パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 3 ①

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[3]


 人を好きになるのはどういうことか、という問いの答えが、結局わからないままでいる。


「成瀬さんさぁ、榛名に余計なこと言ったでしょ」

 新学期が始まってからというもの、放課後は生徒会室で皓太に業務を引き継ぐことが、あたりまえの日常になってしまっている。
 許容量を超えないようにだけは気を配っているものの、それでも皓太からすると一気に慌ただしくなった気分だろう。それは承知しているので適度に休憩を挟むようにはしているのだが。
 一区切りついた途端に切り出されたそれに、成瀬は改めて隣に座る幼馴染みに意識を向けた。
 自分たち以外に人がいないから気を抜いているのかもしれないが、拗ねているというよりも、はっきりとした不満を秘めた表情をしている。
 感情のマイナスを顔に出すことの少ない幼馴染みにしては、いささか珍しい態度だった。

 ――なんていうか、行人に関することだと、皓太はけっこう表情に出るなぁ。

 当人を前に出してやっているのかは、行人から聞いた話から判断するに怪しいような気はするけれど。ほほえましいという雰囲気をにじませると、話をこじらせてしまいそうだったので、できるだけなんでもないように成瀬はほほえんだ。

「どれのこと?」

 なんのことって言わないあたり、性格悪いな、くらいのことは思っていそうな顔で沈黙していた皓太が、諦めたように小さく嘆息する。

「どれっていうか、……いろいろあるけど、その『生徒会入ったら』みたいなこと」
「あぁ」
「あぁって。なんで、なんだそんなことかみたいな態度なの。成瀬さんが言ったら、榛名は絶対入るってわかってたよね。それ、榛名の選択でもなんでもないでしょ。強制っていうと語弊はあるかもしれないし、成瀬さんにどの程度のつもりがあったのかまでは知らないし、聞かないけど、やめてやってよ」

 榛名にとっては、提案じゃなくて決定になるんだから、と、抱えていた不満を爆発させるように捲くし立てられて、苦笑いになる。

「いや、そんなこととは思ってないけど、なんだそっちかって」
「だから、なんで、そう他人ごとなの。成瀬さんは」
「他人ごとのつもりもなかったんだけど。茅野にも、お膳立てしすぎると皓太に嫌がれるぞって言われたし。気にはしてたよ」

 それなのに、と思っただけだ。
 なによりもまず皓太が抗議をしたかったことは、行人の心情に関することだった。その事実が、どうにもほほえましい。
 言葉にすると、そんな気はないのにからかっていると思われそうだったから言及しなかったのに、伝わってしまったらしかった。バツが悪そうに皓太が眉を下げる。

「……まぁ、それも、思わなくはなかったけど。っていうか、茅野さんも、なんで寮生委員会からの引き抜きを、こう何度も許すかな」
「けっこう怒られたよ、本当。ひさしぶりに切れられた」
「えぇ……、それはそれでどうなの」

 行人と違い、昔の茅野のことをある程度知っている幼馴染みは、なにを想像したのか若干引いた顔をしていた。
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