我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ

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第五章 またもや事件発生の予感

28.だからオカルトは嫌いだと言っているのに

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 ベチン! とおでこを叩かれた。

 亮太は薄っすらと目を開けた。霞んだ視界に映るのは、もう見慣れたあの生意気そうな切れ長の瞳だ。

「……アーキーラああああお前なああ」
「散々起こした」
「結構頑張りましたよね」
「亮太ってくすぐられても起きないんだね」

 いつもの声の後に、可愛い小さい声が聞こえてきた。声がした頭の上の方を見ると、枕にみずちがちょこんととぐろを巻いて亮太をつぶらな赤い瞳で見つめていた。

「俺はくすぐられてたのか?」
「うん」
「亮太は少し扁平足へんぺいそくですね。歩き方を直された方がいいと思いますよ」

 狗神がくそ真面目にそう告げた。つまり足の裏をくすぐられていたのに全く気付かず寝続けていたということだ。亮太は起き上がって髪の毛をわしゃわしゃと掻きつつ壁掛けの時計を見ると、時刻は三時半。二時間以上寝かせてもらった計算になる。

 亮太はぐーっと伸びをした。

「イヌガミ、買い物に行かなくちゃだな。アキラはコウと留守番しててくれ」
「分かった」

 アキラは言っていた通り蛇は苦手な様で、みずちと一定の距離を保ちながら返事をした。蛇は蛇でもこんなに可愛いのに。爬虫類が苦手な亮太でもすんなり受け入れられた可愛さなのに、これが理解出来ないとは随分と勿体ないことだ。

「イヌガミ、着替えたら行くぞ」
「はい。亮太は寝癖を直してください」
「へいへい」

 犬に身だしなみや行動を注意されるのも大分慣れてきた。我ながらなかなかの順応力だと思う亮太であった。

 狗神が着替えの為、脱衣所へ向かった。

「そういえば、コウは飯は何食うんだ?」

 蛇の食べ物など皆目検討がつかない。しかもみずちはただの蛇ではない、狗神と同様人間と同じ物を食べる可能性は十分にあった。

「僕ねー、お魚大好き。でもね、人間みたいにいつも食べなくていいの」
「そうなのか?」
「次からはお腹空いたら言うね。でも今日はお腹空いたの。ずっと何も食べてなかったんだもん」
「分かった分かった、魚だな」

 亮太はとりあえず頷いた。狗神の服を買いに行くついでに本屋に寄って蛇の生態について立ち読みしようと思った。あまりにも想像がつかなさ過ぎる。

「亮太優しいから好き」

 うふふ、とみずちに言われ、亮太はほんわかした気分になった。目尻が少し下がった亮太の横顔を呆れた様に見るアキラの視線は感じたが、そんなものは気にならない位みずちは可愛かった。うん、これ位素直に愛情表現されるといいものだ。

 着替え終わった狗神・蓮が亮太に声をかけた。

「亮太、行きましょうか」
「はいよ」

 亮太が寝癖を手で撫でつけながら玄関に向かうと、みずちが子供の様な声で言った。

「亮太、いってらっしゃーい」

 心臓鷲掴み。亮太は思わず胸の前で拳を握り締めた。そんな亮太を見て蓮が眉間に思い切り皺を寄せた。

「亮太、大丈夫ですか」
「……気にしないでくれ」

 亮太は、何もなかった様なフリをして靴を履きさっさと玄関を出た。亮太は今まで気付いていなかったが、どうやら自分は子供らしい可愛い物に弱いらしい。ニヤつきそうになる目元に力を入れつつ、亮太は蓮を街へと案内することにした。



 本屋で見つけた蛇の飼育方法についての本には、蛇の餌は通販で売っている冷凍マウスを解凍しましょうと書いてあった。冷凍庫に入れる場合には家族の了承を得ましょうね、とのことだ。

 いやいやいやいや、ない。冷凍庫にねずみを保管するなど、ない。あり得なかった。

 思わずぶるっと震えた亮太を見て、背後から蓮が本を覗いてきた。周りの客がチラチラと蓮を見ているが本人は全く意に介していない。成程、イケメンとは常にこういう視線を浴びているのだなと思いながら、輝く様なイケメンになったことのない亮太は疑似体験をしていた。

みずちは水棲寄りなので、これでなくとも大丈夫だと思いますよ」

 慰める様に蓮が言った。思わずホッとしてしまった。

「水棲ね、水棲と」

 更に本を読み進めると、成程、水際に済む蛇は魚、蛙などを食すとある。生きたおたまじゃくしを与えてみて臨場感を味わっては、などと書いてあり、亮太は踏み潰された半蛙の話をまた思い出してしまった。いや、無理無理無理。

 餌の大きさは頭の幅まで。みずちは小さいので、小魚でいいかもしれなかった。というかそれ以外は用意出来る自信は皆無だった。

 亮太は半ば泣きそうになりながらも先を読み進めた。変温動物なのであまり寒くすると休眠するとある。食事は月に数回でいいとあった。エンゲル係数にはいい方向に貢献しそうな情報だった。

 蛇の本にはリアルな蛇の写真がこれでもかと言わんばかりに掲載されており、亮太はみずちとのギャップに頭がクラクラしてきていた。必要な情報は得た、もう十分だった。亮太はパタンと本を閉じると棚にそっと戻した。


 もう二度と手にするまい、そう心に誓った。


 次は百科事典だ。なるべく分厚い物を選ぶと、『こ』の項目を探し始めた。コウリュウ。恐らくみずちと龍という漢字だろう。パラパラとめくっていくと、あった。

 姿が変態する龍種の幼生、とあった。みずちの項目も見ると、水神様と崇められる龍とある。みずちのあの声からも幼く思えたが、やはりみずちはまだ子供だったのだ。

 亮太は百科事典もパタンと閉じた。アキラが暇だろう、と選んだ何冊かの雑誌類を持ってレジへと向かい、会計を済ませた。

 まだ幼い子供なのに、ご主人様から引き離されてしまったみずちに思いを馳せながら。

 本屋を出ると、街のそこかしこにある古着屋巡りをすることにした。蓮は背も高く手足も長い。どうせその辺りの安い服屋の服ではつんつるてんになるのは分かり切っていたので、始めから輸入古着に狙いを絞ったのだ。今まで洋服など着たことがなかったであろう蓮の為に、どれを組み合わせてもまあ何とかなりそうな無難な物をぱっぱと選んだ。

 後は下着だ。こればかりは新品が必要なので、困った時の御用達であるスーパーDに向かうことにした。

 道すがら、蓮が遠慮がちに亮太に尋ねてきた。

「亮太、あの、一つ伺っても宜しいでしょうか」

 連が遠慮がちになるなど珍しい。どうしたのだろうかと思いながら亮太が頷くと、愁いを帯びたイケメン顔をして蓮が言った。

「亮太の隣に住んでいるあの若者は、一体どういった種類の人間なのですか」
「タケル? そういやお前には紹介してなかったな。もう会ったのか?」

 蓮は首を縦に振った。

「私は直接はお会いしてませんが、一度尋ねて来られたことがありまして、隠れて見ておりました」

 そんな話聞いていない、一体いつの話だろうか。亮太は思わず顔を顰めた。人相が悪く見えることなど、この際どうでもよかった。

「何しに来たんだ?」

 夜に来たなら、確実に亮太がいない時間帯を狙ってきている。物音にうるさいタケルのことだ、その日亮太が仕事に出ていることなど分かった上で訪問したに違いなかった。

「亮太が仕事に出かけて少し後のことでしたが、醤油を切らせたので貸して欲しいと」

 なんだ、醤油か。亮太はタケルを疑ってしまったことを即座に反省した。いくらアキラに対し過剰な反応を見せていたからといって、簡単に疑い過ぎてしまった。

 だが、それでなんでこんな話になるのだろうか。

「それで?」

 蓮は言いにくそうにしている。亮太は嫌な予感がした。これは恐らく、あまりよくないことを亮太に伝えようとしているのではないか。亮太が嫌がることといえば、そう、オカルト系の話だ。あれだけ盛大にシュウヘイの時に行かずに済む様にごねた後である、蓮は亮太がその手の話を避ける傾向にあるのはもう理解している筈だった。

「醤油は貸しました。すぐに返していただきました」
「そういうことを言いたいんじゃないんだろ」
「……よくない物が」

 ほらきた。亮太は聞く覚悟を決めた。

「それぞれは力のない小物ばかりなのですが、よくない物が複数憑いている様です」
「……で?」
「このまま放置すると、大きな一つになるかと。それにあまりよくない物をアキラ様に近づけると、封印の中の別の首も暴れる可能性があります」
「……だから?」

 ああ、嫌だ。もう蓮が言いたいことは分かっていたが、それだけは自分の口からは言いたくなかった。背中がゾワゾワしてきた。

「私と亮太で早急に対処すべき案件かと思われます」

 もう、大きな溜息をつくしか亮太には出来なかった。
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