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168 天使の庭、オープン
しおりを挟む昨夜は、嫌がりながらもスッキリさせてもらった俺は、現在自室で駄々を捏ねていた。
夕飯そっちのけで兄様たちを困らせる、我儘な末っ子王子だ。
でも、誰だって怒ると思う。
なにせ、三日後に調味料専門店がオープンすることが決まっていたのに、内緒にされていたのだ。
たまたま昼間に俺に会いに来てくれたロバート様が口を滑らせていなければ、俺はきっと店が完成したことすら知らなかったと思う。
「どうして俺は見に行っちゃダメなの? 俺だって、ルイス君たちが働く姿を見たいのに……」
「っ、リオン……」
拗ねた顔でジルベルトを見れば、夕飯を放り出した俺の王子様は、王族の前でも俺の元まで駆け寄り、ぎゅっと抱きしめてくれる。
俺のためなら、礼儀作法なんてどうでもいいとばかりの態度に、胸がキュンとする。
俺は、唯一の味方を抱きしめ返した。
「ジルっ」
「っ、内緒にしてごめん。一緒に──」
「リオン殿下が改心されたことは、身近にいる者しか知りません。国民の間では、今もリオン殿下を恐れている者も多いのです。そんな中で顔を出せば、どんなに素晴らしい商品を扱っていたとしても、人が集まらない可能性があるのです」
「っ……ヒ、ヒドイッ」
リュカの辛辣な言葉に胸をえぐられる。
確かに俺は今でも嫌われ者だけど、そんなにズバッと言わなくてもいいと思う。
「で、でも、店の雰囲気とかも……」
「制服を支給された子供たちは、一週間以上前から、新たな職場で働くことを楽しみにしているのです。そんな彼らを悲しませたいのですか?」
「…………ぅう~」
「っ、もうやめろっ!」
「言い過ぎだ」
「ああああ~、やっちゃったよぉ~! どうするんだよっ、リュカが責任取ってよねッ?!」
ぐうの音も出ない俺が半泣きになると、兄様たちが激怒する。
セオドル兄様だけは、よくわからないことを言っているが……。
ささっと俺の元へ歩み寄るリュカが、深々と頭を下げる。
謝罪の言葉を聞く俺は、本日も愛用しているベールを外して涙を拭った。
「いいよ、もう……。嫌われ者の俺は、一人で留守番したらいいんだろっ?」
子供たちのことを考えたら諦めるしかないけど、それでもやっぱり自分の目で見たかった。
そんな思いから口を尖らせていると、ハッと顔を上げたリュカと目が合う。
さっきまでは、辺りが凍りつきそうなほどの無表情だったのに、今は泣きそうな顔になっていた。
「っ、私が必ずお連れ致します」
「……え? い、いいの?」
「はい。傷付けるようなことを言って、申し訳ありませんでした。ベールを着けていたとしても、愛するリオンの姿を誰にも見られたくなくて……」
「っ……リュカッ!!」
ひしっと抱き合う俺たちは、すぐに仲直りした。
ジルベルトも巻き込み、三人仲良くハグをする。
「……だから言ったのに」
「想定内だ」
「リオンが行くなら俺も行く~ッ!!」
今度はセオドル兄様が我儘を言い出して、笑顔のハロルド兄様から『リオンの部屋を出禁にする』と言われていた。
ちなみに、セオドル兄様はすぐに黙った。
そして、ロバート様が口を滑らせた時点で、ファーガス兄様は既に護衛を手配していたようだ。
『私がリオンだけを留守番にするわけがないだろう』って言いながら、頭ポンポンをされた。
……ああ、胸が痛い。
◆
──三日後。
「試食はいかがですかぁ~?」
以前までは閑散としていた路地裏で、声変わり前の可愛らしい声が響く。
古びた娼館だった場所は、今は真っ白で清潔感のある店舗に生まれ変わっていた。
クロフォード国初……いや、この世界で初の調味料専門店がついにオープンした。
王宮で保護されていた子供たちが、熱々のフライドポテトを片手に、元気に呼び込みをしている。
お揃いの空色の服が彼らの愛らしさを倍増させており、近所の住人が足を止めた。
「まずは、芋だけをどうぞっ!」
「あ、ああ……芋か」
「おかしな形だが、芋ならば口にしても平気だろう。もし金を支払うことになったとしても、たかが知れてる」
「そうだな。うまそうな匂いだし」
「そんじゃ、さっそく……ッ! なっ、なんだこりゃあああああ──っっ!!!!」
まだ本命の調味料をつけてもいないのに、フライドポテトを試食して腰を抜かす大人たち。
彼らを見ていたシエルくんたちは、顔を見合わせてくすくすと笑っていた。
「次にこちらを。現在、『天使の庭』でしか取り扱っていません」
「僕たちのお店だけですっ!!」
お客様に売り込みをしている兄の隣で、胸を張っているシエル君。
僕が瓶詰をしたんだぞ! と、顔に書いてある。
フライドポテトが衝撃的だったのか、集まって来た人々は、なんの躊躇もなく次の一本を手にした。
まずは、赤色の調味料の入るガラス製の瓶の中に突っ込んで、口にする。
「──ッ、うんめぇ~~!!」
「これはトマトか? 芋との相性が抜群じゃねぇかっ!!」
ケチャップをたっぷりとつけたフライドポテトを口にした人々が、歓喜の雄叫びを上げた。
「こちらは、ティルソン王宮料理長が作ったケチャップです」
「なんだと!? それなら納得の味だな」
「はい、芋以外にも合うと思います。奥様へのプレゼントにいかがですか? きっと喜ばれるかと」
金髪空色の瞳の爽やか系美青年が登場し、黄色い声が上がる。
見目麗しい子たちに囲まれるジルベルトの背景に、薔薇が見えるのは俺だけではないと思う。
そしてジルベルトの美貌に引き寄せられる若者たちが、マヨネーズを口にした。
声を失った人々が、目を見開いたままフリーズする。
ジルベルトに見惚れているわけではない。
……はずだ!
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