期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん

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 部屋に戻ったフラヴィオは、小説を開く前にバレッタをつける。
 久しく鏡を手にすれば、緩んだ顔が映っていた。

「お似合いですよ」

「っ、ピエール様……。気配を消すのはやめていただけませんか? 心臓に悪いです」

「すみません、つい……」

 フラヴィオよりもにんまりと笑っているピエールは、まったく悪いと思っていない表情だ。
 クレムもピエールも体は大きいのに、気配を消すことが得意なのだ。
 恥ずかしくなるフラヴィオは、ピエールに揶揄われる前に小説を開いた。



(オウリョウ……リョウチ、ボッシュウ……エンダン……ミゲル、キケン……?)

 横領、領地没収は、なんとなく想像がつく。
 おそらく国に納めるべき税金を、ちょろまかしたのだろう。
 フィリッポは他人に仕事を丸投げしていたはずだから、無関係かも知れないが。
 賊を放置していた件もある。
 どちらにせよ、国王陛下から領主失格の烙印を押されたのだろう。

 母の愛したレオーネ領を手放すことになり、フラヴィオは気落ちする。
 だが、次に領主となる人物は、きっと国王陛下の信頼が厚く、有能な方になるだろう。
 今頃レオーネ領民は、大喜びしているはずだ。

(結局、私はなにもできなかったな……)

 不甲斐なく思うが、次は縁談についてだ。
 これは、フラヴィオかミゲルの話になる。
 領地を没収され、金のためにどちらかに政略結婚をさせるつもりなのだろう。
 フィリッポとミランダであれば、ミゲルではなくフラヴィオを生贄にするはずだ。

(だが……ミゲル、危険。つまり、ミゲルが無理やり嫁がされそうになっているのか……?)

 フラヴィオの居場所を把握できていない今、その可能性はないとは言い切れない。

(ミゲルのことだけは、なんとしてでも守りたい……)


 領地を没収されたのなら、フラヴィオのやることはひとつだ――。


「ピエール様。今すぐ、神官長にお会いしたいのですが……」

「神官長にですか?」

「はい。外出は出来ますか? もしくは、ミゲル・レオーネが私に会いに来たら、面会を許可してほしいのです」

 レオーネの姓を口にした瞬間、ピエールの眉がぴくっと持ち上がる。
 なにか言いたそうにしていたピエールだが、フラヴィオの恐ろしく厳粛した表情に気圧され、頷いていた。

「……わかりました。どちらにせよ、神官長に話を通す必要がありますね」

 すぐに動いてくれたピエールの背を見送ったフラヴィオは、自らを奮い立たせる。
 クレムの顔が脳裏に浮かんだが、フラヴィオはそっとバレッタを外していた――。

(私も役に立てる時が来た。これも全て、クレム様のおかげだな……)

 クレムに心から感謝するフラヴィオは、バレッタに唇を寄せる。


 キャシーは、ミゲルが危険人物だと伝えたつもりだったが、ミゲルは味方だと信じ切っているフラヴィオは、と読み違えていた――。


 
「そんな顔を見せられたら、期待してしまう」

「っ、」

 背筋がぞくりとするような声が響き、フラヴィオは息を呑んだ。
 漆黒色の瞳に射抜かれる。
 動揺するフラヴィオは、大切なバレッタを落としていた。

「ぁ……」

 いつのまにか扉の前に立っていたクレムが、ゆっくりとフラヴィオのもとへ近付いてくる。
 今すぐ逃げ出したいのに、身動きが取れない。

「私がつけてもいいか?」

 バレッタを拾ったクレムに問われる。
 目を見て話せないフラヴィオは、首を横に振っていた。

「っ…………だ、大丈夫――」

「ヴィオ」

 ぎゅっと目を瞑っていたが、これまでに無いほど優しい声で名を呼ばれ、フラヴィオは頷いていた。

 今度こそクレムの手でバレッタをつけてもらったフラヴィオだが、緊張のあまり体は硬直している。
 バレッタに唇を寄せている瞬間を、おそらく見られてしまった。
 フラヴィオの秘めていた気持ちを、クレムに気付かれている可能性が高い。

 今すぐ消えてしまいたいと思うのに、フラヴィオはクレムに背後から抱きしめられていた――。

「っ、クレム様……」

「私はヴィオの力になりたい。なにか悩みがあるなら、話してくれないか」

 逞しい腕にしがみつく。
 このまま甘えてしまいたい……。
 でも、クレムに迷惑をかけたくない。

 葛藤するフラヴィオだが、答えはすぐに出ていた――。













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