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事例 壱 『コウシュ村』
弍拾捌
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チィーーィィーーーン……
「っ……!!」
思わず……というか反射的に音が聞こえた方、つまり墓地の方へと目を向けてしまう。するとそこいたのは俯いている人影。
黒い髪は腰よりも長くボサボサ、雪が積もっているにも関わらず赤黒いワンピース一枚だけを着ていて、墓と墓の間からチラッと見えた下は素足。
明らかにこの季節をガン無視したような、如何にも幽霊であるような様相に、僕は無意識的に足を止めてしまった。
僕のそんな動揺を悟ったかのように、その『如何にも幽霊』はグルンと音が聞こえそうなほど勢いよく僕の方に振り向いた。
「っ……!」
悲鳴を上げないように手で口を塞いでいて良かった。『如何にも幽霊』はそう思わせるような風貌だったのだ。
長い髪の隙間から見えるギョロギョロした目は死人のように濁っていて、でも少しブレながらもジィッとこちらを凝視していて……
そしてかろうじて見える肌の部分は何故か赤黒い色で全面が染まっている。今も尚ポタポタと顎の辺りからその液体がこぼれ落ちていた。
「っ……、」
……そうだ、あれはペンキに違いない。赤いペンキを被ったんだ。そうだそうだ。それ以外に何がある。
そう思い込むしか己の精神の宥め方が分からなかった。だってあれ、言いたくはないけれども、絶対、血……
あ、違う違う。ペンキだ。そうだそうだペンキだった。そうだそうだ。ペンキペンキ。
そう自己暗示を掛けながら──あまり上手くいってないが、それは言わないお約束だ──どうにかアレから逃げる算段をつけていく。
と言っても恐怖に怯えパニックを起こしている僕の頭がそう上手く働いてくれるわけもなく。今は声を上げないことだけで精一杯だった。
「……、……、……、……、」
その幽霊はどうやら僕を見て何か呟いているようで。何か情報を得られないかと耳を澄ませたら、途切れ途切れながら言葉が聞こえてきた。
「オま、のせ……デ……マえの、せイで……おまエノせイデ……」
まるで僕に憎悪をぶつけてきているような言葉の羅列に、僕は理不尽を感じた。何故何もしていない僕が恨まれなければならないのだ、と。
「オマエが、ナけれ、ノ子、苦シまな……オマえ、おマエ、オマエガオマエがァァァァアアアアア!!!」
何故こんなところで犯していない罪に対して非難されなければならないのだ。理解に苦しむ。
こんな訳分からない悪霊(仮)からは逃げるに限る。少し冷えた頭で冷静にそう答えを導き出した僕は、それまで氷っていたように動かなかった足を無理やりにでも動かしていく。
「ァァァアアアアアァァアアァアアア!!!」
ベチョ、ベチョ、と足音を立てながら、そして意味もない音を口から発しながら女は追いかけてきた。
どこまで追いかけてくるのかは分からないが、短期的に振り切らないと体力のない僕はアッサリ捕まるだろう。
今は女がいた墓地から僕がいた道路までのアドバンテージのおかげで捕まっていないだけに過ぎないのだから。アレ、相当足速い。
どこか隠れられる場所を探しつつ、とにかく全力疾走で村を走り抜けるのだった。
「っ……!!」
思わず……というか反射的に音が聞こえた方、つまり墓地の方へと目を向けてしまう。するとそこいたのは俯いている人影。
黒い髪は腰よりも長くボサボサ、雪が積もっているにも関わらず赤黒いワンピース一枚だけを着ていて、墓と墓の間からチラッと見えた下は素足。
明らかにこの季節をガン無視したような、如何にも幽霊であるような様相に、僕は無意識的に足を止めてしまった。
僕のそんな動揺を悟ったかのように、その『如何にも幽霊』はグルンと音が聞こえそうなほど勢いよく僕の方に振り向いた。
「っ……!」
悲鳴を上げないように手で口を塞いでいて良かった。『如何にも幽霊』はそう思わせるような風貌だったのだ。
長い髪の隙間から見えるギョロギョロした目は死人のように濁っていて、でも少しブレながらもジィッとこちらを凝視していて……
そしてかろうじて見える肌の部分は何故か赤黒い色で全面が染まっている。今も尚ポタポタと顎の辺りからその液体がこぼれ落ちていた。
「っ……、」
……そうだ、あれはペンキに違いない。赤いペンキを被ったんだ。そうだそうだ。それ以外に何がある。
そう思い込むしか己の精神の宥め方が分からなかった。だってあれ、言いたくはないけれども、絶対、血……
あ、違う違う。ペンキだ。そうだそうだペンキだった。そうだそうだ。ペンキペンキ。
そう自己暗示を掛けながら──あまり上手くいってないが、それは言わないお約束だ──どうにかアレから逃げる算段をつけていく。
と言っても恐怖に怯えパニックを起こしている僕の頭がそう上手く働いてくれるわけもなく。今は声を上げないことだけで精一杯だった。
「……、……、……、……、」
その幽霊はどうやら僕を見て何か呟いているようで。何か情報を得られないかと耳を澄ませたら、途切れ途切れながら言葉が聞こえてきた。
「オま、のせ……デ……マえの、せイで……おまエノせイデ……」
まるで僕に憎悪をぶつけてきているような言葉の羅列に、僕は理不尽を感じた。何故何もしていない僕が恨まれなければならないのだ、と。
「オマエが、ナけれ、ノ子、苦シまな……オマえ、おマエ、オマエガオマエがァァァァアアアアア!!!」
何故こんなところで犯していない罪に対して非難されなければならないのだ。理解に苦しむ。
こんな訳分からない悪霊(仮)からは逃げるに限る。少し冷えた頭で冷静にそう答えを導き出した僕は、それまで氷っていたように動かなかった足を無理やりにでも動かしていく。
「ァァァアアアアアァァアアァアアア!!!」
ベチョ、ベチョ、と足音を立てながら、そして意味もない音を口から発しながら女は追いかけてきた。
どこまで追いかけてくるのかは分からないが、短期的に振り切らないと体力のない僕はアッサリ捕まるだろう。
今は女がいた墓地から僕がいた道路までのアドバンテージのおかげで捕まっていないだけに過ぎないのだから。アレ、相当足速い。
どこか隠れられる場所を探しつつ、とにかく全力疾走で村を走り抜けるのだった。
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