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総仕上げ⑫

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 ご指摘ありがとうございます。


 何とも言えない微妙な沈黙。
 物凄く静かな顔のホークさんに対して、シュタインさんは何か気になることでもあります? みたいな顔。私は内心ばくばくしているが、内心、ふと思う。なんでばくばくしているんやろ? なんで後ろ暗い思いが沸くんやろ? なんか違うよね。単なる噂を、シュタインさんが心配してくれただけやしね。
 そうや、そうよ、ばくばくする必要ないよね。ただ、この話を聞いてエドワルドさんが、気分を害しないか心配なだけや。
「あ、何でもないですよ。ホークさん、お疲れ様です」
「……………はい、ユイさん」
 ホークさんは何か、諦めたような顔する。
『ねえね~、ヒスイお腹減った~』
『ルリ、お肉~』
『クリスもお肉~』
「わふんっ」
『ねーちゃんっ、聞いてなー、アレスのおっちゃんがなー』
「くるっくるっ」
 仔達がわいわいやって来たので、いつの間にかうやむやになってしまった。ブラッシングやらご飯の準備でバタバタだ。ホークさんはノワールのブラッシングに入ってくれてる。さっきのホークさんが非常に気になる。話をするべきなんやろうか? でも単なる噂だし、いちいちホークさんの貴重な時間を奪いたくない。皆そうだけど、朝から晩まで忙しい。どうしよう。誰かに相談したいけど、誰かがいない。
 うんうん、悩んでいると、あっという間に日付変更線。
 やっと納得してくれた面々が従魔の部屋に入ってくれた。
 ふう、明日の朝御飯も準備よし。
「皆さん、遅くまでありがとうございました」
 はい、解散。シュタインさんが、心配そうに私を見て、ぺこりしてコテージに引き上げていく。
 晃太がリストを片手に自室に引き揚げていく。鷹の目の皆さんも、引き揚げていくが。
 あ、どうしよう。どうしよう。
 ホークさんが背中を向けた瞬間、私は、フラッシュバックの様にある記憶が甦る。
 ずいぶん前に、似たような事があった。
 なんで、何も言わないの? そう、従姉妹が言った。
 そう、何も言わなかった。それは完全に私の落ち度やった。後悔したし、悔しかったし、泣いたことだってあったし。
 あ、あの時の感覚が甦る。
 また、背中を向けられて、黙って諦める?
 絶対、いやや。
 私の中で、私が叫ぶ。また、泣くのって? もう2度はないよって。
「あの、ホークさん」
 咄嗟に、私はホークさんに声をかけてしまった。

「すみません、お休みの時間なのに」
「いいえ」
 さっきみたいに諦めたような顔ではない、いつものホークさん。私とホークさんは、ダイニングキッチンの椅子に腰かけている。温かいお茶を出す。出したはいいが、どう切り出そう。悩んでも仕方ないから、素直が一番かな。聞いたまま、話そう。それがよか。
「じつはシュタインさんから聞いた話なんですが」
 温かい湯呑みを両手で包んで、お茶の緑色の水面に視線を落とす。
「はい」
 本当ならお休みの時間なのに、ホークさんは私に合わせてくれて、申し訳ない。静かに聞いてくれる。
 私はシュタインさんから聞いた話を、そのまま伝える。
「そうでしたか」
「はい、エドワルドさんには、申し訳ないって思って」
「申し訳ない?」
「だって、私みたいな女の相手なんて嫌やないですか? エドワルドさんは巻き込まれた事故やし。まだ、エドワルドさんの耳に入ってないみたいやからいいですけど」
 私みたいなどこぞのヒーローみたいな顔に、スタイルなんてなすびだし。ビアンカやルージュ達を従魔にしているテイマー以外に、何にもない。冒険者ランクだって、普通だったらあんなに簡単に上がりっこないのに。ひたすらにビアンカとルージュのおかけで、ランクがAランクになった。実力でランクを上げたエドワルドさんや他の冒険者の皆さんにしたら、苦々しい存在やないかなあ。
「ユイさん、どうしてそんな風に言うんですか?」
 ホークさんが、苦いのか、不思議そうな顔。
「申し訳ないって事ですか?」
「その前ですよ」
「その前、えっと巻き込まれ?」
「違いますって。その前ですよ」
「その前、えーっと、私みたいな?」
「そうですよ。ユイさん、自分を卑下してるから」
「でも、本当ですよ」
 だって、顔は以下略。
 はあ、とため息をつくホークさん。
「ユイさん、容姿なんてどうでもいいじゃないですか? ユイさんには良いところが一杯あるでしょう」
 ぼわあっ、と胸が温かくなる。
 な、なんや、嬉しいっ。
「あっ、そういってくれるのホークさんくらいですよ」
 うん、確かにそういってくれたの、ホークさんくらいだ。そんな風に、面と向かって言われたことない。
 うーん。と悩む仕草をするホークさん。あら? 答えが間違ったかな? ど、どうしよう。私は焦って言葉を出す。
「だって、そうでしょう? ダイアナちゃんを救った小児用内服薬だって、両親の手柄だし。晃太には支援魔法やマッピングがあるし、アイテムボックスないと、ダンジョンなんて無理だし。私なんて、ただ、ビアンカとルージュ達の主人ってだけで」
 フライパン振り回すのが精一杯やし、しかも接待やし。料理は母のレシピないと上手くいかない、掃除も苦手。髪は何か塗らないとバサバサ。唯一ある『神への祈り』だって不発率が高い。あら? 私の良いところって、なんかあったっけ?
「ユイさん、貴女は俺とエマを救ってくれた。ポーション中毒死になる寸前になりながら。それにビアンカさんとルージュさんが、ユイさんを選んだんですよ」
 一息つく、ホークさん。
「魔の森の守護者のフォレストガーディアンウルフ、通った後は血の道になるクリムゾンジャガーがですよ。ユイさんだからです。ヒスイちゃん達だって、ユイさんが大好きじゃないですか。だからユイさん、自分を卑下しないでください」
 ホークさんにそういって貰えて、凄く凄く嬉しい。あんまり役にたってないけど、私も、ちょっと、自分をそういう風に言うのやめようかなって思えた。なんや、嬉しいし。うん、止めよ。
「ありがとうございます、そういうの止めます」
 私の答えに満足してくれたのか、ホークさんが嬉しそうに笑う。
 お茶をお互い一口飲む。なんや、凄く、穏やかな気持ちになる。不思議。お茶、とっても美味しい。いつものお茶なのに、不思議。
「ユイさん、今回の件はどうされます? あまりにも騒ぐ輩がいるようなら、エドワルドさん当人や、ハルスフォン侯爵様に」
「そうですね」
 うーん。
「多分今だけの話のはずです」
 たまたま、あのピンクの女性達が騒がなければこんな
話にならなかったはず。それにマーファに滞在するのは、あと1ヶ月もない。それにヤマタノオロチの件が済めば、エドワルドさんとは別になる。そうなれば自然消滅しそうな気がする。
「うーん。あえて否定したら、更に勘違いされそうな気がしますし、もしエドワルドさんに実際に迷惑になるようなら、アルベルトさんに相談します。とにかく静観します」
 でもなあ。
「近くにいるだけで、こんな話になるなんて。死亡説といい、私は噂のネタの宝庫ですね」
 今回の件で、痛感した。
「確かにユイさんは注目されています」
 ホークさんがお茶に視線を落とす。
 やっぱりなあ。ある程度は自覚はしていたけど、ホークさんに言われると、更に実感。
「ただ、今回は、勘違いされるような事が重なり過ぎました。俺だって、あの時、息が止まるかと思うくらいでしたし」
 え?
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