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1章

黄色+緑色の調3

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龍が
「フラン様。
 ミル様に使ったものですが、緊張をほぐすものでございます。
 かつて、これは東の国で使われていたものと知られております。
 話をしても、ミル様は、きちんと覚えてらっしゃるのでご安心を」
フランは、その意味を解き考える。
ミルにいつ起こるかわからない精通の衝動で、トラウマになることなのかもしれない。
それは、どちらにとっても、悪影響である。
そのため、少しでも記憶の中でいいものとしておいてほしい。と思っているのだろう。

寝台にミルを乗せ、フランは灯りを落とす。
ミルが周りの布を見て風の波と言った表現が的確であると感じる。
少し暗い中に、白い肌に白い髪。緑の瞳をしたミルが寝台に座っている。
まるで、海の中の真珠のようであると思った。
フランはミルの傍にいき、話しかける。
「ミル、これから始める」
「うん。よろしく」
ミルは一体、どこから知らないのだろう。
「ミルは、子どもはどうしたらできるのだと思っている?」
「うーん。
 口と口を付けるとできると思っていたんだけど・・・
 大きくなると、それは違うのかなって思う。
 お腹の大きい人を見ているとお腹の付近、へその辺りで何かをするのではと思っている。
 どうだろう」

フランは、これは先が長くなりそうだと思う一方、夢物語を語らない辺り、安堵した。
「では、初めにミル、自分の股間についている物を自分で触れてみるがいい」
「これ?」
ミルは教えられたとおりに自分の物を手で握る。
これは、排泄する器官である。

「これを、手で少しこすってみるといい」
「?」
少しこすってみるが、特に何もない。
「ここは、排泄する器官でもあるが、快感を得る時にも使うのだ。
 先ほどのこすっていくと、気持ちがよくなり、気分が高まる」

そういう利用があるのかと、ミルは驚き、自分の物を覗き込む。

「これは、一人でできることでもあるが、誰かにしてもらうと、感じ方が変わる。
 そして、一緒に、形も変わるのだ。見たことはあるか?」
?!?!
「えぇぇ。そんな、見たことない。
 形が変わるとは恐ろしい。」
ミルはどんな想像をしたのか・・フランは苦笑いをする。
「この世界ではみな、妊娠ができる。
 どこで繋がるか。
 ここである」
フランは、膝立ちになり、自分の後ろが見えるように向きを変え、尻を出し、指で広げる。
そこには、排泄として使われる場所だった。
「えっと・・・そこは、おしり」
フランは、ミルの目をみて頷く。
自分の前の物を手て支え、
「ここに、相手のここを入れる。
 受け入れたものは一番奥に妊娠が出来る器官がある。
 ミルは妊娠はできないが、入れることはできるぞ」
!?!?!?
「どうやって?」
信じれないように話を確かめる辺り、当然の反応だろう。
「相手を思いやるなら、少しずつ、身体を受け入れれるよう、協力していくのだ。
 ただ、私は鏡に選ばれた者。
 衝動でいつ起こるかわからないのに、そんな余裕はない。
 精通があったときから、自分で受け入れれるように教えられている。
 たぶん、母もそうしていたのだろう。
 だから、身体に傷はつかなかった」

フランは、話があっているか、龍に声をかける。
「龍、これで合っているか」
「フラン様。一番、大切なことがありますぞ。
 ミル様。
 驚かれたでしょう。
 ですが、相手を受け入れ、そして身体を開く。
 だからこそ、この世界の者はとても慈愛に満ちています。
 ミル様は安心なさいませ。
 フラン様は、どんなことも受け入れられるでしょう」
ミルは、驚いた。
そのような場所に受け入れるにしろ、入れるにしろ。
簡単なことではない。
フランの母は、この行為をして、フラン以外の兄弟をも身ごもったということだ。
そして、フランの父親というものは、状況を理解することなく、身体を繋いだということだ。
「ありがとう。フラン、龍さん」
ミルは2人にお礼を言う。
「この世界にいるなら、知っておくべきだよね。
 でも、ちょっと驚いたかな」
まだ、緊張を和らげる効果が続いているようである。
「口づけをよくしている人がいたんだ。
 その人、いろんな人としていて、僕、とても不思議だったんだ」
では、あの人はどうしてしたのだろう。
「この世界では口づけとはどういうときにするのだ?」
緑色の瞳がフランに問いかける。
「口づけか・・・
 思いを交わすときや、相手を思いやる時、あと、挨拶でもするときがある」
そうなのか。
「フラン様と、ミル様。
 では、口づけをしてみてはいかがです?」
フランが龍の方にすごい勢いで見る。
「口づけを?でも、唇を合わせるだけだよね」
ミルの反応に
「口づけにもいろんなものがありますよ。
 ミル様、ご安心を。
 フラン様は、まだ誰とも試されたことはございません」
安心していいことなのか。
「ミル、私も学んだことを試すのに誰でもいいというのではない。
 まず、心から信頼できるものに、自分を見てもらいたいと思うのは当然であろう。
 私は、ミルにその相手を願いたい」
幼いころの自分なら、子どもができると信じていただろう。
でも、真実は違う。
口づけだけでは、子はできないのであれば、してみるのもいいのでは。
「うん。
 フランなら、僕、いいよ」
ミルのためらいもない答えにフランは喜ぶ。
「僕は、どうしたらいいのかな?」
ミルの言葉に、フランは伝える。
「目を閉じてされるのを待つか、私の唇にミルが唇を合わせてくれる。
 どちらがいい?」
!!
「じゃあ、僕がフランに合わせるよ」
そう答え、フランの元に近付く。
暗いので恥ずかしさはない。
花の匂いに包まれて、気分もいい。
身体の大きいフランの座っている足の間にミルは座る。
お互い、何も身につけていない。
ベッドの揺らめきでミルはバランスを崩す。
「うわっっと」
身体がフランの方にぐらついて思わず、彼の肩に手を付く。
いきなりフランと顔が近くなり、ミルは赤面する。
彼はずっと、自分のしていることを見ていたのだ。
「私の肩に手を置いていいぞ」
そう言って、フランは瞳を閉じる。
黄色の瞳が見えなくなると、不安になる。
形のいい、フランの唇に自分のものを合わせるには、顔を傾けなければならない。
ミルは彼の唇を見ながら、顔を斜めに傾け、ゆっくりと唇を合わせていった。
温かく柔らかい。
自分の唇が震えているのがわかるミルは、まだ、足りないのかと唇を合わせ続ける。

ミルのためらいがちな口づけでフランは、喜び自分を抑えるのに必死だった。
頃合いがわからず、合わせたまま眉間に皺を寄せている姿もまた、微笑ましい。
フランから離し、
「そう。ミルは初めてなのか?
 とても上手である。
 私も返したい。
 いいだろうか?」
フランの問いかけに、ミルは何も疑うことなく頷く。
これからの口づけは、ミルの物とは違う。
フランの想いが詰まっているのだ。

ミルはフランも同じような口づけを返してくれると思っていた。
当然、彼がしたようにベッドに座り、手を自分の足に置き、彼がしやすい様に顔を向ける。
瞳で彼の目と合い、ミルはニッコリとほほ笑む。
「フランもどうぞ」
そう言って、ミルは瞳を閉じるのだった。

無防備でフランからの口づけを待つミルの様子はなんとも言い難い存在のように思えた。
幼いころにみた、人魚の話を思い出す。
もはや、目の前にいるものはこの世の物とは思えないほど清らかな物であるように思えた。

フランは不安がらないよう、彼の手を握りしめ、ゆっくりと顔を近づけていく。
唇が合わさり、フランがミルの唇の温かさを味わう。
一度、合わされば欲してしまう己の欲望を止めることはできなかった。
合わさるだけのはずだった唇は啄むようにミルの唇に刺激を与える。
一瞬、驚いたミルは彼から身体を離そうとした。
だが、手を繋いで離れることはできず、啄んでいる行為を受け入れるのみであった。
こんな口づけはしらない。
「ん!!んんん。!!!」
繋いでいる手をぶんぶんと振り、離せと訴える。
フランが唇を離し、やっと言葉を発することができたミルは、
「今の!今のもくちづけ?」

フランは何も変なことはしていないと、まじめな顔で頷く。
「今のは、子どもの口づけだ。口づけには、ミルの知らない方法がある」
!!!
瞳を大きく開けて、驚くミルに
「ミル様。
 フラン様は事実を申されております。
 少し、我慢が足りませんでしたがね」

そう言って、ミルを落ち着かせた。

「話だけでは、やはりわからないものです。
 絵に描かれた物を持ってきました。
 それだけでも、心構えができるでしょう」

そう言って、その日の学びは終わったのだった。


龍が部屋を出て、2人きりになる。
フランは、就寝用の服を着せ、ミルの身体を横たえ、休む姿勢にする。
「口づけは嫌じゃなかったか?」
ミルを見下ろすフランの目はとても優しい。
その瞳を独り占めしているのが自分であると思うと嬉しい。
ミルは見上げながら
「いやじゃなかった。
 口づけって他にもあるのか?」
フランは視線を外し、
「まぁ、あるんだが・・・」

ミルはフランの躊躇う様子に
「・・・そんなに言えないことなのか?」
フランの表情を見逃さないようにじっとみる。
「うーんー・・・」
「・・・僕は、出来ないことか・・・?
 それ・・とも、僕」
目を開いて、フランを見ていたミルは、自己完結してしまいそうになっている。

流石にその様子をみて、フランは慌てる。
「ミル!そうじゃない。ミルにはできないんじゃない。
 できるんだ。
 できるんだが・・・急すぎる」
ミルは
「それじゃ、今、やってよ。
 龍さんがいなくてもできるよ」
フランは、まだ、ためらっている。
・・・・
「…いいよ。
 ごめん、もうフラン、いいんだ」

やっぱり・・・という言葉が頭を駆け巡る。
僕の未熟さが彼を困らせている。
受け止めてもらると思ってたんだけどな・・・
甘え過ぎたのか・・
龍さんに、明日にでも教えてもらおう。
フランを困らせてしまうようである。
ズキズキと胸の奥が痛むような感じが一瞬し、切ない気持ちになった。

「もう、休もう」
ミルはフランを困らせまいと彼の瞳を見て、ニッコリ笑った。
「フラン、よい夢を。そして新しい夜明けを」
この世界の夜の挨拶を告げ、ミルは抱える痛みを奥に押しやって夜を過ごした。


フランとベッドで一緒に寝ているミル。
この夜は痛む胸の奥が気になり寝れなかった。

そっとベッドを降り、幾重の布を出る。
鏡の方へ行き、そっと指でうつる自分を見る。
まだ、彼を困らせる存在にはなり切れていない今。
微かにでもあの場所に、戻れるのなら。


じっと、鏡の様子を見てみるが、変化はない。


ベッドに戻り、フランを見る。
寝ている顔はとても凛々しい。
本当に、幼いころに見せてもらった絵本の物語の中の王子様だ。
僕より逞しく、頼もしい。
ミルのためにいろんなことをしてくれている。


ミルは、自分が泣いているに気が付いた。
近づくと彼を起こしそうになる。
そう思い、家具の陰になるように端に縮こまり声を殺して泣くのだった。

自分の感情が、どうして涙を流すのか。

それは、誰も教えてくれることのないことであった。

朝、フランはベッドにミルの姿がないことに気づき、慌てた。
家具の陰で隠れるように小さくなったまま、膝を抱えて寝ているミルを見つけ心が苦しくなった。
彼を受け入れると言っておいて、自分は昨夜、躊躇いを見せた。
やはりあれだろう・・
フランはミルをそっと抱き上げ、ベッドに寝かせる。
泣いていたのか・・・
白い肌には、目元の辺りにこすった跡がついている。
赤くなりその擦り切れたあとが、彼と自分の亀裂のようで怖いと思った。

それからミルが気が付くまで、そばで彼の寝顔をみていた。
いつもなら朝食をとる時間。
でも、フランはミルの傍で片時も離れようとしなかった。
龍はその2人の様子を見て、じっと主から声がかかるのを待っていた。



ミルは夢を見ていた。
早く独り立ちをしたかった。
身体の発達の遅れを取り戻せるようになり、一人前の大人としてフランに認めて欲しかった。
揺らめきの中で笑うフラン。
その顔を見て、喜ぶ自分がいるのを確認した。

ふと、暗闇で立っている自分がいる。
周りを見ても何もない。
自分を掴まえようとする数本の手が向かってきている。
いやだ。
アレには捕まりたくない。
走らなくては・・ 逃げなくては・・
鏡を見つけて叫んでいる。
気づいて・・ 気づいて・・
お願い。
フラン、気づいて。

僕は、君が好きなんだ!!

ー僕の中には、幼いころからフランがいたんだー



「・・・ル!!ミル!!」
パッと目が覚め、体中、嫌な汗が流れている。
気持ちが悪い。
ミルは、パニックになった。
涙が出て、手を空を切るように伸ばし、
「フラン!!」
出せる声で呼びかける。
「誰か!!」
自分の声がもう出ないように感じた。
熱さで体が気持ち悪い。

ミルは、自分の指で身体を掻きむしりだした。

喉にまとわりつく自分の髪ですら、不快である。
纏わりつく髪を掴み、自分で引きちぎろうとした!
!!
その時、自分の手を掴む者がいた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁあ!」
力強く掴まれ自分ではどうすることもできない。
それなのに、この衝動を邪魔するものを排除したかった。
手を両方向に延ばされ、何かで繋がれている。
身体の動きが上のみなのが違和感があった。


「え?なに?
 これ?」
足を動かしたくても手と同様、何かに繋がれていた。
!!!!!!
ハッとした。
フランが心配そうにこちらを見ている。
その後ろで龍がこちらを見ている。
「・ぁ・・ふらん・・・」
自分から出た声が、ずいぶん弱弱しいように聞こえる。
「よかった!!ミル!!本当に良かった」

「どうか・・・したのか?」
フランはすぐに答えた。
「ミル、そなたはずっと熱をだしていたのだ」
「・・熱?」
なんとなく、身体がだるい。

何か、大切なものを気づいたんだ。

「手は?足は?身体が動かなかった・・」
フランは龍を見て、
「ミルが掻きむしろうとしたので、無理に動きを止めた。
 それのことか?でも、それは手のみだ」

ミルは首を振り、夢・・・だったのか・・
「怖かった・・・
 掴まったんだと思ったんだ。
 夢だったんだな。
 よかった」
ミルは安心したようにホッとして涙を流している。

その様子をみて、フランもミルが安心したようだと嬉しく思う。
「怖かったんだな。
 よく頑張った。
 もう、つかまることはない。
 夢だ」
汗でベットリしているミルを構わないようにフランは彼の身体を抱きしめる。

「フラン様。
 ミル様のお召し物を。
 あと、まだ、治ってません。
 水分の補給を」
フランは自らの手で、ミルの身体を起こし、身体に張り付いた服を脱がせ、布で拭き、また服を着せていく。
水分をとり、落ち着き、フランをゆっくりミルは見つめる。
手を上げて、彼の手を待つ。
フランは手を握り大きな手の中にミルの手を包み込む。
「フランだ」
そうミルは彼の手を自分の顔に近づけ、頬に摺り寄せる。
目を閉じて心の中に満ちていく感覚を確かめているようである。
「フラン、僕は逃げるときに気づいていたんだ。
 僕は、フランが好きだ。って。
 忘れていてごめん」
!!!!

フランは、ミルの言葉を聞き、温かな気持ちになった。
ミルの口から好きだと言ってもらえた。
ギュッと繋いだ手を強く握りして、返事をした。
「そうか。
 思い出してくれたんだ。
 それだけでも、私は嬉しい」
そして、2人は唇を自然と合わせるのだった。

ミルの体調が戻るまでの間、ミルはフランのベッドの中の住人となって過ごしていた。
やはりこちらにきて暑さに身体が適応できてなかったようだと、医師からの診断があった。

食べれる物を増やすため、少しずついろんなものを試していき、この世界に順応できるようになっていった。
それと、同時期に、ミルの編み物の道具を龍から用意してもらっていた。

ミルの世界では編み物の時に、使われる物は木枠でできていた。
数本の糸を張り、その糸を使って作品を作っていくものであった。
ただ、このフランのいる国には、ミルのところのような太い糸は使われることも存在もしていない。
なんとか、木枠の代わりとなる物は小さいが見つけることができた。
龍に詳しく聞いてみると、フランの世界は、男性ばかり。
身体は小さい、と言っても力は強いのだいう。
そのため、自ら細かい作業をすることは、あまり得意ではなく、物を作り上げる道具を作って、道具が作り上げていくものであると教わった。
細い糸を自分の使えるようにするための力の加減がうまくできないようであると、教わった。
龍に用意してもらった道具をミルの使いやすい様に組み立て細い糸を使って、ミルは試しに作ってみた。
糸の細さは、作品を作るうえで、頼りないように思う。
だが、この国で受け入れる物を作れるなら、多少の困難もミルは厭わないと感じる。

一つの編み方で色々と作品を考えていたミルは、ふと、自分の着ている物を見る。
細かい服の模様は布に写されている方法で表現されている。
服自体は、一枚の一色であるとも気づいた。
糸を組み合わせて模様を作り上げる技術。

これは、この国にないのではないだろうか。
あと、糸を試しに違う編み方をしてみる。

すると、糸の細さゆえに、一つ一つの輝きがミルの道具と合わさった摩擦で、煌めきを放つようになった。
編み方を変えるだけで糸の印象が変わることを知ったミルは単色の布に、その煌めきを持つ糸になるよう組み合わせて、以前、初めて完成させた首巻を作り上げたのだった。

フランと龍は、ベッドの上で集中して作業を行っているミルの真剣さを見て、感じた。
ミルの目は、幼さの残る物ではなく、細かいところまで調整をとることができる、職人の大人の目をしている。
白い髪を作業しやすいように後ろに一つに束ね、楽な姿勢で作業をする姿は、神々しいとさえ、感じた。道具を調整し、小さな発見をしたミルは、この数時間で首巻を作り上げた。
「ふぅ。
 この糸、最初の印象と使ってみて違うから面白かった」

そう言って、フランに見せた物。
それは、風の波と表現していたミルの言葉を思い出さされるものであった。
「風の波」
フランは、口からそう感じた言葉を放った。

「あ、やっぱりフランはわかってくれた。
 うん。
 このなんとも言えない煌めきって波に近い色だと思ったんだ」

一枚の布である。
だが、その一枚には、波を表した煌めきがあった。
指で触れ、その編まれた場所を触る。
とてもなめらかである。

「龍、これをどう思う。
 私は、このような精巧に編まれた布を見たことがない」
フランの問いに、近づいて確認した龍。
「!!
 これは・・・。
 しかも、この数時間で作り上げた物とは、思えません。
 しかも、人の手で作り上げられたもの」
ミルは自分の試しに作ったものを驚きとともに感激されていて嬉しかった。

「ミル、そなたは、本当に独り立ちをしても素晴らしい職人になるだろう。
 いや、この国ではもう、立派なものである。
 ミル。
 無理を言うわけではない。
 ただ、少しずつでも、これを私たちに与えてはくれないだろうか」

まだ、大きなものなどは作ることもできない現状。
それに体力が続かない自分では役には立たないだろう。
そう思うと、ミルはフランからの申し出を躊躇う。
「まだ、そんなに動けないけど、少しずつでもいいなら。
 これを僕がやっていけるなら、これは、僕の力にはなると思う。
 どうかな」

道具を片付け、ベッドで身体を休めながらミルはフランに尋ねる。
「もちろん、それでいい。
 私は今、とても嬉しいのだ。
 そなたは、作業しているときの顔を自分がどのようになっているのか、知っているか」
フランはミルに問う。
「えっと・・・
 作業中の時は、集中しているから気にしたことがなかったんだがけどー・・・」

フランは微笑み、
「とても集中してたな。
 それだけではない、とても楽しそうにしているのだ。
 あと、輝きがミルからもできているようであった」

褒められ、背中の辺りがかゆくなってくる。
これまで、技術を身につけても、ここまで称賛されたことはない。
「僕も嬉しい。
 フランに、今の自分を少しでも見てもらえて」
そう言って、目をお互い見つめて笑いあった。

そうして、何気ない会話一つがこの2人の距離を確実に近づけていくのであった。

体力も戻り、ミルは本格的に作業をするため、寝室の一角に作業環境を整えてもらった。
作業ばかりは大変なので、最初は、この世界や国について、龍から勉強をするようになる。
元の世界では、知りたいことも多くあったが、どちらかというと編み物を学ぶことを重点的に置かれていた。
そのため、他の知識は与えられず、過ごしてきた。
この世界で、多くのことを知り、ミルはとても充実していた。

行動範囲を少し広げてみようと、初めてフランの部屋から出たミルは、自分が今までいたのはとても大きな場所なのだと知った。
ミルが部屋を出るときは、他の人の姿はなく、とても静かである。

もともと、次期国王の住居として厳重な警備をしているのだが、ミルの存在を誰にも知られたくないという
フランの独占欲から来ているものであった。
庭に出て、そとの空気を吸う。

暑い日差しはミルの肌に過激すぎるので、多くの布を張り、影を作っている。
それでも、風の温かさ、空気の匂い、そして周りの音を感じることができ、ミルは喜んだ。
「これからは、庭に影の下ならでれるだろう」

そうして、フランとミルは多くの布が風で揺れる影の下でひと時を過ごすのだった。
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