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25] 悪いニュース
しおりを挟む「殿下、どうなさいますか?」
マルコシアス帝国の状況を探っている部下から、新しい情報が送られてきた。
アラン王太子の新しい婚約者の屋敷が火事になり、婚約者の令嬢が大怪我を負って、意識不明の重体となっているという事だった。
「シルフィ様にお知らせしますか?」
ジュリアスが心配そうに尋ねてくる。
「ギュンタークはどう思う?この件にナディア公女が関わっていると思うか?」
私はギュンタークに尋ねた。
現在、シルフィをギュンタークの養女に迎える為の準備を進めている所だ。養父となる彼の意見を聞きたかった。
「シルフィ様を魔獣に変えて国から追い出したくらいです。おそらく関わっているでしよう。ナディア公女が犯人だと思って間違いは無いでしょう。」
「そうか…」
シルフィに知らせるべきか、どうか…
これ以上、彼女を悲しませたく無いのだが…
だが、私達が黙っていても、いずれこのニュースはシルフィの耳にも入るだろう。それなら、他人の口から聞くよりも、今 私の口から教えておいた方がいいかもしれない。
「ジュリアス、シルフィを呼んで来てくれないか?」
「かしこまりました。」
ジュリアスが静かに出て行った。
◇ ◇ ◇
「ロイド殿下、お呼びでしょうか?」
「あぁ シルフィ、掛けてくれ。」
「ギュンターク団長もいらしていたんですね。私にお話しとは何でしょうか?」
何だか殿下の口が重いわ。何か言いにくい事なのかしら?
「ロイド殿下?」
私が殿下の名を呼ぶと、彼は決意を込めたように私の顔を見つめて、話を切り出しました。
「マルコシアス帝国に潜入させている部下から報告があった。アラン王太子の新しい婚約者が火事にあって重体だそうだ。」
「えっ?!アラン様の?まさか、又ナディアが何かしたのですか?」
「それはまだ分からない。引き続き調査中だ。でも、私も、ギュンタークもナディア公女が無関係だとは思っていない。シルフィの話を聞く限り、ナディア公女のアラン王太子に対する執着は常軌を逸している。何も無いとは思えない。」
「ナディア…」
私は目の前が真っ暗になりました。
もし、ナディアが犯人なら…
父は?母は?兄は?そして公国はどうなるの?
「シルフィ、大丈夫か?」
殿下は血の気の引いた私の手を取り、私の瞳をじっと見つめて、心配そうに私を気遣って下さいます。
「ナディアに会わないと…あの子を止めないと、でないと公国が大変な事になります。」
「今、全力で情報を集めている、すぐに追加の情報が来るだろう。大公周辺の事も調べさせている。ナディア公女は1ヶ月も前に公国に母上と共に帰国している。まだ彼女が犯人だとは決まっていない。ただの事故かもしれないんだ。シルフィ、気をしっかり持って、私も力になる。公国にとって何が最善か一緒に考えよう。」
「ロイド殿下、すみません 私の為に…」
「君の為だからだよ。悪いようにはしない、シルフィの力になれるよう私も考えるから、とにかく次の報告を待とう。」
「ありがとうございます。」
次の報告が来たのは、2日後でした。
私は急いで殿下の執務室に向かい、一緒にギュンターク団長からの報告を聞きました。
事件の1ヶ月前、ナディアが参加したお茶会にアラン様の婚約者であるフォレスト嬢も参加していた事。
ナディアが参加者全てに手土産としてアロマキャンドルを贈っていた事。
そして、事故のすぐ後に父も公国に帰国している事が報告されました。
屋敷は全焼、死亡者2名、怪我人多数、フォレスト嬢は全身に火傷を負って重体と言う事だった。
現在は大神殿で神官による癒しの治療中だということだ。
「お父様は、全てをご存知なのかもしれません。」
私は報告を聞いて、確信しました。
きっとお父様は全てを知っているのでしょう。そして、恐らく全てを隠蔽するつもりだろうと思いました。
「ナディアを帰国させているのがその証拠です。アラン様から離れるなんて、あの子が素直に従うとは、とても思えません。お父様が、あの子が何を仕出かすか分からない危機感を感じて、無理矢理帰国させたのだと思います。だから、帰国させられる前に、フォレスト嬢を排除しようとしたのだと思います。私を排除したのと同じように…」
「聞いてはいましたが、アラン王太子に対する執着心が恐ろしいですね。」
「えぇ…ギュンターク団長、私もここまで酷いとは思いませんでした。」
ナディアはお父様達を、公国を破滅させるつもりなのでしょうか?
そんな事も分からなくなる程アラン様に執着しているなんて…
「ロイド殿下、私 ナディアに会いに行こうと思います。」
「シルフィ、危険だ。君がイースデールに戻った事がバレたら どんな騒ぎになるのか予測出来ない。」
殿下の瞳が、私を心配して揺れています。
「大丈夫です。帰ると言っても、人知れずこっそりと帰るつもりです。お父様達に会うつもりもありません。ただ、ナディアに会いたいだけです。お願いします。ナディアの居場所を調べてもらえませんか?イースデール公国なら私は自分の転移魔法で一瞬で戻れます。私がナディアと決着をつけます。お願いします。ロイド殿下。」
「分かった 調べさせよう。でも、シルフィを1人では行かさない。私も一緒に行く。でないと許可しない。」
「殿下!危険です。こっそりと行くなんて密入国になってしまいます。戦の種になったらどうするんですか?」
それまで静かに私達の話を聞いていたジュリアス様が真っ先に反対しました。
「ジュリアス様の言う通りです。ロイド殿下を連れて行くなんて出来ません!」
私も殿下を危険に晒したくありません。速攻で殿下の同行を拒否しました。
「なら、シルフィの帰国も許さない。他の方法を考えよう。」
これは、意地でも私を1人で行かせてはくれないようです。
私はそっとギュンターク団長の顔を伺いました。
ギュンターク団長はあきらめろと言うように首を横に振りました。
私はどうしたらいいのか分からなくて、うつ向いてしまいました。
「シルフィ、私はあなたを愛している。愛する人を何が起こるか分からない危険な場所へ1人でやる事は出来ない。どうしてもと言うなら私を連れて行ってくれ。必ず君を守るよ。」
「ロイド殿下…」
私はどうすればいいのでしょう…
私が途方に暮れていると、
「シルフィ様、殿下、私も一緒に行きましょう。」
「ギュンターク団長!」
「2人を必ずケンウッド皇国に一緒に連れて帰ります。3人なら陛下もお許し下さるでしょう。もう2度と殿下を危険な目に会わせないと【深淵の森】の件で私は誓ったのです。2人がどうしても行くと言うなら私も一緒に参ります。」
「決まりだなシルフィ。3人でイースデールに行こう。」
「ロイド殿下、ギュンターク団長、ありがとうございます。我儘を言って申し訳ありません。」
そうして、私達3人はイースデール公国に行く事になりました。
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