40 / 137
40
しおりを挟む「あの子こそ、演技をしているんじゃないですか? 悲劇のヒロインになりきって、ユージーン様に同情して欲しいんです! みんなからかまって欲しいだけなんですよっ! 騙されないでくださいっ!!」
……僕は、悲劇のヒロインだったの?
一度しか話したことがないのに、すごい言われようだ。
メルヴィン君に嫌われるようなことをした覚えがなかった僕は、首を傾げる。
「ヴァイオレット様と一緒にいる時の、優しいユージーン様に戻ってくださいっ!! 僕はユージーン様のためなら、なんだってしますっ!!」
熱烈な愛の告白のような発言をするメルヴィンくんが、声を張り上げる。
あまりに必死な様子に、僕は気付いてしまった。
エドワードのことを、期間限定の恋人だと言っていたメルヴィン君は、もしかしたらユージーン様のことが好きなのかもしれない。
だけど、なにも感じていない人形のような顔をするユージーン様は、くつくつと静かに笑い出した。
二人の温度差に、僕の体は小刻みに震える。
「よく吠える犬だな? みんなもそう思わないか?」
そう言って笑ったユージーン様が、使用人たちをゆっくりと見回した。
ユージーン様の言葉に同意しているのか、みんながメルヴィンくんを見る目は、哀れだと言わんばかりだ。
僕が粗相をしても、絶対に怒ることのない人たちが、ぞっとするほどの異様な迫力に満ちている。
みんながいつも微笑んでいる顔しか見たことがなかった僕は、余計に恐ろしく見えた。
「躾がなっていないな? ……いや、逆によく躾けられているのだろう」
「っ……な、なにを仰っているのか、」
「ああ、お前はあの悍しい邸に招かれたことがなかったな? 一度行ってみるがいい。その目で確かめてみろ」
「…………え?」
「それから、一番大事なことを言っていなかったな? ノエルを侮辱することは許さない。私だけではない、ここにいる全員が同じ意見だ。もし、次また同じことをするつもりなら──」
屈んだユージーン様がメルヴィンくんに耳打ちをして、空色の瞳はカッと見開かれた。
急に静かになったメルヴィンくんは、使用人たちに連れられて屋敷を出て行った。
なにがなんだかわからなくて呆然としていた僕は、マシュー先生と目が合った気がした。
みんなが背を向けているのに、マシュー先生だけは僕の方を向いている。
……魔法が解けていたのかもしれない。
二人の話に集中しすぎてしまった。
慌てる僕は、気付けば部屋まで猛ダッシュしていた。
ユージーン様たちが階段を上る気配を察知し、僕は待機する使用人の間をすり抜ける。
誰も気付いていないようだったから、抜け出したことは多分バレてはいないはず。
寝台に潜り込み、ぐっすりと眠っているテオを抱きしめて、強く目を瞑った。
しばらくして扉が開き、静かに寝台まで歩み寄る気配に、僕の背に冷や汗が流れる。
「ノエル、もう寝たのかな?」
メルヴィン君と話していた時とは違って、すごく甘い声。
ガチガチに固まっている僕の頭を優しく撫でたユージーン様は、退出するのかと思いきや、なぜか僕の隣に寝転んだ。
僕の心臓は、今にも飛び出そうなくらいバクバクと音を立てている。
ユージーン様の吐息が首筋にかかって、ぶるりと体が震えてしまった。
「悪い子だね、ノエル。どうやって部屋を抜け出したんだい?」
「っ、」
覗き見するようなことをしてしまったから、きっとユージーン様は怒っている。
体の震えが止められない。
でも、背後から僕を包み込むユージーン様の手は、すごく優しかった。
「ノエルは、私が怖い?」
「…………」
「もう部屋に戻るよ、おやすみ。……ごめんね、ノエル」
聞こえるか聞こえないかの声が、僕の耳に届いた。
128
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
愛などもう求めない
一寸光陰
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
【運命】に捨てられ捨てたΩ
あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる