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本編
王子か魔王か
しおりを挟む正直言って・・・試合には全然集中できなかった。
端から橘くん、皇くん、私、輝の順番で座ったのだけど、皇くんとの距離がなんだかとっても近くって。
チラリと視線を向けると、皇くんはあの蕩けた目を向けてくるし・・・。しかも時々私の手を握ったり耳元で試合の内容を言ってくるんだけど、その声がすっごく甘くって・・・。
私の顔は終始真っ赤だったと思う。
あぁ目当ての海外選手のプレーを見逃したのが残念でならない。
試合が終わり、時刻はもうすぐ午後九時半になる所だった。
「百合亜ちゃんたちは電車?」
「そうだよ」
ここは埼玉。東京に住んでる私たちはこれから一時間ほどかけて帰宅する。
「俺たち車で来てるからさ。送っていくよ」
「いいよ、まだそこまで遅くないし」
それに試合の後は道がすっごく混む。帰る時間が遅くなりそうだ。
「でも女の子を一人で帰すのはなぁ。ねぇ万ちゃん」
なかなか引き下がらない橘くんに、輝が助けを出してくれた。
「俺がちゃんと家まで送り届けるんで大丈夫です」
な?と言って輝は私の手を握った。
途端ピシリと音がしたような冷たい空気を感じ、橘くんは顔を青くさせていた。
「お、おい。万ちゃん落ち着けよ」
「うるさい。えっと、秋吉くんだっけ?勿論君も送るから」
いつもの王子スマイルじゃなく魔王スマイルのように笑う皇くんに、隣にいた橘くんはカタカタと震えている。
それに気付いているはずなのに、皇くんと輝は何もないかのように話し続けていた。
「初対面の人に送って貰うわけにはいかないから」
「君にとっては初対面でも、俺たちは初対面じゃないからね。心配は無用だよ」
無表情の輝に黒い笑顔の皇くん。
どっちも普通に怖い。
「あ、あの・・・じゃあ送って貰おうかな?」
「百合?」
輝は繋いでいた手の力を強めた。
顔にはなんで?って書いてあるけど、この空気感が堪らなく居づらい。
皇くんも一歩も引かなそうだし、送って貰えば全て丸く収まるはずだ。
橘くんも救世主を見るような目でこっちを見ているし。
「じゃ早速こっちに車寄越すから駐車場まで行こうか」
黒い笑顔を引っ込めた皇くんはスマホを取り出し、どこかに電話をし出した。
それがどうしてこうなった。
『俺たち方角違うから別々ね!じゃあ百合亜ちゃんまた学校で!』
橘くんはそう言って何か言ってる輝を無理やり引きずりながら連れ帰ってしまった。
二人がいなくなったって事は自動的に残ったのは、私と皇くんだけであって・・・
あ、あれぇ?
みんなで楽しく帰ると思ってたんだけど・・・
気付いたら私は皇くんの車に乗っていた。
ゆったりとした座席の革は触った事がないような滑らかさがある。
車のエンブレムにはドイツで一番有名であろう、マークがくっついてた。
何よりも運転手さんがいるなんて!
「す、凄い車だね・・・」
「Sクラスっていう車なんだ。この車、シャンパンとかも冷やせるようになってるから、成人したら一緒に飲もう?」
「そう・・・だね・・・あはは・・・」
規模が違いすぎる。
お金持ちの考えてる事はわからないわ・・・
「ところでさ、リリィちゃん」
皇くんは身体をピタリとくっつけ、私の手を握った。
「ひぇっ!?」
「あの秋吉って人なんなの?リリィちゃんの好きな人?」
言いながら私の手をハンカチでゴシゴシと拭く。え、急に何?と思ったけど、そういえばそっちの手はさっき輝が握ってたっけ。
「ただの幼なじみだよ・・・」
「本当に?」
眉を下げ悲しげな瞳で見つめてくる。
もう、ほんとその目弱いからやめて欲しい・・・。
「ほんとだよ。輝もそう思ってるはず」
「何も思ってなかったら手なんか握らないよ」
私の言い分をピシャリと言い切り、両手をぎゅっと握られた。
「もっと危機感持って。それとも・・・俺にヤキモチ焼かせたいの?」
身体だけじゃなく、顔も近付けてこられて私は内心パニックを起こしていた。
「そそそ、そんな事ないから!」
いるから!運転手さんがいるから!
「リリィちゃんは意地悪だったんだね。俺の気持ち知っててあんな事するなんて。・・・ねぇ、このままキスしていい?」
キス!?キスってあのキス!?
私の顔は今にも爆発しそうなほど熱を持っていた。
「だめぇ・・・」
「・・・・・・・・・」
涙目になりながら何とか否定の言葉を伝えたら、皇くんはカチンと固まっていた。
「皇くん・・・?」
「・・・・・・はぁやば」
動き出したと思ったら片手で目元を押さえ、天を仰いだ。
暗いからわかりにくいけど、耳が赤くなっている気がする。
「あの・・・大丈夫?」
「ん、ちょっと待って。今顔見せらんないから」
どういう事かさっぱりだけど、言われた通り大人しく待つ事にした。
暫くして手を離した皇くんはいつもの王子スマイルを浮かべている。
「可愛いリリィちゃん、俺を弄んだお仕置きをしなきゃだね?」
「は?」
「選ばせてあげる。俺にこれから無理やりにでもキスされるか、週末またデートするか」
皇くんはやっぱり魔王だった。
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