嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

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34 金貨十枚!?

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 ジルベルトと別れて、夕食の前に自室に戻った俺は、優秀な専属侍従に壁ドンをされている。

 決して、ピンク色の空気が流れているわけではない。

 氷のような無表情で、殺伐としたオーラを放つお兄様に見下ろされている。
 今日は暴れていないのに、なぜか主人に咎めるような視線を向けるリュカ。
 さっきからずっと同じ尋問をされているが、俺の答えに納得してくれることはない。

 「ジルベルト様になにをされたのですか?」
 「だから、別になにも……」
 「婚約者でもない方との不適切な行為が行われた場合。私はリオン殿下の侍従として、陛下に報告せねばなりません」
 「そ、そうだったの?」

 それって恥ずかしくないか?
 っていうか、リュカとはしたと思うけど……。
 リュカも含まれるのか?

 線引きがよくわからないと唸っていると、リュカの目が細くなる。

 「……い、嫌がらせ? されたかな」

 嘘は言っていないので、真剣な表情で頷く。

 「へぇ」とだけ答えたリュカは、俺の顔をまじまじと見てから解放してくれた。
 ……一体、なにが問題だったんだ?
 
 真面目な侍従の理解不能な行動に首を傾げながらも、夕食の席に向かった。

 

 「な、なんだ、これは……」

 小判型に作っていたはずのコロッケが、小ぶりの丸い形になっており、皿の中央に盛られている。
 それを囲むように、等間隔で瑞々しい葉やトマトが飾られており、ただのコロッケが一つの芸術品のように盛り付けられていた。
 ちなみにコロッケの上にも、鮮やかな緑色の葉がちょこんと乗せられている。

 呆気に取られる俺に、胸を張るティルソン料理長が下手くそなウィンクをかます。
 
 「リオン殿下と我々の合作です」
 「……いや、これはもう、君達の料理だろう」
 「なにを仰いますッ!!」
 
 顔から湯気を出す勢いで、俺の凄さを語り出すティルソン。
 恥ずかしいからやめてくれと縮こまっていたが、兄様三人は興味津々だった。
 
 「~~ッ! リオン! 凄いよ、コレ! 今まで食べた中で一番美味しいッ!」

 料理長の説明の途中で我慢しきれずにコロッケを食べたセオドル兄様が、俺の肩に手を置いて、体を激しく揺さぶる。
 ぐわんぐわんと頭を揺れる中、見えない耳をピンと立てた可愛子ちゃんが、「おかわり!」とさっそく催促をする。
 
 それを見たハロルド兄様も、恐る恐る口にしてクワッと目を見開く。
 そして既にコロッケを口にして、フリーズしていたファーガス兄様の肩を強引に掴んだ。

 「お前が所有している一等地を譲ってくれ。リオンの店を構える。店名は、『天使のレストラン』にしよう。本来なら、リオンの作りだしたものに値段をつけたくはないが、金額は一つにつき金貨十枚でどうだろう」

 早口すぎてよくわからなかったが、コロットって言わなかったか?
 確かに、ころっと転がる可愛さがあるけどさ?
 コロッケですよ、と心の中で訂正する。
 仕事モードになるハロルド兄様の目が怖くて、話の腰を折ることはやめた。
 


 そういえば、金貨一枚っていくらだ?

 リオンは支払いをしたことがないし、真面目に勉強をしたことがなかったから、子供でもわかるようなお金の価値がわかっていなかった。

 ……馬鹿って辛いな。
 本気で泣きそうだ。

 十六にもなって恥ずかしい質問をする羽目になり、羞恥で震えるが、隣で二個目のコロッケを食べているセオドル兄様に顔を寄せる。
 
 「セオ兄様、すみません……。金貨一枚って、だいたいどれくらいの価値なんですか?」
 「ぷふっ! リオンはこんなに凄いものが作れるのに、ちょ~っと抜けてるよね?」
 「うっ……」
 「まあ、支払いなんてしたことがないから、わからなくて当然かもしれないけどね? でも、大型金貨の裏面にはリオンの顔が描かれているんだから、金貨の価値だけでも覚えようね?」

 優しく俺の頭を撫でるセオドル兄様だが、話終わるとすぐにコロッケを口に放り込んだ。
 
 ちなみに大型金貨の裏面は、初代国王のリオネル・クロフォードである。
 王家の恥晒しである俺の顔ではない。

 俺の背後にいたリュカが、金、銀、銅のコインを何枚も用意してくれる。
 それをセオドル兄様が順番に並べていき、五歳児でもわかるように丁寧に教えてくれた。

 金貨には、大型と小型があるらしく、大きいものは十万円。
 市場で使用される方の小型の金貨が、日本でいう一万円のようだ。
 円ではなく、フランと呼ぶそうだ。

 大型金貨=十万円
 小型金貨=一万円

 大型銀貨=五千円
 小型銀貨=千円
 
 銅貨に関しては、四種類ある。
 緑がかったものが、五百円。
 青みがかったものが、百円。
 黄みがかったものが、十円。
 赤みがかったものが、一円。
 
 大きさは微妙に違っており、五百円が一番大きく、一円が一番小さい。

 銅貨に関しては、俺は使うことがないだろうから知らなくても良いと言われた。

 なんでだろう?
 塵も積もれば山となるだぞ?
 おつりはいらないぜ! ってやつか?

 一通り教えてもらい、先程のハロルド兄様の言葉を思い出し、驚愕して目が飛び出そうになった。

 掌サイズのコロッケに十万円!?
 金額設定が狂ってる!
 俺の地元にある激安スーパーでは、一つ十円で買えたぞ!?

 やれやれと溜息を吐くファーガス兄様に、この人ならわかってくれそうだと期待を込めた視線を向けると、セクシーな流し目をされる。

 「いや、金貨三十枚だ」
 「グハッ! ファギー兄様ぁ~、金額が下がるどころか上がってますよぉ!」

 ダメダメと首を振るのに、ファーガス兄様はなぜか目尻を赤らめて照れていた。
 








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