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第一章 辺境伯領
やさしい夢
しおりを挟む――時々ふと、意識が浮上する。
瞼が重くて開かなくても、アルベルトさんが優しく何度も何度も頭を撫でてくれているのが分かった。
アルベルトさんが囁くように、ごめんと言った。
* * *
――次は少しだけ瞼を開ける。
うまく開かないし、なんだか霞んで見える。
ほとんど暗闇に近い視界の中で、アンナさんが泣きながら私の顔や身体を優しく拭いてくれているのが分かった。
アンナさん、と声を出したくても上手くいかない。
大丈夫だから寝ていなさい、とアンナさんが優しい手つきで私を撫でる。
* * *
――薄く開けた視界の向こう、知らない人とアンナさんが話している。
相変わらず身体は重たいけれどさっきより楽な気がする。
すぐ側にエーリクがいる。
私の手を握り頭を撫でて、大丈夫だよそばにいるから、と言った。
泣きそうな顔で優しく微笑んだ。
泣かないでエーリク。
抱きしめたいのに動けない。
エーリク、と掠れた声が出た。
* * *
――ゆっくりと重たい瞼を開くと、狭い視界の中、もう夜なのかユラユラと天井がオレンジ色に揺れているのが見えた。
はっ、とひとつ浅く息を吐くと、視界に黒い大きなものが入り込んだ。
視線をやると、髪を乱したレオニダスがこちらを覗き込んでいた。
レオニダス。
ああ、会いたかった。
「ナガセ」
私の名前を呼ぶ。レオニダスの声が震えている。
狭い視界が涙で歪む。
レオニダス、レオニダス
声が上手く出ない。
会いたかった。
怖かった。怖かった。
良かった、レオニダスに会えた。会いたかった。
腕を動かしてレオニダスに触ろうとしても身体が重くて動かない。痛みはないけれどとにかく怠い。
レオニダスは私の手を取り、優しく包んでくれた。もう片方の手でそっと頬を撫でる。
今日は色んな人に撫でてもらえる日だ。
見ると、レオニダスの眉間に深い皺ができてる。
でもその瞳は出会った時のようにユラユラと揺れていて、怒りと不安と優しさが浮かんでは消える。
レオニダスの手が震えているので、私は頬を撫でる手にするりと擦り寄って
「だい、ちょうぶ」
と、掠れる声で言った。
安心して欲しくて。
レオニダスはグッと目を瞑り、やがてゆっくりと開いて優しい顔で笑った。
「もう大丈夫だ。安心して眠るといい」
レオニダスは優しく私の頬を撫で、頭を撫でた。
私はまた、暗闇に沈んだ。
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