雨宮課長に甘えたい

コハラ

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一緒に暮らす

《2》

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「お父様が心配する気持ちよくわかります。ですから、正直に離婚した経緯について話します」

拓海さんが真剣な表情で父と向かい合う。

「僕は良い夫ではありませんでした。妻に幼い息子の事を任せきりにして、家にはほとんどおりませんでした。結婚して息子が生まれて、家族の為に自分なりに頑張って働いていたつもりだったんです。妻には家にいて欲しいと何度も言われました。その度に仕事の区切りがついたら家にいると答えていました。最初は本当に区切りがついたらそうするつもりだったんです。しかし、区切りがつく事がなかったんです」

宣伝部のエースとして世界中の映画祭に足を運んでいた拓海さんの忙しさと、やりがいは想像できる。私もきっと拓海さんと同じ事をしてしまうかもしれない。

「結局、僕は妻と息子に甘えていたんです。それがわかったのが、息子が病気になってからです。家族が大切だと初めて気づきました。定時で終わる部署に異動し、できるだけ息子と妻の側にいるようにしました。しかし、遅かったんです。息子の病状はどんどん悪くなり、とうとう命を落としました。妻は息子が病気で亡くなったのは家庭を顧みなかった僕のせいだと責めました。その通りだと思ったから返す言葉がなかったです。夫婦仲はこじれました。僕といると辛いと言われて、妻とは離婚しました」

淡々と語られる言葉を聞いて胸が痛くなる。

「息子が亡くなったのも、離婚したのも全部自分が悪いと思いました。家族の為と言いながら、自分の為に働いていた。仕事が楽しくて仕方なかったんです。本当に身勝手でした」

拓海さんの声に涙が混じる。

「時間を戻せるなら戻したいと何度も思いました。しかし、失った時間は戻らない。一人になってからも毎日、自分を責めました。そんな私を奈々子さんが救ってくれたんです。奈々子さんが僕を笑顔にしてくれます。奈々子さんは僕にとってかげかえのない大切な人です。全力で奈々子さんを幸せにしたいと思っています。僕は一度失敗した人間ですが、失敗から学んだ事は沢山あります。ですから、絶対に奈々子さんを泣かせるような事はしません。どうか僕と奈々子さんが一緒に暮らすのを許して下さい」

深く拓海さんが頭を下げる。

「雨宮さん、それはつまり、奈々子との結婚を考えているという事ですか?」

お父さんの言葉にびっくりした。

「ちょっとお父さん、何言ってるの」
「もちろんです。奈々子さんとは将来的に結婚を考えております」

えっ、結婚!
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