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2章

黄色+緑色の調15

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龍が持ってきたのは、少し、色々と変わっている糸。
ミルがその中で、引きこまれるように手にしたものがある。
「この色・・・」
龍の顔を見ると頷く。
「ミル様の色とフラン様の色が入っている糸です」
不思議な配色の糸。
ミルの知っている糸は、単色だった。
「この色はどうしてこのように?」
確か、糸は素材本来の色だと、白に近い色。
それに、人は身近なものを使って着色をするのが普通だと学んだ。

「この国にしか、存在しない虫。
 その虫が食べる物から生まれる物がこれでございます。
 食べた物の色で色が変わるのです。
 この糸ですと、黄色の物を与えて緑の物を与える。
 そうして、この糸が作られたのです」

龍が詳しい理由。
この国で作った孤児院。
その孤児院の子どもたちでも、生活を支える物をと、試験的に作っている物だ。

龍がこの国を離れている間に、その技術は磨かれ、改良を経て特産としての価値を見出した。
報告は入っていたが、実物を見て、龍も立ち上げた者の一人として、安心したところが本音である。

その活用法の一つとして、ミルに見てもらう。

「これは、子どもたちが作った物なのです。
 ですが、これを作ったまではいいのですが、それからが、なかなか浮かばないようです」

ミルは考える。
自分の子どもの頃を思い出す。
まだ、フランと知り合うきっかけとなった鏡を見つける前。
言葉がわかるようになり、親の仕事が何をしているのかを理解し始めた頃。
遊びの一環として、そして糸に触れ合うことを学ぶため、棒を一本使うだけの編み方を教えてもらった。

「僕が幼いころ、糸と触れることを覚えるため、細い棒を使う編み方を教えてもらったんだ。
 ただ、糸を何本も重ねることで強度がでる。
 もし、その点を改善されるのなら、作れるものは広がると思う。
 その紡いだ物で、作ってみようか?」
龍は、そこで提案をした。
「ミル様、その作り方を、私が連れて来る者に教えてはいただけませんか?」
ミルは、思いもよらない提案に、驚く。
「え・・・・っ。
 まだ、作れるか分からないから・・・」
龍はそれでも訴える。
「できたら、その工程も見せていただきたいのです。
 自分たちの作った物が、形となるまでの姿を教えたいのです。
 お願いします。
 学べる機会をどうぞ、子どもたちに・・・!!!」
龍の必死な様子に、ミルは慌てる。
「それは、僕としてはいいけど、あまり多く来られると集中できないので、2人。
 それから、根気がある人、発想力が豊かな人。
 その条件の人を選んできてくれると、こちらとしても、楽しいと思う」

今、必要にされていること。
それは、フランにとって、どんな風に思われるか正直、分からない。
ただ、自分の持ち合わせている知識で、笑う人が増やせるのなら、それは歓びとなるだろう。

ミルが図に書いたものを龍が作り、それを使って、ミルが試しに、髪紐を作った。
その作業を傍で見ていた龍は、感動した。
たった一本の棒に細工をしただけで、紡がれた糸が束となり、しっかりとした紐の状態になった。
その作業は、ほんの数分。
作業をしているミルに飲み物を用意するために、準備をしながら見ていた。
そして、準備が終わるころには、
「こんな感じ?」
と、作り上げた物を自分の白い髪に結ぶのだった。

今、紡いだ糸は黒色と赤色。
どちらも白い髪には映えている。
「この黒色は、僕の髪だと目立つけど、フランや龍たちの髪の色だと目立たないよね。
 でも、それは差し色として、色を多く使うときに取り入れると、生きてくるよ」
そう言いながら、自分の髪に結んでいた紐を今度は、龍の頭に飾る。

強面の顔の龍に黒と赤の髪紐が額にそって巻かれている。
「あ・・龍さん。
 似合うね・・・
 怖さがひどくなるけど、かっこいいよ」
そう言いながら、ミルは龍を化粧台に連れて行く。
龍はうつる自分をみて正直、似合っているのかわからない。
だが、これはミルが紡いだ物。
「これをこのまま頂けますか?」
龍の言葉に、ミルは気に入ったと思ったようだ。
「うんっ!もちろん」
「これは、契約の証として、ずっとすることにします」
龍の言葉にミルは
「いや・・・そんなに大層な物ではないんだけど・・・」
困惑する。

この姿、予想以上にインパクトが大きかったようだ。
龍の姿を見た者は、その見たことのない飾りに興味を持つようになっていた。
いわば、龍が歩く広告として周囲に広めていった。

滞在しているフランの父である陸の別宅だけがミルの行動範囲だった。
ただ、龍は違う。

龍は、少し離れたところにある孤児院に様子を見に行っていた。
氷河は、龍の頭につけられている髪紐をよく見て、気付く。
自身も育った場所である孤児院の職員として働き、フランの弟である煌雅の恋人。

「龍様、それは、もしかしてこの院で作った・・・」
龍は頷き
「そうだ。
 ミル様が作ってくださった。
 どうだろう、この中で、糸について学びたい者はいないか?」

龍の質問に、氷河は応える。
「みな、学びたいでしょうね。
 でも、幼い子は落ち着きが足りませんから・・・」
「氷河・・・あなたならいいだろう。
 あと一人。誰にするか、選んで欲しい。
 条件は、騒がしくなく、根気のある、豊かな発想ができる人物」
「分かりました。
 でも、なぜ?」
龍は、ミルとの話を簡潔に氷河に説明する。
「それは、ぜひ、お願いしたいです。
 できたら、色など希望があれば聞いておいてください。
 こちらとしても、頑張らせていただきます」
幼いころの氷河は、調子のいいことだけを言う子どもだった。
それが、可愛らしさでもあったのだが、成長と共に、学んだのだろう。
自分の知らない場所で、人は成長をしていく。

ミル様も、フラン様も。
そして、私自身も・・・・

氷河が選んだのは、9歳の子ども。
その子どもの名は、紬。
つむぎとは、氷河が名付けた。

この温暖な気候でも、寒い日がある。
戦争などの争いが特に起こっている時代ではないので、戦争孤児はいない。
この孤児院には、家庭の事情などで、生まれてすぐに、捨てられた子どもが多い。
捨てられたといっても、院の前に置かれていることが多い。
ほとんどの子どもがそうして院で生活をするようになっている。

つむぎも寒い日の朝、孤児院の門の前で籠に入れられた状態で置かれていた。
まだ、その時、職員ではなく、院の子どもとして過ごしていた氷河。
氷河は、毎朝、日課としていた院の周りを掃除しようとしたとき、見つけたのだった。

この子が少しでも、芯の通った清らかな人間になりますようにと。
その頃、強面で院の子どもから恐れられていた龍が糸を試験的に作ることとなった。
そのことも、うまくいくようにと想ってつけた名でもある。
龍のような弱い者を守るための心強さを持つような大人になれと。



ミルは、龍によって、様子が見られないようにしていた。
フランの気遣いを少しでも忘れないようにするために。
そのため、頭から顔にかけて隠されている。
「変だよね・・・
 でも、仕方がないよね」
龍は、無理もないと思う。
「ミル様の手が見えればいいのです。
 顔などは、見せなくていいです」
龍の言葉に、ミルもそれ以上、何も言えなかった。

龍の知っている人が来るとあって、ミルは密かに楽しみにしていた。
同時に自分の知識を上手く伝えれるかも不安だった。

コンコン
《ミル様、入ります》

龍に連れてこられた人は、一人はミルより上?
もう一人は、見てわかる。
まだ幼さが残る顔。そして低い身長。
龍を見る。
こちらの様子を見て、2人が驚いている。
部屋の入口で、年上の方は一瞬止まったが、龍の後を付いて行く。
少年の方は、戸惑いを隠せない。
「お入りください」
ミルの声でハッとなった少年。
急いで歩みを進める。

「ミル様、こちらは氷河。そしてこちらは、紬です。
 2人とも私が携わっていた孤児院の者です」
ミルは二人に伝える。
「始めは難しいと思います。
 でも、何事も挑戦することは無駄ではありません。
 教えるということは、初めてですので上手く伝えれるかわかりませんが、頑張りましょう」

顔は見えなくても、ミルの握りこぶしを作り、気合が入る姿を見て、龍は楽しそう。
そして、氷河は、クスクスと笑う。
紬は、反応に困っているが先ほどよりは表情が和らいでいる。
「今日は、話をするだけです。
 座ってお話をしましょう」

龍が、2人に話す。
「ミル様は、海が落ち着かれたら、隣国に行かれる。
 それまでに、少しでも学べることを見つけなさい」
頷く姿にミルも畏まる。
それから、氷河と紬の話をした。
他愛もないことではあるが、これも信頼関係を築くため、そして、人物を知るのに必要である。

氷河は年上なだけあって、落ち着いている。
「氷河さんはしっかりしていますね。
 人気者でしょう?」
ミルが紬に尋ねると、顔を赤らめて応える。
「はい!・・・
 ・・・・ですが、氷河さんには恋人が・・・・」
!!!!
氷河は慌てて紬の発言を止めようとする。
「こらっ!そんなことを言いふらすな・・・っ・・・恥ずかしい・・・」
ミルは照れている氷河を見て、気付く。
実は、照れ屋なのだと。
「ふふふ。
 真っ赤」
ミルの言葉に、赤さを増す。
「く~・・・・
 秘密にしたかったのに・・・・」
龍が笑いながら応える。
「諦めなさい。
 あの方は、ぞっこんのようです」
まるで相手を知っているかのような言葉に
「えっ!?龍さんの知っている人?」
思わず、ミルは身体を乗り出して聞いてみる。
「そうですね・・・・
 ミル様にも縁がありますよ・・・」
・・・・
―!!
ミルが驚いて言葉を失う。
この国で縁があると言ったら、限られてくる。
口がパクパクとしているが、顔の様子が見えないのでわからない。
「この世界の人は、みんな大人になるのが早いんだ・・・」
・・・・
ミルは、衝撃的な話を聞いて呆然。
そんな様子を龍は気遣い、紬に尋ねる。
「紬は、好きな人や気になる人はいないのか?」

紬はじっと下を向き、
「好きな人はいました。でも、その人には恋人ができました。
 ・・・・それ以上、まだ言わせます?」
太々しい態度。だが、その歳では可愛らしさと大人が混ざっていて面白い。
!!!
「え?!」
ミルは、紬と氷河を見比べて、それから氷河をじっと見る。
―・・・・
「えっ?・・・そうなの?」
その問いに、一人、沈んだ表情の紬。
「大丈夫ですよ。
 氷河さんも素敵ですが、紬さんにも、これから多くの出会いがあるでしょう。
 待ちましょうね」
励ますミルに紬が嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます。
 あの・・・・」
その後の質問にみんな驚く。
「龍さんって独身ですか?
 僕、龍さんに一目惚れしました!!!」
龍は思わず、飲んでいた飲み物で、むせ、氷河は奇声を発し、そしてミルは混乱した。
「え?―・・・えっと・・・龍さん・・・おめでとう?」
とりあえず、声をかけると、龍が慌てて応える。
「結婚しております!!」
―!!!!!
今度は、ミルが奇声を。氷河は呆然。一人、落ち着いているのが紬。
「そうですか・・・」
龍が再び落ち込む紬を宥める。
「自分の感性も必要ですが、時に時間をかけて見極めるのも大切ですよ」

周りの人間のせいで、精神年齢は一般の家庭より成長している分、感情も豊かなのかもしれない。

・・・・
それにしても、龍が結婚していたとは知らなかった。
「龍様。いつ結婚されたのですか?私は聞いておりません!!
 それより、産んだんですか?産ませたんですか?」
氷河の尋常じゃない様子に、ミルと紬は驚く。
「氷河、落ち着きなさい」

取り乱した氷河が、落ち着き、龍は説明する。
「私がこの国を離れた時、一緒に隣国に行った者の中の一人です。
 子どもはいません。
 私には、この国に子どもがたくさんいますからね」
そう言って、氷河と紬を見る。

「お互い、仕事人間で時間も合わないのです。ですが、心はいつも一緒です」

お、大人だ・・・・
ミルは、思いつく人物が一人いた。
もしかしたら・・・・
それ以上は、話をしなかった。
だって、ミルを守るため、龍はその相手を置いて迄、守ろうとしてくれたのだから。
それ以上、話をしては、龍も心が揺らいでしまう。
会いたいのに会えない気持ちが膨らんでしまう。
ミルがフランに会いたいように、龍も同じように胸に想いを抱いているのだから。

「そう言えば、海ってどれぐらいあのままなの?」
ミルの問いに、龍は
「そうですね、短くて3週間。長いと2か月でしょうか・・・・」
―・・・・そんなに・・・
ミルの胸中を考えると、龍も複雑だ。
期待させてしまうほうが、可哀想である。
ミルは、胸が張り裂けそうな感情を押し殺し、明るくふるまう。
「なら、それまでの間、2人とも、がんばりましょう」

そうして、翌日から作業が始まるのだった。

「もう少し、大きさを揃えればきれいに見えますよ」
龍が見守る中、氷河たちはまず、糸と棒を持って手を動かすことを練習した。

この練習、とても単純なことだが、難しい。
一つの動作を持つ位置などで微妙に作られた物の形を変えていく。

その間、ミルは糸の配色を活かした物を作り上げるため、作り上げては解き、作り上げては解きを繰り返していった。
「どうして、形になっているのに、解くんですか?」
紬はミルに疑問に思ったことを尋ねた。
ミルは、手を止め、考えてから答える。
「そうですね・・・・
 自分の思っている物と違うから解きます。
 自分の満足した物でなければ、人には渡せません」
紬は、自分の練習中の物を見る。
「今、自分が作り上げている物。
 その物が少しでも自分にとってまだ磨ける所があるのなら、そこを磨いてみたくなりますよね」
紬の今作っている物はまだまだだ。
気が遠くなりそうな想いを抱いてしまう。
焦る自分がいる。

「見てください。
 紬さんが、作っている物。先ほどは大きさが色々と違っていました。
 ですが、今は同じです。
 ゆっくりとした速さでもいいんです。
 誰も、遅いと言って怒ることはしません」

そして、ミルは自分の幼いころの話をした。
「私は、そのことがわからずに、速さだけを競って、作って父に見てもらいました。
 でも、父は『どこを頑張ったのか?』
 その一言でした。
 幼い時は、なんてことを言うんだと思いました。
 でも、細部に気付けるようになった時、気付いたのです。
 できた物を見た人間は、その物を見て判断する。
 速さは、物をみては、わからない。
 物を見て一番に気付くのは、技術です。

 なので、速さは考える必要はないのです」

傍で聞いている龍も、氷河も静かに聞いている。
何事も、早ければいいのではない。

紬は手を動かしながら、言われたことを考えた。
ゆっくりでもいい、自分の納得するものを・・・・


「どうですか?」
紬は、時間をかけた物を見てもらった。
今度は、誰に見てもらっても、気を付けた所を自信を持って見てもらえる。
「紬さんは、凄いですね。
 この編み方は、幼い子どもでもできますが、年をとった年配の人にもできるのです」
紬はミルの言っている意味が分からなかった。
「この編み方をみんなに見て貰ったら、作る楽しさを知ります。
 色んな年齢の人ができるんです。
 手を動かしながら、慣れてくると歌を歌う人もいましたよ。
 でも、一つ。
 やりすぎると、手が痛くなるんです。
 楽しいから、したくて、したくて困るぐらい。
 そんなときは、何を作ろうかと、考えるのも楽しいですよ」
ミルは穏やかな表情で話をする。


紬は、この顔の見えない人の不思議な魅力に気づいた。
始めは、顔が見えず怖いと思った。
教えてもらうのだから、厳しくされるのだと思った。
でも、厳しさではない。
自分の力で、やる気を起こさしてくれる言葉をくれる人。
この人、凄い・・・
この人に褒められると、また違う所を上達したくなってくる。

お母さん・・・っていうのかな?
なんだか、優しいけど、厳しい。
親に捨てられたから、よくわからないけど、本に出てくる母親は、こんな感じだった。

「なんだか、お母さんってこんな感じなのですかね・・・」
紬の呟くような言葉に、氷河は驚く。
慌てて改めようとした氷河をミルが首を振り、とめる。
「紬さんのお母さんは、どんな人でしょうね・・・」
ミルの言葉に、紬が反応した。
いきなり、立ちあがり、顔を真っ赤にして
!!!!!
「僕を寒い日に捨てたんだ!!
 最低なやつに決まっているっ!」
龍は、急いでミルの傍に行く。
氷河は、紬を止めようとする。
ただ、ミルは静かに紬を見ている。
「よく考えてください。
 自分の産んだ子どもをいきなり捨てる人はいません。
 どこに捨てるにしても、人は調べるんですよ」
それでも、紬の気持ちは治まらない。
「そんなはずは、ない。なら、どうして、わざわざ寒い日に・・・っ」
言いながら、涙を溜めている。
「ミル様、もうおやめくださいっ!!」
氷河は、ミルを睨みつける。
「では、言い方を変えましょう。
 絶対に、見つけてもらえる。
 そう思って、院の所に連れて行ったのだと思いませんか?
 私は、思います。
 毎日、掃除をしている人がいる。
 だから、必ず見つけてもらえる。
 そう、思いませんか?

 私の村には、院などありません。
 とても、とても寒いところです。
 ・・・数年に一度。
 捨てられた子供が見つかります。
 ですが、どの子どもも、必ず見つけられるのです。
 どの子どもも、生きて見つかるのです。
 ・・・・
 ・・・私も、見つけてもらいました。

 私も、捨てられた子どもの一人です」
!!!!!!
龍も、驚き、ミルの顔を見る。
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