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14*どうなっていくと思う? -5/
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「私が他の子たちよりも早くに『病を終えた』のは、私の年齢が『彼』よりも上で、つまり、魔術が得意で、戦力差があったから、だと思います。私は『彼』を追い出して、元の私に戻りました。その時の感覚を、よく、覚えて、います……私は『彼』を殺したのだと……」
目にハンカチを当てて「アリス」は語る。
「私は必死でした。でも、『彼』も必死だった……そう思えてならないんです。相手を殺さなければ、殺される。そう思っていたのは二人とも同じだったから。同じ体に入っていて、少しは『彼』の言葉も聞いて……私は、『彼』のことを私と何も変わらない、普通の人だと思った。とてもリアルな心を持っていて、多分、少年だったんです。でも、私は、彼を、自分のために、ためだけに……」
「しかし今、君は、その行動の結果、ここに存在している」
口を挟んだのはヒドラジアだった。手首に手をやって、癖のようにカサカサの肌をこする。普段から肌が荒れていたせいで、その乾燥がラディアのかけた服を乾かす占術のせいだとはバレていない。
「ぼかして話していたが君は、自分の素性が明かされてしまえば家族に迷惑が及ぶことを心配していた口ぶりだった。家族を大事に思いながらも勇気を出してここへ来た。その誇り高い精神を、君の家族も誇りに思っているだろう。……いや、君の家族のも知らないくせに軽率なことを口にしたな」
「……」
「私は、息子が無事でいてくれればそれでいい。たとえ犠牲があろうとも、無事でいてくれる、それだけで……」
「……ヒドラジア様……」
「独り言です」
ヒドラジアは「アリス」から目をそむけ、エレジニアの方を向いた。
「これは独り言だが……私の負けです。好きにすれば良い」
吐き捨てるように言って、ソファーに深く背を預けた。
「もう知っているんでしょう。私の息子は憑き児病だ! ヴィトガーズの名を貶めるなり、今ここで嘲笑うなり、好きになされば良い」
「勝ちも負けもないことよ、ヒドラジアさん」
「私のことなど勝負の土台にも載せたくありませんか」
「いまあなたが言うことは、それなのかしら?」
「何を私に求めているんです!」
「あなたが言わなければいけないと感じている言葉を」
「私は……貴女には……貴女のせいで……」
「もちろん、あなたがしたいと思うことをなさってもいいのよ。まあ、まわりは止めるかもしれませんけどね」
かばうように控えるラディアを見て、エレジニアは苦笑する。
「……なぜ貴女が言う。そこのメイドでもそこらの小間使いでも良い。貴女以外に、救いの手を伸ばされたかった」
「その理由はね、わたしも救いをもとめているからよ」
「……貴女が? 私に?」
「あなたとわたしのことは、ヴィル君には関係のないこと。でも未来を考えれば、わたしが知らんぷりはできないわ。わたしのかわいいキャメちゃんも憑き児になっている以上、どうやら、わたしたちの家は深く手を組まなければいけないのだもの」
「……カメリア嬢も、憑き児に……?」
「ええ。ヒドラジアさん、あなたとわたしの間のこと……『ラック』のことをキャメちゃんは知らないし、あなたのことだからヴィル君にも話していないでしょう? ならば、後でいくらでもあなたのために時間と努力を割きましょう。関わるのすら嫌だと言うならもう会わないわ、でもそれは、二人の間に留めておきましょう。未来に引きずる問題ではないわ。……わたしはあなたに、協力を願っているのよ。心から、ジュナイン神に誓って」
ヒドラジアはしばらく黙っていた。
「……貴女のことは好きになれそうにありません」
それから首を振って、頭を下げた。
「息子のヴィラーレを助けていただきたい。その為にヴィトガーズができることは何でもします……協力してください」
【協力者ヒドラジア】
「……って訳でですねー、ヒドラジア様、養護院での研究に滅茶苦茶私財を投じてくださったんですよー! あ、そうなんです、ひとまず例の修道院を乗っ取っ……お金の力で融通がきくようにして、ヴィラーレ様の容態確認して、なんとか栄養状態の改善とか色々できたんですよ! ご飯もろくに食べてなかったみたいで、かなり危ない状態だったみたいですけど、野生の飛び鹿の捕獲に慣れてる獣医の方がですね、グイグイッと後ろから抑えこんで回復系の術をですね、グイッと! いやー、動物憑きの可能性があるってことで揃えたお医者さんが役に立つとは! あの手腕には私も危うく惚れそうになりました! ここまでがたったの一日の出来事です! 凄くありません?」
返事はない。それでもラディアは扉に背をもたれて話し続ける。
「愛されているんですよ、お嬢様は。それ以上に何も私からの報告はありません。もちろん私も大好きです、カメリアお嬢様」
目にハンカチを当てて「アリス」は語る。
「私は必死でした。でも、『彼』も必死だった……そう思えてならないんです。相手を殺さなければ、殺される。そう思っていたのは二人とも同じだったから。同じ体に入っていて、少しは『彼』の言葉も聞いて……私は、『彼』のことを私と何も変わらない、普通の人だと思った。とてもリアルな心を持っていて、多分、少年だったんです。でも、私は、彼を、自分のために、ためだけに……」
「しかし今、君は、その行動の結果、ここに存在している」
口を挟んだのはヒドラジアだった。手首に手をやって、癖のようにカサカサの肌をこする。普段から肌が荒れていたせいで、その乾燥がラディアのかけた服を乾かす占術のせいだとはバレていない。
「ぼかして話していたが君は、自分の素性が明かされてしまえば家族に迷惑が及ぶことを心配していた口ぶりだった。家族を大事に思いながらも勇気を出してここへ来た。その誇り高い精神を、君の家族も誇りに思っているだろう。……いや、君の家族のも知らないくせに軽率なことを口にしたな」
「……」
「私は、息子が無事でいてくれればそれでいい。たとえ犠牲があろうとも、無事でいてくれる、それだけで……」
「……ヒドラジア様……」
「独り言です」
ヒドラジアは「アリス」から目をそむけ、エレジニアの方を向いた。
「これは独り言だが……私の負けです。好きにすれば良い」
吐き捨てるように言って、ソファーに深く背を預けた。
「もう知っているんでしょう。私の息子は憑き児病だ! ヴィトガーズの名を貶めるなり、今ここで嘲笑うなり、好きになされば良い」
「勝ちも負けもないことよ、ヒドラジアさん」
「私のことなど勝負の土台にも載せたくありませんか」
「いまあなたが言うことは、それなのかしら?」
「何を私に求めているんです!」
「あなたが言わなければいけないと感じている言葉を」
「私は……貴女には……貴女のせいで……」
「もちろん、あなたがしたいと思うことをなさってもいいのよ。まあ、まわりは止めるかもしれませんけどね」
かばうように控えるラディアを見て、エレジニアは苦笑する。
「……なぜ貴女が言う。そこのメイドでもそこらの小間使いでも良い。貴女以外に、救いの手を伸ばされたかった」
「その理由はね、わたしも救いをもとめているからよ」
「……貴女が? 私に?」
「あなたとわたしのことは、ヴィル君には関係のないこと。でも未来を考えれば、わたしが知らんぷりはできないわ。わたしのかわいいキャメちゃんも憑き児になっている以上、どうやら、わたしたちの家は深く手を組まなければいけないのだもの」
「……カメリア嬢も、憑き児に……?」
「ええ。ヒドラジアさん、あなたとわたしの間のこと……『ラック』のことをキャメちゃんは知らないし、あなたのことだからヴィル君にも話していないでしょう? ならば、後でいくらでもあなたのために時間と努力を割きましょう。関わるのすら嫌だと言うならもう会わないわ、でもそれは、二人の間に留めておきましょう。未来に引きずる問題ではないわ。……わたしはあなたに、協力を願っているのよ。心から、ジュナイン神に誓って」
ヒドラジアはしばらく黙っていた。
「……貴女のことは好きになれそうにありません」
それから首を振って、頭を下げた。
「息子のヴィラーレを助けていただきたい。その為にヴィトガーズができることは何でもします……協力してください」
【協力者ヒドラジア】
「……って訳でですねー、ヒドラジア様、養護院での研究に滅茶苦茶私財を投じてくださったんですよー! あ、そうなんです、ひとまず例の修道院を乗っ取っ……お金の力で融通がきくようにして、ヴィラーレ様の容態確認して、なんとか栄養状態の改善とか色々できたんですよ! ご飯もろくに食べてなかったみたいで、かなり危ない状態だったみたいですけど、野生の飛び鹿の捕獲に慣れてる獣医の方がですね、グイグイッと後ろから抑えこんで回復系の術をですね、グイッと! いやー、動物憑きの可能性があるってことで揃えたお医者さんが役に立つとは! あの手腕には私も危うく惚れそうになりました! ここまでがたったの一日の出来事です! 凄くありません?」
返事はない。それでもラディアは扉に背をもたれて話し続ける。
「愛されているんですよ、お嬢様は。それ以上に何も私からの報告はありません。もちろん私も大好きです、カメリアお嬢様」
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