50 / 100
婚約編
12
しおりを挟む言いづらそうにするセバスさんを見て、かなり大変な仕事なのだと察した僕。
……もしかしたら、領地経営かもしれない。
ライトニング公爵家は、この国一番の広大な領地を保有しているんだ。
領地経営に関することは学園では習っていないけれど、挑戦してみたいと思う。
僕はシュヴァリエ様のためなら、なんだってできるんだ!
やってやるぞ顔の僕を見つめるセバスさんは、コホンとひとつ咳払いをした。
「最も重要な仕事は、後継者を産むことです」
「…………っ!!」
領地経営に関する難しい内容なのかもと予想していた僕は、プシューッと顔から湯気が出ていた。
貴族の家に嫁ぐのだから、後継者は絶対に必要。
子を産むことの出来る人が重宝されているのだから、至極当たり前のことを言われただけだっ。
でも、シュヴァリエ様に愛されることを想像してしまう僕は、きっと今、とんでもない顔をしていると思う。
……沈黙が流れる。
そしてハッと目を見開いたセバスさんが、深々と頭を下げる。
「申し訳ございませんっ。余計なお世話を──」と謝罪の言葉が聞こえた僕は、慌てて立ち上がっていた。
「が、ガンガン、頑張り、マスッ!!」
「「「っ…………」」」
背後からひゅっと息を呑む音がして、あんぐりと口を開けているセバスさんと見つめ合う僕は、カチコチに固まっていた。
(ま、まさか、僕の背後に……シュヴァリエ様がいらっしゃる……?)
僕の心の声が届いたのか、大口を開けたままのセバスさんが、ゆっくりと頷いた。
──その瞬間、僕の視界が真っ暗になる。
気付けば、公爵夫人が使用する部屋で横になっていた。
昨日まではなかった寝台に寝ていた僕は、先程のことは夢だったのかもしれないと、現実逃避していた。
でも……。
後継者を産むことは、当たり前のことだよね?
一番重要な役割を、なんで忘れていたんだろう?
学園を首席で卒業したはずなのに、僕ってやっぱり馬鹿だった……。
「超絶優しくて、美しすぎるシュヴァリエ様に似た子は、間違いなく可愛いだろうな……。ふふっ」
小さなシュヴァリエ様を想像して、ひとりでにまにまする。
そんな僕の左隣から、ガタンッと大きな音がして、驚く僕は飛び起きていた。
「…………」
僕の目の前には、綺麗な白銀の髪を乱れさせて、椅子から転げ落ちた人がいる。
「シュヴァリエ様……」
「っ、リュセが心配で……。勝手に部屋に入って、すまなかった」
目尻を赤らめるシュヴァリエ様は、床に腰を下ろしたまま、決して僕の方を見なかった。
さっと寝台からおりた僕は、シュヴァリエ様の顔を覗き込む。
「そんなこと気にしていませんよ? いつでもウェルカムですっ!」
照れたように目を瞬かせるシュヴァリエ様は、なにも答えずに小さく頷いていた。
きっと、倒れた僕を運んでくれたのだろう。
それで心配になって、ずっとそばにいてくれたのかもしれない。
迷惑をかけて申し訳ないと思いつつも、嬉しい気持ちが爆発している僕は、シュヴァリエ様の手を取って立ち上がった。
「そんなところにいたら風邪をひきます。い、一緒に……寝ますか?」
「っ、いや、しかし、」
「大丈夫ですっ! 婚姻するまでは、なにもしませんから!」
「…………」
ぽかんと口を開けるシュヴァリエ様は、どんな顔をしても可愛かった。
大好きな人を寝台に招き入れる僕は、かなり大胆なことをしていると思う。
でも、もう少し一緒にいたくて、おずおずと横になったシュヴァリエ様に抱きついていた。
「こうしてくっついているだけでも、僕は幸せですっ」
「…………」
まっすぐに寝ているシュヴァリエ様は、すでに目を伏せていた。
「は、早いっ。もう寝ちゃってた……。きっと疲れていたんだろうな……。ちょっと残念だけどっ」
美しい横顔をうっとりと眺め続ける僕は、こっそりと頬におやすみのキスを送った。
ここぞとばかりにぎゅうぎゅうと抱きつく僕は、僕に抱き枕にされた人が、一睡も出来なかったことを知らずに、幸せな気持ちのまま眠りについていた。
235
お気に入りに追加
3,832
あなたにおすすめの小説
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる