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番外編

忘れ去られた側室

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「どうしてわたくしが側室なのよ!!!」

ガシャーン!と音を立てて割れるティーカップ。
中身の紅茶は毛足が長い絨毯に染みを作る。

この国の王太子殿下、ヴァーデン様の正室に選ばれなかった日、わたくしは荒れに荒れていた。
だけど今思えばまだマシだったわ。
だってこの時わたくしはあんなことになるなんて思いもよらなかったのだもの。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


ガードン公爵のクロエ様は確かに美しい女性だった。
だけど美しさならわたくしだって負けてないはず。

王宮に輿入れした時、ヴァーデン様は初夜には訪れたけどその後はパッタリと来なかった。
一体わたくしの何が不満だって言うのかしら!

イライラしながら日々を過ごしていたけれど、ふとした時に見せるヴァーデン様の瞳。
あの瞳を見て感じたわ。

ヴァーデン様はクロエ様を愛していないって。
なぜわかるかって?
ふふ、あの冷めたような瞳はわたくしにも向けられるからよ!

わたくしだって馬鹿じゃないもの。
これは政略結婚であって、愛とか恋とか求める方が愚かなのよ。
なのにクロエ様ったら自分が愛されていると思ってお幸せそうな顔をしちゃって。
まぁ精々夢を見てればいいわ。

気が晴れたわたくしは上機嫌で日々を優雅に過ごしていたわ。
わたくしはヴァーデン様が誰も愛していないならそれで良かったの。
クロエ様の元に頻繁に通うのも正室なら当たり前ですものね。

なのに、二年も経たないうちにヴァーデン様の態度が急にお変わりになった。


今までクロエ様が見ていない時に向けていた冷めたような瞳、あの瞳が熱を帯びているような瞳にお変わりになった。
今までは世継ぎのために頻繁にお渡りをしていると噂されていたのに、今では寵愛が深いと言われるようにまでなった。そしてクロエ様の懐妊。

「なんなのよ・・・!一体!!」

相変わらずわたくしの元にヴァーデン様はいらっしゃらないし、ヴァーデン様がお渡りにならないならと新しい側室を入れる始末。

わたくしが何をしたっていうの!?
いつでもヴァーデン様を受け入れられるよう、体型維持に肌の手入れも怠っていないわ。

上機嫌で過ごしていた期間も短く、わたくしは常に不機嫌になった。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


ある日気分転換に散歩でもしようかと庭園に向かっていたら、新しい側室たちの話が聞こえてきたの。

「ねぇ殿下のお渡りありました?」
「それが・・・ないの。わたくしでは不満だったのかしら」
「わたくしもないのよ。王太子妃殿下のところに毎日通ってるってわたくしの侍女が言ってましたわ」
「やっぱり殿下の寵愛は妃殿下へしか向けられないのかもしれませんわね・・・」

柱の影に隠れてこっそり聞いているわたくしを、侍女は困ったように笑っていますが今は無視です。

どうやら新しい側室の元にもお渡りはないようですわね。
それにしても・・・ヴァーデン様のお変わり様は些か不自然ですわ。
もしやクロエ様、ヴァーデン様に何かしたんじゃ・・・・・・

「でもわたくし、一度でも殿下と閨を共にしていただければ妃殿下より愛される自信がありますの!」

ハッ!物思いに耽っていて話を聞き逃すところでした。
それより凄いことを仰るお方ですわね・・・
あれは・・・あぁロバーツ伯爵令嬢ですわね。確かまだ十八歳のはずです。
確かに若さは武器ですわ。ですがあのヴァーデン様がそこに着目するかはまた別だと思いますけどね。

「それに寵愛をいただければわたくしが王妃になるかもしれないでしょう?わたくしが王妃になったら貴女にも悪いようにしないから安心してちょうだい!」

あらあら。ロバーツ伯爵令嬢はかなりの野心家なようね。
側室が王妃だなんて笑ってしまうわ。
でもあの子、とっても楽しそう。
うふふ、暇つぶしには丁度いいわね。

我が家から連れてきている侍女に目配せをし、ロバーツ伯爵令嬢に接触するように指示を出しました。

王妃になれるかも、なんて唆したら簡単でしたわ。
勿論わたくしが指示したなんて彼女は知りませんけどね。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


クロエ様が三度目の懐妊をしたと発表されたすぐ後、ロバーツ伯爵令嬢の薬殺刑も発表されてわたくしは驚きを通り越して失神するかと思いました。

子供が悪戯で使うような痺れ薬に薬殺刑なんて厳しすぎます!

どういうことなのかわたくし付きの侍女たちに聞いてみると、どうやら痺れ薬ではなく猛毒を盛ったらしいのです。

わたくしがあの侍女に持たせたのは薬屋に行けば買える痺れ薬。
なのにロバーツ伯爵令嬢が盛ったのは猛毒だなんて・・・どうなっているの!?

薬を渡した侍女も顔が青ざめ震えているようでした。
ロバーツ伯爵令嬢はわたくしが関与していることは知らないでしょうけど、もし、もしも関わっていることが知られたら・・・!


何者かがわたくしのあずかり知らないところで動いているのを感じ、ゾッとしました。



関わってはいけない。
ヴァーデン様にも。クロエ様にも。
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