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-112°F 第■話「密室」
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「おうい、もし、もし!」
自分は声を掛けながら車を降りました。刑事さんがうっかり車内に忘れていった警察手帳を届けに追いかけるのです。
……と、いう事情があれば、少しくらいなら現場に近づいても怒られませんでしょう?
いえいえ、本当に刑事さんがお忘れになったものを、自分は善意でお届けに向かったのですよ。まさか刑事さんのポケットからスリ取るなんてそんなそんな仏罰の下りそうな事などしておりませんとも。本当に。
ところで自分が雪山にやって来た理由は、ぼんやりとした噂などではありませんでした。さる珍しいお客「霊」からの情報です。
『私を殺した男が、恐ろしい男が、この場所を訪れる、と言ったんです』
こんな話を伺ってしまっては、確かめずにはいられないでしょう?
『どして、きちゃったの?』
「おやお嬢さん」
自分はお子さんを見つけて屈みました。
ああ、雪の上に物理的に足跡をつける事ができるタイプのお方のようです。前世の未練や、想い、が深いと現世への干渉力が大きくなる傾向がありますが、彼女もそうでしょうか。
『きちゃだめだったの。ここはだめなの』
「そうなのですか?」
痩せた体に、青白いのに霜焼けで赤い肌。かなり栄養状態も悪かったのでしょう。
『はじめからだめだったの。ここは、つめたいところだから。かみさまがいるところだから。かみさまのためのところだったのに』
「神様?」
『わたしたちのろうそくを、けそうとするの。わたしたちも、ろうそくでしかあたたまれないの』
「……それは」
『いちどにげたひとは、もうぜったいにつかまるの。だから、きちゃだめだったのに……』
最後にそれだけ言って、彼女は雪の中に消えてしまいました。
(……おやおや?)
自分はふいに、いつも持ち歩いている数珠をポケットに入れていないことに気付きました。なんということのない、ただの、普段は存在を忘れているようなお守りに過ぎないのですが……ポケットを空にしておきたくて出したような気もします。
ああ、スリなどするものではありませんね。
自分は声を掛けながら車を降りました。刑事さんがうっかり車内に忘れていった警察手帳を届けに追いかけるのです。
……と、いう事情があれば、少しくらいなら現場に近づいても怒られませんでしょう?
いえいえ、本当に刑事さんがお忘れになったものを、自分は善意でお届けに向かったのですよ。まさか刑事さんのポケットからスリ取るなんてそんなそんな仏罰の下りそうな事などしておりませんとも。本当に。
ところで自分が雪山にやって来た理由は、ぼんやりとした噂などではありませんでした。さる珍しいお客「霊」からの情報です。
『私を殺した男が、恐ろしい男が、この場所を訪れる、と言ったんです』
こんな話を伺ってしまっては、確かめずにはいられないでしょう?
『どして、きちゃったの?』
「おやお嬢さん」
自分はお子さんを見つけて屈みました。
ああ、雪の上に物理的に足跡をつける事ができるタイプのお方のようです。前世の未練や、想い、が深いと現世への干渉力が大きくなる傾向がありますが、彼女もそうでしょうか。
『きちゃだめだったの。ここはだめなの』
「そうなのですか?」
痩せた体に、青白いのに霜焼けで赤い肌。かなり栄養状態も悪かったのでしょう。
『はじめからだめだったの。ここは、つめたいところだから。かみさまがいるところだから。かみさまのためのところだったのに』
「神様?」
『わたしたちのろうそくを、けそうとするの。わたしたちも、ろうそくでしかあたたまれないの』
「……それは」
『いちどにげたひとは、もうぜったいにつかまるの。だから、きちゃだめだったのに……』
最後にそれだけ言って、彼女は雪の中に消えてしまいました。
(……おやおや?)
自分はふいに、いつも持ち歩いている数珠をポケットに入れていないことに気付きました。なんということのない、ただの、普段は存在を忘れているようなお守りに過ぎないのですが……ポケットを空にしておきたくて出したような気もします。
ああ、スリなどするものではありませんね。
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