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35 魂はドス黒い
しおりを挟む三人の兄様の中で、俺とは一番距離があるファーガス兄様だが、ブラコンすぎるだろう。
今初めて知ったぞと、俺も少し照れた。
「いや、違う違うっ! 俺はこの銅貨でも高いと思います」
そう言って、青みがかった銅貨を手に取った。
この紋所が目に入らぬかっ!
といった感じで百円相当の銅貨を突き出すと、美形兄様三人が絶句する。
「今回は王宮の高級な食材を使いましたが、これのタネは、玉ねぎと芋と少しのお肉なんです。他にも必要なものはありますけど、基本的に安価なものなんです。販売するのであれば、平民の方でも、小腹が空いた時に食べれるような金額設定にしたいと考えています」
なんとか説得しようと、切れ長の目を見開いているファーガス兄様を力強い目で見つめる。
隣で三つ目のコロッケを頬張るセオドル兄様から「何者?」って言われたけど無視する。
うっとりとした息を吐いたハロルド兄様が、俺の元に歩み寄り、瞳を輝かせていた。
「嗚呼、リオン。民のことを第一に考えれるようになっただなんて、素晴らしい成長だよ。なんて美しい心の持ち主なんだ。魂が輝いている」
「…………俺の魂はドス黒いはずです」
なにせ、このコロッケを発案したのは俺ではないのだからな。
自分が食べたいからと、人の手柄を横取りした最低な人間である。
しゅんとする俺の頭に大きな手が乗せられる。
「リオンはすごく良い子だよ、私が保証する」
「ハル兄様……、甘やかさないで下さい」
「うん。でも、このコロットに関しては、そんな安価で売るようなものじゃないと思う。料理人達が様々な料理を発案しているが、皆はそれで利益を得ているんだ」
「……というと?」
首を傾げる俺に、丁寧に説明してくれたハロルド兄様の話によると、本や音楽に著作権があるように、料理にもそれが適応されるそうだ。
日本では考えられないが、クロフォード国では当たり前のことのようだ。
そして自分が発案したレシピを売って、金銭を得ることにより、皆が料理を研究することになる。
人々が生活するための制度ではあるが、美味しいものへの探究心が養われているのだ。
要するに、俺は専門の機関にレシピを登録する必要があるのだという。
そんなまどろっこしいことはしなくても、好きなように作って欲しいとも思う。
もちろん罪悪感からである。
明らかに乗り気じゃない俺に対して、ハロルド兄様は眉を下げた。
「料理長の話によると、油で揚げたんだってね? その発想は、クロフォード国にはないものだ。だから、リオンがコロットのレシピを無償で提供するとなると、いろいろと問題が起こる。特にリオンは王族だから、他の料理人達にも、同じように無償でレシピを公開するように言っているようなものなんだよ」
「っ……それは本意ではありません」
「そうだよね? それに、コロットのレシピを購入した人々は、それを元にして、更なる新しい料理を生み出すかもしれない。その可能性を潰すのは、勿体無いと思わない?」
それはそうだと、こくこくと頷いた。
「よくわかりました」
「さすが私の可愛いリオンだ!」
「揚げるという手法を知れば、みんなが勝手に唐揚げやエビフライだって作ってくれるだろうし、とりあえずコロッケだけ登録したいと思います」
「……なんだって?」
キスする勢いで顔を近づけて来るハロルド兄様は、肌が透き通るように艶々だ。
すりすりと頬を撫でて感嘆の声を上げると、兄様の頬が熱くなった。
「ハロルド、リオンから離れろ」
怒気を孕んだ声はファーガス兄様のものだ。
鋭い目付きで睨まれて縮こまると、センター分けの王子様からバックハグをされた。
甘い香りに包まれて、ドキッとする。
「怖がらなくて大丈夫だよ? ファーガスは短気なんだ」
「っ、リオンに言ったわけでは……」
「黙って? リオンが震えてる」
「ッ!」
ガタンと音を立てて席を立ったファーガス兄様は、小さく首を振りながら静かに着席した。
それから詳しい話はまた今度しようと解散することになり、俺はバックハグをしてくれているお方に耳打ちする。
「ハル兄様? コロットじゃなくて、コロッケです……」
ぽっと頬を染めたハロルド兄様は、俺の肩に端正な顔を埋めて、ぐりぐりと照れ隠しをしていた。
か、可愛いっ……。
「イケメンで可愛いとか最強かよっ!」
俺の呟きを聞いたセオドル兄様が自分の方が可愛いとキレだし、肩を落としたファーガス兄様はとぼとぼと寂しそうに食堂を去って行った。
いつも堂々とした兄様が、明らかに気を落としている様子を見るのは初めてだ。
あまり俺に話しかけて来ることはないけど、多分俺のことを溺愛している、はず。
次に新しい料理を作るときは、一番にファーガス兄様に食べてもらおうと決意した。
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