私のかわいい婚約者【完結】

nao

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25 トラブル

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「えっ?! 肌トラブルですか?」

その クレームは突然知らされました。

「それが…お客様から、新製品の[シワ取り改善潤いクリーム]を使って、肌トラブルを起こしたと、クレームが入ったんです。それも、市民ばかり、10件程…」

王都の支店の1つを任せている店長から、問題のあったクリームを 受け取りました。

「これが、トラブルを起こしたクリーム?」

私は、クリームの瓶の蓋を開けて、まず、匂いを嗅ぎました。
すると、元から付けていた 柑橘系の香りに混じって、何か ツンとした 刺激のある匂いが混じっている事に 気づきました。

「マリン、これ どう思う?」

マリンは、私と一緒に 化粧品の開発、研究をしている研究員の班長で、このクリームも、彼女と一緒に作り上げたのです。

「失礼します。」

そう言って、彼女もクリームの匂いを嗅いで、眉間にシワを寄せました。
そして、少量を手に取り、左手の甲にクリームを乗せ、なじませました。

「カトリーヌ様、これは うちで作ったクリームとは違います。いえ…うちのクリームに、何か 混ぜ物をしたと思われます。」

「やっぱり、まず、匂いが少しおかしいし、手触りも 私達が作った物より少し水分が多いような気がするわ。」

2人でクリームを調べていきました。
瓶の底を見て、製造日を確認しようと思いましたが、貼っているはずの製造年月日と、シリアルNo.を入れたシールは、剥がされていました。

(あやしい…)

確かに この瓶はうちで作った物だけれど、完成品に何か手を加えられているようです。
もしかしたら、他にもあるかもしれません。
そう考えて、私はすぐに[シワ取り改善潤いクリーム]の販売停止を各店舗に指示しました。

「すぐに このクリームを扱っている店舗での販売を停止します!」

それからの私達の行動はとても早いものでした。
クリームを扱っていた店舗での販売停止。
現在、売ってしまったクリームの回収。

回収する為には、広く 伝えなければなりません。
国で発行されている全ての新聞に、謝罪広告を出し、お手持ちのクリームを回収させて欲しいと言う事。
返品、返金の保証。
肌トラブルにみまわれた方のお見舞いと、医師の手配。
お得意様(商会会員)への謝罪対応など、出来る手は、全て打ちました。

更に、クリームの製造中止による、工房従業員への休業保証などは、エリィにも助けてもらって対応しました。

「カトリーヌ様、私達の作ったクリームに問題があるとは どうしても思えません。これは 誰かの陰謀ではないでしょうか?」

「ええ、私もそう思うわ。でも、それを調べるのは後よ。今は、ご愛用いただいているお客様への対応が一番よ!うちのクリームが 問題を起こしていると言うのなら、対応は 1秒でも早いほうがいいわ。原因の究明は それからでも遅くは無いわ。とにかく、お客様への対応を 一番に動きましょう。」

「「わかりました!」」

皆んなの協力もあって、あっと言う間にクリームは回収され、肌トラブルを起こしたと言う 被害者の方には、医師の診察を受けてもらいました。

被害にあったお客様の肌は軽いやけどをしたように赤く腫れていて、中には、ケロイドのように跡が残るようなものもあったのです。

(一体、何を混ぜたのかしら?)

1日も早く、肌トラブルを治癒する為、商会は、被害にあった女性 全てに、神殿で 治癒魔法を受けてもらう事にしました。
1人につき、金貨5~10枚の治療費は 痛いですが、顔に傷を残さない為にも、しっかりと、治癒してもらう方が良いと判断したからです。

神殿で治癒魔法をかけて頂いたかいがあって、私達の商会に、不満を訴えるお客様は、1人も出ませんでした。
本当に良かったです。

そして、私達 モルガン商会は、今回の事を事件として、警備隊に被害届けを出し、自分達でも 聞き取り調査を始めました。

被害者が購入した店の名前、場所、いつ頃購入したのか?
どのくらい、使用したのか?
事細かく 事情聴取をしていきました。
クリーム回収後、お詫びの品を添え、全額返金の手配をしました。

回収したクリームを売るわけにはいきません。
全て、焼却処分しました。

燃え盛る炎の中に、次々と投げ込まれていくクリームを見て、悲しくて、悔しくて、腹立たしくて、涙が出そうになりました。

そんな 私の肩を抱いて、エリィが力強く

「絶対、犯人を見つけ出します!」

そう言ってくれました。




エリィや、警備隊の調査の結果、トラブルを起こした10件のクリームは、全て露天で 売られていた物でした。
うちの店で仕入れて、細工をして、露天で正規の販売価格の3割引きで売られていたらしいです。
すぐに その露天を 調べに向かいましたが、もう既に 店は、畳まれた跡で、影も形もなくなっていました。
店主の人相を聞いて、警備隊に商会が手に入れた情報を流しました。

トラブルから1ヶ月、犯人はまだ、わかりませんが、誰かが うちの製品のクリームに肌を刺激する溶剤を混ぜて、製品として、露天で販売していたそうです。

偽物が出回っている事を 新たに新聞広告に乗せて、しばらくは 商会の会員のみに、直接販売する事が決まりました。

もちろん、譲渡や転売は一切禁止。
約束を守れなかった時は、会員を退会していただくということになりました。

しばらくは、店頭で販売する事は、難しくなりそうです。

「あの クリームは、低価格で、誰でも買えるようにした事が、仇になってしまったわね。まさか 元のクリームに混ぜ物をして 売られるなんて…」

「カトリーヌ様…」

「とにかく、出来る事は 全部したわ!後は警備隊にまかせましょう。」

一体、誰が 何の為に こんな手の込んだ嫌がらせをしたのか、肌トラブルを起こした被害者の中には なけなしのお小遣いを兄弟で出し合って、母親にプレゼントした子もいました。

「絶対、許せない!必ず、犯人を明らかにしてみせるわ!」



その日の夕方、私が執務室で偽物クリームの後始末をしていると、エリィがやって来ました。
エリィには、犯人を捕まえる為、ずっと警備隊に協力してもらっています。

「カティ、大丈夫?」

そう言って、エリィは ふんわりと私を抱きしめてくれました。

「うん。私は大丈夫。エリィもずっと休み無く働いてもらってごめんね。まさか、こんな事件が 起こるなんて…」

「カティのせいじゃ無いよ。悪いのは、悪い事をした奴だ。そこを 間違えたら駄目だ。カティは何も悪く無い。」

そう言いながら、なだめるように 私の背中を、撫でてくれます。

エリィの腕の中が 心地よくて、つい、気が緩んで、涙がこぼれました。

「悔しい…」

私の本音がこぼれます。

彼の胸元をギュッと握りしめます。
彼のシャツがしわくちゃになるのも、気づかずに、私はそのまま、泣き顔を見られないようにうつむいて、彼の胸に顔を埋めました。
そんな私を包み込むように 抱きしめ、エリィはしっかりとした声で、

「私が絶対 犯人を見つけます。私達が作ったクリームに手を出した事を、絶対、後悔させてやります!」

そう言って、私の背中を ゆっくりと撫でてくれました。





それから 又、何日か過ぎて…
その知らせは、突然 舞い込んで来ました。

「犯人が捕まったんですか?」

「ええ、カティ。先程、モルガン商会の本店に警備隊から、犯人が捕まったと 知らせがあったそうです。知らせを受けた義父上と ヘンリー様が、警備隊舎に向かったと 連絡がありました。カティはどうしますか?警備隊舎に行くのなら、私も一緒に行きます。」

エリィが 私の手を ギュッと握ってくれました。
エリィは いつだって 私の不安を先読みして、こうして手を握ってくれたり、抱きしめてくれたりします。
エリィの優しい気持ちを感じて、私は しばし 幸福に満たされます。

「いえ、今は お父様の帰りを待ちたいです。お父様の話を聞いて、それから 今後の事を考えたいです。」

「わかりました。それじゃあ、私達は いつも通り過ごして、ここで 義父上の帰りを待ちましょう。」

「エリィ、私のしたいようにさせてくれて ありがとうございます。」

「お礼を言われるような事はしていませんよ。さぁ 仕事しましょう、やる事はたくさんあります。」

「はい、エリィ。」


その日の夕方、お父様とヘンリーが屋敷へ帰ってきました。

私はエリィと2人、お父様の話を聞くために、お父様の執務室へ向かいました。

「お疲れ様です。義父上、ヘンリー様。」

「お帰りなさい、お父様。ヘンリーもご苦労さま。それで、犯人はどのような?」

「スカーリン家の使用人だったよ。」

お父様が大きくため息をつきました。

「ペトラ様の?」

「ああ、カトリーヌを誘拐した事件が元で、スカーリン家が没落寸前になった事で、仕事を失い、結婚を控えていた恋人に振られたそうだ。その腹いせに あんな事をしたらしい。」

「そうだったんですか…」

「スカーリン家は あの事件以後、多額の借金を抱える事になり、王都の屋敷や、別荘など 全て処分し、領地に戻っている。勤めていた使用人も、大勢解雇している。スカーリン家の者と言う事で、次の仕事もなかなか決まらなかったようだ。そのせいで 恋人だった女性に結婚出来ないと言われて、自暴自棄になったそうだ。」

同情の余地はあるのかしら?
主のせいで、全てを失ったから?
恨みたい気持ちもわかるけど…
でも、だからといって、全然関係ない人を巻き込むのは間違っているわ。

「カトリーヌ、お前はどうしたい?このままでは 平民である彼は、貴族に歯向かったという事で、良くて 強制労働、悪いと、死刑だろう。君はどうしたい?減刑を望むかい?」

「いいえ、お父様、私は何も望みません。全て国の法にお任せします。」

犯人は、怒りを向ける方向を間違えました。
モルガン商会は、スカーリン家の大量解雇に対応するべく、求人や、職の斡旋を行っています。
本人にやり直す気さえあれば、今のような結果には ならなかったでしょう。
まして、他人を巻き込んで、嫌がらせをするなんて、間違っています!

すると、エリィが、

「カティ、私はカティの判断は間違っていないと思う。彼は きちんと自分の犯した罪を理解するべきだし、きちんと償うべきだと思うよ。」

「エリィ…」

エリィの言葉に、胸が温かいもので満たされます。
エリィは、いつだって 私の事を思ってくれます。
その時、私が一番欲しい言葉をくれます。


ああ、エリィの事が、とても大好きです。

結婚式まで、あともう少し。

もうすぐ、私は、世界一愛する彼の 妻になります。











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