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47、呪露
しおりを挟む「ゴボアァ”ァ”ッ!! ぐはあああ”あ”っ――っ!! ・・・ッ!!」
鋼鉄の刃が、カウンターとなって咽喉を抉る。それも、凄まじい速度のぶつかり合いで。
大量の吐血をバチャバチャと周囲に振り撒き、炎天使は吹っ飛んだ。地面と平行に、20mは弾丸のように飛んでいく。
深紅のスーツとマント、そしてショートパンツに包まれたグラマラスボディは、受け身も取れずに下水道の通路に落下した。
「ごぼお”お”っ!! ・・・ぐぶう”ぅ”っ!! げほオ”ォ”っ・・・!! があ”っ・・・ああ”っ・・・!!」
「呪露ッ・・・!! 貴様ッ・・・!!」
ゲヒ・・・。
ゲヒヒ・・・ヒィッヒヒィッ・・・。
ドクドクと、開いた口から鮮血を溢れさせるフェニックスの近くで、下卑た笑いは轟いた。
赤いコスチュームに、灰色の雨が降り注いでいる。鮮やかな深紅が、霧を吹きかけられるかのように汚されていく。
いや、雨ではなかった。ようやく己の身に起きた現実を、凛香も悟った。
バラバラになったと思われた〝流塵”の呪露は、細かな粒子となってオメガフェニックスに纏わりついていたのだ。
「・・・っ!! ・・・バ・・・カなぁ”っ・・・!!」
首と胸とを押さえて悶絶する炎天使を、灰色のヘドロが徐々に覆っていく。
右肩に付着した泥の塊が、ハッキリとした手の形になる。呪露の右手だった。緑色に発光する、腕輪を握っている。
カチャリと音をたてて、オメガフェニックスの右腕に〝オーヴ”に染まった腕輪が装着される。
首を押さえていた右手がガクリと力無く垂れた。
アンチ・オメガ・ウィルスの効果によって、紅蓮の炎天使の右腕は力を封じられてしまったのだ。
「うああ”っ!? ああ”ァ”っ・・・!!」
「ゲヒッ、ゲヒヒヒィッ~~ッ!! どうやって〝オーヴ”鉱石のペンダントを首にかけられたのか・・・カラクリがわかったかぁ~、オメガフェニックスぅ~~ッ!」
「オレの闘いを、よくも邪魔してくれたなッ!! 呪露ッ!!」
足音を鳴らして近づきながら、虎狼が憤怒を露わにする。
「崇高な勝負を!! オメガフェニックスとのサシの決闘を、なぜ貴様は・・・」
「困るなぁ~、虎狼・・・あんた、本当に困るよねぇ~~・・・」
いまやフェニックスを包む汚泥の集合体は、完全に元の小山ほどの大きさに戻っていた。
赤い三日月が3つ。薄気味悪い笑顔を浮かべた呪露は、ショートヘアの猫顏美少女を強引に立たせる。その左腕にも、〝オーヴ”の腕輪を嵌めていく。
オメガフェニックスの左腕もだらりと垂れ、炎天使は両腕の自由を失った。
「こいつらオメガスレイヤーは・・・オレたち妖化屍の殲滅が目的だぜぇ~? ・・・〝オーヴ”がなきゃ、狩られていたのはオレたちかもしれない・・・あんたの遊びには、付き合ってらんないんだよぉ~・・・」
呪露の言葉に、虎狼も、隣に立つ翠蓮も押し黙った。
「徹底的に、やるんだよぉ~・・・やれるときは、容赦なく・・・卑怯でもなんでも、あらゆる手段を使ってこいつらは根絶やしにするんだよぉ~~・・・!」
カチャンッ!! ガチャンッ!!
さらにふたつ、緑の鉄輪を取り出した呪露は、フェニックスの太ももに嵌める。
両脚から力が抜け、凛香は崩れかけた。纏わりつくヘドロが、炎天使の肢体を支えている。
「うあああ”あ”っ~~っ!? ああ”っ・・・!! ち、力・・・がぁ”っ・・・!!」
四肢に装着された、〝オーヴ”の鉄枷。加えて首から提げられたペンダントは、胸の『Ω』紋章をシュウシュウと焦がし、フェニックスのオメガ粒子を着々と消滅させていく。
(う、動け・・・ない・・・っ!! 力、が・・・入らな、いっ・・・!! 息する・・・のも・・・)
「ハァ”・・・ハぁ”・・・・・・はぁ”・・・っ・・・!!」
〝オーヴ”鉱石が胸近くにあるせいで、心臓や肺の動きさえ衰えてきていた。
呼吸するだけで精一杯のオメガフェニックス。炎を生み出すこともできず、ただヘドロの小山に半ば埋まって痙攣するのみ。
(この・・・呪露という・・・化け物・・・爆発させて、も・・・死なない・・・なん、てっ・・・!! どうやって・・・斃せば・・・・・・て、いうか・・・あたし・・・・・・)
「・・・どう、すれば・・・いい・・・の?・・・・・・」
巨大コンツェルンの令嬢にして、高い身体能力を誇る格闘者。
およそ敗北を知らなかった深紅の究極戦士は、絶望の呟きを口にしていた。
「やれ、虎狼・・・オメガフェニックスに・・・トドメを刺してやれぇ~~っ・・・!!」
ほとんど炎天使の全身を包んだ汚泥が、羽交い絞めに拘束する。
〝オーヴ”の鉄輪を四肢に嵌められ、『Ω』マークに緑の鉱石を当てられたオメガフェニックスは、抵抗不能で虎狼の前に差し出された。
「・・・実に、くだらん」
数秒の沈黙の後。
虎狼が突き出した戟の穂先が、無理矢理立たされたフェニックスの左胸に穿たれた。
「ぐはアアア”ア”ア”ァ”ァ”ッ――ッ!!!」
肉の潰れる音がして、絶叫する凛香の口から、ドス黒い吐血が噴き出す。
「ゲヒヒヒィッ~~ッ!! いいぞぉ~、次はアバラだぁ~~っ!!」
無言で修羅妖は、横薙ぎに戟を払う。
緑の穂先が、赤いスーツに包まれた脇腹に吸い込まれる。
ベキベギボギィ”ィ”ッ!! ブチブチッ、バギィ”ィ”ッ!!
「ごびゅうう”う”ッ!!? うぎゃあああ”ア”ア”っ~~っ!! ほ、骨がぁ”っ――っ!!」
「ゲヒ!! ゲヒヒヒッ!! 折れッ・・・砕けぇ~~っ!! ・・・小娘の脇腹・・・グチャグチャにしてやるんだぁ~~・・・」
左右から、幾度も幾度も鋼鉄の戟がアバラに打ち込まれる。
炎天使の脇腹が、ボコボコと陥没する。〝オーヴ”の効果で、オメガフェニックスは普段の甲斐凛香と変わらぬ耐久力に落ちていた。全ての肋骨が無惨に折られ、砕かれる。
「きゃあああ”あ”っ――っ!! ぐあ”ア”っ、アア”ア”ア”っ~~ッ!!」
ぶじゅッ!! ぶじゅじゅッ・・・!! ブシュッ!!
赤黒い泡を吹きながら、壮絶な悲鳴をフェニックスは叫び続けた。アバラ骨が粉々に砕かれ、破片が内臓に刺さっているのが、押し寄せる苦痛でわかる。胴体を引き裂かれたのでは、と疑う激痛だった。涙を振り撒きながらも、懇願の台詞を吐かないのが、凛香の最後の意地だった。
(・・・負け・・・る・・・あた、し・・・・・・オメガ、フェニックスが・・・ボロボロに・・・されて・・・負けちゃう・・・ヨ・・・・・・)
「ゲヒヒヒッ、どうしたぁ、オメガフェニックスぅ~? ・・・誰も助けに来ないぞぉ・・・引き締まった筋肉と、盛り上がったオッパイ・・・お前のカラダ、壊したくなるよなぁ~~・・・」
ドシュウウッ!!
虎狼の戟が、凛香の腋の下。斜め下から突き上げるようにして、打ち込まれる。
「ひゃぐう”う”っ!! ふぎゃああ”あ”っ――っ!! ぐあああ”あ”ア”ア”っ――ッ!!」
〝オーヴ”の穂先を体内に埋められ、黒い吐血を撒き散らしてフェニックスは叫んだ。
ただの少女となった158㎝の豊満ボディを、二体の妖化屍は、容赦なく刺し、抉り、潰して、肉も骨もミンチと変えていく。
凄惨な悲鳴は、地下下水道に響き続けた。
肉体を破壊されたオメガフェニックスに、もはや勝利の可能性などあるわけもなかった。
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