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手土産⑤

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「姉ちゃん」
「なんね?」
「ドロップ品、更におかしな数やねん」
「そうね。リティアさんが喜ぶばい」
 私はせっせとドロップ品を拾う。
 軍手をして、目玉を直視しないように拾う。
 本日冷蔵庫ダンジョン最終日、朝からビアンカとルージュが張り切る。
『次は私なのです』
「なんば、言いようと? これで最後って言ったやん。もう帰るばい」
『『ぶーぶー』』
「ダメよ」
 最後の血の入った瓶を拾うと、出てきた宝箱。
 ルージュがチェックして、罠はなし。
 お馴染みのビロードの箱。開けると、ピンク色の宝石とダイヤモンドと真珠のイヤリング、ペンダントだ。可愛いデザイン。
 晃太がドロップ品リストに付け加えて、ぶーぶー言うビアンカとルージュを脱出用魔法陣に乗せる。
 ふわり、と景色が変わる。
 1週間ぶりの外。
 一旦帰ろうかと思ったが、警備の人が飛んでくる。
「ミズサワ様、お疲れの所申し訳ないのですが、ギルドまでご足労いただけないでしょうか?」
 なんだか、切羽詰まった感じだ。
「はい」
 リティアさんが待っているのかな?
『ユイ、様子がおかしいのです』
『そうね、焦っているわ』
 私と晃太は顔を見合わせる。
 何か起きたのかも知れない。
 急いでギルドに向かうと、リティアさんが飛んでくる。
「ミズサワ様ッ、お疲れの所申し訳ありませんッ」
『焦っているのです』
『焦っているわ』
「こちらへ…………」
 リティアさんと応接室に。
「どうされました?」
 ソファーに座りながら聞く。
「実はミズサワ様が前回ギルドに融通していただいたドロップ品の評判が好評で、首都からドロップ品目当てに、貴族や商人達がマーファに押し掛けていまして。ミズサワ様がダンジョンから、いつ戻って来るかと問い合わせが、もうすごくて」
 リティアさんの顔に疲れの色。
 なんだ。あ、ちょっと待って。
「あの、まさか、うちの両親は大丈夫ですか?」
「はい。それはギルドの権威の全てを以て対応しております。山風や警備の者達が目を光らせていますので」
「そうですか、ありがとうございます」
 今度ロッシュさん達にお礼しないと。
 晃太がリストを出す。
「ありがとうございます、拝見させて頂きます。どれをギルドに?」
 リストを見て、リティアさんの顔が一瞬見てはいけないほど、彫りが深くなるが、すぐにスマイル。
 まず、蛇一式。それから宝飾品、楽器、武器類。今回は宝石だけでも出てきた。
 ポーション類、貝柱や魚の切り身、蟹、お肉に乳製品のいくつか引き取ることに。ビアンカとルージュが食べたいと、チクチク言って来たので。
 海フィールドでもドロップ品の依頼があったようで、何枚かの書類を見せられる。あの貝の粉、何に使うのかと思ったら、天然の白粉材料で、需要がかなりあると。
「一つのホワイトアルメナから取れる量も少ないんです。ただ、あれを使い出すと、他の物が使えないと言われるくらい肌乗りがよく、また肌が上品に映えるんです」
 こちらの女性も美意識高いなあ。
「そしてこの不揃いの真珠は砕いて石鹸等に混ぜるんです」
「お肌にいい?」
「そうですっ。まさに珠のような輝きッ、そしてかさかさだった砂地のような肌が滑らかにッ」
 リティアさんが、エキサイティング。
「ソウデスカー」
 ある程度提出し、帰宅前にお願いをする。
「あの薬師ギルドの方にご相談したいことがありまして。繋ぎをお願いできませんか?」
 抗生剤と解熱剤の件だ。
「薬師ギルドでございますか? すぐに呼んで参りますよ」
「今すぐではなくてもいいんです。考えがまとまった時にお願いしたいんです」
「承知しました。いつでもお申し付けください」
「ありがとうございます。その時はお願いします」
 リティアさんに見送られ、やっと帰宅した。
 何故か、帰るまでに何度もビアンカとルージュの足が止まる。
「どうしたん? 何か欲しいと?」
『何でもないのです』
『ええ、何でもないわ』
 ビアンカは尻尾ふりふり、ルージュは目を見開いて。もう、かわいかねえ。

「ただいまー」
 やっとパーティーハウスに。
「お帰り」
 母と花が出迎えてくれる。
「クンクンッ」
「花ちゃん、ただいま~」
「花ちゃん~」
 茶色のワガママボディをくねらせて、私と晃太の足元でのたうち回る。あはははははん、かわいかあ。ぽちゃぽちゃボディの柔らかいこと。
「お帰り、ビアンカ、ルージュ、大丈夫ね?」
『大丈夫なのです』
『もっとダンジョンに潜っても大丈夫なくらいよ』
 恐ろしい事言わんで。
 厩舎でノワールもブヒヒヒンと嘶く。
 5匹の仔達は母の足元に集まりもふもふ。
 父も出てきて、ひとしきり撫で撫で、もふもふしてからやっとパーティーハウスに。
「あ、お母さん、お父さん、実はねポイント貯まって」
「なら、今日は中華ね?」
 母が嬉しそうだが、残念なお知らせ。
「実はかくかくしかじかで」
「なんね、残念やねえ」
 父もちょっと残念そうだ。麻婆豆腐、好きだもんね。
 一旦ルームに全員で入る。
 貝柱や白身魚の切り身、蟹を出して、父に鑑定してもらう。
「大丈夫や、火を通せば食べれる」
「なら、今日はこの貝柱焼こうかね」
 父と晃太がブラッシング、私と母が夕御飯の準備だ。花が微妙な位置に陣取る。
 巨大貝柱をせっせと切っていく。
「お母さん、孤児院に炊き出しできたん?」
「うん、出来たよ。感謝されたけど、あれくらいじゃ足りんやったと思うんよね」
 母はディレックスで手に入れた、大鍋4つにスープを作ったと。私達がダンジョンに潜った翌日は具だくさんのコンソメスープ、その3日後に肉団子入りシチュー。配膳とかに関しては、孤児院のシスターにおまかせしたと。だが、やはり成長期、食べ盛りの子供達。鍋はあっという間空っぽになったと。しかも、この1週間の間に子供が増えたそうだ。朝早くに幼い姉妹が、孤児院の前に置き去りにされて、保護されたと。
「子供達の笑顔見てるとねえ、なんとかしちゃらんといかんって思うんやけど。今はこれが精一杯やしねえ。そうや、あのデニス君、よくなったよ。昨日わざわざ院長先生とお礼言いに来たんよ」
「あ、そうね。良かったッ」
 良かった良かった。
「それとね、パーカーさんも来たんよ」
「え、まさかダイアナちゃんに何かあったん?」
 喜びつかの間、私は血の気が引く。
「違う違う。ダイアナちゃんは大丈夫。ほら、ダンジョンから戻ったら行くって話やったけど、やっぱりその前にお礼が言いたかったみたいで見えたんよ」
「そうなん、ああ、良かった」
「それでね、抗生剤や解熱剤の件を相談したんやけど。なんかね、やっぱり問題があるみたいや。難しい事はよう分からんけど、まず、最終目標の前に、治験をしてデータとか取った方がよかろうって。お父さんがね、簡単やけど、パーカーさんと相談しながら企画書みたいなの作りよったよ」
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