可愛がっても美形吸血鬼には懐きません!~だからペットじゃないってば!

ミドリ

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第22話 もうすぐ亜人街

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 シスの言う通り、暫く先へ進むと、何もなかった野原の足許にセメントか何かで出来た薄灰色の道が現れた。砂利まじりででこぼこだけど、野原よりは遥かに歩きやすい。

「この道を辿れば亜人街だぞ!」

 にこやかな笑顔を惜しげもなく見せながら、シスが道の先を指差した。少し離れた場所から拝むだけなら、相変わらず眼福ものだ。それにしても本当子供みたいなはしゃぎ方で、見ているとつい頬が緩みそうになる。

 シスの周りだけ陽の光がもっと輝いて見えるなんて言ったら、大袈裟だろうか。

「中はすんごい広いから、小町は俺から離れるなよー!」
「へー、そうなんだ」
「中は亜人だらけだからな、絶対迷子になるなよー」

 亜人だらけと聞いて、これまで亜人とろくな思い出がない私はゾッとしてしまった。思わず剥き出しの二の腕を擦ると、またもやシスが私の顔を前から覗き込んでくる。これがこいつの話し方の癖なのかもしれない。

 近いと、一気にただの眼福から心拍数爆上げ機に変わるからやめてほしい。

「小町、寒いのか? 大丈夫かー?」

 この顔に似合わない間延びした喋り方にも、大分慣れた。見た目と違って中身が幼いことにも。

 だからか、シスには他の亜人に感じる様な恐怖を感じない。そのことが、時折空恐ろしく感じることがあった。

 今が正にその瞬間だ。

「……大丈夫だよ」

 何でもなさそうな少し固めの無表情を作って、短く答えた。

「本当か? 無理するなよー」
「してないってば」

 シスに向かって、しっしっと手を振る。だから下唇を突き出さないでってば。

 シスの前では、弱気なところは絶対に見せたくない。シスと私では、圧倒的にシスの方が強い。シスが私を本気で食べようと思ったら私なんてひとたまりもないことは、よく分かっている。

 だからこそ、私は主従関係の主でい続けなければならない。弱みを見せた瞬間、亜人であるシスが豹変する可能性はどうしたって捨てられないから。

 亜人を信用してはいけない。亜人は、根本的な考えがヒトとは違う。そんなことは子供でも知っている事実なのに、心配そうな顔で私の近くをソワソワと彷徨くこの亜人を、油断すると信じたくなっている自分がいた。そんな自分が怖い。

「小町、冷たい……」

 しょんぼり俯いてはわざとらしくこっちをチラチラ見ているけど、思い切り無視することにした。

 信用しちゃいけない。シスにとって、私はただの喋る家畜に過ぎないんだから。

 美味しそうな血を体内に蓄えている私が無謀にもひとりで見知らぬ土地へ旅をしようとしていたから、他の亜人に食われたら勿体ないという食欲と、他の土地を見てみたいという好奇心から一緒に行動しているだけだ。

 無事にネクロポリスに到着して私の目的が達成されたら、シスは私が干乾びるまで私の血を吸い尽くす気だろう。

 勿論私は、呑気に指を咥えてその状況に陥るのを待つ気はないけど。

 相変わらず両方の腕を擦っている私を見ていたシスが、「あ!」と嬉しそうに笑う。本当、コロコロと表情がよく変わる奴だ。

「思い出した! 亜人街にはな、公共の大浴場があるんだぞ!」
「だ、大浴場?」

 突然何の話を始めたんだろう、と呆れていると、シスはウンウンと頷きながら続けた。

「街にな、温泉が湧いてるんだよ。小町のその格好は寒そうだから、温泉で温まって、そうだ! ついでにもう少し温かそうな服も買ってやるなー!」
「え? あんたお金持ってるの?」

 寒そうな服はお前の方だろうとツッコミを入れるよりも前に、そっちの方が気になる。そういえば全く考えていなかったけど、亜人の世界の通貨ってどうなってるんだろう。

 私の質問に、シスは斜めがけにしていた鞄をガサゴソと漁り始めた。とりあえず様子を見守っていると、シスは中から革製の巾着袋を取り出す。

 私の目の前に袋を突き出すと、にぱー! と太陽みたいな眩しい笑みを浮かべた。

「俺の集落からごっそり持ってきたんだぞー! なんせ使う場面がなかったから、中身はまだ沢山ある!」
「亜人ってお金の概念あったんだ」
「小町、亜人のこと何だと思ってたんだ?」

 首を傾げて可愛らしく聞かれても、亜人の生態はヒトにとって未知に近い。亜人の話はシスから聞かされたので多少は把握した気でいたけど、聞いたのは主にどの亜人の血が美味いとか縄張り意識が強いとかそんな話ばかりで、亜人の文明についての話はろくに聞いていなかった。

 その話題にならなかったのは私が根掘り葉掘り質問しなかった所為だろうけど、聞いたらシスもヒトの生態について聞いてくるかもしれなくて、あえて避けていた。シスは私に雇われた護衛であって、護衛が終わった後は敵に戻る可能性は――どうしたって捨てきれないから。

 シスにヒトの普段の生活を話したからといって、この呑気でアホな吸血鬼がその情報を悪用するとは思えなかったけど。

「じゃあ、それまでは俺にくっついてりゃいいぞ!」
「は?」

 突然こいつは何を言い出した、と思っている間に、シスはひょいと私を横抱きにしてしまった。当然、私の肩やら腕やら太ももやらが、シスの剥き出しの上半身にぴったりと重なる。ひえっ。

 発達した牙を剥きながら、真上からシスが笑いかけてきた。心頭滅却だ。

「一緒に寝ると温かいもんな! てことは、くっついてりゃ温かいってことだ!」
「あ……あのねえ!」

 カアッと身体が熱くなる自覚があって身体を捩ると、シスにしっかりと抱き抱えられ直される。おいってば。

「いいからくっついてろ、な?」

 シスにそう言われてしまった私は、一旦言い出したら聞かないしな、と自分に言い聞かせつつ、渋々な体でシスの肩に頭を寄せたのだった。
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