嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

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39 全部俺が作ったもの

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 深夜のリンネス公爵邸に侵入する不審な影は、素早い身のこなしで壁と一体化しながら動いている。
 息を殺す盗人のような男が手にしているバスケットからは、揚げたての芋の良い香りが漂っていた。

 俺は王宮から抜け出すこと、馬に乗ること、公爵邸に不法侵入すること、全てお手の物だった。
 体が覚えているってやつだ。

 ていうか、どんだけ型破りな王子なんだ。俺は!
 優秀な兄様三人とはまるで違う性格に、本当に血が繋がっているのかと疑いたくなった。

 月明かりを頼りに、目的地である一番端の部屋に辿り着いた俺は、小さく扉をノックした。
 物音がしないから、もしかしたら寝ているのかもしれない。
 フライドポテトだけは渡したいと思い、取っ手に触れると、鍵はかかっていなかった。

 室内を覗けば、寝台には頭まで上掛けを被った物体が見えた。
 
 「ジルベルト、俺だ。入るぞ」
 
 念のため、小声で入室することを伝えると、勢いよく薄い上掛けを剥ぎ取ったジルベルトが、大きな目を見開いて飛び起きる。

 「っ、リオン殿下!」
 「シーッ!」

 静かにしろと人差し指を唇に当てると、頷くジルベルトは寝台から降りた。
 音を立てないようにゆっくりと扉を閉め、鍵をかけようとしたが、ぶっ壊れていた。

 「プライバシーのかけらもないのか」
 「……よくそんな言葉を知っていましたね?」
 「茶化すな」

 深刻な問題だぞと言おうとしたが、薄暗い部屋で頼りなさげな笑みを浮かべるジルベルトを前に、俺を口を閉ざした。

 「起こしたか?」
 「いえ、仕事を……」
 
 机に視線を向ければ、なにやら書類が乱雑に散らばっていた。

 灯りもつけずに、こんな薄暗い部屋で?
 深夜まで仕事をしているのか?
 一体、なんの仕事をしているんだ?

 聞きたいことが山程あるのに、これ以上は言いたくないといったように口を引き結ぶジルベルト。

 椅子も一つしかないし、そもそも脚が折れたものを適当に補強されており、座れるのか疑問だ。
 そのことは本人もわかっているようで、どう対応をしたら良いのかと考えているようだった。

 前回来たときは、ジルベルトの体調が心配で気付けなかったが、粗悪品ばかりだ。
 気の利いたことを言えない俺は、先に寝台に腰掛ける。
 ギシッと軋む音が鳴り、寝台もぶっ壊れる寸前。
 二人で座ったら、確実に半分に折れる。

 「腹減ってないか? 夜食を持ってきたんだ。そんなところに突っ立っていないで、まあ、座れよ」
 「……俺の部屋なんですけど」
 「いちいちうるさいぞ」

 立ち上がって細い手を掴むと、包帯がぐるぐる巻きにされていた。
 
 「悪い、怪我したのか?」
 「大したことありません」
 「強がるな」
 
 肩を竦めるジルベルトの金髪を、わしゃわしゃと撫でる。
 背伸びをするダサい俺だが、月明かりに照らされた空色の瞳は、キラリと輝いて見えた。
 窓辺の床にジルベルトを座らせ、俺は右隣に腰を下ろす。

 「っ、汚れます」
 「俺は地べたに座っても平気な王子なんだよ」
 「……そんな人いませんよ、貴族でも」
 「規格外なの、俺はっ!」

 もう黙れと、フライドポテトを取り出して、うるさいお口に突っ込んでやった。
 サクッと良い音がして、空色の瞳が見開かれる。
 美味しそうに咀嚼するジルベルトを見ているだけで、俺の頬は緩んだ。

 もっと食べろと餌付けをする俺は、ジルベルトを太らせて、絶世の美青年にしたいのだ。

 「自分で食べられますから……」
 「怪我してるから、だーめっ!」
 
 優しさを見せているが、ただ単に俺がジルベルトに食べさせたいだけだ。
 俺が作ったものを、もぐもぐと食べ続ける細身の美青年が、フライドポテトを完食する。
 ……酷くゆっくりだったが。

 前から思っていたが、ジルベルトは食べるペースがすごく遅い。
 味わっているのだと思っていたが、それにしても遅すぎる。
 とにかくジルベルトのことを知りたくてたまらない俺だが、過去が邪魔をして、どこまで踏み込んで良いのかがわからなかった。

 「すごく美味しかった、です。こんなに美味しいものを食べたのは、三回目……」
 「たった三回?」
 「一回目はシチュー。二回目はコロッケ……、これは?」
 「っ、あ、えっと、フライドポテト……」

 小さく料理名を呟くジルベルトが笑みを浮かべ、俺の顔は真っ赤に染まっていた。

 だって、全部俺が作ったものだったから……。

 しかも料理名を全て覚えていることにも驚いた。
 優秀なんだなと思ったが、もしかしたら俺が作ったから覚えてくれていたのかも……。
 なんて、勝手に想像しただけで胸が熱くなった。

 じっとしていられずに、ハンカチを取り出して手を拭き、ついでにジルベルトの口許も拭ってやる。
 きょとんとした顔で見つめられて、慌てて膝を抱える俺は、膝に顔を押し付ける。

 おもむろに立ち上がったジルベルトは、グラスに水を注いで飲み干した。
 俺も飲みたいと呟いてグラスを奪い取り、ぐびっと一気に飲み干して、生温い水が喉を潤す。

 そんな俺を見てぽかんと口を開けるジルベルト。
 そこでようやく、やらかしたことに気が付いた。

 「っ、間接キッスじゃないかっ!」
 「…………そこですか?」

 それ以外になにがあるんだと慌てふためく俺に、ジルベルトはくつくつと喉を鳴らして笑っていた。









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