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三度目の首都㉕

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『あの雌臭いのだーっ』
 飛び出してきたのはいいが、アレスがきゃいんと言わんばかりの顔で、私達のところに一瞬で移動。
『臭いのだ、あの雌臭いのだっ、水で流していいのだ?』
「ダメよ、遥か彼方に吹き飛ばすやろ」
『くうーん、臭いのだー』
 あの魔女みたいな聖女は、どんな臭いを纏っとるんやろ?
 最初からいたのと、槍を持ち突撃かましてきた、機能性の低そうな鎧の聖騎士達と、成金神官達がすべて倒れている。ほとんどオスヴァルドさんとエドワルドさんがのしたけどね。
 僅か数分間の間。
「はあ、いい加減降参せんね。どうしたらうちらに勝てると思っとるん?」
 私はギリギリとしている魔女みたいな聖女に声をかける。早く、女の子を救出したい。女の子は馬車の中だが。
『ユイ、童は起きているのでが、反応がないのです』
『これだけの騒ぎになれば、童なら怯えるか、興味を引くのにおかしいわね』
 ビアンカとルージュが様子を教えてくれる。これだけの騒ぎなのに、全く動じない? 起きているのに反応がない? なんや、すごい不安になってきた。もしかして、精神状態がかなり疲弊しているんやないかな? 回りの騒ぎに、心が引き付けられない程に。
 あ、想像以上に、不味い状況やない。
 魔女みたいな聖女は、高いヒールの靴を踏み鳴らす。ヒール? 聖女のイメージが、清楚なイメージが。
 だいたい、聖女ってのはこの世界で生まれない。よその異世界から来た人が称号として持つ以外は存在しない。聖女に近しい存在で、こちらの世界で生まれる称号が神子だ。いまでも混在して勘違いされて使われている。事実、この異世界で『聖女』の称号を実際もっているのはあの華憐だけだ。
 地団駄を踏む魔女みたいな聖女は、ますます魔女感が増す。品がないなあ。
「我らの神はっ、お前達のような異端者を許さないっ、さあ聖騎士達よ、誇る高き神官達よ、立ち上がるのですっ」
 魔女感が増した聖女が、高らかに響き渡る声。
「優衣、あん人の魔法は本物や。広範囲に影響を及ぼす治療魔法や」
 て、父が後ろから教えてくれる。
 後でチュアンさんに聞いただけど、これは高ランクの治療魔法になるそうだ。見た目魔女だけど、凄腕のヒーラーなんや。晃太よりランクの高い支援魔法まで使えるし。
 …………革新派なんてところに身をおかなければ、別の道が、たくさんあったんやないかな?
 今は、女の子の保護が先や。
 立ち上がられるのは、もう面倒や。
「ルージュ、拘束して」
『分かったわ、えいっ』
 ルージュの足元から黒い触手が伸びて、まとめでぐるぐるごちん。
「アレス、黙らせて」
『分かったのだー』
 とことこと、ぐるぐるごちんした集団のところに向かうアレス。聖騎士達も成金神官達も必死に踠いているが、ルージュの闇の触手が簡単にちぎれるわけない。
 アレスが踠く集団の前に。こちらからはシュッとしたお尻しか見えない。
 こちらにも、なにやら冷気が伝わる。踠き罵声を浴びさせていた集団の顔色が一気に悪くなる。

『黙れ』

 いつか、アレスから放たれた強烈な冷気。もっと強烈なものが放たれて、踠く集団が一斉に白目向く。
『主よ、黙らせたのだ。ご褒美はあんパンがいいのだ。あの臭い雌は埋めるのだ?』
 ついでに卵でも買おっかな、みたいに言わんで。
「アレス、もうよかよ。さて」
 私はさらに魔女度が増した聖女に向き合う。すぐ側にホークさんとチュアンさん。オスヴァルドさんとエドワルドさんもいる。もちろんビアンカとルージュもだ。イシス達もゆっくり着地している。
「この穢らわしい異教徒めっ、我らの神は、お前達に、怒りの鉄槌を下そうぞっ」
 はぁ。
「なら、やってみたら?」
 できもせんで、さ。
 聖女には『聖女の奇跡』という力がある。これは『聖女』が『神様』に『祈り』と共に『魔力』と『あるもの』を代償にして発動する力。内容は色々だけど、歴代ほとんどの聖女は、人助けの為に使っていると聞いた。魔力以外にも代償を差し出して、人助けをするから、人々は感謝を込めて『聖女』と呼び、慕うのだ。
 歴史の中で、魔物に襲われた村を救おとして、『聖女の奇跡』を使い、魔物を一掃した記録もある。
 攻撃に使えない訳ではないって事だ。
 だけど、この人は、聖女ではない。
 今までバレなかったのは、色んな理由があるやろうけど。今は、別によか。早く、女の子を保護したか。
「な、何をっ」
 私がそんな反応すると思っていなかったのか、少したじろんでいる。
「やから、やってみんね。私はここや、逃げも隠れもせん、その神の鉄槌とやら、使ってみんね」
 私は、顔を醜い歪ませた、魔女みたいな聖女に挑発した。
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