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十二拍十二本
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いち、
に、
さん、ととんっと。風を乗って乗り継いで、おうい、泣き爺や泣き婆や。
『おお、百や。鷹子神様はご息災かな』
『爺さんや、元気にされていますよ。それより、ほら。ここに泣きそうな子が』
『おお、これは。怖かったねえ』
「え、あ、は、」
『まずは湯をお浴び……』
「な、なん、お前たち、」
子泣き爺と子泣き婆は知ってるでしょう。間違った伝わり方をしちゃいるが実のところ、夢喰い獏と似たような妖怪で、子供の泣き声を食って笑顔にすんのさ。今はこうやって訳ありの子を預かっては、夜泣きしなくなるまでしっかりと育て上げんのにはまってるそうだぜ。だから諦めて世話焼かれときな、小僧。
「そんな事、言われても……あぁあ……」
よし、風呂場に連れて行かれたな。ん? どうした汐封。
「……ここは一体?」
言った通り、捨て子だの訳ありっ子を道楽で爺婆が育ててるだけだよ。それがあちこちで縁を作って、いつからか、ここに居るがきには誰も手ぇ出せねえようになったのさ。こういう、本物の安全な所ってのを覚えとくとこっちの世界は生きやすいぜ。鷹っ子だって小せえ頃はここに預けたんだ。
「……人間の間に伝わっている妖怪の姿と違いますね」
そうかい? 実際に子供を育ててんだから、それを聞いて子の泣き声を真似る妖怪だと思われたんだろうさ。爺のような面をした重い妖怪をあやしてた時に、一度や二度、近くの人間に預けたことがあったかもしれねえし。
「でも、人の認識に妖怪の存在は引っ張られるんでしょう? 実像が違うって事あるんですか?」
ああ、そこ。人間があれこれ言うせいで、子供の泣き真似ができるし、石のように重くなれるそうですぜ。で、子育てはできねえとか、子供の泣き声じゃねえものを食うって話はどこに転がってるんで?
「ああ! 言葉で縛られていない部分は、好きにできるんですね」
そうそ。急に人気になんかなっちまうとね、ほら、ぬらりひょんとか。長生きで話の合う奴なんだが、人間の間じゃ、最近何かとやらかしてる事になってるでしょう? 忙しくなっちまってて。
「ああー……人気キャラですもんね」
だから、あっしの事はあんまり人に言いふらすんじゃねえぜ。余計な仕事抱えたくねえの、あっしは。
「百一本さんは……」
あ、そうだ。あっしの事ばっかり聞かれるのはずるいですねぇ。あぁたの話も聞こうじゃないの。
あぁたの母親ってのはどんな人間なんです?
「……美人らしいですよ」
ほう。
「…………他に言うことがないんです。はははっ、空っぽな女。父は俗物なんです。霊力も妖気への耐性も体力も智恵も他人への興味も何一つ無いあの女の、顔と胎がとにかく欲しかったらしい」
話したことは?
「ありませんよ。顔も合わせない。ただ今でも屋敷の離れで囲われ続けてます」
そうかい。
「何故聞いたんですか?」
その縁、切れるかい?
「え?」
鷹っ子に預けた断ち切り鋏があるでしょう? 切れるぜ、縁。
「必要なら喜んで」
ほう。
「ええと、男は父や母に執着するとか言うでしょう? 父の能力は八歳の頃には超えてましたし、私が執着している可能性があるとするとあの女かと。今のところ不便を感じないのでそのままにしていましたが、百一本さんが邪魔なら断ちます。導道祖教も便利なだけの立場ですし」
信者にゃ慕われてるじゃねえの。
「私の見た目と上っ面で寄せた人です。有益な人は居るでしょうが、私が必要としていないんですよ。百一本さんの前に割り込みたいなら、せめて、私の心を覗いて、その上で関わってくれる方じゃないと話になりません。貴方みたいに」
手ぇ取って胸に当てんな。あっしの腕は道具じゃねえぜ。ったく、妖気酔いでもしてんのかい?
「素面ですよ。すぐ酔ってしまわないように、貴方の隣で姿をはっきり見ていられるように、時間をかけて慣らしてきたんですから」
冗談だよ。冷静な顔だ。
「ね、どうです? 私を特別にしてくれるなら、どんな縁でも切って百一本さんと一緒に居ますよ」
……分かったよ。あぁたの覚悟とやらはよぅく分かった。
少なくともだいだらぼっちの事が片付くまでは、あっしと一緒に居りゃいいさ。
「! ありがとうございます!」
さて、奴が風呂から上がって来たら話を……ん? 婆、どうしやした?
「百ちゃんや、大変。鷹ちゃんが、あぁ、あら」
汐封、戻るぜ。
「今ですか?」
今すぐ。……婆、あっしに任せなせえや。
「えぇ……」
「百一本さん、その」
……聞きたい事あんなら聞きな。
「では遠慮なく。あの子泣き爺と子泣き婆は百一本さんの親か何かなんですか?」
そこから聞くのかい?
違えさ。百年くらい前だったかな、何にも成れずただ無名の妖怪として山奥うろついてるところを見つけたから、子育てでもしてみたらどうかって言ったんですよ。そしたらあっしが最初のがきにされちまった。
「育て親という事ですか……?」
そん時ゃもう立派なおとなの妖怪だったんで、形だけですがね。まあ、たった二つの妖怪の前でだけ子供のふりすんのも悪かねえもんでさあ。
「へーえ……それで『百ちゃん』……」
こっち見るない。こっ恥ずかしい話はここで止めだ。
「……では、次。今、私達にはどんな危機が迫っていますか?」
鷹っ子に何かあった。
子泣き婆は、育てたことのある子の泣き声は、遠くに居ても分かるのさ。そう出来てるんだ。
「ああ、それで。でも彼は百一本さんの目隠しの中に居るはずですよね?」
ああ、だからまずいのさ。先を見な。
「! 外から見えるようになってる……あんなよく出来た呪いを破ったんですね……」
酷ぇな。これじゃ来放題入り放題じゃねえか。
掴まってな。一気に突っ込んで中ぁ片付けるぜ。
……っどどんっ!
入りっ端からおとろし姐さん直伝の脅かし技、妖気の叩きつけだ。まともに浴びちゃ、しばらく脚が痺れちまいますぜ。っと、呪い屋くずれが一、二、三、四、五。
「この状況で私を頭数に入れないでください! ……この程度なら一人でいけます」
おぅ、頭ぁ鉄扇で殴りに行くか。なるほど喧嘩慣れしてやがる。丈夫な扇で軽い呪いを遠くから煽いで、安全に平和に事を済ませる事を覚えろってあっしの願いが、またしても露と消えて血飛沫に変わりやがった。
「呪いや妖術だけで人を好き勝手にできると思っている方々って、結構、弱いですよねっ!」
物理的にはな。あぁあぁ、歯も飛んでら。四人相手でもうまく立ち回りゃこんなものですか。
そんじゃあっしは、あぁたの後ろから回り込んでくる最後の一人の頭を拝借。
おねんねしてなさいな。
「え?」
さぁ済んだ。急いで奥に行きやしょう。
「今何したんですか、百一本さん」
あ? あぁたの見逃したのを、ちょちょっと片付けただけですよ。平和的に。
「一瞬で倒しましたよね? 気絶してる……何をしたんですか?」
そんなに騒ぐことかい。あんまりうるせえとあぁたにも……は、したくねぇですね。
「百一本さんの口で塞いでくれても良いですよ」
それより奥だ。鷹っ子? 鷹っ子!
『焔先生!』
おおっと。汐封、目ぇ閉じな。こいつはぎらぎらしてやがる。
「戸の隙間から光が漏れてますね」
開けるぜ、鷹っ子。
『先生、先生! 先生、先生、先生……』
あぁああ、鷹っ子。よくやった。こんなにぼろぼろになるまで来た奴らを食い続けて、あいつら呪い屋が近づけねえように翼の艶で神気を強く光らして周りを覆ってたんだな。良い使い方だ。よく思いついた。よしよし、もう来ねえから大丈夫だ。落ち着け。
『先生、鋏が、断ち鋏が取られたんだぞ!』
鋏? そうかい。まあ大した事じゃねえさ。
『あんなに言われてたのに、駄目だったんだ! 守れなかったんだぞ! 先生が任せてくれたのに! 油断なんかしたんだ!』
落ち着け。鷹っ子、問題ねえ。
『でもあれが取られたら先生が、先生が大変になるんだぞ……』
ただの切れ味の良い鋏さ。気にする事じゃねえよ。
『でも言ってた。これがあれば計画が進むって。先生から取り上げられて良かったって、言ってたんだぞ!』
そんな事は大した事じゃあねえ。鷹っ子、あぁたが今、怪我もしてねえ事の方がよっぽど大事だぜ。
『せん、先生……』
ああ本当に、良かった。
汐封、爺婆の所に戻るぜ。いくらあいつでも襲えない場所だしな。
「百一本さん」
鷹っ子、持ってくもんあるかい。
『先生……』
無いか? なら良し。
「百一本さん」
汐封、向こう着いたらあの坊ちゃんから話聞こうぜ。あぁたも、ひと浴びして血を落とさにゃ。
「百一本さん。無事か、としか聞かないという事は。襲撃者に心当たりがあるんですね」
汐封!
『先生、そ、そうだぞ。だって、だって』
鷹っ子、言わなくて良い。分かってる。だから言うな。
……はあ、相変わらずひとが悪いねぇ、あぁたは。
「褒め言葉と受け取っても?」
駄目に決まってんだろうが。
……そうだよ、あいつさ。あぁたに調査を頼んだ「区域」で事を起こしてる奴で、多分「ソウ様」の正体さ。
こんなに早く派手に動くと思ってなかったあっしのミスだ。裁ち鋏が欲しいとも知らなかったしな。
「成、程」
分かっただろ? だからその拳を下ろしな、汐封。今じゃねえ。今は怒りを蓄えておけ。
「分かりました。じゃあ、百一本さんも」
あ?
「その焔は抑えましょう。……妖気が流石に、濃い、です」
……悪い。
気ぃ立ってんなぁ……近づけるか?
「はい。このくらいならまだ大丈夫です。この通り」
……そ、いつぁ……。
「?」
ああいや何でもねえ。鷹っ子、今日はあぁたもあっしと手ぇ繋いで行くんだぜ。ほら、貸しな。
『先生……』
そんな面するんじゃあねえさ。ほら、あんまりめそめそしてやがるから爺が上まで迎え来ちまった。
爺や婆やにとっちゃ、あぁたはまだ子供なんだぜ。悪い事ぁ何もねえ。しばらく休みな。
って訳で、ここからしばらくの話は伏せちまいましょう。何故かって? 鷹っ子がその後泣いたのなんのって事を知られたかねぇからさ。語られざる事は好きにできるって事さ。あっしら、妖怪ですからね。
「百一本さん。大丈夫ですか?」
大丈夫さ。それで? あの人間の坊ちゃん、何だって?
「核心を突く程ではありませんでしたが、『ソウ様』の活動場所なんかをいくつも教えてくれましたよ。そのうちの一つに見覚えがありました」
ん?
「茶霞名義の別荘です」
誰でしたっけ?
「…………私、女性を連れ歩いて百一本さんに嫉妬してもらう作戦は一生しません……」
……?
に、
さん、ととんっと。風を乗って乗り継いで、おうい、泣き爺や泣き婆や。
『おお、百や。鷹子神様はご息災かな』
『爺さんや、元気にされていますよ。それより、ほら。ここに泣きそうな子が』
『おお、これは。怖かったねえ』
「え、あ、は、」
『まずは湯をお浴び……』
「な、なん、お前たち、」
子泣き爺と子泣き婆は知ってるでしょう。間違った伝わり方をしちゃいるが実のところ、夢喰い獏と似たような妖怪で、子供の泣き声を食って笑顔にすんのさ。今はこうやって訳ありの子を預かっては、夜泣きしなくなるまでしっかりと育て上げんのにはまってるそうだぜ。だから諦めて世話焼かれときな、小僧。
「そんな事、言われても……あぁあ……」
よし、風呂場に連れて行かれたな。ん? どうした汐封。
「……ここは一体?」
言った通り、捨て子だの訳ありっ子を道楽で爺婆が育ててるだけだよ。それがあちこちで縁を作って、いつからか、ここに居るがきには誰も手ぇ出せねえようになったのさ。こういう、本物の安全な所ってのを覚えとくとこっちの世界は生きやすいぜ。鷹っ子だって小せえ頃はここに預けたんだ。
「……人間の間に伝わっている妖怪の姿と違いますね」
そうかい? 実際に子供を育ててんだから、それを聞いて子の泣き声を真似る妖怪だと思われたんだろうさ。爺のような面をした重い妖怪をあやしてた時に、一度や二度、近くの人間に預けたことがあったかもしれねえし。
「でも、人の認識に妖怪の存在は引っ張られるんでしょう? 実像が違うって事あるんですか?」
ああ、そこ。人間があれこれ言うせいで、子供の泣き真似ができるし、石のように重くなれるそうですぜ。で、子育てはできねえとか、子供の泣き声じゃねえものを食うって話はどこに転がってるんで?
「ああ! 言葉で縛られていない部分は、好きにできるんですね」
そうそ。急に人気になんかなっちまうとね、ほら、ぬらりひょんとか。長生きで話の合う奴なんだが、人間の間じゃ、最近何かとやらかしてる事になってるでしょう? 忙しくなっちまってて。
「ああー……人気キャラですもんね」
だから、あっしの事はあんまり人に言いふらすんじゃねえぜ。余計な仕事抱えたくねえの、あっしは。
「百一本さんは……」
あ、そうだ。あっしの事ばっかり聞かれるのはずるいですねぇ。あぁたの話も聞こうじゃないの。
あぁたの母親ってのはどんな人間なんです?
「……美人らしいですよ」
ほう。
「…………他に言うことがないんです。はははっ、空っぽな女。父は俗物なんです。霊力も妖気への耐性も体力も智恵も他人への興味も何一つ無いあの女の、顔と胎がとにかく欲しかったらしい」
話したことは?
「ありませんよ。顔も合わせない。ただ今でも屋敷の離れで囲われ続けてます」
そうかい。
「何故聞いたんですか?」
その縁、切れるかい?
「え?」
鷹っ子に預けた断ち切り鋏があるでしょう? 切れるぜ、縁。
「必要なら喜んで」
ほう。
「ええと、男は父や母に執着するとか言うでしょう? 父の能力は八歳の頃には超えてましたし、私が執着している可能性があるとするとあの女かと。今のところ不便を感じないのでそのままにしていましたが、百一本さんが邪魔なら断ちます。導道祖教も便利なだけの立場ですし」
信者にゃ慕われてるじゃねえの。
「私の見た目と上っ面で寄せた人です。有益な人は居るでしょうが、私が必要としていないんですよ。百一本さんの前に割り込みたいなら、せめて、私の心を覗いて、その上で関わってくれる方じゃないと話になりません。貴方みたいに」
手ぇ取って胸に当てんな。あっしの腕は道具じゃねえぜ。ったく、妖気酔いでもしてんのかい?
「素面ですよ。すぐ酔ってしまわないように、貴方の隣で姿をはっきり見ていられるように、時間をかけて慣らしてきたんですから」
冗談だよ。冷静な顔だ。
「ね、どうです? 私を特別にしてくれるなら、どんな縁でも切って百一本さんと一緒に居ますよ」
……分かったよ。あぁたの覚悟とやらはよぅく分かった。
少なくともだいだらぼっちの事が片付くまでは、あっしと一緒に居りゃいいさ。
「! ありがとうございます!」
さて、奴が風呂から上がって来たら話を……ん? 婆、どうしやした?
「百ちゃんや、大変。鷹ちゃんが、あぁ、あら」
汐封、戻るぜ。
「今ですか?」
今すぐ。……婆、あっしに任せなせえや。
「えぇ……」
「百一本さん、その」
……聞きたい事あんなら聞きな。
「では遠慮なく。あの子泣き爺と子泣き婆は百一本さんの親か何かなんですか?」
そこから聞くのかい?
違えさ。百年くらい前だったかな、何にも成れずただ無名の妖怪として山奥うろついてるところを見つけたから、子育てでもしてみたらどうかって言ったんですよ。そしたらあっしが最初のがきにされちまった。
「育て親という事ですか……?」
そん時ゃもう立派なおとなの妖怪だったんで、形だけですがね。まあ、たった二つの妖怪の前でだけ子供のふりすんのも悪かねえもんでさあ。
「へーえ……それで『百ちゃん』……」
こっち見るない。こっ恥ずかしい話はここで止めだ。
「……では、次。今、私達にはどんな危機が迫っていますか?」
鷹っ子に何かあった。
子泣き婆は、育てたことのある子の泣き声は、遠くに居ても分かるのさ。そう出来てるんだ。
「ああ、それで。でも彼は百一本さんの目隠しの中に居るはずですよね?」
ああ、だからまずいのさ。先を見な。
「! 外から見えるようになってる……あんなよく出来た呪いを破ったんですね……」
酷ぇな。これじゃ来放題入り放題じゃねえか。
掴まってな。一気に突っ込んで中ぁ片付けるぜ。
……っどどんっ!
入りっ端からおとろし姐さん直伝の脅かし技、妖気の叩きつけだ。まともに浴びちゃ、しばらく脚が痺れちまいますぜ。っと、呪い屋くずれが一、二、三、四、五。
「この状況で私を頭数に入れないでください! ……この程度なら一人でいけます」
おぅ、頭ぁ鉄扇で殴りに行くか。なるほど喧嘩慣れしてやがる。丈夫な扇で軽い呪いを遠くから煽いで、安全に平和に事を済ませる事を覚えろってあっしの願いが、またしても露と消えて血飛沫に変わりやがった。
「呪いや妖術だけで人を好き勝手にできると思っている方々って、結構、弱いですよねっ!」
物理的にはな。あぁあぁ、歯も飛んでら。四人相手でもうまく立ち回りゃこんなものですか。
そんじゃあっしは、あぁたの後ろから回り込んでくる最後の一人の頭を拝借。
おねんねしてなさいな。
「え?」
さぁ済んだ。急いで奥に行きやしょう。
「今何したんですか、百一本さん」
あ? あぁたの見逃したのを、ちょちょっと片付けただけですよ。平和的に。
「一瞬で倒しましたよね? 気絶してる……何をしたんですか?」
そんなに騒ぐことかい。あんまりうるせえとあぁたにも……は、したくねぇですね。
「百一本さんの口で塞いでくれても良いですよ」
それより奥だ。鷹っ子? 鷹っ子!
『焔先生!』
おおっと。汐封、目ぇ閉じな。こいつはぎらぎらしてやがる。
「戸の隙間から光が漏れてますね」
開けるぜ、鷹っ子。
『先生、先生! 先生、先生、先生……』
あぁああ、鷹っ子。よくやった。こんなにぼろぼろになるまで来た奴らを食い続けて、あいつら呪い屋が近づけねえように翼の艶で神気を強く光らして周りを覆ってたんだな。良い使い方だ。よく思いついた。よしよし、もう来ねえから大丈夫だ。落ち着け。
『先生、鋏が、断ち鋏が取られたんだぞ!』
鋏? そうかい。まあ大した事じゃねえさ。
『あんなに言われてたのに、駄目だったんだ! 守れなかったんだぞ! 先生が任せてくれたのに! 油断なんかしたんだ!』
落ち着け。鷹っ子、問題ねえ。
『でもあれが取られたら先生が、先生が大変になるんだぞ……』
ただの切れ味の良い鋏さ。気にする事じゃねえよ。
『でも言ってた。これがあれば計画が進むって。先生から取り上げられて良かったって、言ってたんだぞ!』
そんな事は大した事じゃあねえ。鷹っ子、あぁたが今、怪我もしてねえ事の方がよっぽど大事だぜ。
『せん、先生……』
ああ本当に、良かった。
汐封、爺婆の所に戻るぜ。いくらあいつでも襲えない場所だしな。
「百一本さん」
鷹っ子、持ってくもんあるかい。
『先生……』
無いか? なら良し。
「百一本さん」
汐封、向こう着いたらあの坊ちゃんから話聞こうぜ。あぁたも、ひと浴びして血を落とさにゃ。
「百一本さん。無事か、としか聞かないという事は。襲撃者に心当たりがあるんですね」
汐封!
『先生、そ、そうだぞ。だって、だって』
鷹っ子、言わなくて良い。分かってる。だから言うな。
……はあ、相変わらずひとが悪いねぇ、あぁたは。
「褒め言葉と受け取っても?」
駄目に決まってんだろうが。
……そうだよ、あいつさ。あぁたに調査を頼んだ「区域」で事を起こしてる奴で、多分「ソウ様」の正体さ。
こんなに早く派手に動くと思ってなかったあっしのミスだ。裁ち鋏が欲しいとも知らなかったしな。
「成、程」
分かっただろ? だからその拳を下ろしな、汐封。今じゃねえ。今は怒りを蓄えておけ。
「分かりました。じゃあ、百一本さんも」
あ?
「その焔は抑えましょう。……妖気が流石に、濃い、です」
……悪い。
気ぃ立ってんなぁ……近づけるか?
「はい。このくらいならまだ大丈夫です。この通り」
……そ、いつぁ……。
「?」
ああいや何でもねえ。鷹っ子、今日はあぁたもあっしと手ぇ繋いで行くんだぜ。ほら、貸しな。
『先生……』
そんな面するんじゃあねえさ。ほら、あんまりめそめそしてやがるから爺が上まで迎え来ちまった。
爺や婆やにとっちゃ、あぁたはまだ子供なんだぜ。悪い事ぁ何もねえ。しばらく休みな。
って訳で、ここからしばらくの話は伏せちまいましょう。何故かって? 鷹っ子がその後泣いたのなんのって事を知られたかねぇからさ。語られざる事は好きにできるって事さ。あっしら、妖怪ですからね。
「百一本さん。大丈夫ですか?」
大丈夫さ。それで? あの人間の坊ちゃん、何だって?
「核心を突く程ではありませんでしたが、『ソウ様』の活動場所なんかをいくつも教えてくれましたよ。そのうちの一つに見覚えがありました」
ん?
「茶霞名義の別荘です」
誰でしたっけ?
「…………私、女性を連れ歩いて百一本さんに嫉妬してもらう作戦は一生しません……」
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