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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 2 ⑧
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「ちょうどよかった、ね」
「そう。おかげで、必要以上に俺が損な役回りをする必要がなくなった」
もの言いたげな視線は無視したまま、淡々と言い放つ。
「べつに、出方次第では潰してもよかったんだけどな。そういう意味では、あの一年は、成瀬に感謝したほうがいい。あいつが春の時点で潰す気でいたら、もうここにいなかった」
「かわいそうに、水城も」
嘲っているふうでもない、どちらかと言えば言葉どおりに若干憐れんですらいる調子だった。
「いっそのことはっきり言ってやれよ、おまえ。まったくなにひとつとして、きみに興味はありませんって」
そもそも、おまえ、オメガのフェロモン盾に迫ってくるやつ嫌いだろ、と知ったような顔で言われたそれに、同じ言葉を選んで返す。
「かわいそうだろ」
「おまえが言うか、それを」
「年下には優しくしてやらないと。うるさいやつらが多いからな。しかたない」
「……おまえのそういうとこは本当にどうかと思う」
はぁ、とまた大きな溜息を吐いて、篠原が派手な髪を掻きやった。じわじわとした夏の風が吹きつけていく。
「ちょっと、また、話は変わるんだけど。さっきは言わなかったし、基本、成瀬とおまえが揉めるときの原因の八割は成瀬だと思ってんだけど」
その前提で、と続いた声は、本人を前にしては絶対に出さないだろう慮る雰囲気を醸し出していた。本当に、無駄に人がいい。
「あんまりつついて遊んでやんなよ」
応じないまま視線だけを向ければ、篠原が肩をすくめた。
「これは、休み入る前にも言ったけど。そういうときに本性が出るとかなんとか、おまえは言ってたけど、べつに、本人が出したくないっていうなら、引っ張り出すようなもんでもないだろ。それで迷惑被ってるわけでもあるまいし」
「……」
「いや、迷惑被ってないことはないか。でも、まぁ」
被った迷惑を思い出したらしい。律義に訂正してから苦笑する。
「あいかわらず、なんか余裕なさそうだし。腹立つくらい、いつもどおりの顔はしてるけどな」
対外的には取り繕っていても、見るやつが見ればわかるだろう、といわんばかりだった。
――そりゃ、そうだろ。
言葉にはしないまま、向原は内心でそう切り捨てた。それはそうだろうとしか言いようがない。
あれだけ情緒が荒れているのは珍しかったから、つついてみるのは、まぁそれなりには楽しかった。ただ、今は――。
「気に食わねぇな」
なにもかも、すべてが。こぼしたそれに、「だから、そういうとこ」と諦め半分ながらも諫めるように篠原が言う。向原はなにも答えなかった。そういうとこもなにも、もう何年も十分すぎるくらい抑えてやっているつもりだったからだ。
昔から、そうだ。あの目が自分以外のなにかを映すことも、自分以外のことで思い悩むことも、なにもかも気に入らなかった。
「そう。おかげで、必要以上に俺が損な役回りをする必要がなくなった」
もの言いたげな視線は無視したまま、淡々と言い放つ。
「べつに、出方次第では潰してもよかったんだけどな。そういう意味では、あの一年は、成瀬に感謝したほうがいい。あいつが春の時点で潰す気でいたら、もうここにいなかった」
「かわいそうに、水城も」
嘲っているふうでもない、どちらかと言えば言葉どおりに若干憐れんですらいる調子だった。
「いっそのことはっきり言ってやれよ、おまえ。まったくなにひとつとして、きみに興味はありませんって」
そもそも、おまえ、オメガのフェロモン盾に迫ってくるやつ嫌いだろ、と知ったような顔で言われたそれに、同じ言葉を選んで返す。
「かわいそうだろ」
「おまえが言うか、それを」
「年下には優しくしてやらないと。うるさいやつらが多いからな。しかたない」
「……おまえのそういうとこは本当にどうかと思う」
はぁ、とまた大きな溜息を吐いて、篠原が派手な髪を掻きやった。じわじわとした夏の風が吹きつけていく。
「ちょっと、また、話は変わるんだけど。さっきは言わなかったし、基本、成瀬とおまえが揉めるときの原因の八割は成瀬だと思ってんだけど」
その前提で、と続いた声は、本人を前にしては絶対に出さないだろう慮る雰囲気を醸し出していた。本当に、無駄に人がいい。
「あんまりつついて遊んでやんなよ」
応じないまま視線だけを向ければ、篠原が肩をすくめた。
「これは、休み入る前にも言ったけど。そういうときに本性が出るとかなんとか、おまえは言ってたけど、べつに、本人が出したくないっていうなら、引っ張り出すようなもんでもないだろ。それで迷惑被ってるわけでもあるまいし」
「……」
「いや、迷惑被ってないことはないか。でも、まぁ」
被った迷惑を思い出したらしい。律義に訂正してから苦笑する。
「あいかわらず、なんか余裕なさそうだし。腹立つくらい、いつもどおりの顔はしてるけどな」
対外的には取り繕っていても、見るやつが見ればわかるだろう、といわんばかりだった。
――そりゃ、そうだろ。
言葉にはしないまま、向原は内心でそう切り捨てた。それはそうだろうとしか言いようがない。
あれだけ情緒が荒れているのは珍しかったから、つついてみるのは、まぁそれなりには楽しかった。ただ、今は――。
「気に食わねぇな」
なにもかも、すべてが。こぼしたそれに、「だから、そういうとこ」と諦め半分ながらも諫めるように篠原が言う。向原はなにも答えなかった。そういうとこもなにも、もう何年も十分すぎるくらい抑えてやっているつもりだったからだ。
昔から、そうだ。あの目が自分以外のなにかを映すことも、自分以外のことで思い悩むことも、なにもかも気に入らなかった。
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