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第一章 辺境伯領
閑話 ウルの見る夢
しおりを挟む気がついたら、森にいたの。
さっきまで、おかあさんと兄弟たちといっしょにいたのに。
おかあさん、おかあさん!
わたしはおかあさんを呼んだ。
迷子になったら、呼びなさいって言われていたから。
でもまだ上手く呼べなくて、ひよわ、な声になってしまう。
おかあさん!
急に辺りに嫌なニオイがしてきた。
イヤだ、この匂い!
わたしは一生懸命、足を動かしてニオイから逃げようとする。
そのうち、嫌なニオイと怖い声が近づいてきた。
知らない怖い声。
どうしよう、どうしよう
ここはどこ?
おかあさん!おかあさん!
「仔犬か」
とつぜん体がふわっと浮いて、あったかい何かに包まれた。
見上げると青い目のニンゲンが見下ろしている。
「震えているな。オッテ!!」
はなれたところから、わたしよりお兄さんのひとがやって来た。
「追い払ったか」
そのニンゲンは、オッテと呼ばれたお兄さんの頭をなでた。
お兄さんは得意げにひとつ吠えて、それからわたしを見た。
いつの間にか嫌なニオイも声もしない。
お兄さんがやっつけたの?
お兄さんじゃない、オッテだ。
オッテ。
お兄さんはじっとわたしを見て名前をおしえてくれた。
ニンゲンは私を自分の服の中に入れると上からポンポンとなでた。
ニンゲンの体温は高くて、震えていた体はいつの間にか落ち着いて、わたしはそのまま眠ってしまった。
レオニダスとオッテと森に行ったら、ひどく懐かしい匂いがした。
急に吹雪いてきて視界が悪くなって、一度テントに戻ろうとしたんだけれど。
この匂い。
わたしは駆け出した。
後ろからオッテが呼ぶ声がしたけど、構わなかった。
段々吹雪が収まってきて視界が開けてくると、今度はあの嫌な匂いが立ち込めてきた。
オッテも気が付いたみたい。
後ろでレオニダスに吠えて知らせている。
わたしは相変わらず吠えるのがヘタだけど、鼻は利くの。
レオニダスも気が付いて、あの光る筒を使った。
前に森へ来た時に拾ったあの筒は、凄く大きな音を出して何かを飛ばす。
びっくりするから使わないで欲しいけど。
前の方にあの懐かしい匂いがするなにかがある。
でもその後ろに、あの嫌な匂いのやつも。
わたしはオッテと一緒に噛み付いた。
もう子供じゃないわたしは、コイツなんて怖くない。
オッテがいれば大丈夫。
それに、必ずレオニダスがやっつけるから。
レオニダスが嫌な匂いのやつをやっつけて、わたしはすぐにあの懐かしい匂いに近づいた。
それは人間だった。
なんで?
ねえ、なんで懐かしい匂いがするの?
でも嫌じゃない、懐かしくて愛しい大好きな匂い。
オッテも一緒になって匂いを確認しに来たけど、懐かしいっていうのは分からなかったみたい。
レオニダス、拾って、この人間も拾って!
不安に震えるこの人間はオッテの頭を撫でた。
あ、私も撫でて!
グイグイ頭を擦り付けると、おずおずと頭を撫でてくれる。
いい匂い、懐かしい匂い。
わたしはこの匂いを知ってる。
ねえ、そばにいてもいい?
わたしがこの子を守らなくっちゃ。
ね、いいでしょう?
レオニダスは優しいからやっぱりこの人間を拾って、連れて帰った。
服の中には入れなかったけど。
あったかいんだよ?
嬉しい嬉しい!
わたしが守ってあげるんだ!
昔、わたしを守ってくれていた何かと
同じ匂いがするこの子を。
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