可愛がっても美形吸血鬼には懐きません!~だからペットじゃないってば!

ミドリ

文字の大きさ
50 / 92

第49話 もういい

しおりを挟む
 翌朝目が覚めると、枕元にサーシャさんが腰掛けていた。白い翼に日光が透けてキラキラしている。

 私が起きたのに気付いたサーシャさんが、穏やかな笑みを浮かべた。

「小町ちゃん、おはよう」
「……サーシャさん、なんで……?」

 寝ぼけ眼を擦り、起き上がる。

 サーシャさんは私を見てクスリと笑うと、頭をヨシヨシと撫でてくれた。

「聞いたわよ。倒れた後に勝手に着替えさせられたんですって?」

 あのアホ吸血鬼。またペラッとそういうことを喋ってしまったらしい。

 思わずブスッとしてしまったけど、それでも気になって尋ねた。

「……シスは今どうしてますか?」

 今ここにいるサーシャさんが聞いているということは、まだ近くにはいるのかな。懐きかけてたペットがいきなり噛みついたから、呆れてどこかに行っちゃう可能性もあるかなって思ったけど。

 あ、血が欲しいんだからいるか。だって私は食糧だもんね。

 サーシャさんが、出口の方に一瞥をくれた。

「今もずっとドアの外で粘ってるわよ」
「は?」
「小町ちゃんをひとりに出来ない、でも怒らせたから入れないって、追い出された後はあそこで番をしてたみたいよ。ふふ」

 ふふ、て。ということは、私がギャンギャン泣いてたのも聞こえてたのかもしれない。……嫌だな。

 サーシャさんが肩を竦めた。

「下で待っても全然降りてこないしと思って店主に聞いたら、夜中に大喧嘩してる声が聞こえたって聞いてね。それでタロウと様子を見にきたら、ドアの前でしょんぼりしてるシスくんを見つけたっていう訳よ」

 それでシスに何があったか尋ねたところ、どうも勝手に脱がせて着替えさせたのが悪かったらしい、と語ったそうだ。

 分かっていたけど、やっぱりシスには伝わってなかったんだなあと思うと、悲しくなってきた。それも確かに怒りの対象ではあるけど、そうじゃないのに。私を女の子としてちっとも見てくれてないことが嫌だったのに。

 ぽろり、と涙が溢れた。

 サーシャさんが、優しく私の頭を撫でる。優しい大人の笑みを浮かべて、柔らかく囁いた。私もこれくらい色気があったら、少しは女として見てもらえたのかな。でも駄目か。だって私は亜人じゃないもん。

「ほら、泣かないの。可愛いお顔が台無しよ」
「……可愛いって言ってたのも、ペットとしてですもんね。だから別にいいです。もういいんです……っ」
「あら……」

 安全な済世区サイセイ・ディストリクトを出てここまできたのは、シスと両想いになる為じゃない。私は小夏の病気を何とかしたいと、『神の庭』にコンタクトを取る為にはるばるここまでやって来た。その目的は今も変わっていない。それが可能かどうかの答えは、大分手に届く範囲へと入ってきた。

 だから、シスが亜人のくせに格好よくて案外いい奴だったから、ちょっと逆上のぼせて優先順位を見失っていただけ。冷静さを取り戻せば、自分が間違ってたことなんてすぐ分かる。

「小町ちゃん。シスくんはデリカシーはないけど、ペットとは思ってないと思うけど」

 頭を撫で続けられながら、サーシャさんが優しく慰めてくれた。でも、私は首を横に振る。

「慰めてもらわなくて、大丈夫ですから」
「小町ちゃんってば」
「シスとの契約は、ネクロポリスまで。元々そういう話だったし」

 いっそのこと、この町で別れるのもありかもしれない。サーシャさんとタロウさんなら、ヒトがひとりで旅が出来る様な方法も知っているかもしれないし。

 ……でも、血がほしいアホ吸血鬼は嫌がるかな。私は喋る家畜なんだし。

 サーシャさんが、首を傾げる。

「昨日、シスくんから話を聞いてないの?」
「負けたから護衛失格か、みたいなのは聞きましたけど」
「あんの馬鹿が……」

 低い声でサーシャさんが呟いた。よく分からないけど、いつまでも管を巻いている訳にもいかない。こうしている間にも、小夏は少しずつ死に近づいていってるんだから。

 アホなシスと一緒に過ごしていたから、そんな事実に目を背けてちょっと気が緩んでいた。

 涙を腕でグッと拭くと、無理やり笑顔を作る。

「……支度しますね。地図屋への案内、お願いします」
「小町ちゃん、あのね、シスくんは……」
「もうシスの話はいいですから」

 きっぱりと告げると、サーシャさんは何か言いたげだったけど、ちゃんとやめてくれた。

「部屋の外で待ってるわね」
「はい、すみません」

 サーシャさんがドアを開けると、一瞬だけ壁にもたれかかってこちらを見ているシスと目が合った。

 泣きそうな顔をして、馬鹿みたい。馬鹿吸血鬼。

 すぐにドアが閉じられたので、私は支度を始めた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】平凡OL(β)ですが、同期の末っ子御曹司(α)に溺愛されています

神無月りく
恋愛
日本外食産業の一翼を担う『川嶋フーズ』で秘書としてOL黒田鞠花(くろだまりか)は、同期で社長令息の川嶋隼人(川嶋はやと)に入社以来恋に似た憧れを抱いていた。 しかし、そもそもの身分が違う上に自分はβで、彼はα。 ただの同期以上の関係になれないまま、五年の月日が流れた。 ある日、Ωのヒートに巻き込まれて発情した彼を介抱するため一夜を共にし、それがきっかけで両思いだったことが発覚して交際がスタート。 意外に庶民的でたまに意地悪なスパダリ彼氏に溺愛され、順調にデートを重ねて幸せな日々を送っていた鞠花だったが、自分の母親からαの交際を反対されたり、彼の運命の番を自称するΩ令嬢が登場したりと、恋路を妨げる波乱に見舞われるように…… ※ムーンライトノベルズ(小説家になろう)様で同一作品を連載中ですが、こちらが若干先行公開となっております。 ※一応R18シーンには☆マークがついています。 *毎週土日および祝日の不定時に更新予定(ただし、1月1日~5日までは連日更新)。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

処理中です...