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偽善者⑦

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 ラフィちゃん、バテアちゃん、ヨーラン君の治療後、マーヤさんとお話。父はザックさんと孤児院を回る。
 晃太のアイテムボックスから出てくる服や靴に、初めは感動していたけど、だんだん口が開きっぱなしになる。
「あ、あの、こんなにたくさん?」
「はい、どうぞ、どうぞ」
 一人ずつサイズ別に袋に詰めている。
「皆に渡してください」
「ああ、ありがとうございます、ありがとうございます」
 後、不足分は何かな。あまりにも際限なく思い付く。
 考えていると、父がザックさんと帰って来た。
 帰って一言。
「建て替えや」
 あ、やっぱり。
 ザックさんとマーヤさんの話だと、実はいずれ引き払う予定だったそうだ。
「実はここは再開発の予定に入っていて、まだ先の話なんですがね」
 その再開発とは、マーファの街中をドーナツのような道を作る話が前々からあったそうで。7割程は完成し、残りはスラム街を残すのみ。この道が、出来ればマーファの人の流れ、物の流れがよくなると。何よりスラム街の風通しを良くしたいという、ハルスフォン様の考えがあるそうだ。
「え、引っ越し先は?」
「まだ、決まっていません。移動先や手段はハルスフォン様が、考えてくれると」
 ポケットマネーの支援に、規格外だが、果物を回してくれる。
 だから、マーヤさんは、ハルスフォン様にこれ以上の迷惑はかけられないって、言ったのね。
 まあ、引っ越しなら、応急処置をして、それまで繋ぐしかないか。
「とにかく外壁を補強せんといかん、後は風呂場、台所、洗面所、トイレも」
 父が指折り数える。
「この騒動が終わったら、職人ギルドに応急処置ば頼もうかね」
 父が今後の事を考えている。
 私も考えないと。
 何ができるだろうか?
 この孤児院の子供達を守るために、何ができるだろうか?
 どうしても、浮かび上がるのはダストン様だ。
 やはり、ギルドを通じてご助力を願おう。私が考えをひねり出しても浮かばないのだから、餅は餅屋だ。行政が関わるようになるなら、お願いしよう。それから、私達が何をしたらいいか聞こう。
 無事に服や靴は子供達に行き渡る。皆笑顔ではしゃぎながら、シャツを広げたり、靴を履いたりしている。うーん、でもよく見たら、皆汚れている。なんでもお風呂にまともに入れてないそうだ。風呂自体ぼろぼろだし、温かいお湯の準備も出来ない、薪代がばかにならないそうで。それに時期は冬、まともな暖房設備がない中で、お風呂なんて入ったら風邪をひく。なので、冬場は軽く体を拭くので精一杯。それも毎日なんて無理だと。
 薪か。
 ルームには電化製品、パーティーハウスには魔道具があるからあまり見たことないけど、こちらの燃料は薪をくべての火力だ。
 魔道具なんて、そこそこ裕福でないと手に入らない。父がもう少し安価にならないか、悩んでいたなあ。
 そういえば、冷蔵庫ダンジョンに、木は生えてたな、たくさん。ビアンカの木の魔法でどうにかならないかな? 確か、始祖神様、一週間でもとにみたいな事を、おっしゃっていたし。あ、あれは果実限定? わからん、帰って神様に聞いてみよう。
 よし、私が出来そうな事、薪調達。ビアンカに頼ってばかりはダメやね、ノコギリや鉈を手にいれよう。
 考えていると、子供の泣き声が。
 見ると、小さな子が泣いている。似たような年の子が近くに。ザックさんがさっと話を聞きに入る。
 どうやら、泣いている子の服の方が良かったと、その子が取り上げたそうだ。同じデザインで同じサイズやん。
「同じ物だろう? わざわざ一人ずつケンカしないように分けて頂いたものだ。ありがたく使わないとバチが当たるぞ」
「こっちがいいッ」
 服を取り上げた子は、癇癪を起こす寸前のように、言い返す。
「じゃあなんで自分のと交換しない? 変えてってお願いしたのか?」
「こっちも欲しいッ」
 あらあら。
 きっと、何かが違って見えたんだろうけど、他の子の服を取り上げたのはいけないし、それを黙認もできない。人の物を、本人の了承もなく手に入れるのは、間違いだと認識できないと、この子は間違った考えで成長してしまうからだ。ザックさんが、こんこんと諭しているが、らちがあかず、とうとうげんこつが飛ぶ。ヨーラン君だ。
「そんなワガママいい訳ないだろッ。もらえただけでも、有難いって思えッ、このバカッ」
「びゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 ヨーラン君の怒声にげんこつ、高周波の泣き声が上がる。
 ヨーラン君は、とられた服をむしりとり、取り上げられた子に戻す。
「ほら、もう泣くなよ」
「うぐうっ、ぐすう、ぐすう」
 高周波を放つ子には、ザックさんがこんこんと諭している。聞いてないかもよ。でも、根気よく話している。どうしてダメなのかを。私が口を出せる問題でもないので、見ているだけ。でもよく、見ていると、年長クラス、中学生から小学生高学年クラスの子は、小さな子達のお世話を、せっせとしている。ザックさんやマーヤさんに言われる前に、服の畳み方を教え、靴の置場所を考えている。
 ザックさんとマーヤさんが日頃どう子供達と向き合っているか、感じる事ができる。
 大事に、育てているんだな。子供達もそれがよくわかっているんだろう。
 皆、いい子や。

 バタバタしていると昼は過ぎていた。
 すると孤児院に訪問者が。ビアンカとルージュは、敵意なしと報告あり、お出迎え。子供達はお昼ご飯のあと、服に興奮した後に、ビアンカとルージュで遊びくたくたになって寝ている。
『動けないのです』
『仕方ないわね』
 自身にしがみついて寝ている子達には、ビアンカとルージュは諦めてじっとしている。
 ビアンカとルージュは、ここの事情を説明すると、眉間に皺が寄った。教会の孤児院とは違い、ここの子供達の境遇が許せないと。特に虐待の意味を知ってから、更に眉間に皺が寄った。
『我が子になんてことをするのですか』
『信じられないわ、こんな小さな子に』
 親個体は、子個体を育む。そして何かあれば、我が身を盾に守るのが、ビアンカやルージュ魔物の常識だ。そこに、ビアンカとルージュは人寄りの考えもあり、他の小さい子供にも優しい。普通、他の種族の子は攻撃対象なんだけどね。
 で、訪問者。
 だぼだぼの服を着た、おじいちゃんだ。
「どうも、儂は商人ギルドから派遣された、ダーウィンです」
「わざわざご足労ありがとうございます」
 なんだか、ベテラン感があるけど、ゆっくり歩く姿を見ていると、別の意味で心配になる。私がそっと手を添えると、おじいちゃん感動。
「こんな若い娘さんに介添えしてもらえるとはなぁ、ほっほっほっ」
 しっかり私と手を繋ぐおじいちゃん。
 若いって言ってくれたから、手をちょっとさすさす触られるけど、気にしない。
 商人ギルドから来たおじいちゃん、ダーウィンさんとザックさんとマーヤさんが話をする。心配そうな2人に大丈夫だと、ダーウィンさん。
「安心しなされ、明らかに詐欺じゃ、何を持ってこようが心配ない。ただ、どこであいつらと向き合うかだのう」
 話し合い、建物前の敷地内の庭で対面する。子供達は建物内に入り、ドアの前でジョアンさん達が待機してくれる。ビアンカは私達の側で待機、ルージュは姿を消して周囲の警戒。もし、攻撃してくるようなら、防御と拘束をと約束する。
『それだけでいいのですか? 噛み千切るのですよ? 痛い目に合わせた方がいいのです』
『そうよ、こんなに弱い子をだしにするなんて許せないわ。食い千切るわよ』
「やめて、大惨事や」
 過激な事を言うビアンカとルージュは、なんだかんだと子供達に対して母性本能が生まれているようだ。たまに転けて泣き出した子をペロペロしたり、引っ込み思案の子には優しく寄り添ったりしている。本当に、ビアンカとルージュを育てたリルさんには感謝だ。
 子供達を建物内に避難、テーブルを出して、準備する。
 そうこうしていると、時間が来て、昨日の趣味の悪いコートの金貸しが来た。大勢引き連れて。明らかにチンピラだけど。
 来る前から分かってはいたけど。ビアンカとルージュが察知していた。
『ユイ、辺りに何匹か潜んでいるのです。おそらく、遠距離からの攻撃をしてくるかも知れないのです』
「そうね。ビアンカ防げる?」
『任せるのです。ユイ達も童達にもかすり傷も負わせないのです』
「ありがとうビアンカ。ルージュ、おる?」
 呼ぶと、近くの空間が歪む。
『いるわよ』
「攻撃してきたら、その人達を拘束できる?」
『もちろん。拘束でいいの? 止めるわよ』
 だから、何を? 息の根?
「拘束でね。他の一般人の方に迷惑かけんようにね」
 釘を刺しておいた。
 趣味の悪い男は、大勢引き連れて来たのでかなり強気だけど、多分この数でビアンカとルージュの相手になるわけない。分かっているチンピラの数人は、ビアンカの姿を見て、若干腰がひけている。
 趣味の悪い男は、勧めてもいないのに、椅子に乱暴に腰かける。
「さぁ、テイマーさん、お言いつけ通り書面を準備しましたよぉ」
 なんとも仰々しき、臭い芝居がかった仕草で、一枚の書面を出す。
 何々、借用金が3000万、利息が月45%、担保が未成年の女子を成人後に性奴隷とな。借用者は、ラケス。多分、ザックさんのお父さんだね。
 ふざけんな。
 父が小さく偽物と呟く。
 ザックさんとマーヤさんの顔が怒りの形相になっていく。
「さあ、利息分だけでも本日お支払していただきますよ。ずいぶん稼いでいらっしゃるんだ、これくらいはした金でしょうけどねぇ」
 趣味の悪い男が書面をヒラヒラさせる。
 ヒラヒラ、ピタリ。
「なんだ、ジジィ」
 趣味の悪い男の手首を、空気のように溶け込んだダーウィンさんが掴んでいた。
「……………このバカ息子が」
「はあっ? なんだとジジィッ」
「こんのバカ息子がぁッ」
 ひーっ、凄まじい声量が響き渡る。こんな小さなおじいちゃんから、想像できない声量だ。
 同時に、メリメリと、肉と骨が軋む音。ダーウィンさんから、肉と骨が軋む音。え? なんか、背が、高く、肩が盛り上がってきたけど。なんか、映画での変身シーンを見ているようだが、怖かあっ。
「ビ、ビアンカ………」
『大丈夫なのですよ』
「そ、そう………」
 私達は呆気に取られて、ダーウィンさんの変身シーンを傍観。チンピラ達も引いている。もちろん前に出ようとしたチンピラがいたが、ビアンカが牙を剥き出しにして威嚇し、後ずさる。
 ダーウィンさんは、私の耳くらいの背だったのに、見上げるように体格になり、だぼだぼの服がはち切れん程の筋肉が浮き上がり、その額には1対の角が生えている。え? 鬼? 鬼やない? だが、軍隊ダンジョンで見た、オーガと違うのは、ダーウィンさんには禍々しい感じがない。理性を感じる事ができる。
「儂は商人ギルドマスターダーウィンッ、この儂の前に、こんなお粗末な書面を出すとはッ。覚悟が出来とるだろうな、このバカ息子がぁぁぁぁぁッ。お前の親父さんが残した金貸し業を汚した罪は重いと思えええぇッ」
 あまりの迫力で、私達は口をつぐむしなかった。
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