嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

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116 謎の大男

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 碌に掃除もされていない様子の教会で祈りを捧げる俺は、濃い紫色の髪の大男からの視線に震え上がっていた。

 名の通った将軍のようなオーラを放つ男の鋭い目が、なぜか俺をロックオンしている。
 フードで顔を隠しているのだが、正体がバレているのか?
 逆に、顔を隠しているから怪しまれているのかもしれない。
 ビビりまくっている俺だが、エレンが守ってくれるはずだと思いながら、居座ることにした。

 長椅子に腰かけると、すぐさまエレンが俺の隣に立つ。

 「あれのどこが神の使いなんですか……。悪魔の間違いでは?」
 「あの人は無関係だ」

 コソコソと会話をしていたのだが、感じが悪いだろうと口を閉ざす。

 神父様を待つ間、特にやることがない俺は、鞄から紙とペンを取り出した。

 「なにをしているんですか?」
 「ん? 仕事」
 「…………仕事っ!?」
 「静かにッ!」

 神聖な場所でデカい声を出すエレンは、目玉が飛び出そうだ。

 そんなに驚くことかと思ったのだが、昔の俺は椅子にじっと座っていられないタイプだったらしいから、驚くのも無理はない。
 思いつくレシピを書いていると、周囲の警戒を忘れてしまったエレンが俺の手元をガン見している。
 『意外に字が綺麗だ』との失礼な呟きを無視する俺は、静かな環境のおかげで集中力が増していた。
 
 「そろそろ昼飯を……」
 
 申し訳なさそうな声にはっとして顔を上げると、エレンが困った顔で俺を見下ろしていた。

 「ごめん、なにか食べに行こうか」
 「……はい」

 もう昼を過ぎているようで、やらかしてしまったと素直に謝罪する。
 
 とりあえず教会を出て、近場の屋台でエレンの食べたいものを奢ってあげた。
 若いからか、ここぞとばかりにあれこれと買い込むエレンは、大食いだったらしい。
 俺は子供が好きそうな菓子と、出店で絵本を購入した。

 「これ、ファーガス兄様宛で送ってくれないか? 多分、俺からだってわかってくれると思う」
 
 保護している子供たちへのお土産を手渡すと、エレンは難しい顔のまま頷いてくれた。

 

 先に教会に戻ると、後列の長椅子に座る大男の後ろ姿を発見し、コイツも神父様のファンなのだと察した。

 そろそろと最前列に座る俺は、先程出店で購入した絵本を開いた。

 『勇者リオネル・クロフォードの大冒険』

 俺の先祖様が題材となった絵本だ。
 勇者リオネルが、魔王を倒してクロフォード国を平和に導く物語。
 黒目黒髪の勇者様は、俺の顔をもっとキリッとさせた凛々しい姿だ。

 「リオネル様はかっこいいんだけど、なんだかありきたりな気がする。もっと驚くような……。あっ、そうだ! 剣を動かしたり、魔物が飛び出したらもっと面白くなるんじゃないか!? さっそくジルベルトにお願いしてみようっ!」

 前世では、飛び出す絵本があった気がする。
 子供たちが喜ぶ姿が想像出来て、すぐさまペンを握った。
 いつも無表情のリュカも、きっと驚くだろう。

 ……って俺、二人のことを忘れたいのに、結局ジルベルトとリュカのことを考えてるよな。

 ガクッと項垂れると、目の前に影が出来た。

 「本がお好きなんですか?」
 「っ……あ、えっと……」

 急にムキムキマッチョに話しかけられた俺は、視線を彷徨わせる。
 無言の時が流れて、気まずい空気になる。
 好きか嫌いかと言えば、好きだ。
 特に漫画が。
 でもこの世界に漫画なんてないわけで……。
 あ、漫画も描いてもらえるか?
 ダメ元でジルベルトに頼んでみよう。

 大男をそっちのけで考え込んでいると、バーンと教会の扉を開けたエレンが登場する。

 「送りましたよって……オイ。俺のご主人様になんの用だ」

 殺気立つエレンが大股で近付いてきて、慌てた俺は、目の前の太い二の腕を掴んだ。

 「え、えっと、今、友達になったんだ! それで、懐かしい絵本を一緒に読もうって話してて……な?」
 「…………」
 
 話を合わせてくれと、大男にアイコンタクトを送ると、くわっと目が見開かれた。
 
 大きな喉仏を上下させた男が、ゆっくりと頷く。
 ほっとしていると、エレンが俺たちの顔を交互に見続けていた。
 
 「リ、リリ、リオネル様が好きなんだって! せっかくだし、俺が読み聞かせをしてやるよ! ほ、ほら、二人とも座って座って!」
 
 なぜか自分の家のように接待する俺は、無理やり二人を俺の隣に座らせる。
 警戒心マックスのエレンが、大男に飛びかからないか心配だ……。
 どちらも強そうだけど、体格的にはエレンが不利だ。
 
 ここは俺が頑張るしかないと、絵本を開いた。

 「我が名は勇者リオネル! 魔王を倒しにきたぞ~っ!」

 静かな教会で、朗読会が始まった。
 子供向けの絵本を大人に読み聞かせるという、なんともシュールな朗読会が……。

 「お前の持っている剣は偽物だ! な、なにぃっ!?」
 「…………ブッ」
 「…………クハッ、ダメだ。我慢出来なかった」

 棒読みが酷いと、ヒーヒー笑い転げるエレンに、俺の顔が真っ赤になる。
 そっと隣を見れば、大きな手で口を隠す大男が、目に涙を浮かべて笑っていた。

 どういう流れか、謎の大男──ドレイクと、本当の友人になった俺は、いつのまにかまた明日も会う約束をしていた。

 そんな俺たちの姿を、険のある目で見ている神父様がいたことにも気付かずに……。









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