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最終章 それから
98.こんな流れでしていいのか、まあいいか
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猿、と呼ばれたあいつが誰のことかは亮太にもすぐに分かった。猿田毘古神のことだろう。
コウが実の父親に掴みかかりそうな勢いで迫った。
「いつ! どの新幹線で!」
ユウキはタジタジだ。
「えっあっ聞いてない!」
「ていうかアキラのところの両親に話したのか!?」
「えっうん、だってリッキーとアキラちゃん一応許嫁だったし、言っといた方がいいかなって」
ユウキはすでに半泣きだ。するとふう、と息を吐いたユウリが助け舟を出した。
「コウちゃん、家と家の約束だったから、話さないといけなかったの。それは分かって」
「そうだけど!」
ユウリがコウの肩をポンと叩いて首を横に振った。
「どうせこうなるだろうと思って出るギリギリに言ったからまだ時間はある。諦めるのはまだ早いわ」
「お母さん……!」
どこぞのスポコンみたいな流れになってきた。亮太が何をどうすべきか分からず見守っていると、ユウリがハンドバッグから封筒を取り出してコウに渡した。コウが中身を確認してから亮太に見せた。コウの戸籍謄本だった。
斜め後ろをチラリと見ると、リキはオロオロしているが椿はどこかに電話をかけている。この状況でよくかけられるものだ。
「あ、兄貴? ちょっと急ぎで配達一件お願いしたいんだけど。あ、亮太さんって本籍世田谷区でいいんだよな?」
「え? あ、ああ」
今何故本籍情報が必要なのか。考えて考えて、思い至った。そうだ、今いるのは千代田区。亮太は今は戸籍謄本を持っていない、つまり急いで婚姻届を提出するなら今すぐコウの戸籍謄本と婚姻届を持って世田谷区役所に行かねばならない。婚姻届自体は今日これの前に保証人欄までリキと椿の記入・捺印をもらったばかりなので手元にある為提出出来る。出来るが。
「え? 今日結婚するのか?」
「しといた方がいいと思うなー。園田さんちの猿、土地と金大好きだからさ、公的に何とかしないと多分諦めないかも」
娘の詰問がなくなってほっとしたのか、ユウキが人の良さそうな顔をして意見を述べた。というか、土地と金が大好きって一体どんな神様だ。地上の太陽神なんじゃないのか。
椿が亮太とコウを手招きした。
「兄貴来てくれるってさ! 今からかっ飛ばせばきっと間に合うから行ってこいよ! リキ、ご両親を家に連れてっておいてよ、兄貴と合流させたら俺も行くからさ!」
「う、うん、分かった!」
「ほら亮太さんコウちゃん!」
「行こう! 亮太!」
「お、おお」
椿が東京駅構内を先導し始めたので、亮太はコウのご両親にぺこりと会釈をすると後を追い始めた。正直東京駅は迷路みたいに感じているので、コウの手を握ってとにかくついて行く。新宿駅は辛うじて把握したが、東京駅は無理だ。複雑すぎる。
「丸の内口だ。急ぐぞ二人共!」
もうよく分からないが、とりあえず八重洲口ではないのは分かった。そして今日は平日なのに仕事はいいのか、椿の兄貴よ。
椿は東京駅構内は把握しているらしく、どんどん先へと進む。あっという間に改札口へ辿り着くと、改札を通って道路の前に立つと辺りをキョロキョロと見回した。
亮太とコウが椿に追いつくと、丁度そのタイミングでトラックがキュキュキュッと音を立てて目の前に停車した。
早い。あまりにも早過ぎる。これはこの辺りでずっと待ってたんじゃないか? そう思える早さだった。
「来た! 早えな兄貴!」
「お、うおお……」
横付けされたトラックは、ピンク色に見事に輝くデコトラだった。『愛羅武勇』というペナントがフロントガラスに飾られている。
運転席に座っているのはレイバン風のサングラスを掛けたオールバックの細マッチョの男だった。あれが椿の兄貴か。
窓が開くと、車内からオールバックが声を掛けてきた。
「椿! ラッキーだったぜ! 丁度そこの集荷センターに帰ったとこだったんだよ!」
「いやー助かるよ兄貴! ほら! 二人共乗って」
「椿さんありがとう!」
「……じゃあちょっと行ってくる。後で連絡するから」
「おう!」
気圧され気味の亮太だったが、「宜しくお願いします」と椿の兄に声を掛けると助手席のドアを開けコウが乗るのを手伝い、すぐさま自分も飛び乗った。
「シートベルトはしっかりな!」
「はい!」
「よおし! で、どこまで行くんだ?」
サングラスをくいっと額に押し上げた椿の兄が、想像していたよりも遥かに可愛らしいつぶらな瞳をにこにこさせつつ尋ねてきた。
◇
結局勝手知ったる下北沢のタウンホールが一番慣れているし、婚姻届受理証明書をもらったら家に置いておけば猿田毘古神に万が一遭遇しても原本を破かれる心配はない。
ということで、三人はド派手なピンクのデコトラで東京駅から下北沢に向かっていた。
「そっかあ、許嫁がしつこいのかあ。そりゃあ困っちゃうよなあ、結婚ってのは好きな相手と出来るのが一番だからな、うんうん」
椿の兄、ヨウジはとてもいい奴だった。元は暴走族をやってはいたが、それも坊さんになりたくない為の反発からきていたものだそうで、法定速度を守って走っていたら周りに笑われた、などと面白おかしく話してくれた。そういえばトラックの運転も非常に丁寧である。人は見た目だけでは判断出来ないものだ。
安全運転でもわずか三十分で到着した。茶沢通りのタウンホール前でピンクに輝くデコトラを停車させたヨウジが手を振った。
「俺はこんなんだしかみさん怖いからよ、あんまり椿が寄ってこないんだよな。あんた達椿ともうまくやってそうだし、これからも宜しくな!」
「いえ、こちらこそこれからは親戚になりますし宜しくお願いします」
亮太がぺこりと会釈すると、ヨウジはカカカッと笑った。その笑い方は椿にそっくりだった。
「おう! 結婚式やるなら呼んでくれよ!」
「はい、是非」
小さなお披露目会程度じゃないと金銭的に無理そうではあったが、何かしらはやりたいものだ。亮太とコウはピンクのテールランプが立ち去るのを見送ると、手を繋いでタウンホールへと入っていった。いよいよ結婚だ。亮太の喉がごくりと鳴る。
一応、最後の確認をしてみた。
「コウ」
「ん?」
コウも少し緊張している様に見える。
「俺、こんなおっさんだけど、でもちゃんとコウを幸せにするから、だから俺と結婚してくれるか?」
やっぱりおっさんは嫌だなんて言われたら悲しいを通り越して心が死んでしまいそうだが、それでも確認せずにはいられなかった。
コウの黄銅色の瞳が亮太を真っ直ぐに見た。
「当たり前だ。それに私も亮太を幸せにするんだから。一緒に幸せになろう」
「コウ……」
亮太はさっと周りを見渡した。人はまばらにいるが、誰もこちらに注目していない。今だ。
「是非お願いします」
そう言うと、亮太は独身最後の口づけをコウと交わしたのだった。
◇
婚姻届提出とはこんなにシンプルなものなのか。
婚姻届受理証明書を受け取り早速写真を撮って「任務完了」とひと言添えて椿にメールを送った。タウンホールから家までは徒歩三分程の距離である。亮太達が証明書を家に置きに帰ると、今日は家にいた蓮とアキラが驚いた様子でこちらを見た。
「一体どうされたんです?」
「いや、アキラの親が猿田毘古神に俺らの婚約のことを話しちまって今東京に向かってるって聞いて、大慌てで婚姻届を提出してきました」
それを聞いてアキラが頭を抱えていた。蓮が目を見開いて尋ねてきた。
「え? 今日結婚されたのですか?」
「今さっきしちゃいました」
「それは何とも急ですが……いやはや、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
亮太と蓮が深々と頭を下げ合う中、アキラが苦笑いしながら近寄ってきた。
「亮太、コウ様、うちの親がごめんなさい」
「アキラ、ここはごめんなさいではなくおめでとうでいい」
コウが幸せそうに微笑んで言った。
「この後猿田毘古神とかち合うかもしれないなら、指輪ももう付けられたら如何でしょう?」
「お、そりゃいいアイデアだ」
そう言うと、亮太は先日購入しておいた結婚指輪を押入れから取り出してきた。銀色のシンプルな指輪だが、内側に亮太とコウの名前を彫ってもらい、名前の間を蛇の絵で繋いでもらっている。二人で考えた模様だった。
亮太がぱかっと箱を開け、指輪を取り出して咳払いをする。まさかこの家の中で指輪交換をするとは思ってもいなかったが、亮太達らしいといえばらしいのかもしれない。
「コウ、手を」
「……うん」
婚姻届提出の時は平然とした顔をしていたのに、今のコウは涙ぐんでいる。それを見たら亮太も泣けてきた。少し震える手でコウの左手薬指に指輪をそっとはめる。コウも亮太の分の指輪を持つと、亮太の指にはめた。
すると、アキラが言った。
「亮太、私達の前だとあれかもだけど、ヤエコさんがうるさいから誓いのキスもお願い」
亮太の背後を面倒くさそうに見上げている。
「また紙吹雪を用意して待ってるから」
「また?」
一度目があったのか? 亮太が首を傾げていると、蓮が教えてくれた。
「以前、結婚の話が初めて出た際に」
「あ」
コウが亮太に飛びついてきて、アキラが亮太の背後を冷めた目で見ていた時があったあれだ。違和感があると思ったら紙吹雪を飛ばしていたのか、曾祖母ちゃんよ。
「さ、待ちかねておりますので」
さ、と言われると照れくさい。亮太が火照る顔を冷まそうとぱたぱた手で扇いでいると、コウが亮太の首に抱きつき亮太の唇を奪った。うおう。
「おめでとうございます、亮太、コウ様」
「ちょっと、紙吹雪多すぎ」
アキラが邪魔そうにはねのけているが亮太には見えない。
「はは、後はコウが起きててくれたらよかったのに」
ポツリと亮太が言うと、蓮がおや、という表情でコウの背後を見た。
「コウ様? そういえば蛟が居ないようですが」
「え?」
コウの背後で寝ている筈の蛟がいない? 亮太が不安そうな顔をすると、コウが照れくさそうに微笑んだ。
「もう少し内緒にしてようと思ってたのに」
そう言うと、自分のお腹をそっと上から押さえ、いたずらっ子の様にぺろりと舌を出して見せたのだった。
コウが実の父親に掴みかかりそうな勢いで迫った。
「いつ! どの新幹線で!」
ユウキはタジタジだ。
「えっあっ聞いてない!」
「ていうかアキラのところの両親に話したのか!?」
「えっうん、だってリッキーとアキラちゃん一応許嫁だったし、言っといた方がいいかなって」
ユウキはすでに半泣きだ。するとふう、と息を吐いたユウリが助け舟を出した。
「コウちゃん、家と家の約束だったから、話さないといけなかったの。それは分かって」
「そうだけど!」
ユウリがコウの肩をポンと叩いて首を横に振った。
「どうせこうなるだろうと思って出るギリギリに言ったからまだ時間はある。諦めるのはまだ早いわ」
「お母さん……!」
どこぞのスポコンみたいな流れになってきた。亮太が何をどうすべきか分からず見守っていると、ユウリがハンドバッグから封筒を取り出してコウに渡した。コウが中身を確認してから亮太に見せた。コウの戸籍謄本だった。
斜め後ろをチラリと見ると、リキはオロオロしているが椿はどこかに電話をかけている。この状況でよくかけられるものだ。
「あ、兄貴? ちょっと急ぎで配達一件お願いしたいんだけど。あ、亮太さんって本籍世田谷区でいいんだよな?」
「え? あ、ああ」
今何故本籍情報が必要なのか。考えて考えて、思い至った。そうだ、今いるのは千代田区。亮太は今は戸籍謄本を持っていない、つまり急いで婚姻届を提出するなら今すぐコウの戸籍謄本と婚姻届を持って世田谷区役所に行かねばならない。婚姻届自体は今日これの前に保証人欄までリキと椿の記入・捺印をもらったばかりなので手元にある為提出出来る。出来るが。
「え? 今日結婚するのか?」
「しといた方がいいと思うなー。園田さんちの猿、土地と金大好きだからさ、公的に何とかしないと多分諦めないかも」
娘の詰問がなくなってほっとしたのか、ユウキが人の良さそうな顔をして意見を述べた。というか、土地と金が大好きって一体どんな神様だ。地上の太陽神なんじゃないのか。
椿が亮太とコウを手招きした。
「兄貴来てくれるってさ! 今からかっ飛ばせばきっと間に合うから行ってこいよ! リキ、ご両親を家に連れてっておいてよ、兄貴と合流させたら俺も行くからさ!」
「う、うん、分かった!」
「ほら亮太さんコウちゃん!」
「行こう! 亮太!」
「お、おお」
椿が東京駅構内を先導し始めたので、亮太はコウのご両親にぺこりと会釈をすると後を追い始めた。正直東京駅は迷路みたいに感じているので、コウの手を握ってとにかくついて行く。新宿駅は辛うじて把握したが、東京駅は無理だ。複雑すぎる。
「丸の内口だ。急ぐぞ二人共!」
もうよく分からないが、とりあえず八重洲口ではないのは分かった。そして今日は平日なのに仕事はいいのか、椿の兄貴よ。
椿は東京駅構内は把握しているらしく、どんどん先へと進む。あっという間に改札口へ辿り着くと、改札を通って道路の前に立つと辺りをキョロキョロと見回した。
亮太とコウが椿に追いつくと、丁度そのタイミングでトラックがキュキュキュッと音を立てて目の前に停車した。
早い。あまりにも早過ぎる。これはこの辺りでずっと待ってたんじゃないか? そう思える早さだった。
「来た! 早えな兄貴!」
「お、うおお……」
横付けされたトラックは、ピンク色に見事に輝くデコトラだった。『愛羅武勇』というペナントがフロントガラスに飾られている。
運転席に座っているのはレイバン風のサングラスを掛けたオールバックの細マッチョの男だった。あれが椿の兄貴か。
窓が開くと、車内からオールバックが声を掛けてきた。
「椿! ラッキーだったぜ! 丁度そこの集荷センターに帰ったとこだったんだよ!」
「いやー助かるよ兄貴! ほら! 二人共乗って」
「椿さんありがとう!」
「……じゃあちょっと行ってくる。後で連絡するから」
「おう!」
気圧され気味の亮太だったが、「宜しくお願いします」と椿の兄に声を掛けると助手席のドアを開けコウが乗るのを手伝い、すぐさま自分も飛び乗った。
「シートベルトはしっかりな!」
「はい!」
「よおし! で、どこまで行くんだ?」
サングラスをくいっと額に押し上げた椿の兄が、想像していたよりも遥かに可愛らしいつぶらな瞳をにこにこさせつつ尋ねてきた。
◇
結局勝手知ったる下北沢のタウンホールが一番慣れているし、婚姻届受理証明書をもらったら家に置いておけば猿田毘古神に万が一遭遇しても原本を破かれる心配はない。
ということで、三人はド派手なピンクのデコトラで東京駅から下北沢に向かっていた。
「そっかあ、許嫁がしつこいのかあ。そりゃあ困っちゃうよなあ、結婚ってのは好きな相手と出来るのが一番だからな、うんうん」
椿の兄、ヨウジはとてもいい奴だった。元は暴走族をやってはいたが、それも坊さんになりたくない為の反発からきていたものだそうで、法定速度を守って走っていたら周りに笑われた、などと面白おかしく話してくれた。そういえばトラックの運転も非常に丁寧である。人は見た目だけでは判断出来ないものだ。
安全運転でもわずか三十分で到着した。茶沢通りのタウンホール前でピンクに輝くデコトラを停車させたヨウジが手を振った。
「俺はこんなんだしかみさん怖いからよ、あんまり椿が寄ってこないんだよな。あんた達椿ともうまくやってそうだし、これからも宜しくな!」
「いえ、こちらこそこれからは親戚になりますし宜しくお願いします」
亮太がぺこりと会釈すると、ヨウジはカカカッと笑った。その笑い方は椿にそっくりだった。
「おう! 結婚式やるなら呼んでくれよ!」
「はい、是非」
小さなお披露目会程度じゃないと金銭的に無理そうではあったが、何かしらはやりたいものだ。亮太とコウはピンクのテールランプが立ち去るのを見送ると、手を繋いでタウンホールへと入っていった。いよいよ結婚だ。亮太の喉がごくりと鳴る。
一応、最後の確認をしてみた。
「コウ」
「ん?」
コウも少し緊張している様に見える。
「俺、こんなおっさんだけど、でもちゃんとコウを幸せにするから、だから俺と結婚してくれるか?」
やっぱりおっさんは嫌だなんて言われたら悲しいを通り越して心が死んでしまいそうだが、それでも確認せずにはいられなかった。
コウの黄銅色の瞳が亮太を真っ直ぐに見た。
「当たり前だ。それに私も亮太を幸せにするんだから。一緒に幸せになろう」
「コウ……」
亮太はさっと周りを見渡した。人はまばらにいるが、誰もこちらに注目していない。今だ。
「是非お願いします」
そう言うと、亮太は独身最後の口づけをコウと交わしたのだった。
◇
婚姻届提出とはこんなにシンプルなものなのか。
婚姻届受理証明書を受け取り早速写真を撮って「任務完了」とひと言添えて椿にメールを送った。タウンホールから家までは徒歩三分程の距離である。亮太達が証明書を家に置きに帰ると、今日は家にいた蓮とアキラが驚いた様子でこちらを見た。
「一体どうされたんです?」
「いや、アキラの親が猿田毘古神に俺らの婚約のことを話しちまって今東京に向かってるって聞いて、大慌てで婚姻届を提出してきました」
それを聞いてアキラが頭を抱えていた。蓮が目を見開いて尋ねてきた。
「え? 今日結婚されたのですか?」
「今さっきしちゃいました」
「それは何とも急ですが……いやはや、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
亮太と蓮が深々と頭を下げ合う中、アキラが苦笑いしながら近寄ってきた。
「亮太、コウ様、うちの親がごめんなさい」
「アキラ、ここはごめんなさいではなくおめでとうでいい」
コウが幸せそうに微笑んで言った。
「この後猿田毘古神とかち合うかもしれないなら、指輪ももう付けられたら如何でしょう?」
「お、そりゃいいアイデアだ」
そう言うと、亮太は先日購入しておいた結婚指輪を押入れから取り出してきた。銀色のシンプルな指輪だが、内側に亮太とコウの名前を彫ってもらい、名前の間を蛇の絵で繋いでもらっている。二人で考えた模様だった。
亮太がぱかっと箱を開け、指輪を取り出して咳払いをする。まさかこの家の中で指輪交換をするとは思ってもいなかったが、亮太達らしいといえばらしいのかもしれない。
「コウ、手を」
「……うん」
婚姻届提出の時は平然とした顔をしていたのに、今のコウは涙ぐんでいる。それを見たら亮太も泣けてきた。少し震える手でコウの左手薬指に指輪をそっとはめる。コウも亮太の分の指輪を持つと、亮太の指にはめた。
すると、アキラが言った。
「亮太、私達の前だとあれかもだけど、ヤエコさんがうるさいから誓いのキスもお願い」
亮太の背後を面倒くさそうに見上げている。
「また紙吹雪を用意して待ってるから」
「また?」
一度目があったのか? 亮太が首を傾げていると、蓮が教えてくれた。
「以前、結婚の話が初めて出た際に」
「あ」
コウが亮太に飛びついてきて、アキラが亮太の背後を冷めた目で見ていた時があったあれだ。違和感があると思ったら紙吹雪を飛ばしていたのか、曾祖母ちゃんよ。
「さ、待ちかねておりますので」
さ、と言われると照れくさい。亮太が火照る顔を冷まそうとぱたぱた手で扇いでいると、コウが亮太の首に抱きつき亮太の唇を奪った。うおう。
「おめでとうございます、亮太、コウ様」
「ちょっと、紙吹雪多すぎ」
アキラが邪魔そうにはねのけているが亮太には見えない。
「はは、後はコウが起きててくれたらよかったのに」
ポツリと亮太が言うと、蓮がおや、という表情でコウの背後を見た。
「コウ様? そういえば蛟が居ないようですが」
「え?」
コウの背後で寝ている筈の蛟がいない? 亮太が不安そうな顔をすると、コウが照れくさそうに微笑んだ。
「もう少し内緒にしてようと思ってたのに」
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