記憶をなくした私は王太子妃候補の一人らしいです。覚えていないので辞退してもいいですか?

かほなみり

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知りたいことば

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「あ、あの」

 王太子の身体から仄暗い何かが溢れている。多分気のせいではない。
 そう思うくらい、王太子の気配が黒い。
 
「――まさか、よりによってその名を呼ぶとは。誰に吹聴された?」
「あああの」

 影になり顔が良く見えない王太子の低い声に、本能的に「逃げなくちゃ」と身体が訴えてくる。でも、上から大きな身体に圧し掛かられては身動きがとれない。
 
(待って、何か間違えたみたいだけどユリ!? ウィリアムって王太子の名前じゃないの!?)
「君の気持ちが落ち着くまでと思っていたけどそうか。思い出すように少々手荒なことをするしかないかな、ルディ」
「えっ、嫌です !?」
「だーめ。拒否権はない」

 王太子の胸を押し返そうと両手を突っ張ると、すぐに手首を掴まれシーツに押し付けられた。

「で、殿下! お待ちください私……っ!」
「名前を呼んだら待ってあげる」
(だってその名前が違ったじゃない!)
「ま、まずは話を! 話をしましょう?」
 
 そんなことを言いながら、頭の片隅では私を見下ろす王太子の昼とは違う姿に、身体が熱くなった。
(と、とんでもなく色気があるんですけど、ねえ!)
 私の手首を片手でまとめて押さえる王太子は、もう片方の手で身を捩り逃げようとする私の頬をするりと撫でた。黒い気配とは違う、その優しい手つきにくすぐったさと込められた意味を感じて、恥ずかしさにきゅっと目を瞑った。

「……ルディ」
「ま……っ!」

 待ってという私の言葉は大きく口を開けた王太子に飲み込まれた。
 ――食べられる。
 そう思うくらい、激しく唇を合わせあっという間に侵入してきた舌が私の舌を絡め取り、吸い上げた。昨夜の口付けよりもずっと、溺れるように飲み込まれるように、深く深く私の中を侵していく。

「ん……っ! んぁっ」

 息が苦しくて顔を逸らそうと藻掻くと、許さないと言わんばかりに王太子が下唇をぎゅっと嚙んだ。
 その甘い痛みに口から小さく声が漏れる。
 大きな掌が身体を這い、私の腰を撫で上げるその刺激に身を捩ると、薄く心許ない寝衣があっという間にはだけて肌に掌の熱が直接伝わって来た。

「ぁっ、あ、ま、まって……!」
 
 押し退けたいはずなのに、いつの間にか自由になった腕は王太子の首にしがみ付くように回っていた。押し寄せる快感の波に、ぎゅうっと王太子のジャケットを握りしめる。

「他のことは忘れてもいい。でも、のことを忘れるのだけは駄目だよ、ルディ」

 王太子は私の耳元に唇を寄せて低く囁く。その吐息すら刺激となって、頭がぼんやりとしてくる。
 熱い掌がゆっくりと寝衣の中に侵入し、わき腹を撫で臍をなぞり、下胸へと伸びてきた。
 柔らかさを確かめるように胸にふわりと指を沈め、やわやわと胸を揉みしだかれ、思わず首を仰け反らせる。
 途切れる事なく唇から漏れる、甘ったるい声。

「ルディ……、ひどい目に遭わなかった? 誰にも触らせてない?」
「わ、わからな……っ、ぁっ」
「三日も何処にいた? 君のことで俺の知らないことがあるなんて、それは駄目だ。――許せない」
「ああっ!」

 やわやわと胸を揉みしだいていた手が、突然頂を摘まんだ。急な刺激に大きく声が出て、ぎゅっと唇を噛むと口内に王太子の指が差し込まれた。

「噛んじゃ駄目。噛むなら俺の指を噛んで」
「んむ……っ」

 差し込まれた指が口内をぐるりと撫でるのを、舌で迎え入れる。私の舌を指でこりこりと掻くように擦り、舌先を撫でるその動きに、思わず舌を絡めて吸うと、ぐちゅぐちゅと卑猥な音がした。
 
「……上手」

 王太子がふっと息を吐き笑う気配がして視線を下に向けると、胸元でこちらを見上げる王太子と目が合った。王太子はそのまま私を見上げながら両手で胸を寄せて持ち上げ、頂を口に含んだ。
 ――知らない筈の快感。けれど、身体は反応しお腹の奥がぎゅうっと収縮する。ビリビリと走る甘い痺れに腰が浮く。
 頂を舌で弾かれ、じゅうっと音を立てて吸い上げられて、漏れる甘ったるい自分の声。それを他人事のように聞きながら、胸に迫る思いを口に出来ず、もどかしさに涙が滲んだ。
 ――名前を呼びたい。

「ルディ……、ルディ」

 縋るように何度も私の名前を呼ぶ、この人の名前を知りたい。そして、呼びたいと強く思う。
 胸元で動く王太子の黒い髪に指を差し込み、抱えるようにぎゅっと抱き締めると、王太子が動きを止めて私を見上げた。

「ルディ?」

 心配そうに私を呼び、青い瞳を揺らめかせるこの人の名前を呼びたい。胸に溢れるこの気持ちを表すには、この人の名前を呼ぶしかないのだ。

「嫌だった?」

 いつの間にかこぼれていたのか、目尻の涙をそっと指で拭われる。
 見ると、王太子も不安そうな、泣きそうな顔をしていた。その顔を見てふるふると小さく首を振ると、王太子は小さく息を吐きだした。

「……ごめん、ちょっと強引だったね」

 乱れた寝衣を優しく直し、身体を起こし離れていく王太子。離れがたくて、反射的に王太子の服をぎゅっと掴むと、目を見開き私を見た。

「ルディ?」
「……私、知りたいです」

 あなたの名前が知りたい。そして呼びたい。
 まぶたが重く閉じていく。うとうとする私を見下ろして王太子が優しく微笑み、私の頬を撫でた。その心地よさに沈んでいくように私の意識が白く霞んでいく。
 ああでも、まだ眠りたくない。せめてこの疑問を、答えを知りたい。
 どうか、教えて。

 ――ウィリアムって、誰。
 
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