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第13話 モグラ亜人VSシス
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シスは、私を抱えたまま穴の後方にタンッ! と降り立った。物凄い跳躍力と軽やかな着地に、やっぱり亜人の作りはヒトとは違うんだなあと感心する。
咄嗟にシスの首にしがみついちゃったけど、これまでの人生、こんな風に抱き抱えられたこともなければ、抱きついたこともない。なんせお互い肌の露出が多いから、直接肌に触れ合う部分も多かった。
筋肉って見た目より弾力あるんだな、と思ったら、今更ながらにカアーッと身体が火照ってくる。すると、シスの喉がごくりと鳴った。……ん?
「に、匂いがキツイ……っ」
「えっ」
私って臭いの!? あまりのショックにパッと腕を外してシスから降りようとすると、何故かシスは私をぎゅーっと抱き寄せ、私の首元に顔を埋めてしまった。え!? どういうこと!? 臭いんじゃなかったの!? 息が熱いし! うひゃああっ!
「ううう……っ美味そう……!」
その言葉で、興奮がスン、と冷める。
匂いって、まさか血の匂いのことか。そうだ、私は食糧扱いだった。そうでしたよね、ええ分かってましたとも。
一瞬でもときめきそうになっちゃった自分を、回し蹴りして目を覚ませと怒鳴りつけてやりたくなった。相手は亜人。顔はよくてもアホな亜人。――ヨシ!
私をきつく抱いたまま、シスはプルプルと身体を震わせている。齧りつきたいのを耐えているのか、ふんすふんすという鼻息が肩に当たってこそばゆい。
「あのー……シス? 降りようか?」
「くっつくとこんなに匂いするのか……? それに加えて、小町がびっくりしたからそれで心拍数が上がって……くうう……っ」
やっぱり聞いてない。まあ分かってたことだけど。ちなみにドキッとしたのをびっくりしたと勘違いしてくれたらしくて助かった。勿論修正する気はない。
穴から出てきた焦げ茶の毛で覆われた亜人が、毛むくじゃらの顔をこちらに向ける。
そいつが、シスに向かって言った。
「なんだよ! そのヒト、お前のかよ! 匂いが付いてないから単品かと思ったのに!」
「単品って、私は物か」
思わずツッコミを入れたけど、相手には聞こえてなかったらしい。
しかし、シスは別の部分に興味を持ったみたいだ。
「匂いが付いてない? 何のことだ?」
モグラっぽい亜人に、問いかけた。すると、モグラ亜人は偉そうに踏ん反り返る。亜人て皆こうなのかな。単純だよね。
「なんだ! お前田舎者かー? 亜人街住みなら常識なんだけどな、知らないみたいだから俺様が特別に教えてやる!」
途轍もなく上から目線だ。
「この辺りじゃ、飼ってるヒトには自分の匂いを付けておかないと、主がいない野生のヒトってことで自由に出来る決まりがあるんだよ!」
「主の匂いってなんだ?」
私はそれよりも、野生のヒトってなんだよとツッコミたい。
モグラ亜人は、更に踏ん反り返って続けた。その内後ろの穴に落ちるんじゃないか。ならもういっそのこと落ちてしまえ。野生のヒトなんて失礼な。
「お前、そんなことも知らないのかー!?」
あざ笑う様なモグラ亜人の言葉に、普段は能天気過ぎるほどのシスもさすがにムッとしたらしい。無言のまま歯茎を剥き出して発達した犬歯をギランと見せつけると、モグラの笑いが一瞬で収まった。
よくやったシス、褒めてつかわす。未だに野生のヒトという単語に苛ついていた私は、心の中でシスを褒めちぎった。それにしても、ずっとシスに抱えられてるのでそろそろ降ろしてほしい。
もぞもぞと動いて降りようとしたら、シスに抱え直されてしまった。……ええと。
「……だ、だからだな! 主の匂い、簡単に言えばフェロモンをこすり付けとくんだよ! それが強そうなら、誰もヒトを襲わないけどよ、弱っちい匂いだと掻っ攫われても文句は言えねえ! はっはっはー!」
モグラ亜人は楽しそうに笑ってるけど、何が楽しいか私にはよく分からなかった。それよりも気になることがある。
私は、シスの腕の中から声を張り上げて尋ねた。
「ねえ! てことは、亜人街にはヒトが亜人に捕まって飼われてるってこと!?」
「なんだ、お前そんなことも知らねえのかー?」
知るかボケ、という言葉を呑み込んだ。亜人街に、同じヒトがいる。しかも、亜人に捕らえられてるなんて、とんでもないことを知ってしまった。
「大勢はいねえがな、ヒトを飼うのは流行ってるからなあ! バリバリ食べちまおうってのは都会人の俺たちにしてみりゃ野蛮行為だな! まあ、飽きたら食っちまうんだけど!」
結局食べるんじゃないか。それに俺たちって、あんた街にいないでしょうが。
もうツッコミどころ満載だったけど、必死で堪えた。
シスがまた尋ねる。こいつもしつこいなと思ったけど、よく考えたら出会った時も相当しつこかった。
「なあ、フェロモンってどうやってこすりつけるんだー?」
こいつ、まさか私にこすりつける気? ジト目でシスを見上げると、シスがにこっと笑った。……くううっ! 無駄に顔面がいい所為で笑顔が最高に可愛い! ムカつく!
モグラ亜人も、私が野生のヒトでないことを知り、会話モードに切り替わってきた。地中に潜ってばかりだと、会話に飢えているのかもしれない。
「だからあ、要は飼ってるヒトの身体に、脇の下とかの自分の汗を擦り付けておくんだよ!」
え、脇の下を擦り付けられるとか、普通に嫌なんだけど。私がぎょっとしているのに、シスはふむふむと頷くだけだ。嘘でしょ。
「この先に行くんだったら、匂いはちゃんと付けておかないと食われても攫われても文句は言えねえぞ!」
「――分かった! 教えてくれたから、お前はやっつけないでおく!」
こいつはこいつで偉そうだな。心の中でツッコミまくったけど、残念ながらどちらにも私の心の声は聞こえない。
「おお! 感謝するぜ! お前いい吸血鬼なんだな! 俺の知ってる吸血鬼は皆お高く止まっててよおー!」
こっちももっと自分に自信を持てと言いたかったけど、もうツッコミ続けるのも疲れてきた。
シスとモグラ亜人は互いに爽やかな挨拶を済ませる。モグラは穴の中に飛び込み、シスは何故か私を抱えたまま歩き始めた。
「シス、降ろしてほしいんだけど」
私が言っても、シスは首をぷるぷると横に振る。
「匂いを付けるまでは、安全じゃないからな! 昼飯までこれで行くぞ!」
「え……」
「俺は小町の護衛だからな!」
ニカーッと晴れ晴れとした笑顔で言われてしまい。
「わ、分かった……」
反論するのも可哀想になり、私はそのまま荷物として運ばれることになった。
咄嗟にシスの首にしがみついちゃったけど、これまでの人生、こんな風に抱き抱えられたこともなければ、抱きついたこともない。なんせお互い肌の露出が多いから、直接肌に触れ合う部分も多かった。
筋肉って見た目より弾力あるんだな、と思ったら、今更ながらにカアーッと身体が火照ってくる。すると、シスの喉がごくりと鳴った。……ん?
「に、匂いがキツイ……っ」
「えっ」
私って臭いの!? あまりのショックにパッと腕を外してシスから降りようとすると、何故かシスは私をぎゅーっと抱き寄せ、私の首元に顔を埋めてしまった。え!? どういうこと!? 臭いんじゃなかったの!? 息が熱いし! うひゃああっ!
「ううう……っ美味そう……!」
その言葉で、興奮がスン、と冷める。
匂いって、まさか血の匂いのことか。そうだ、私は食糧扱いだった。そうでしたよね、ええ分かってましたとも。
一瞬でもときめきそうになっちゃった自分を、回し蹴りして目を覚ませと怒鳴りつけてやりたくなった。相手は亜人。顔はよくてもアホな亜人。――ヨシ!
私をきつく抱いたまま、シスはプルプルと身体を震わせている。齧りつきたいのを耐えているのか、ふんすふんすという鼻息が肩に当たってこそばゆい。
「あのー……シス? 降りようか?」
「くっつくとこんなに匂いするのか……? それに加えて、小町がびっくりしたからそれで心拍数が上がって……くうう……っ」
やっぱり聞いてない。まあ分かってたことだけど。ちなみにドキッとしたのをびっくりしたと勘違いしてくれたらしくて助かった。勿論修正する気はない。
穴から出てきた焦げ茶の毛で覆われた亜人が、毛むくじゃらの顔をこちらに向ける。
そいつが、シスに向かって言った。
「なんだよ! そのヒト、お前のかよ! 匂いが付いてないから単品かと思ったのに!」
「単品って、私は物か」
思わずツッコミを入れたけど、相手には聞こえてなかったらしい。
しかし、シスは別の部分に興味を持ったみたいだ。
「匂いが付いてない? 何のことだ?」
モグラっぽい亜人に、問いかけた。すると、モグラ亜人は偉そうに踏ん反り返る。亜人て皆こうなのかな。単純だよね。
「なんだ! お前田舎者かー? 亜人街住みなら常識なんだけどな、知らないみたいだから俺様が特別に教えてやる!」
途轍もなく上から目線だ。
「この辺りじゃ、飼ってるヒトには自分の匂いを付けておかないと、主がいない野生のヒトってことで自由に出来る決まりがあるんだよ!」
「主の匂いってなんだ?」
私はそれよりも、野生のヒトってなんだよとツッコミたい。
モグラ亜人は、更に踏ん反り返って続けた。その内後ろの穴に落ちるんじゃないか。ならもういっそのこと落ちてしまえ。野生のヒトなんて失礼な。
「お前、そんなことも知らないのかー!?」
あざ笑う様なモグラ亜人の言葉に、普段は能天気過ぎるほどのシスもさすがにムッとしたらしい。無言のまま歯茎を剥き出して発達した犬歯をギランと見せつけると、モグラの笑いが一瞬で収まった。
よくやったシス、褒めてつかわす。未だに野生のヒトという単語に苛ついていた私は、心の中でシスを褒めちぎった。それにしても、ずっとシスに抱えられてるのでそろそろ降ろしてほしい。
もぞもぞと動いて降りようとしたら、シスに抱え直されてしまった。……ええと。
「……だ、だからだな! 主の匂い、簡単に言えばフェロモンをこすり付けとくんだよ! それが強そうなら、誰もヒトを襲わないけどよ、弱っちい匂いだと掻っ攫われても文句は言えねえ! はっはっはー!」
モグラ亜人は楽しそうに笑ってるけど、何が楽しいか私にはよく分からなかった。それよりも気になることがある。
私は、シスの腕の中から声を張り上げて尋ねた。
「ねえ! てことは、亜人街にはヒトが亜人に捕まって飼われてるってこと!?」
「なんだ、お前そんなことも知らねえのかー?」
知るかボケ、という言葉を呑み込んだ。亜人街に、同じヒトがいる。しかも、亜人に捕らえられてるなんて、とんでもないことを知ってしまった。
「大勢はいねえがな、ヒトを飼うのは流行ってるからなあ! バリバリ食べちまおうってのは都会人の俺たちにしてみりゃ野蛮行為だな! まあ、飽きたら食っちまうんだけど!」
結局食べるんじゃないか。それに俺たちって、あんた街にいないでしょうが。
もうツッコミどころ満載だったけど、必死で堪えた。
シスがまた尋ねる。こいつもしつこいなと思ったけど、よく考えたら出会った時も相当しつこかった。
「なあ、フェロモンってどうやってこすりつけるんだー?」
こいつ、まさか私にこすりつける気? ジト目でシスを見上げると、シスがにこっと笑った。……くううっ! 無駄に顔面がいい所為で笑顔が最高に可愛い! ムカつく!
モグラ亜人も、私が野生のヒトでないことを知り、会話モードに切り替わってきた。地中に潜ってばかりだと、会話に飢えているのかもしれない。
「だからあ、要は飼ってるヒトの身体に、脇の下とかの自分の汗を擦り付けておくんだよ!」
え、脇の下を擦り付けられるとか、普通に嫌なんだけど。私がぎょっとしているのに、シスはふむふむと頷くだけだ。嘘でしょ。
「この先に行くんだったら、匂いはちゃんと付けておかないと食われても攫われても文句は言えねえぞ!」
「――分かった! 教えてくれたから、お前はやっつけないでおく!」
こいつはこいつで偉そうだな。心の中でツッコミまくったけど、残念ながらどちらにも私の心の声は聞こえない。
「おお! 感謝するぜ! お前いい吸血鬼なんだな! 俺の知ってる吸血鬼は皆お高く止まっててよおー!」
こっちももっと自分に自信を持てと言いたかったけど、もうツッコミ続けるのも疲れてきた。
シスとモグラ亜人は互いに爽やかな挨拶を済ませる。モグラは穴の中に飛び込み、シスは何故か私を抱えたまま歩き始めた。
「シス、降ろしてほしいんだけど」
私が言っても、シスは首をぷるぷると横に振る。
「匂いを付けるまでは、安全じゃないからな! 昼飯までこれで行くぞ!」
「え……」
「俺は小町の護衛だからな!」
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「わ、分かった……」
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