34 / 211
34 金貨十枚!?
しおりを挟むジルベルトと別れて、夕食の前に自室に戻った俺は、優秀な専属侍従に壁ドンをされている。
決して、ピンク色の空気が流れているわけではない。
氷のような無表情で、殺伐としたオーラを放つお兄様に見下ろされている。
今日は暴れていないのに、なぜか主人に咎めるような視線を向けるリュカ。
さっきからずっと同じ尋問をされているが、俺の答えに納得してくれることはない。
「ジルベルト様になにをされたのですか?」
「だから、別になにも……」
「婚約者でもない方との不適切な行為が行われた場合。私はリオン殿下の侍従として、陛下に報告せねばなりません」
「そ、そうだったの?」
それって恥ずかしくないか?
っていうか、リュカとはしたと思うけど……。
リュカも含まれるのか?
線引きがよくわからないと唸っていると、リュカの目が細くなる。
「……い、嫌がらせ? されたかな」
嘘は言っていないので、真剣な表情で頷く。
「へぇ」とだけ答えたリュカは、俺の顔をまじまじと見てから解放してくれた。
……一体、なにが問題だったんだ?
真面目な侍従の理解不能な行動に首を傾げながらも、夕食の席に向かった。
「な、なんだ、これは……」
小判型に作っていたはずのコロッケが、小ぶりの丸い形になっており、皿の中央に盛られている。
それを囲むように、等間隔で瑞々しい葉やトマトが飾られており、ただのコロッケが一つの芸術品のように盛り付けられていた。
ちなみにコロッケの上にも、鮮やかな緑色の葉がちょこんと乗せられている。
呆気に取られる俺に、胸を張るティルソン料理長が下手くそなウィンクをかます。
「リオン殿下と我々の合作です」
「……いや、これはもう、君達の料理だろう」
「なにを仰いますッ!!」
顔から湯気を出す勢いで、俺の凄さを語り出すティルソン。
恥ずかしいからやめてくれと縮こまっていたが、兄様三人は興味津々だった。
「~~ッ! リオン! 凄いよ、コレ! 今まで食べた中で一番美味しいッ!」
料理長の説明の途中で我慢しきれずにコロッケを食べたセオドル兄様が、俺の肩に手を置いて、体を激しく揺さぶる。
ぐわんぐわんと頭を揺れる中、見えない耳をピンと立てた可愛子ちゃんが、「おかわり!」とさっそく催促をする。
それを見たハロルド兄様も、恐る恐る口にしてクワッと目を見開く。
そして既にコロッケを口にして、フリーズしていたファーガス兄様の肩を強引に掴んだ。
「お前が所有している一等地を譲ってくれ。リオンの店を構える。店名は、『天使のレストラン』にしよう。本来なら、リオンの作りだしたものに値段をつけたくはないが、金額はコロット一つにつき金貨十枚でどうだろう」
早口すぎてよくわからなかったが、コロットって言わなかったか?
確かに、ころっと転がる可愛さがあるけどさ?
コロッケですよ、と心の中で訂正する。
仕事モードになるハロルド兄様の目が怖くて、話の腰を折ることはやめた。
そういえば、金貨一枚っていくらだ?
リオンは支払いをしたことがないし、真面目に勉強をしたことがなかったから、子供でもわかるようなお金の価値がわかっていなかった。
……馬鹿って辛いな。
本気で泣きそうだ。
十六にもなって恥ずかしい質問をする羽目になり、羞恥で震えるが、隣で二個目のコロッケを食べているセオドル兄様に顔を寄せる。
「セオ兄様、すみません……。金貨一枚って、だいたいどれくらいの価値なんですか?」
「ぷふっ! リオンはこんなに凄いものが作れるのに、ちょ~っと抜けてるよね?」
「うっ……」
「まあ、支払いなんてしたことがないから、わからなくて当然かもしれないけどね? でも、大型金貨の裏面にはリオンの顔が描かれているんだから、金貨の価値だけでも覚えようね?」
優しく俺の頭を撫でるセオドル兄様だが、話終わるとすぐにコロッケを口に放り込んだ。
ちなみに大型金貨の裏面は、初代国王のリオネル・クロフォードである。
王家の恥晒しである俺の顔ではない。
俺の背後にいたリュカが、金、銀、銅のコインを何枚も用意してくれる。
それをセオドル兄様が順番に並べていき、五歳児でもわかるように丁寧に教えてくれた。
金貨には、大型と小型があるらしく、大きいものは十万円。
市場で使用される方の小型の金貨が、日本でいう一万円のようだ。
円ではなく、フランと呼ぶそうだ。
大型金貨=十万円
小型金貨=一万円
大型銀貨=五千円
小型銀貨=千円
銅貨に関しては、四種類ある。
緑がかったものが、五百円。
青みがかったものが、百円。
黄みがかったものが、十円。
赤みがかったものが、一円。
大きさは微妙に違っており、五百円が一番大きく、一円が一番小さい。
銅貨に関しては、俺は使うことがないだろうから知らなくても良いと言われた。
なんでだろう?
塵も積もれば山となるだぞ?
おつりはいらないぜ! ってやつか?
一通り教えてもらい、先程のハロルド兄様の言葉を思い出し、驚愕して目が飛び出そうになった。
掌サイズのコロッケに十万円!?
金額設定が狂ってる!
俺の地元にある激安スーパーでは、一つ十円で買えたぞ!?
やれやれと溜息を吐くファーガス兄様に、この人ならわかってくれそうだと期待を込めた視線を向けると、セクシーな流し目をされる。
「いや、金貨三十枚だ」
「グハッ! ファギー兄様ぁ~、金額が下がるどころか上がってますよぉ!」
ダメダメと首を振るのに、ファーガス兄様はなぜか目尻を赤らめて照れていた。
56
お気に入りに追加
3,500
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる