上 下
266 / 820
連載

覚醒⑥

しおりを挟む
 夕方、父も帰宅し焼き肉開始となる。
 まずは仔達とノワールのご飯と準備。さっきまで寝ていたコハクももりもり食べてる。
『ユイ、ユイ』
『早く、早く』
「はいはい」
 ソワソワしているビアンカとルージュ。
 ホットプレートでは次々に肉や野菜が焼き上がる。黒いシーサーペントは1口大にして、いろんな野菜と蒸し焼きだ。冷蔵庫ダンジョン上層階で出た猪も焼き、ディレックスのハラミやカルビが並ぶ。コンロではソーセージやクレイ鱒、アップルシーブルーブの薫りが凄い。
 換気、間に合ってない。
 まずは黒いシーサーペントと焼き野菜。うーん、いい匂いや。首都で手に入れた黒玉ねぎ、とろっとしてそう。他の野菜も色鮮やかだ。これは大根なめ茸やないね。軽く胡椒をガリガリして、さっとレモンを絞る。
「運んでください」
「「はい」」
 ホークさんとチュアンさんが運んでくれる。
「ビアンカ、ルージュ、熱いからね」
『あっ、ついのですーっ』
『熱いわーっ』
「湯気たっとうやん、もう、落ち着いて食べり。まだ、焼くから」
 言った側から。
 父が担当していたホットプレートのお肉も焼き上がり、次々にお皿に並ぶ。エマちゃんは大根なめ茸係だ。テオ君とミゲル君は新しいお肉や野菜を並べる。コンロには母と晃太、マデリーンさんがせっせと作業。ホークさんとチュアンさんは搬送。バケツリレーだ。
『はふはふ、黒いシーサーペントは噛むと味が出てくるのです』
『がふがふ、そうね、色は白いけど、脂がしっかりあるわね。脂も嫌な感じではないし』
 へー。黒いシーサーペントそうなんだー。
 あのフォルム見てるから、食べるのに抵抗がある。首、スポーン、だもんね。
 ソーセージやハム、クレイ鱒やアップルシーブルーブも焼き上がる。うーん、いい匂い。
『この白い野菜でいくらでも入るのです』
『ええ、ちょっと冷たいのがいいわね。熱い上に乗ってて丁度いいわ』
 大根なめ茸は焼き肉の禁断必須アイテムだからね。
『ん? ユイ、元気が足りないみたいなのです』
『コハクもみたいよ』
「はいはい」
 従魔の部屋の前、柵の隙間から鼻を出して、くんくん言ってる元気とコハク。ダイニングキッチンからはその鼻先しか見えない。
 元気とコハクの追加分を母が準備。
「ルリとクリスとヒスイは?」
 母がビアンカとルージュに聞く。
『お腹一杯のようなのです』
『ヒスイもよ』
「そうな」
 母が焼いたクレイ鱒と黒いシーサーペントと野菜を並べる。熱そうだな。ふーふー、と。
 最近、元気とコハクの食事量が増えてきている。成長に伴い、これは避けては通れないけど。もし、これが数年後、完全に成体になったら、食費が恐ろしい事になる。
 ビアンカとルージュでちゅどん、どかん、だ。その頃には元気もコハクもしっかり戦闘出来るはず。うーん、あの小さかった元気とコハクが。でも、野生なら出来て当然の事だ。私は成体になるまでしっかり栄養ばつけさせんとね。
 
 ビアンカとルージュが落ち着いて、私達もやっと焼き肉だ。本日アルコールオッケーにした。Gの巣でお世話になったし、Gの査定額のいくらかを渡す話をしたら断固拒否されたから。元々追加で報酬をもらうのはダンジョンの時、と決まっているからと。
「ユイさんにはそれ以上のことをしてもらっています。契約以上の報酬を受け取れません」
 と、ホークさん。
 せめてアルコールくらい出さないとね。
 両親と晃太、ホークさん、ミゲル君はビール。マデリーンさんは赤ワイン。チュアンさんは今日は飲まず、エマちゃんとテオ君と一緒にお茶とご飯だ。私は缶チューハイ。
「では、今日はお疲れ様でした。エマちゃんとテオ君もランクアップおめでとうっ」
 えへへ、と笑う双子。かわいか。
 お祝いだしね、何が欲しいか聞いたら、以前チュアンさんが食べてた夏のフルーツもりもりパンケーキと。照れながら。かわいかあ、特大盛りにしちゃるよ。
 さて、さて、頂きましょう。
 まずはクレイ鱒をレモンを絞って、うん、うまかあ。次は猪ね、大根なめ茸乗せて、ぱくっ、あつっ、でも大根なめ茸が冷たいから中和してくれる。次々にホットプレートで焼いて平らげる。チューハイぐびぐび。あ、テオ君のご飯がない。はい、大盛ね。
「このすりおろした野菜で、肉がいくらでも入りそうだ」
「このハーブ入りの腸詰めも旨い」
「本当ね、ワインが進んでしまうわ」
「うめーっ」
 アルコール組の進み具合が早い。チュアンさんはご飯2杯目。
「あ、テオっ、それ、私が焼いてたのっ」
「えー、食べたよ」
 エマちゃんが育てていたカルビを、テオ君に持っていかれてぷりぷり。
「ほらほら、怒らんの。エマちゃん、カルビまだあるけんね」
「はーい、ユイさん」
 ころっと笑顔になる。素直やん。
 私は次に食べるか悩んだのは黒いシーサーペントだ。せっかくビアンカとルージュが獲ったしね。ちなみに私の分、一個しか焼いてない。両親も晃太もいや、と。
 シーサーペント、どうみても海蛇なのよね。
 ええい、一口だけっ。
 ぱくっ。
「もぐ、もぐ、あ、硬い? 違う、あれ、美味しいやん」
 いつも食べる唐揚げのとりもも肉より歯ごたえあるが、ごりごりしてない、ちょっと弾力があるだけ。そして肉汁が溢る。あ、こりゃ唐揚げにしたらいいかも。その肉汁が美味しい。
「姉ちゃん、旨いん、それ?」
「美味しいよ、食べてみたら」
「うーん、そうやなあ…………」
「かしわのももより歯ごたえあるけど、固くはないよ。肉汁が旨かよ」
「うーん………」
 結局、晃太も一口焼いて食べてる。
「あ、旨かな」
「やろ?」
「親子丼とかよかかも」
「そうやね。元気達にもよかかもね」
『ユイ、ユイ、次はオヤコドン、食べたいのです』
『私達のもね』
「はいはい、分かっとるよ。もう、かわいかね」
 はらぽんぽこりんにして、きゅるんしてくるビアンカとルージュ。あれからドラゴンステーキ丼と、果物たっぷりホールケーキを平らげている。
「今日はもうダメよ」
『分かっているのです』
『次ね』
「はいはい」
 それから焼き肉をワイワイたのしんだ。中庭でバーベキューとか考えたけど、後片付けがね。でも楽しいかも、キャンプ用品揃えて、ゆっくり星空見て、とか。そんな余裕が今までなかったしね。これで露天風呂なんてあったら最高かな。いや、管理が大変かも。うーん、缶チューハイぐびり。
 アルコールも進み、ああ、顔があつか。
 最後に母が〆に出した装甲竜(アーマードラゴン)のお肉。
「ユイさん、この綺麗な肉は何ですか?」
 ビールのプルタブを開けながら、ホークさんが聞いてくる。
 ドラゴンですよ、って言ったら絶対食べないよね。
「食べてのお楽しみですよー」
 軽くホットプレートをキッチンペーパーで拭いて、ドラゴンのお肉を並べる。母に小声でまだあるか聞くと、スジ肉以外はこれでドラゴンのお肉は終了だと。1人100グラムもないけど、行き渡る。
「なんだ、食欲が湧くような匂いが」
「なんて芳ばしい香りなんだ」
「お腹一杯だけど、食べれそうだわ」
「ビール、ビール」
「わあ、美味しそうっ」
「うまそうっ」
 はい、皆一緒にぱくり。
「う、旨いっ」
「これはっ」
「なんて美味しいのかしら」
「うんまあっ」
「これ、柔らかいっ」
「無くなったっ」
 大好評で良かった。良かった。
「ユイさん、このお肉美味しい、何のお肉?」
 エマちゃんがニコニコしながら聞いてくる。
「ドラゴンよ。軍隊ダンジョンの装甲竜(アーマードラゴン)ね」
 鷹の目の皆さんが噴き出したのは、言うまでもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~

大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア 8さいの時、急に現れた義母に義姉。 あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。 侯爵家の娘なのに、使用人扱い。 お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。 義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする…… このままじゃ先の人生詰んでる。 私には 前世では25歳まで生きてた記憶がある! 義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから! 義母達にスカッとざまぁしたり 冒険の旅に出たり 主人公が妖精の愛し子だったり。 竜王の番だったり。 色々な無自覚チート能力発揮します。 竜王様との溺愛は後半第二章からになります。 ※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。 ※後半イチャイチャ多めです♡ ※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。