もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト・スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ

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偽善者⑥

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 次の日。
 昼前にスラム街の孤児院へ。午前中は、買い物やらでバタバタした。
 私と晃太、父、ビアンカとルージュ。ジョアンさんとダニーロさんが付いてきてくれた。
 ビアンカとルージュが堂々と闊歩する。私も姿勢を正しく歩く。昨日の騒ぎは知られているから、下手に隠さず堂々としたほうがいい。ジョアンさんからも言われたしね。
 寄り道せずにまっすぐ孤児院に。
「あ、テイマーさん」
 子供達と遊んでいたコラソン君が走りよってくる。そして子供達もだ。
「わーい、わんちゃん」
「ネコちゃーん」
『もう、慣れたのです』
『そうねえ、小さいから、わからないのよねえ』
 ビアンカとルージュは諦めモードだ。
 わらわらとビアンカとルージュによじ登る子供達。
 ザックさんが出てくる。
「ミズサワさん」
「おはようございますザックさん。こちらは父です。書面が正しいものか、見てもらいます」
「そうですか、よろしくお願いします」
 ザックさんと父がぺこり。
 建物中に案内してくれる。
 まずは子供達のお昼ご飯だ。食堂に行って昨日母が作ってくれた具だくさんポトフとロールパンを出す。ポトフは小さな子もいるので野菜は小さめ。
「昨日も頂いたのに」
 マーヤさんが恐縮している。
「子供達と約束しましたしね。配膳はお任せします。あの火傷の子は?」
「はい………」
 火傷の子は3人。右腕の火傷をしているのは、10歳のラフィちゃん。顔を火傷をしているのは、7歳のバテアちゃん。そして背中を火傷をしているのは、14歳の男の子のヨーラン君。
「ヨーランは自分は見えない背中だから、ラフィとバテアを先に治療して、自分はいいって」
 何ていい子や。
 確かに、昨日の時点での中級エリクサーでは全員を治療するのは厳しかったかもしれない、だからあの説明をした。だが、今手元には薬の神様のおかげで、最上級エリクサーに昇華したものがある。
 全員、絶対にこれで助ける。
「マーヤさん、全員治療出きるはずです。そのヨーラン君の説得お願いします」
「はい。あんた、お願い。あの子変に頑固だから」
「分かった」
 ザックさんが、マーヤさんに言われて、出ていく。
 私と父は、マーヤさんの案内で奥の部屋に。
 晃太はお昼ご飯の配膳を、年長の子供達と行うことに。昨日もしたしね。
「ここです。ラフィ、バテア、治療してくれる方よ。入るわね」
 声をかけて、マーヤさんが私と父を中にいれてくれる。
 狭く薄暗い室内に、女の子が2人。
 私はうち1人を見て、言葉を失う。
 小さな女の子は、頭皮から火傷がケロイドになり、髪はわずかに生えているのみ。そして瞼、鼻、頬、口、顎が不自然に垂れ下がって見えるのは、焼けた皮膚が垂れ下がりそのままケロイドした跡。瞼は下瞼まで下がり、固くなった皮膚も動かないのか、まばたきもできていない。鼻も穴はあるが、鼻が変形しているから、まるでむき出しの様になっている。唇も変形し、ちゃんと閉じていない。口元周辺の皮膚は、垂れ下がったまま、首まで繋がっている。
 これはくちさがのない子供にしてみたら、格好の餌食だ。だから、奥の部屋にいるんだろう。
 私は、知らずに息がつまり、視界が歪む。
 どれだけ、痛かっただろうか? どれだけ、怖かっただろうか? どれだけ、苦しかっただろうか?
 まだ会ったばかりの私が、そう思うのは、この子にとっては、事情も知らないで、と思うだろうけど。私は、何かが込み上げてくる。奥にいるもう1人の女の子も、不安そうな顔だ。
「優衣」
「ん、分かっとう」
 父の声に、私は込み上げてくるのん、ぐっと堪える、そして笑顔を浮かべる。
「さあ、治療しようね」
 私はラフィちゃんとバテアちゃんの前に膝をつく。
 だが、バテアちゃんはマーヤさんの後ろに隠れる。警戒されている、しょうがないか。
 マーヤさんが声をかけるが、なかなか出てこないバテアちゃん。
「じゃあ、先にラフィちゃんをしましようね」
「え? いいの?」
 ラフィちゃんは戸惑いの表情だ。多分、バテアちゃんを先だと、無意識に思っているのかも。幼心でも、そう思わせる程、バテアちゃんの火傷はひどい。
「うん。このお薬が効くって、バテアちゃんに教えてもらえるかな?」
「……………うん」
 では、まず、ラフィちゃんからだ。
「じゃあ、見せてもらえるかな?」
「うん」
 ラフィちゃんは左手で、右の袖を捲り上げる。
 肘付近から指先まで広がるケロイド、指先は拘縮しかけている。
「優衣、内服より、皮膚からの吸収がよか。上から下に向かって1滴ずつな。ちょっと痺れるかもしれんけど、しばらくすればよくなるけん」
 父が素早い鑑定してくれる。
「ありがとう、ラフィちゃん始めるけどよか? 痛かったら言ってね。この紫の液を1滴ずつ垂らしていくからね。よか?」
「うん」
 よし。最終の確認済み。
 私は最上級エリクサーをスポイトで吸い上げる。ラフィちゃんの顔に緊張が浮かぶ。
 まず、1滴。
 慎重に肘付近に垂らす。スカイランのティム君の時は吸収されなかったけど。
 紫の液体はすう、と吸い込まれていく。
 染み込んでいった瞬間、ひきつった皮膚が蠢く、え?
「…………きゃはははっ、くすぐったいっ」
 ラフィちゃんがかわいい悲鳴。
 くすぐったい? くすぐったいの? 皮膚、蠢いて痛くないの? あ、皮膚が普通の火傷していない場所と同じ色になる。火傷の場所、10センチくらいが、肌色となる。
 たった1滴で、これだけの効果。さすが最上級エリクサーってことかな。
「すごい、すごいよ、ラフィ見てごらん、ほら、見てごらん」
「あはは………あ、すごい、治ってるっ」
 肌色になった部位を見て、ラフィちゃんは興奮する。
「続けていいかな?」
「うんっ」
 それからも1滴1滴皮膚の改善状況を見ながら垂らしていく。ずっとくすぐったいって悲鳴上げているけどね。痛いよりましか。指には隙間に垂らすと、指自体が蠢いたので、一瞬ホラーな感じがしてしまった。いけない、ラフィちゃんの治療なのに。
 合計5滴で、ラフィちゃんの火傷をおった右腕は綺麗に治った。だけど。
「少し浮腫があるね」
 左手と比べると、浮腫がある。
「ラフィちゃん、痺れはある?」
「うーん、ちょっとある」
「握れる? 痛くない? 開いたり、握ったりして見て」
 ラフィちゃんは右手を握ったり開いたりを繰り返す。
「腕は曲がる? あ、無理はせんでね」
 肘の稼働状況を確認。
「うまくいかない」
 今まであまり動かせなかったから、そう直ぐに左手と同じようには動かないのだろう。
「そうやね。しばらくリハビリが必要やね。ラフィちゃん、無理がないように毎日握ったり、開いたり、曲げたりしてね。そうすれば、血行良くなって浮腫も良くなると思うけんね」
「うん」
「ああ、ありがとうございます、ありがとうございます。ラフィ良かったね」
 マーヤさんがすでに涙目だ。
 さあ、問題は。
 マーヤさんの影に隠れたバテアちゃん。ラフィちゃんの治療中から興味を引いたようで、ちらちら見てきている。
「ほら、バテア、見て。治ったよ、バテアも治るよ」
 ラフィちゃんが、自分の右腕を見せる。
 だけど、バテアちゃんはまだ迷いの様子。
「ねえ、バテアちゃん。まず、今日はちょっとだけにしようか? いきなり全部するのは怖かろう?」
 私がそうではないかな、と思って聞くと頷く。上半身全体を使って頷く。
「なら、今日はちょっとだけね。お父さん見て」
「ん、…………こん子は首もとからしたほうがよかな」
「ありがとう。さて、バテアちゃん。ラフィちゃんの見たかね。痺れたり、くすぐったいけど、良か?」
 こくん。
「じゃあ、マーヤさん、バテアちゃんを抱えて貰えます? こう、赤ちゃんにお乳あげている体勢で」
「はい」
 マーヤさんがバテアちゃんを腕に抱いて、斜めに抱える。
「始めるね。今日はそうやね。首回りだけにしようかね。痛かったら言ってね」
 私はバテアちゃんの様子を見ながら、首回りに1滴垂らす。ラフィちゃんと同じように吸い込まれ、皮膚が蠢く。ラフィちゃんより蠢く。きっと火傷の深さの差かな。
 バテアちゃんが身をよじる。
「あ、痛かった?」
 いかん、今日はこれまでかな? だけど、バテアちゃんは首を横に振る。上半身全体を横に振る。
「なら、続けるよ」
 1滴、もじもじ、1滴、もじもじ、1滴、もじもじ、1滴、もじもじ。
 かわいかあ。動作がかわいかあ。口に出さないけど、かわいか。
 よし、首回りがずいぶんいい。皮膚が連動して顎付近まで蠢いて、顎は形がずいぶんはっきりする。
「痛くなか? 触って見て」
 バテアちゃんが自分の手で触ると、動かない瞼の下で、目が驚いたように動いている。よく見たら、バテアちゃん、手首がすごく細い。
「どうかな?」
「あぁ、治って、る………」
 しきりに首を触るバテアちゃん。口がうまく動かないのか、言葉がたどたどしい。
 表情は変わらないが、雰囲気だけでも分かる。嬉しそうだ。
「じゃあ、今日はこれくらいにする? もうちょっとしようか?」
 私が聞くと、バテアちゃんは少し悩む。
「優衣、明日またするなら、これば2滴飲ませた方が、効きがよかみたいや」
 父が小声でいってきた。
「何で2滴? 1口くらい飲ませられんの?」
 どうやら治療中に、ずっと鑑定していたようだ。
「2滴が限界や。ティム君の時は中級やったけど、今回のは効果が強すぎて、口腔からの直の吸収は、こん子の体力ではかなりきついようや。2滴が限界や。やけど、2滴飲ませれば、明日からの治療がぐんと早くなる」
「そうね。ありがとう」
「だけど、2滴飲んだら、少し眠気が来ると思う」
「ん、分かった」
 私はバテアちゃんとマーヤさんに説明する。少しバテアちゃんとマーヤさんが考えて、2滴内服し、明日また治療することに。
「はい、お口に入れるよ」
「う、ん………」
 私は2滴、バテアちゃんの口に垂らす。
 最上級エリクサーは、すう、とバテアちゃんの舌に染み込んでいった。大きな変わりはないし、眠気が直ぐに来ない。
 とりあえず、様子見かな。
「マーヤさん、ヨーラン君を」
「私、呼んで来るっ」
 ラフィちゃんが部屋を飛び出していった。
 マーヤさんは一旦バテアちゃんをベッドの部屋に連れていく。
 ほどなく、ラフィちゃんが男の子を連れてくる。その顔には、疑いと戸惑いの表情が浮かんでいる。
「別に治さなくても………」
 小さく呟くヨーラン君を、ラフィちゃんが自分の腕を見せて、説得してくれる。ザックさんも来て、説得に参加。
 しばらくして、折れたのはヨーラン君。
「背中、見せてくれる?」
「うん」
 もどかしい動きで、背中を向けてシャツをたくしあげる。
 確かに、背中一面火傷が広がっている。
「上からな」
 父が小声で指示を出す。
「ヨーラン君、少し痺れたりくすぐったいと思うけん。もし、痛かったら言ってね」
「うん」
 まず、1滴。ラフィちゃんやバテアちゃんと同じように、皮膚が蠢いている。手のひらサイズで、皮膚が綺麗になる。ヨーラン君がびくり。
「痛い?」
「ううん、なんか、痒い」
「続けても大丈夫?」
「うん」
 1滴、びくり。1滴、びくり。1滴、びくり。1滴、びくり。1滴、びくり。
 よし。
「はい、治ったよ」
「え? あ、ひきつらない、すごい、ひきつらない」
「ね、言ったでしょう?」
 ラフィちゃんが得意気に言う。
「良かったなヨーラン。ちゃんとお礼を言いなさい」
「あ、おばちゃん、ありがとうっ」
 ぐさあっ。
 さっきまでの疑いの目だったヨーラン君の笑顔がまぶしいが、胸にいろんな意味で突き刺さる。
 私は悟られないようにして、このエリクサーの存在を内緒にしてもうように2人に説明。
「分かったおばちゃんっ」
 ぐさあっ。
 満面の笑顔のラフィちゃんの言葉も突き刺さる。
 確かに、彼らにしたら、おばちゃんさ。そうさ、おばちゃんよ。なんだか痛感したよ。
 でも、ダイアナちゃんは、お姉ちゃんって言ってくれたもん。スカイランの子供達もそう言ってくれたもん。
 だけど、訂正できない。三十路だもん。
 そして、ニコニコ笑う2人に言えない。
 嬉しそうに出ていくラフィちゃんとヨーラン君を見送り、肩を落とす私に、父が慰めるように肩を叩いてくれた。
 ザックさんがしきりにお礼言ってくれたが、なかなか耳に入らない。
「いえ。あの、他の子供達にも口止めを」
「はい。ありがとうございます、本当にありがとうございます」
 ザックさんも2人を追って出ていく。見送って、肩を落とす私に、父が諭すようにいう。
「結婚年齢が早いこの世界やと、あれくらいの歳の子がおってもおかしくない歳やからなあ」
 フォローになっていない、全然なってない。
 父の優しいつもりの、悪気ない言葉が、ぐさぐさ、更に突き刺さっていった。
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