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48 ミランダ

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「でも、レオーネ伯爵はご存知でしたわよ? 横領が発覚したけれど、取り潰しにはならなかっただけよかったと、友人たちに話していたみたいよ?」

 信じられない話に、ミランダは開いた口が塞がらなかった。

(領地を没収されたら、収入がなくなるじゃないッ!! それなのに、なにがよかったのよッ!!)

 嘘だと思いたい。
 だがミランダは、すぐに人のせいにするフィリッポの性格をよく知っている。
 呑気な顔で笑っていそうだと想像出来てしまい、軽く眩暈がしていた。

「レオーネ伯爵は、昔から領地経営に関心がなかったものね?」

「わたくしからしてみれば、到底考えられないことだけれど……。ふふっ、ある意味助かったわね?」

「っ、」

 フィリッポが馬鹿にされていることに気付いたミランダは、カッと頬が赤く染まる。
 夫は無能である方がいいと思っていたミランダだが、赤の他人から馬鹿にされるのは耐えきれない。
 耳を塞ぎたい気持ちを必死に堪え、ミランダはぎゅっとドレスを握りしめる。

(ここで逃げ出してしまえば、社交界の中心人物たちの仲間入りが出来ない……)

 キツく握りしめていたミランダの手に、リュシエンヌはそっと柔らかな手を重ねた。

「ずっと陰で支えてくれていたお方がいなくなってしまったんだもの……。横領を見抜けなかったからといって、悲観することはないわ?」

「っ……」

 励ましの言葉をかけてくれているようにも思えるが、実際には違う。
 ミランダでは、フローラの代わりにはなれなかったと言われたのだ。
 伯爵夫人の器ではないと判断されていることに気付き、ミランダは顔色を失った。

 領地を任せていた男が、不正を働いていたことは知っていた。
 フローラという監視役がいなくなったのだ。
 誰だって魔が差してしまうことはあるだろう。
 ミランダは咎めることはしなかった。
 金の管理に厳しいフローラとは違い、ミランダは慈悲深い伯爵夫人として振る舞っていたのだ。

(でも、四年前からバレなかったのに、どうして今頃になって……)

 ミランダの心の問いに答えるように、夫人たちが語り出す。

「ジラルディ公爵が、レオーネ領を荒らしていた賊を一網打尽にしたでしょう? 他の領地に比べて税が高いのに、なぜレオーネ伯爵は対策を取らなかったのだと、不審に思ったみたいなのよ」

「特に自然災害があったわけでもないのにねぇ」

「でも、さらっと賊を捕縛するだなんて、さすがとしか言いようがないわ? あのお方がいれば、ディーオ王国は安泰だわ」

 フラヴィオの縁談を持ちかけてきた相手の息子の名が上がり、ミランダは息を呑む。
 獰猛な肉食獣のような戦場の鬼神を思い出しただけで、ミランダの全身に鳥肌が立った。

(あのバケモノのせいだったのね……ッ!!)

 使用人たちによく思われたいがために不正を見逃していたというのに、ミランダは自分のことは棚に上げていた。

「本当なら、当主として責任を問われてもおかしくはないけれど、陛下もお優しい方よね? まあ、降爵する可能性はあるけれど」

「っ、そんな……ッ!!」

 ミランダが口を開こうとすれば、ぎらりと鋭い視線を向けられる。
 ここで文句を言おうものなら、国王陛下に楯突いたと集中砲火を浴びるだろう。
 ゾッとするミランダは、喉まで出かかった言葉をなんとか飲み込んでいた。

 ミランダを慰めるように『よかったじゃない』
と、口々に話す夫人たち。
 言い知れぬ恐怖にガタガタと震えるミランダの目には、リュシエンヌたちが綺麗な顔をした化け物に見えていた――。





 地獄のお茶会から解放されたミランダは、大急ぎでレオーネ伯爵邸に帰宅していた。

「……ミランダ? へぶ――ッ!」

 汗だくになるミランダは、抱きつこうとしたフィリッポに体当たりし、ミゲルを呼んだ。

「ミゲルッ!! 早くフラヴィオを嫁がせないとッ!! 子爵位に降爵してしまえば、フラヴィオを奪われてしまうわっ!!」

「…………」

 必死になって探しているものの、愛する兄の居場所がわからず、ミゲルの目は死んでいた。

 前々からサヴィーニ子爵家からは、フラヴィオに会わせろと何度も言われているのだ。
 その申し出をフィリッポが突っぱねていたが、同格になってしまえば今後はどうなるかわからない。

「見つけ次第、祝福の儀を受けさせて!!」

「…………祝福の儀? っ、そうか!!」

 ミゲルの瞳がカッと見開かれる。
 今度はミランダが突き飛ばされるが、母親のことなど視界に入っていないミゲルは、神殿に向かって馬を飛ばしていた――。











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