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1章

黄色+緑色の調0

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ピュー・・・・・・

       ピュー・・・・・・

冷たい風が音を立てて吹き、木々から落ちた葉が空を舞う。


寒さをより一層、厳しいものへと感じさせられる。


ギシギシと風が吹くたびに軋む家。


昼間だというのに、人は誰一人歩いていない。


走り回る子どもの姿も見られない。


ただ、辺りには、風の吹く音。


軋む家の音。


そして、かすかに聞こえる木を合わせる音。


軋む家から聞こえる音は、各家から聞こえる。


ここは、寒さの厳しい村。


毎日の変わらぬ生活の中に、めぐる運命へと導かれていく・・・

ミルが小さい頃、祖母の家で見つけた古い鏡。



倉庫の中を探検していたら積み重なった箱の中に入れられていた。
ミルはその鏡を見ると、そこには自分の顔をうつすことはなく、揺らめく中に何かが見える。
ミルは思わず鏡に触る。

すると、手は鏡に触れるときのような固く冷たいものではない。

水のような液体に入った感覚がした。

手を奥まで入れるほどの勇気はなく、手を引き抜きその鏡を見る。
すると、こちらをのぞき込む異国の容姿をした同じぐらいの年の子がいた。
肌の色が薄い茶色で、濃い茶色の髪色。
自分は白い肌。髪の色も違う。

髪は天然パーマのようでクルクルとしている。
顔立ちはカッコイいと言うのだろう。
数少ない絵本に出てくる王子様のようだった。
こちらを見つめる瞳は黄色。

自分の集めている石の中に同じような色の石がある。
ミルと彼が目が合った瞬間、ハッと、思わず鏡を見るのを止めてしまった。
自分は何をみたのだろう。


入れた手を見ると濡れた所がある。
恐る恐る匂いをかぐと特に何もない。
ミルは怖くなったので、その鏡を元あった箱の中に入れ急いでその場を離れたのだった。

怖いけど気になるのが、子どもの探究心である。

その日から、同じ時間にこっそり通うようになった。
ただ、怖い心があり鏡を覗き込むことはできないままだった。
手を入れることはせず、まず、自分の集めている石の中から、例の瞳の色の石を揺らめく鏡の中に落としてみた。

その日は、それですぐに終わった。
次の日は、流石に同じ色の石はない。
庭に咲いている同じ色の花を揺らめく鏡の中に落としていった。

すると、すぐに向こう側から、何かが浮いてきた。
それは、ミルと同じ瞳の色、緑色の石だった。
!!!
ミルの住んでいる場所には、緑色の石は見当たらない。
集めている石の中で、この緑色の石は宝物のように大切にしていった。
同じ色の物はないかと、探していった。
果物や野菜を入れたこともある。
ミルが入れた物が次の日、自分の瞳の色に変わって送られるようになった。
向こう側にはない物もあるようで、代わりに違った物が送られることもあった。
瞳の色である緑色だけは、同じだった。
色が見つからなくても、覚えたての編み物で首巻を作ったものを入れたこともある。

あれは、失敗だったと後から思う。
濡れるし、不格好なものであった。
受け取った者は首巻だとは思わないだろう。
この辺りは、成人を迎える前に土地の工芸品として盛んな編み物の技術を子どもに身につけさせる風習があった。

不器用でも年数を積めばそれなりに物にもなる。
ミルはその地域の中で有力技術者の一人である父の元、習得していった。
初めて完成させたものを思わず、送っていたのだった。

それから数年。
あるとき、ミルが久しぶりの鏡の中を見た。
自分の顔がうつるように。
揺れる鏡の中に、あの時の子どもと思われる人がうつっていた。
やはり、以前と同じく、異国の服を着ていて、顔つきも異国のものだ。

あの頃はクルンっとしていた濃い茶色の髪が少し伸びている。
毛先の方は、クセが残っているようであった。
茶色の髪の間から、黄色の綺麗な瞳が見えた。
温かな光が当たる場所で、こちらを見ているのだろう。
瞳の輝きがとても美しく思えた。

あぁ、同じように成長しているんだぁ。
自分はあのころ、幼い子どもだった。
向こう側の少年も、年は同じように思う。
ただ、体つきはミルよりいいように見える。
肌の色のせいかな?
向こう側も、こちらの姿をじっと見ている。

声は届くのだろうか...
物は何度も送っている。
鏡に小さく
「あなたは誰ですか?」
ミルは、聞こえるか聞こえないかの声で言ってみた。
「※※※※※」
揺れるように途切れているのだが、声が聞こえた。

ただ、何を言われているのか、わからない。
「えっと... こっちの言ってることも分からないのかな・・・」
また、向こう側から声が返ってくる。
「わたしは、ふらん といいます あなたの なまえは なんですか?」
!?!?!
向こう側の言葉は理解できないが、こちらの言葉は理解できるようである。
ミルは、応えた。
「フラン。僕は ミル といいます。」
それからは、少しずつ、時間の許す限り、互いのことを教えていった。
彼の名前はフラン。
年はやはりミルと同じ年齢だった。
お互いが送った物の話をした時、首巻の事を思い出した。
彼は不格好の物ではあるのに、大切に取っていると言う。
こちらは寒い日が多いのに対し、向こう側は暑く、首巻きの事は絵本で知ったそうだ。

会話をするようになってから、数年がたった。
この不思議な体験を、ミルは今まで誰にも教えたことはない。
祖母に、箱の鏡については聞かず、倉庫の物は誰の物かを聞いてみたことがある。
亡き祖父の物を置いていることだけは、わかった。

ふと、祖母が、
「そういえば、お爺さんが幼い頃に鏡の向こうに行ったことがあると言ってたわねぇ。
 でも、変な話よね。
 よくあるじゃない、虹の向こうとか。
 鏡の向こうって行けたとしても、そこにいるのは自分じゃない。」
祖母は、例の鏡を知らないようであった。
ミルは祖父母達の子である父親に、倉庫の中の鏡について聞いてみた。
「あぁ。鏡かぁ。じいさんから話を聞いたことはあるぞ。」
「その鏡は、こことは違った世界に行けるらしい。
 ただ、選ばれた者にしか見つけることが出来ない。
 お前、知ってるってことは見つけたようだな。
 ちなみに、オレも話を知って必死に探したけど、見つけることすら出来なかった。
 そして、大人になってしまった。」
ミルはその鏡に選ばれた者なのだった。
ミルは尋ねた。
その鏡に選ばれたから、どうなるのかと。
「さぁ。どうだろうな...じいさんは選ばれたようだったからな。
 オレも聞いたとき、同じことを質問してみたぞ。
 《それは、選ばれた者だけの特権じゃ。》だと。
 ただ、じいさんは幼い頃に行って死ぬまでここの世界にいたわけだ。
 行っても、戻る事はできるようだな。」

一度、行ったら帰れないとかっていう物ではないらしい。
「その時の話をしているじいさんは、ただ寂しそうにはしていたなぁ...」
あの鏡がどういう経緯で箱の中に入れられていたのか...
ミルは、胸の奥に浮かんだ謎を自分が体験し、そして同じことをするのかもしれないと思った。
「もし、お前が行ってみたいのなら行くがいい。
 じいさんは、それも、選ばれたものだけに許される選択だと言っていた。」

   選ばれたものだけに許された選択。
向こう側に行くのも、こちら側に帰るのも選ばれたものの選択。
そして、行ったままで残るのも、一度も行くこともなく終わることもある
って考えをする人もいるってことだよな。
ミルは、自分がどうしたいか、分からなかった。

フランから、あちら側に来るように誘われたことは今まで一度もない。

何かのきっかけがあると行くのだろうな...


最近、ミルと同じ年齢の子が、夜、寝ている所を連れて行かれるっという事があった。
過去にも、技術を狙って独り立ち間近の子を連れ去られたことがあった。
これは周辺部の者が必死になって特に優秀な者を狙っているようだと分かってきた。
だから、独り立ち間近の子は、何もなく無事に独り立ちすることを願っていた。

ミルも、またその一人だった。
この話は、フランにも過去に話をしたことがある。
何年も同じ時期にこの話をして、話を真剣に聞いてくれていた。

ある雨の激しい日の夜だった。
明日はとうとう、ミルの独り立ちする日である。
雨の音を聞きながら、早めの床についていたミル。
高まる高揚感と、失われていない不安を抱えていた。

早めに休んだのに、一向に眠気が来ない。
耳を床に当て、ひんやりとした感触を感じていた。

バタバタと、地面をける音。
もう、さすがにこの時間は家の者は寝ている。

一番に過ぎるのは、ミルを攫いに来た可能性。
ミルは咄嗟に、近くにあった闇に染まれる羽織りものを取り、頭から被る。
もし、部屋に入り込まれたら最後。
身体のみ連れて行かれるらしい。
それは嫌だ。
まだ、今なら逃げれるかもしれない。
部屋は荒らされるだろう。
宝物であるフランからの贈り物はたくさんある。
だが、急いで身を安全な場所に隠したかった。

ミルが手に取ったのは初めてもらった自分の瞳の色である緑色の石だった。
自分の部屋からこっそりと外に出る。
闇に染まれる服はとても効果的だった。
誰にも気づかれることもなく祖母の家まで走っていった。
そのまま、倉庫の中に入り、フランの近くまでいける鏡の入った箱までミルは息を潜めながら行くことができた。

息を整え、ミルは鏡を手に取る。
覗き込む揺らめきはいつものように揺れている。
「...フラン。...フラン!!」
小さい声だが必死に声をかける。
「「いたぞ!!!やはり狙い通りだ!!!」」
!!!!!!

攫いに来るものは、念入りに対象者を調べ上げ、行動範囲を把握しているという。

「やはり、この中に逃げ込んだようだ」
このままでは、連れていかれる!!
「フラン!!フラン!!...気づいて。ミルだよ!!」
鏡の中に手を入れて揺れる場所に、波を起こすようにかき混ぜる。
早く気付いて!
倉庫の扉を開ける音が聞こえる...
ミルのいるこの場所は、分かりにくいところだ。
だが、多くの人数で探されたらすぐに見つかるだろう。
潜めてた声をやめ、声を普段の大きさに...
でも、バレないように出す。
「お願い!!フラン!!奴らが来た!!
 ...もう、君にも会えなくなる...!!
 それは嫌だ!
 お願い!!気づいて...」

近くで探す足音が聞こえる。
ミルは鏡を握りしめたまま、大きな箱の陰に隠れて潜める。
鏡の中にフランは来ない...
もう、連れて行かれるのかな...

恐怖で震える身体を小さくさせ、ミルは最後かもしれないチャンスに期待する。
震える指先で鏡を見るが、やはり誰もいない。

鏡の揺らめきを音が響くように叩くように手の平を広げパン!パン!と鳴らす。
そして持って逃げた緑色の石をその揺らめきの中に入れようとした瞬間、
あちら側の方からフランの声が聞こえる。
「ミル?どうした?今は夜「「この辺りで声がしたぞ!!!」」
!!!!
ミルはもう、見つかると思い諦めた。
鏡を床に置く。
「...フラン、お別れになりそうだ。これを君に返すよーー・・・」
ミルは涙声になりながら揺らめきの中に緑色の石を入れるため、最後に手を入れて揺らめきを感じ最後のフランとの繋がりを憶えようとした。

もう、ミルの後ろまで奴らは着ている。
指先で石を落とし、そっとゆっくり手を引いていく。
「「「みつけたぞ!!!!」」」
肩を捕まれ、体を引っ張られる。
「手を離してください」
最後の足掻きだと分かっていても鏡から離れたくなかった。
鏡を隠すように立ち上がろうとしたら、鏡から手が伸ばされるのが見えた。
「ミル!!」
!!!!
周りの者も驚いただろう。鏡から手が出ている。声もする。

ミルは咄嗟にフランの手を取る。
「「なんだ!!これは!!おい、その手を離せ!!」」

気づいた一人がミルを鏡から引き離そうと、自分の方へ引き寄せる。
だが、鏡から伸びた手はミルを捕まえて離さない。
だんだん、ミルの手は鏡へと引き込まれていく。
「「お、おい!!!」
さすがにこの光景は見たことがないだろう。

不思議な光景を人は目の当たりすると、動くことを忘れるのである。
その一瞬、ミルは躊躇うことなく、フランにつながる鏡の中に足を入れた。

頭まで水に浸る感覚がする。
口の中にこの揺らめく物が入ってきて、飲み込んでしまう。
フランに手を掴まえられたことを思い出し、引っ張られている方に泳ぐ。
フランの顔が近くに見えたと思ったら、水から出される感覚がした。
ゴホッと液体を出し、はぁ、はぁと大きく息をする。
「ミル」
近くではっきりとフランの声がする。

そこには、ミルと同じで濡れたようにいるフランの姿がある。
背はかなり高く、とても同じ歳とは思えないしっかりとした体つきをしていた。
声は揺らめきで少し変わって聞こえてきたようで落ち着きのある低い声だった。
「フラン...」

ミルは辺りを見る。
まだ、辺りは暗い。
それに自分の住んでいた場所とは違った。

最初に気づいたのが、着ている服。
温かいと聞いていたが、かなり薄手の布である。
自分が着ている物を暑いと感じる。

フランは髪の毛が濡れていてその水滴が彼の着ている物を湿らせている。
肌に張り付いて、もはや隠すことはできていない。胸や鎖骨も見えていた。
「えっと...」

フランの表情を見ながらミルは、次の言葉を探す。
助けてくれたから、ありがとう?
それとも、直接あったのは初めてなので はじめまして なのかな?
っと、部屋の外からドアをノックする音が聞こえる。
《フラン様、いかがなさいました?》

ミルは自分の状態を見、怪しまれるのではと、フランの顔を見る。
「心配はいらない。あなたのことも知っている者だ。
 ...龍。一人か?」
《はい》

フランは、もう一度ミルの顔をみて頷く。
ミルは、重くなった闇色の羽織りものを握りしめていた。
「もう一度、確認をして中に入れ」
その声の後、扉が開けられ、中に人が入ってきた。

中に入った彼は一番に、部屋の異変に気が付く。

サッと部屋を見まわし、変わった場所を探し、見つける。
!!!
「フ!「静かに」
主の名前を呼ぼうとして遮られる。
部屋には濡れたままの2人。

一人は主、もう一人は見たことがない。
とても肌が白く黒い羽織りものを着ている。
この国の者は肌の色が薄い茶色である。
白く見えることはない。
怯えるように震えている。
歳は主と同じのようでもあるが、1、2歳下だろうか。
「フラン様、彼はもしや...」
主の方を確認すると、頷く。
「あぁ、ミル殿だ」
龍と呼ばれた男は、機敏な動きでフランの方へ行き、近づくと足元に片膝をつく。
その光景をみて、フランはただの普通の人ではないと知る。
「ミル。これは、私の世話係だ。
 ちょっと怖そうだが、いいやつだ」
ミルは紹介されるが、そこで自分が会話を理解しているのに、気が付く。
フランと話をするとき、言葉が解るのはフランだけだった。
「あ、僕、言葉がわかる...」
「そうか、揺らめきを口にしたからかもしれない。
 実は、ミルからもらった物を口にしたことがあるのだ。
 それから、言葉が分かるようになった。
 それなら特に不自由はないだろうが、少し様子を見るとしよう。
 まずは、この濡れた状態はよくない。
 龍、支度を」
そう言ったフランは、ミルの近くまで行き、そっと手を差し出す。
「先ほどは気づくのが遅くなり申し訳ない。
 ミルの同意もなく、こちらに連れてきてしまった。
 許してほしい」
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