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0章

選ばれた鏡の子1

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この世の中には、男しか存在しない。
みな、生まれつき、子どもを宿すことも作ることもできる身体をしていた。

私の国では、昔から王家に伝わる鏡に選ばれた者が次期国王とされていた。

国王の子どもである者は年齢がくると、鏡を見せられる。
鏡は人を選ぶ。
一つの鏡。
選ばれなければただの鏡。
兄たちは誰も選ばれることもなく、地方の有権者の養子として引き取られていった。
私も子どもの一人。
見せられた鏡に揺らめきがあるのに気づいた。

鏡に選ばれた者

そうして次期国王として数多くのことを学んでいった。
鏡に選ばれた者は鏡を引き継ぐ。

まだ私が幼いとき、先代の国王に不運があり国王不在になった時期があった。
頂点に立つ者の不在は混乱を起こした。
権力者は汚職にまみれ民は生活も困窮、偶然が重なり自然災害も多くなった。

皆は求めた。

安定の世を求めるために国王を。

私はこの時、若干、15歳。
親である先代はもういない。
兄弟も遠く離れている。
頼れるのは先代からの側近が数名いてくれた。

まだ、身体は成熟していない国王となった。
鏡に選ばれた者として、多くのことに取り組んだ。
そうして、信頼、安定、希望を取り付け、国王としての任務を確実に行っていった。

確実に行っていたと思っていた。

私は、見せかけの国王だった。

腐敗した国政の根源である一部の側近たちに踊らされていたのだった。
鏡に選ばれた者が次の鏡に選ばれる者を産む。
そのことを彼らは自分の欲のために私を利用したのだった。

身体の成熟が見られるようになった時から、不思議なことが起こった。
夜になると睡眠がひどく深くなるようになった。
目覚める朝に身体の怠さ、関節の痛みが出るようになった。
成熟に身体がまだついていかないのか…
そう思い、数日過ごしていた。

ある日の朝、身体の怠さ、関節の痛みは相変わらずであった。
その日は、後ろの排泄器官。
ただ、成熟すると子どもを宿すために必要な器官。
そこから、白く濁りのある物が足を伝って流れ出てきた。

学びの中にそのようなことは教えてもらわなかった。
そのため、私は側近に尋ねた。
側近は、はっきりと答えてはくれなかった。

しばらくして、食事などの時に吐き気を伴う不可解な症状が出た。
そのうち、腹が膨らんでくるようになった。
私は怖くなった。
腹が膨らんできたらその中の物が動くようになった。
身体が成熟すると子どもは勝手に身体が宿っていくのだと思った。

とうとう、私は子どもを産んだ。

産んですぐに仕事に復帰した。
それが国王の役目だと思っていた。
復帰して一か月。
また、身体の異変があるようになった。
以前と同じで眠りが深くなり朝、身体の怠さと関節の痛みを伴った。
しばらくして、吐き気を伴う症状がでた。
過ぎる不安は的中した。
腹は膨れ胎動を感じる。
そして、また子どもを産んだ。

私は20歳までに3人の子どもを産んだ。
早産の子どももいたが、さすがに限界だった。

ある時、他国の王子が長期滞在することとなった。
彼は、兄弟が多いため、我が国に国王側近の仕事を勉強しにきたものだった。
歳も近いということもあり、彼とは私的な話をすることもあった。
彼に自分の不思議な現状を打ち明けた。

意味が分からなかった。

子どもは相手がいないと宿らない。
その時の私の様子は尋常ではなかっただろう。
彼の話に驚愕し彼の前で気を失った。


目が覚め、彼がそばにいてくれた。
そして彼は言った。
「あなたを守る存在になりましょう」

それからの彼はすごかった。
調べに調べ上げ、私の取り巻くすべてを暴いた。

私は、先代の側近から順に睡眠中、孕むまで犯されていた。
側近は4人いた。
その一人一人の子どもが腹に宿るまで私は毎晩、犯されていたのだった。
薬を使われて気づかぬままに。

信用してきた者からの裏切りに絶望した。

ただ傍に彼がいてくれた。

本当の腐敗を暴き、平和な日常が訪れた。

世の中が安定すると、世継ぎの話が出てきた。
結婚をしていない王が子どもをすでに三人産んでいる。
それだけでも異常なことではあるが、混乱の時代。
誰もそのことに触れなかった。
この時、本来なら鏡に選ばれた者は、その鏡と結ばれる相手とめぐり合うことが求められた。
ただ、私の鏡は、揺らめきがあるだけで、何も反応はなかった。

私は他国から来たものではあるが、支えてくれた彼を伴侶として選び結婚した。
彼には多くのことを支えられて感謝をしている。
結婚前の出産時の一時的任務の代行も彼が行ってくれている。
彼は私を愛し、私は彼を愛するようになった。

彼と結婚して1年がたった。

周りの者は若いうちに愛する者の子どもを産むようにと意見されていた。
「ポンポン作る物ではありません」
彼の言葉に癒されながら毎日を過ごしていた。
とても幸せだった。



その日、いつも通り執務を終わらせ私室に戻った私は、鏡の前に見知らぬ人間がいるのに気づいた。
その後ろで鏡が激しく揺らいでいた。
男だった。
そして彼は鏡に選ばれた者だった。
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