庭木の裏側に行く。それから地面に膝をついた。
城壁の白壁が崩れて穴が空いた場所を手探りで見つけると、腰を低くして中に入っていく。
笙鈴がなんとか通れるくらいの小さな穴を通った先は、どこかの建物の裏庭になっており、そこをまっすぐ歩くと外に繋がる木製の扉がある。
扉から出て、すぐ向かいにある同じ形の木の扉を更に開けると、またどこかの宮の中庭に出る。木の陰に隠れながら、魚が泳いでいる小さな池と白壁の間の細い道を歩き、突き当たりの白壁にぶつかる。その足元には、小さな穴が空いている。
笙鈴が地面を這うようにして足元の穴に入ると、同じ後宮内にある別の宮の植木の裏に出た。
ここは笙鈴が仕事をしている宮とはまったく違い、屋根や柱には豪華な装飾が施され、整備が行き届いている。
笙鈴は今度は、建物に沿って庭を通り抜けていく。こうして立ち並ぶ宮の中を次々と抜け、宮と宮を繋ぐ渡り廊下のある場所の近くまで来た時、遠くから話し声が聞こえてきた。
(誰か来る!)
見つからないように、渡り廊下から見えない建物の陰となる場所で笙鈴は足を止め、膝を抱える。
陰からはみ出た襦裙の裾を引き寄せていると、話し声は徐々に近づいてきた。
「……陛下は今日もお夜食も召し上がらずに、部屋で休まれたそうよ」
「最近そういう日ばかりね。どうなさったのかしら」
音を立てないようにしながら、笙鈴はそっと様子を窺う。
石造りの渡り廊下を歩いていたのは、質のよさそうな豪華な襦裙を身につけ、綺麗に化粧を施した女官たちであった。話の内容からして、どうやらこの女官たちは皇帝陛下である飛竜に仕えているらしい。
下級女官の笙鈴とは違い、直接皇帝陛下に目通りができる彼女たちは上級女官と呼ばれ、給金だけではなく待遇もいい。下級女官たちが数日おきにしかできない湯浴みも上級女官たちは毎日できるだけあり、常に身綺麗にしている。下級女官たちが禁止されている宝飾品も、ある程度は許されていた。
衣服も下級女官たちとは違って、何度も修繕して古いものを使いまわししなくていい。それに笙鈴のように提供される食事を食べ損ねても、何かしら融通が利いて食事を得られるらしい。
同じ女官でも、このように下級女官と上級女官には雲泥の差がある。
そんな上級女官になるには行儀のよさや教養の高さだけではなく、いい家柄の出身であるか、そういった家の者からの推薦が必要であった。家柄や推薦が、皇帝一家の住まう後宮で働く上級女官たちの身元を保証することになるからだ。
そして万が一、女官が怪しげな動きをした場合は、推薦した者も女官と共に罪に問われる。皇帝や国を脅かすことになれば女官の一族郎党がまとめて処刑されることも珍しくない。
上級女官の世界も、甘くはないと分かっている。だが、なんの後ろ盾もなく、どこにでもいるような下級官吏の娘である笙鈴にとっては、同じ女官といっても上級女官は遠い世界の存在のように感じられていた。
上級女官たちは隠れている笙鈴に気付く様子もなく、そのまま話し続ける。
「陛下は皇后様亡き後も独り身でいらして、そろそろお世継ぎのことも考えてほしいわ……未だに子供が皇女様お一人だけというのもね……」
「そのうち、私たちも寝所に呼ばれて召し抱えられないかしら?」
「またそんな夢物語のようなことを言って!」
「いいじゃない、他国ではそんな話もあるのだから夢を見たって! この国だって、先代の皇帝はそうして多くの側妃を持っていらしたし……!」
「でもそれが原因で先代の皇帝が崩御された時に、皇后や側妃の皇子たちの間で皇位争いが起こったじゃない。王城どころか国中が戦火に包まれて、他の州まで死体の山よ。無関係の民も大勢死んだらしいわ」
「噂ではその時に殺された女官や側妃、皇子たちの霊が後宮内で彷徨っているらしいじゃない。亡き皇后様の宮の辺りにも……」
話し声が近づいてきて、笙鈴が隠れている建物の近くを通り過ぎる。
興味深い話に耳を傾けていた、その時――風に乗って笙鈴の元に、饅頭の匂いが漂ってきた。
(あっ! 今日も作っているんだ!)
空腹は最高の調味料とも言うが、蒸し立ての饅頭の匂いが笙鈴の食欲を刺激する。
ここまで来たのなら目的の場所までもう少しで着くというのに、女官たちのせいですぐに行けないのがもどかしい。
笙鈴はホカホカの饅頭とそれを食べる自分を想像して、うっとりと酔いしれそうになる。が、すぐに頭を横に振って食べ物の幻想を打ち消す。
(ダメダメ! 今は話を聞かないと! こういうなんでもないような話が、いつか何かの役に立つかもしれないんだから!)
だが女官たちの話が気になるものの、情けないことに笙鈴の空きっ腹は食べ物に反応してしまう。集中しようにも、気を抜くと意識がこの先で待つ料理に持っていかれそうになる。必死に我慢しようとするが、空腹の限界を迎えた笙鈴の頭は、まともに働いてくれなかった。
(きっと、今日も美味しいんだろうな~)
美味しそうな匂いに口から垂れそうになる涎を我慢していると、空腹のお腹が音を立てる。
その音は思っていたよりも大きく、渡り廊下にまで響いてしまった。
「あら? 何かしら今の音は?」
そう言って一人の女官が足を止めると、他の女官たちも同じように立ち止まってしまった。
「何か聞こえた?」
「聞こえた気がしたのだけど……」
「私も何か聞いたような……」
「きっと気のせいよ。それか、どこかに汚らしい『溝鼠』でも紛れ込んでいるのでしょう」
上級女官の一人が吐き捨てるように言った「溝鼠」という言葉に、笙鈴の心臓が大きく跳ね上がる。心臓の音が女官たちに聞こえてしまうのではないかと緊張が走るほどだ。
女官たちに早く立ち去ってほしいと思いながら、笙鈴は建物の壁に背をつけると、ますます身を縮める。
「お腹、空いた……」
誰に言うともなく呟いた掠れ声は、腹の音に紛れるように小さく響き、桜が散り始めたばかりの春宵の中に消えていった。
薄汚れた裾の襦裙に、底の擦り減った沓。そして抱えている竹籠の中には、山のように積まれた衣類が入っている。
見るからに重そうな竹籠を持っているのは、小柄な黒髪の少女だった。
「わっ……」
少女が竹籠の重みに気を取られていると、襦裙の裾を踏んで転びそうになる。籠から洗濯物が落ちかけるのを、どうにか体勢を立て直して踏みとどまると床に置く。
そして袖で額を拭うと、安堵の息を漏らした。
「ふう、よかった~。危うく洗い直しになるところだった」
少女はあかぎれが目立つ手で竹籠の中の洗濯物を整え直し、再び籠を持って歩きだそうとする。しかし――
ぐぅ~……
彼女のお腹からは情けない低い音が聞こえてきた。
「はあ、お腹空いた……」
少女――高笙鈴は、眉を下げて辺りを見まわし、空腹で鳴り続けるお腹を押さえる。
笙鈴の容貌は、麗人とは言いがたい。薄汚れた頬と痩せぎすの身体は、襤褸のような服装と相まって貧弱さを強調している。適当に洗って頭の後ろで結った黒髪も、日の出前からの仕事によって形が崩れかかっていた。
笙鈴はふらついてしまうような空腹にもめげず、洗濯が終わったばかりの衣類をそれぞれ部屋に戻していた。機敏に働く彼女の様子にはどこか小動物のような愛らしさがあった。見目こそ襤褸を纏い、乙女らしからぬ姿ではあるが、まっすぐな黒い目には輝きと利発さが宿っている。
そうして笙鈴が洗濯物を部屋に戻す作業を半分ほど終え、次の部屋に向かっていた時だった。
突然部屋の外から、情けない女の声と衛兵と思しき男の声が聞こえてくる。
「ま、待ってください! せめて、話だけでも……!」
「ええい、うるさい奴だな。これは主上のご命令なのだ。逆らう者には容赦はしない!」
「皇帝陛下は何か勘違いをなさっているのです! 私が出入りをする商人と手を組んで、後宮内の調度品や皇族方の所有品を横流ししていたなど……!」
衛兵が槍で地面を打ったのか、鈍い金属音が聞こえたかと思うと女が「ひぃ!」と悲鳴を上げる。
「もう決まったことだ! 今更変えるわけにもいかん。この決定が不服だと言うのなら、無実の証拠を示してみろ!」
「そんな……私や家族にも生活があるのです! うちは貧しい農村で仕送りが……」
女の言葉が途切れたかと思うと、「んんっー!」と唸る声、石畳の地面を蹴る音が聞こえてきた。
やがて唸り声は金属が擦れる音と重いものを引きずる音と共に、徐々に遠ざかっていった。
(また誰かが追い出されたんだ……)
様子を窺っていた笙鈴は一人そう考える。
おそらく女は猿轡をされて衛兵数人がかりで身柄を取り押さえられ、王城の外に連れていかれたのだろう。地面を蹴って抵抗していたようだが、鎧を纏った屈強な衛兵たちには敵うわけがない。
しかし、後宮から追い出されただけならまだいい方だろう。昔、王城に出入りする商人と癒着していたという女官が捕らえられた時は、本人だけではなく一族全員が処刑されたとのことだった。笙鈴は後宮に来た当初こそ驚いたものの、今ではすっかりさっきのような状況にも慣れてしまった。
それよりも、笙鈴には気がかりなことがあった。
(今の女の人、下級女官だろうな……明日からまた仕事が増えるのは嫌だな……)
ただでさえ人が少ないのに、と笙鈴は溜め息を吐くと竹籠を持ち直す。
(本当は助けてあげたいけど……)
誰かが追い出されそうになっているのに出くわすたびに、いつもそう思う。そのたびにやるせない気持ちになる――
(でもそうしたら今度は私が追い出されて、家族に仕送りができなくなっちゃうかもしれない。だから助けられないけど……やってないのに無実の証拠を示せ、なんて言われても……さすがにこのやり方は無茶苦茶だよ)
笙鈴は自分の中で渦巻く感情をぐっと抑えるように竹籠を持つ手に力を込めると、もやもやしながらも残りの衣類を片付けることにする。
ここは――仙皇国にある四つの州の一つ。皇帝のお膝元である、花州にある王城。どこまでも高く白い石造りの城壁に囲まれた王城の広大な敷地の中には、いくつもの宮や建物が立ち並んでいる。
その中でも季節の花々が彩る中庭に隣接し、姦しい女官たちの笑い声が響く、赤土造りの建物の一角。笙鈴がいるこの場所は、仙皇国の皇帝一家が住まう後宮だった。皇帝に特別の許しを与えられた衛兵や官吏以外は、男性の立ち入りが禁止されている。
本来なら貧乏な下級官吏の娘である笙鈴が働ける場所ではないのだが、これにはちょっとした縁と理由がある。
この国の皇帝――飛竜は、非常に疑り深い性格の持ち主であり、気に入らない衛兵や側仕えの女官を次々と後宮から追い出していた。
飛竜の側近たちが衛兵や女官を何人補充しても、主人である飛竜が片っ端からクビにしてしまうので、後宮は常に人手不足であった。側近たちが人手を求めて探しまわった結果、とうとう笙鈴にまで声が掛けられたのが数週間前だ。笙鈴は当時上級官吏の家で下働きをしてはいたが、後宮とはまったく縁がなかったにもかかわらずだ。
ただし後宮勤めといっても下級女官のため、仕事内容はそんなに難しいものではない。広い後宮内の掃除や大量の衣類の洗濯などだ。しかし飛竜が追い出さなかった数少ない下級女官と、他の下働きの者たちだけで手分けするにはやや厳しい仕事量であった。
その分、給金がよかったので引き受けたものの、笙鈴はとある事情によりまともに食事を与えられず、常にお腹を空かせていた。
これなら上級官吏の家で下働きをしていた頃の方がまだよかった。野菜の屑を煮たような粥や汁物が中心で量も少なかったが、毎日朝と夕には必ず食事が提供された。今のように食べるものがまったくない状況になったことはない。
(でもここで私が後宮勤めを辞めたら、故郷の弟妹たちもお腹を空かせることになるし……)
笙鈴にはまだ幼い弟妹が五人いる。地方で下級官吏をしている父の稼ぎに加えて、病弱な母が細々と続けている内職だけでは、食べ盛りの弟妹たちを満足に育てられない。そうなると、やはり笙鈴の仕送りも必要になってくる。故郷に住む家族のことを考えると、笙鈴は働かざるを得なかった。
ようやくその日に洗濯した衣類を全て元の場所にしまうと、笙鈴はすぐに下働きをする女官たちの厨に向かう。
空腹にもかかわらず笙鈴の足取りは軽く、弾むような勢いだ。
(今日はいつもより早く仕事が終わったから、夕餉が残っているかも!)
そんな期待と共に急ぐ笙鈴だったが、厨から出てきた者によってその望みは打ち砕かれてしまう。
「あら、今になって来たの?」
厨から出てきたのは笙鈴の先輩にあたる下級女官たちであり、笙鈴が食事を取れない原因でもあった。笙鈴は及び腰になりながらも口を開く。
「洗濯物は全て片付けました。それで夕餉を受け取りに……」
「そうなの。でも残念ね。さっき全部空になってしまったの。今日はいつもより早く人が集まったからかしら」
「そ、そんな……」
肩を落とす笙鈴を嘲笑しながら先輩女官たちが去っていく。
これもいつもと同じ陰湿ないじめだと、笙鈴には分かっていた。それでも米粒の一つも残っていないかと、一縷の望みをかけて厨に入る。
しかし女官たちの言う通り、すでに食事の提供が終わったのか、下級女官たちの食事を担当する恰幅のいい女性料理人が後片付けをしていただけであった。
笙鈴が近づくと、料理人は人好きのしそうな顔を曇らせて言う。
「あれ? 笙鈴じゃないか。この時間まで仕事だったのかい?」
「は、はい。そうなんです。それで今から夕餉を食べようと……」
「おかしいね……笙鈴の分は、あんたの仕事仲間の女官たちが受け取って、さっき空の器を返しに来たところだよ。忙しくて本人は返す暇がないから、代わりに来たとか言って」
「そ、そんな……じゃあ、料理は残ってないんですか?」
笙鈴は諦めきれずに尋ねたが、本当に何もないらしい。
笙鈴が後宮の下級女官としてやってきた日から、先輩女官たちによる嫌がらせは続いていた。いじめられる理由に心当たりはなかったが、強いて言うのならば、ここで働き始めた初日に仕事の速さを女官長に褒められたからかもしれない。
前に働いていた上級官吏の家は来客が頻繁にあり、特に泊まりがけの急な来客が多かった。そうした日は通常の仕事に加えて、来客の対応も増えるので、仕事の丁寧さに加えて迅速さも求められた。そのため、自然と速やかに仕事を完遂する癖が身についたのだが、それが気に入らなかったのかもしれない。
聞いたところによると、笙鈴に嫌がらせをしてくる先輩女官たちの大半は、下級女官より格下の身分である下婢の出身だという。そこから血のにじむような努力を重ねて、ようやく下級女官に這い上がったのが彼女たちであるらしい。
後から入った笙鈴が女官長に認められて、やがて今よりもいい待遇になるかもしれないのが――例えば後宮全体の下働きではなく、皇帝一家が暮らす宮での仕事を任されるかもしれないのが許せないのだろう。下級女官であっても家柄や身分の高い者からの推薦を得られれば、そんなことも夢ではない。
先輩女官たちの所業は仕事の押しつけだけならまだいい方で、笙鈴が掃除したばかりの廊下や洗ったばかりの洗濯物を汚されることもあった。今のように食事をもらえないのもよくあることで「笙鈴は仕事で忙しいから代わりに受け取っておく」と料理人に言っては笙鈴の食事まで受け取る。そして自分たちで食べているか、料理人に内緒でどこかに捨てているのだった。
そのため、笙鈴は上級官吏の元で働いていた頃より飢えるようになった。加えて上級官吏の屋敷で働いていた頃とは比較にならない仕事量の多さもあって、痩せ過ぎだった身体がますます細くなってしまった。
料理人は笙鈴の様子を見て困った顔をする。
「あたしも注意しておくべきだったね。本当にごめんよ。後で他の人たちに内緒で何か届けようか?」
「でもそんなことをしたら規則違反ですよ。食材が減っているのがばれたら、今度は料理人さんが皇帝に罰せられてここから追い出されるかも。私なら大丈夫! 今晩くらい我慢できます」
笙鈴はこの料理人も自分と同じく、家族への仕送りのために地方から出稼ぎに出てきて、後宮で働いているという噂を聞いていた。
下働きの中には、地方から仕事を求めて王都に出てきた者たちも多い。その誰もが仕事と、実家に仕送りする金を求めてやってきている。ここを追い出されて困るのは笙鈴だけではない。この料理人も同じ境遇である以上、迷惑はかけられない。
「そうかい……? でも無理はするんじゃないよ。倒れてしまうからね」
まだ心配そうな顔をする料理人にもう一度「大丈夫です!」と返しつつ、笙鈴は厨を後にする。
とはいえ――
「お腹が空いたな……」
料理人には心配をかけたくなくて嘘をついたが、本当は昨日の夜から水しか飲んでいない。
昨日の夜も今日の朝も、食事を受け取った笙鈴が食べようとしたところで女官長や宦官が呼んでいると先輩女官から嘘をつかれ、席を離れている間に食事を片付けられてしまったのだ。
項垂れていると、再び腹の音が鳴る。
だが笙鈴は首を横に振ると、力強く立ち上がった。
「大丈夫! だってまだ望みがあるもんね!」
笙鈴がこっそり後宮の庭に出ると、外はすっかり宵闇に包まれていた。
灯りを持っていない笙鈴は建物から漏れる光を頼りにして、どうにか庭木の裏側に行く。それから地面に膝をついた。
城壁の白壁が崩れて穴が空いた場所を手探りで見つけると、腰を低くして中に入っていく。
笙鈴がなんとか通れるくらいの小さな穴を通った先は、どこかの建物の裏庭になっており、そこをまっすぐ歩くと外に繋がる木製の扉がある。
扉から出て、すぐ向かいにある同じ形の木の扉を更に開けると、またどこかの宮の中庭に出る。木の陰に隠れながら、魚が泳いでいる小さな池と白壁の間の細い道を歩き、突き当たりの白壁にぶつかる。その足元には、小さな穴が空いている。
笙鈴が地面を這うようにして足元の穴に入ると、同じ後宮内にある別の宮の植木の裏に出た。
ここは笙鈴が仕事をしている宮とはまったく違い、屋根や柱には豪華な装飾が施され、整備が行き届いている。
笙鈴は今度は、建物に沿って庭を通り抜けていく。こうして立ち並ぶ宮の中を次々と抜け、宮と宮を繋ぐ渡り廊下のある場所の近くまで来た時、遠くから話し声が聞こえてきた。
(誰か来る!)
見つからないように、渡り廊下から見えない建物の陰となる場所で笙鈴は足を止め、膝を抱える。
陰からはみ出た襦裙の裾を引き寄せていると、話し声は徐々に近づいてきた。
「……陛下は今日もお夜食も召し上がらずに、部屋で休まれたそうよ」
「最近そういう日ばかりね。どうなさったのかしら」
音を立てないようにしながら、笙鈴はそっと様子を窺う。
石造りの渡り廊下を歩いていたのは、質のよさそうな豪華な襦裙を身につけ、綺麗に化粧を施した女官たちであった。話の内容からして、どうやらこの女官たちは皇帝陛下である飛竜に仕えているらしい。
下級女官の笙鈴とは違い、直接皇帝陛下に目通りができる彼女たちは上級女官と呼ばれ、給金だけではなく待遇もいい。下級女官たちが数日おきにしかできない湯浴みも上級女官たちは毎日できるだけあり、常に身綺麗にしている。下級女官たちが禁止されている宝飾品も、ある程度は許されていた。
衣服も下級女官たちとは違って、何度も修繕して古いものを使いまわししなくていい。それに笙鈴のように提供される食事を食べ損ねても、何かしら融通が利いて食事を得られるらしい。
同じ女官でも、このように下級女官と上級女官には雲泥の差がある。
そんな上級女官になるには行儀のよさや教養の高さだけではなく、いい家柄の出身であるか、そういった家の者からの推薦が必要であった。家柄や推薦が、皇帝一家の住まう後宮で働く上級女官たちの身元を保証することになるからだ。
そして万が一、女官が怪しげな動きをした場合は、推薦した者も女官と共に罪に問われる。皇帝や国を脅かすことになれば女官の一族郎党がまとめて処刑されることも珍しくない。
上級女官の世界も、甘くはないと分かっている。だが、なんの後ろ盾もなく、どこにでもいるような下級官吏の娘である笙鈴にとっては、同じ女官といっても上級女官は遠い世界の存在のように感じられていた。
上級女官たちは隠れている笙鈴に気付く様子もなく、そのまま話し続ける。
「陛下は皇后様亡き後も独り身でいらして、そろそろお世継ぎのことも考えてほしいわ……未だに子供が皇女様お一人だけというのもね……」
「そのうち、私たちも寝所に呼ばれて召し抱えられないかしら?」
「またそんな夢物語のようなことを言って!」
「いいじゃない、他国ではそんな話もあるのだから夢を見たって! この国だって、先代の皇帝はそうして多くの側妃を持っていらしたし……!」
「でもそれが原因で先代の皇帝が崩御された時に、皇后や側妃の皇子たちの間で皇位争いが起こったじゃない。王城どころか国中が戦火に包まれて、他の州まで死体の山よ。無関係の民も大勢死んだらしいわ」
「噂ではその時に殺された女官や側妃、皇子たちの霊が後宮内で彷徨っているらしいじゃない。亡き皇后様の宮の辺りにも……」
話し声が近づいてきて、笙鈴が隠れている建物の近くを通り過ぎる。
興味深い話に耳を傾けていた、その時――風に乗って笙鈴の元に、饅頭の匂いが漂ってきた。
(あっ! 今日も作っているんだ!)
空腹は最高の調味料とも言うが、蒸し立ての饅頭の匂いが笙鈴の食欲を刺激する。
ここまで来たのなら目的の場所までもう少しで着くというのに、女官たちのせいですぐに行けないのがもどかしい。
笙鈴はホカホカの饅頭とそれを食べる自分を想像して、うっとりと酔いしれそうになる。が、すぐに頭を横に振って食べ物の幻想を打ち消す。
(ダメダメ! 今は話を聞かないと! こういうなんでもないような話が、いつか何かの役に立つかもしれないんだから!)
だが女官たちの話が気になるものの、情けないことに笙鈴の空きっ腹は食べ物に反応してしまう。集中しようにも、気を抜くと意識がこの先で待つ料理に持っていかれそうになる。必死に我慢しようとするが、空腹の限界を迎えた笙鈴の頭は、まともに働いてくれなかった。
(きっと、今日も美味しいんだろうな~)
美味しそうな匂いに口から垂れそうになる涎を我慢していると、空腹のお腹が音を立てる。
その音は思っていたよりも大きく、渡り廊下にまで響いてしまった。
「あら? 何かしら今の音は?」
そう言って一人の女官が足を止めると、他の女官たちも同じように立ち止まってしまった。
「何か聞こえた?」
「聞こえた気がしたのだけど……」
「私も何か聞いたような……」
「きっと気のせいよ。それか、どこかに汚らしい『溝鼠』でも紛れ込んでいるのでしょう」
上級女官の一人が吐き捨てるように言った「溝鼠」という言葉に、笙鈴の心臓が大きく跳ね上がる。心臓の音が女官たちに聞こえてしまうのではないかと緊張が走るほどだ。
女官たちに早く立ち去ってほしいと思いながら、笙鈴は建物の壁に背をつけると、ますます身を縮める。
25
お気に入りに追加
541
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。