15 / 92
第14話 ご褒美が欲しいシス
しおりを挟む
昼飯時は、太陽が真上に登り、ついでにシスのお腹がぐうううう、と面白いくらい大きな音を立てると訪れる。
今朝狩っておいた動物の肉の残りと、途中で摘んでおいたビワが今日の昼ごはんだ。シスはこれに、私の携帯食糧をひと粒追加する。それだけ詰め込んで、ようやくお腹が膨れるんだそうだ。
「血が飲めたらその方がずっと持ちがいいんだけどなー」
「そういうものなんだ」
「まあ、吸血鬼だしな」
そりゃそうかと思いながら、私はちょっと筋張った肉をもぐもぐと咀嚼し続けていた。固いけど、味はしっかりとあるし食べごたえもあるから、少量でもお腹は結構膨れる。
味気なくなることを覚悟していた食事についても、シスのお陰で概ね満足していた。あの時シスと出会って、本当に幸運だった。どうやら私って運がいいらしい。
しかしなんだってあんな所に転がってたの、とシスに尋ねたところ、答えはこうだった。
「集落から出てきて、腹が減り過ぎて寝転んでた」
常に腹を空かせている吸血鬼。それがシス。不憫な子だ。可哀想過ぎて何も言ってあげられなかった。だからと言って、血を吸っていいよなんて絶対言いたくないし。
野原にポツンと生えた木の下で心地よい風を受けながら食事を取っていると、ヒトを食糧扱いする亜人が闊歩する世界を旅してるなんて思えないほどのどかな気分になる。
今目の前にいるシスもその亜人のひとりだけど、今のところ最初の時以外は私の血を欲しがることはなかった。あの時あんなに欲しがったのは、私が出血していたからなんじゃないか。多分、血の匂いにふらふらっと引き寄せられた、とみてる。
そう考えると、迂闊に転んだりして血を出してしまうと、またあのギラギラした目で襲われる可能性が高い。怪我をしない様に気を付けないとだ。
素肌丸出しの腕と足を見る。十日間外を歩いただけで、白かったお肌が日焼けしてしまっているじゃないか。肩の傷はすっかり治ったけど、膝の傷はまだ残ったままだし。うら若き乙女の肌がどんどんボロボロになっていく。
可愛い弟のほっそりとした顔を思い浮かべた。そう、全ては小夏の為だ。お肌がちょっと荒れるくらい、それと亜人にデザート扱いされるくらい、目的の為ならなんてことないんだから!
口の中に残っていた筋を無理やり飲み込むと、パン! と両手を合わせた。
「ご馳走様でした! ……じゃあそろそろ」
私が立ち上がり掛けると、シスが私の手首を掴む。とっくに食べ終わっていたシスの顔は、いつになく真剣そのものだ。
「シ、シス……?」
「小町、俺……」
超絶美形が、乞う様な顔つきで私を切なそうに見上げている。ちょっと、まさか今更私に惚れたとか? 駄目よ、だって私はヒトだし、シスは亜人だし――。
「デザートが欲しい」
殴ってやろうか。顔面を正拳突きしたら気分が晴れるかもしれない。
「なんでよ。さ、行こう」
ぐぐぐっと腕を引っ張ってみるけど、シスはびくともしなかった。泣きそうな顔で、私に訴え続ける。
「だって! デザートにありつけたのって、最初の日だけだぞ! 少ない! 頻度が少なすぎる!」
その端正で男前な顔で、下唇を出していじけ顔を作らないでほしい。……可愛くって叫んじゃいそうでしょうが。
「あの時は! 怪我をしたからでしょ!」
私の腕で綱引きが始まった。何とか腕を抜こうとする私と、絶対に離すもんかと両手で縋り付くシス。この馬鹿力には勝てる気がしないけど、負けたら多分血を吸われるから、私も必死だった。
「小町に噛み付くの、俺がどれだけ我慢してると思ってるんだ!? もう滅茶苦茶頑張ってるんだぞ!」
なんと、シスの金色に輝く瞳が、潤み始めてしまう。泣きながら言われても。
「あのねえ! 血が減ると、ヒトって動けなくなるの! 少し血が出たくらいならいいけどね、あんたみたいにゴクゴク飲んだら、旅が出来ないから!」
私が怒鳴りつけると、シスの眉がぴくんと動いた後、腕を力任せに引かれてしまった。
「きゃっ!」
バランスを崩し転びそうになった瞬間、シスが地面に膝をついたまま、私を抱きとめる。
整いすぎて直視してるのが辛い顔が超至近距離にあって、私の心臓は全力疾走後みたいな状態になり始めた。その所為だろう、シスの鼻がスン、と小さく鳴る。視線が私の首辺りを彷徨いてるから、血の匂いがしてるのかもしれない。
「……沢山吸わないから」
「噛み付いたら止まらなくなるでしょ」
切なそうに顔を近づけるので、顔を背けた。
「もう駄目って思ったら、あの臭いのを掛けていいから」
「……」
そっぽを向いた私をその顔で覗き込むのはやめて。ていうか近いから。近い近い。
「小町、俺さっき小町をちゃんと助けたぞ。護衛の役割果たしてるだろ?」
「う、うん。あれはありがとう、だけど……」
何となく、シスが何を言い出すのか分かったかもしれない。
鼻と鼻が付きそうな距離で、シスが言った。
「だったら、助けたご褒美がほしい。俺、頑張った。小町、ご褒美ちょうだい」
「……くっ」
とうとう、鼻の先同士がくっつく。わ、わ、わあああああっ!
「わ、分かった! 分かったから離れなさい!」
シスの顔を両手で鷲掴みにして押すと、変顔になっているシスは、それはそれは嬉しそうに笑ったのだった。
……ああ。
今朝狩っておいた動物の肉の残りと、途中で摘んでおいたビワが今日の昼ごはんだ。シスはこれに、私の携帯食糧をひと粒追加する。それだけ詰め込んで、ようやくお腹が膨れるんだそうだ。
「血が飲めたらその方がずっと持ちがいいんだけどなー」
「そういうものなんだ」
「まあ、吸血鬼だしな」
そりゃそうかと思いながら、私はちょっと筋張った肉をもぐもぐと咀嚼し続けていた。固いけど、味はしっかりとあるし食べごたえもあるから、少量でもお腹は結構膨れる。
味気なくなることを覚悟していた食事についても、シスのお陰で概ね満足していた。あの時シスと出会って、本当に幸運だった。どうやら私って運がいいらしい。
しかしなんだってあんな所に転がってたの、とシスに尋ねたところ、答えはこうだった。
「集落から出てきて、腹が減り過ぎて寝転んでた」
常に腹を空かせている吸血鬼。それがシス。不憫な子だ。可哀想過ぎて何も言ってあげられなかった。だからと言って、血を吸っていいよなんて絶対言いたくないし。
野原にポツンと生えた木の下で心地よい風を受けながら食事を取っていると、ヒトを食糧扱いする亜人が闊歩する世界を旅してるなんて思えないほどのどかな気分になる。
今目の前にいるシスもその亜人のひとりだけど、今のところ最初の時以外は私の血を欲しがることはなかった。あの時あんなに欲しがったのは、私が出血していたからなんじゃないか。多分、血の匂いにふらふらっと引き寄せられた、とみてる。
そう考えると、迂闊に転んだりして血を出してしまうと、またあのギラギラした目で襲われる可能性が高い。怪我をしない様に気を付けないとだ。
素肌丸出しの腕と足を見る。十日間外を歩いただけで、白かったお肌が日焼けしてしまっているじゃないか。肩の傷はすっかり治ったけど、膝の傷はまだ残ったままだし。うら若き乙女の肌がどんどんボロボロになっていく。
可愛い弟のほっそりとした顔を思い浮かべた。そう、全ては小夏の為だ。お肌がちょっと荒れるくらい、それと亜人にデザート扱いされるくらい、目的の為ならなんてことないんだから!
口の中に残っていた筋を無理やり飲み込むと、パン! と両手を合わせた。
「ご馳走様でした! ……じゃあそろそろ」
私が立ち上がり掛けると、シスが私の手首を掴む。とっくに食べ終わっていたシスの顔は、いつになく真剣そのものだ。
「シ、シス……?」
「小町、俺……」
超絶美形が、乞う様な顔つきで私を切なそうに見上げている。ちょっと、まさか今更私に惚れたとか? 駄目よ、だって私はヒトだし、シスは亜人だし――。
「デザートが欲しい」
殴ってやろうか。顔面を正拳突きしたら気分が晴れるかもしれない。
「なんでよ。さ、行こう」
ぐぐぐっと腕を引っ張ってみるけど、シスはびくともしなかった。泣きそうな顔で、私に訴え続ける。
「だって! デザートにありつけたのって、最初の日だけだぞ! 少ない! 頻度が少なすぎる!」
その端正で男前な顔で、下唇を出していじけ顔を作らないでほしい。……可愛くって叫んじゃいそうでしょうが。
「あの時は! 怪我をしたからでしょ!」
私の腕で綱引きが始まった。何とか腕を抜こうとする私と、絶対に離すもんかと両手で縋り付くシス。この馬鹿力には勝てる気がしないけど、負けたら多分血を吸われるから、私も必死だった。
「小町に噛み付くの、俺がどれだけ我慢してると思ってるんだ!? もう滅茶苦茶頑張ってるんだぞ!」
なんと、シスの金色に輝く瞳が、潤み始めてしまう。泣きながら言われても。
「あのねえ! 血が減ると、ヒトって動けなくなるの! 少し血が出たくらいならいいけどね、あんたみたいにゴクゴク飲んだら、旅が出来ないから!」
私が怒鳴りつけると、シスの眉がぴくんと動いた後、腕を力任せに引かれてしまった。
「きゃっ!」
バランスを崩し転びそうになった瞬間、シスが地面に膝をついたまま、私を抱きとめる。
整いすぎて直視してるのが辛い顔が超至近距離にあって、私の心臓は全力疾走後みたいな状態になり始めた。その所為だろう、シスの鼻がスン、と小さく鳴る。視線が私の首辺りを彷徨いてるから、血の匂いがしてるのかもしれない。
「……沢山吸わないから」
「噛み付いたら止まらなくなるでしょ」
切なそうに顔を近づけるので、顔を背けた。
「もう駄目って思ったら、あの臭いのを掛けていいから」
「……」
そっぽを向いた私をその顔で覗き込むのはやめて。ていうか近いから。近い近い。
「小町、俺さっき小町をちゃんと助けたぞ。護衛の役割果たしてるだろ?」
「う、うん。あれはありがとう、だけど……」
何となく、シスが何を言い出すのか分かったかもしれない。
鼻と鼻が付きそうな距離で、シスが言った。
「だったら、助けたご褒美がほしい。俺、頑張った。小町、ご褒美ちょうだい」
「……くっ」
とうとう、鼻の先同士がくっつく。わ、わ、わあああああっ!
「わ、分かった! 分かったから離れなさい!」
シスの顔を両手で鷲掴みにして押すと、変顔になっているシスは、それはそれは嬉しそうに笑ったのだった。
……ああ。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】平凡OL(β)ですが、同期の末っ子御曹司(α)に溺愛されています
神無月りく
恋愛
日本外食産業の一翼を担う『川嶋フーズ』で秘書としてOL黒田鞠花(くろだまりか)は、同期で社長令息の川嶋隼人(川嶋はやと)に入社以来恋に似た憧れを抱いていた。
しかし、そもそもの身分が違う上に自分はβで、彼はα。
ただの同期以上の関係になれないまま、五年の月日が流れた。
ある日、Ωのヒートに巻き込まれて発情した彼を介抱するため一夜を共にし、それがきっかけで両思いだったことが発覚して交際がスタート。
意外に庶民的でたまに意地悪なスパダリ彼氏に溺愛され、順調にデートを重ねて幸せな日々を送っていた鞠花だったが、自分の母親からαの交際を反対されたり、彼の運命の番を自称するΩ令嬢が登場したりと、恋路を妨げる波乱に見舞われるように……
※ムーンライトノベルズ(小説家になろう)様で同一作品を連載中ですが、こちらが若干先行公開となっております。
※一応R18シーンには☆マークがついています。
*毎週土日および祝日の不定時に更新予定(ただし、1月1日~5日までは連日更新)。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる