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第91話 一年後
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銀色の大きな機体が轟音を立てて空へと旅立つ様を、私はシスの腕の中で眺めていた。
「小町、泣くなよー」
「う、うう……っごめん、シス……!」
済世区への帰還から、早一年。
亜人とヒトの交わりは、少しずつだけど進んでいる。文化の違いがあったりヒトの亜人に対する恐怖心があったりと、すぐに仲良くなるのは難しい。でも、亜人たちと各ヒトの町への総意の通達が終わる頃には、最初の方に通達を受けた中から番に発展するカップルも現れ始めていた。
勿論反対する人たちはいるし、そういう人たちに無理に番えとは言えない。その人たちには、無理強いはしてはいけないという新たな規定も設けた。
色々と試行錯誤を繰り返した中でも、互いの町への短期滞在は好評だった。これからマッチングを迎えようとしていた若者に、どこそこの亜人の集落に行きたいという希望を聞いたところ、結構な量の希望があったのだ。当初の計画通り、ヒトには人狼が護衛としてつき、その内の何割かは恋に落ちたりした。中には護衛の人狼と恋に落ちたという話も聞いている。
このことからも分かる様に、ヒトの町のマッチング制度は完全撤廃された。あれはそもそも、町を作った初期段階でヒトの人口を増やすべく作られた制度だったらしい。遺伝子レベルからマッチングをするのでうまくいく確率が高かったのも、このシステムが継続された理由のひとつだそうだ。
自由恋愛を推し進める中で、マッチング制度はあまりにも機械的だ。各町の町長からは人口が減少するのではという異論も出たけど、各町の若者代表に選出したメンバーが軒並み賛同したことで、最終的には制度の撤廃が決定された。
私とシスは、あちこちに二人で赴いて説得を続けた。ヒト代表、亜人代表なんて何をしたらいいのかさっぱりだったけど、結局は自分たちが如何に愛し合っているかを直接その目で見てもらうのが手っ取り早いんじゃ、という結論に至ったのだ。
でも、ここ数ヶ月はその活動は休止している。私が身動き出来なくなってしまったからだ。
私の代わりは、小春が務めるようになった。小春は私よりも愛情を面に出しまくるタイプなので、評判はなかなかいいらしい。
――そう。小春は、まさかまさかのロウと番になったのだ。「あれはヘタレだよ」と一応忠告はしたけど、小春は大の犬好きでもある。ロウへの熱烈アタックを繰り返した後、とうとうロウの番の座を獲得したのだった。
そんな風に各地を動き回っている小春も、今日は私の隣にいて銀色の機体を見上げている。
火星から人間代表の使節団が訪れたのがひと月前のこと。緊張した一団の中、緩い雰囲気で私とシスに手を振った人間がいた。ドクター橋本だ。
長期滞在は出来ないものの、体調管理を行ないながらの短期滞在は可能だと主張した彼は、それはそれは毎日楽しそうにあちこちを彷徨きまくり、最終的に倒れた。何やってんのと言いたかったけど、あちこちの空を見比べたかったと言われたら、止められなかったのは私だ。
そして現在彼らの船には、各町に少数だけど存在していた小夏と同じ症状を持つ子供たちが同乗していた。
いつかきっと健康になったら、顔を見せに連れてくるから。酸素マスクをして寝そべるドクター橋本にそう言われて、私は泣きながら小夏のことをお願いしますと繰り返し頼み込んだ。
「お姉ちゃん、行ってくるよ!」
泣きじゃくる家族の前で、小夏は一回も涙を見せなかった。絶対また会えるから。小夏に力強く言われて、名残惜しかったけど小夏の細い手を離した。
「……小夏は強い男だぞー」
「……うん、そうだね」
子供だとばかり思っていたけど、シスは小夏のことを最初から男だと言ってくれた。やっぱりシスは最高の番だな、と膨らみが大きくなってきたお腹をさすりながら、シスにもたれかかる。
シスはいつだって、素直に愛を伝えてくれていた。なのに私は恥ずかしがって、それを誤魔化したり照れたりしていた。
だけど今、私のお腹にはシスと私の子供がいて、この子の未来は私たちがしっかりと切り拓いてやらなければならない。
だから、乙女小町はこれで卒業だ。
私は心を込めて、いつも私に寄り添い続けてくれる愛しい番に伝えた。
「シス、いつもありがとう。大好きだよ。これからもずっと傍にいてね」
普段は言わないまっすぐな言葉に、シスは嬉しそうに黄金色の目を細める。
「……へへ、ずっとだ、約束だぞ」
「うん」
きっと私からは凄く甘い香りがしているんだろうな。
そんなことを思いながら、シスの唇を微笑みつつ受け入れた。
「小町、泣くなよー」
「う、うう……っごめん、シス……!」
済世区への帰還から、早一年。
亜人とヒトの交わりは、少しずつだけど進んでいる。文化の違いがあったりヒトの亜人に対する恐怖心があったりと、すぐに仲良くなるのは難しい。でも、亜人たちと各ヒトの町への総意の通達が終わる頃には、最初の方に通達を受けた中から番に発展するカップルも現れ始めていた。
勿論反対する人たちはいるし、そういう人たちに無理に番えとは言えない。その人たちには、無理強いはしてはいけないという新たな規定も設けた。
色々と試行錯誤を繰り返した中でも、互いの町への短期滞在は好評だった。これからマッチングを迎えようとしていた若者に、どこそこの亜人の集落に行きたいという希望を聞いたところ、結構な量の希望があったのだ。当初の計画通り、ヒトには人狼が護衛としてつき、その内の何割かは恋に落ちたりした。中には護衛の人狼と恋に落ちたという話も聞いている。
このことからも分かる様に、ヒトの町のマッチング制度は完全撤廃された。あれはそもそも、町を作った初期段階でヒトの人口を増やすべく作られた制度だったらしい。遺伝子レベルからマッチングをするのでうまくいく確率が高かったのも、このシステムが継続された理由のひとつだそうだ。
自由恋愛を推し進める中で、マッチング制度はあまりにも機械的だ。各町の町長からは人口が減少するのではという異論も出たけど、各町の若者代表に選出したメンバーが軒並み賛同したことで、最終的には制度の撤廃が決定された。
私とシスは、あちこちに二人で赴いて説得を続けた。ヒト代表、亜人代表なんて何をしたらいいのかさっぱりだったけど、結局は自分たちが如何に愛し合っているかを直接その目で見てもらうのが手っ取り早いんじゃ、という結論に至ったのだ。
でも、ここ数ヶ月はその活動は休止している。私が身動き出来なくなってしまったからだ。
私の代わりは、小春が務めるようになった。小春は私よりも愛情を面に出しまくるタイプなので、評判はなかなかいいらしい。
――そう。小春は、まさかまさかのロウと番になったのだ。「あれはヘタレだよ」と一応忠告はしたけど、小春は大の犬好きでもある。ロウへの熱烈アタックを繰り返した後、とうとうロウの番の座を獲得したのだった。
そんな風に各地を動き回っている小春も、今日は私の隣にいて銀色の機体を見上げている。
火星から人間代表の使節団が訪れたのがひと月前のこと。緊張した一団の中、緩い雰囲気で私とシスに手を振った人間がいた。ドクター橋本だ。
長期滞在は出来ないものの、体調管理を行ないながらの短期滞在は可能だと主張した彼は、それはそれは毎日楽しそうにあちこちを彷徨きまくり、最終的に倒れた。何やってんのと言いたかったけど、あちこちの空を見比べたかったと言われたら、止められなかったのは私だ。
そして現在彼らの船には、各町に少数だけど存在していた小夏と同じ症状を持つ子供たちが同乗していた。
いつかきっと健康になったら、顔を見せに連れてくるから。酸素マスクをして寝そべるドクター橋本にそう言われて、私は泣きながら小夏のことをお願いしますと繰り返し頼み込んだ。
「お姉ちゃん、行ってくるよ!」
泣きじゃくる家族の前で、小夏は一回も涙を見せなかった。絶対また会えるから。小夏に力強く言われて、名残惜しかったけど小夏の細い手を離した。
「……小夏は強い男だぞー」
「……うん、そうだね」
子供だとばかり思っていたけど、シスは小夏のことを最初から男だと言ってくれた。やっぱりシスは最高の番だな、と膨らみが大きくなってきたお腹をさすりながら、シスにもたれかかる。
シスはいつだって、素直に愛を伝えてくれていた。なのに私は恥ずかしがって、それを誤魔化したり照れたりしていた。
だけど今、私のお腹にはシスと私の子供がいて、この子の未来は私たちがしっかりと切り拓いてやらなければならない。
だから、乙女小町はこれで卒業だ。
私は心を込めて、いつも私に寄り添い続けてくれる愛しい番に伝えた。
「シス、いつもありがとう。大好きだよ。これからもずっと傍にいてね」
普段は言わないまっすぐな言葉に、シスは嬉しそうに黄金色の目を細める。
「……へへ、ずっとだ、約束だぞ」
「うん」
きっと私からは凄く甘い香りがしているんだろうな。
そんなことを思いながら、シスの唇を微笑みつつ受け入れた。
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