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第三部
閑話「プロローグ」④
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「おまえが成瀬特別扱いしてんのが気に食わないってのも、なくはないんだろうけど。成瀬の態度のほうが、原因の比率として圧倒的にデカいと思うんだよな」
「まぁ、な」
「それに成瀬が気づいてない時点で、救いようがないっつうか、なんつうか」
まぁ、つまり、と篠原が諦めをたぶんに含んだ調子で首を振る。
「あいつ、変なとこで鈍いよな」
憐憫さえもこもっていそうな総評に、向原はもう一度小さく笑った。
「一番性質が悪いのは、自分は鈍くないって腹の底から思い込んでるところだろ」
本当に、性質が悪いと思う。
自分に向けられる憎悪や欲望という、マイナスな感情にはすぐに気がつくくせに、純粋な好意となると途端に認識しなくなるのだから。
自分にそんなものが向けられるわけがないと思い切っているような、幼い頑なさで。
そうかもな、と宥めるように苦笑してから、でもまぁ、と篠原が言う。
「本尾のほうは、また適当なとこでガス抜いといてやれよ。得意だろ?」
返事の代わりに紫煙を吐いて、眼下を見下ろす。ちらほらと帰寮する生徒の姿が増え始めているところだった。
適当なところで生徒会室に顔を出してやらないと、また寮で文句を言われかねない。べつに、それもどうでもいいと言えば、どうでもいいのだが。
「あの変な噂の出どころも風紀っぽいし。……本尾が放置してるんだとしたら、ちょっと妙な感じはするけど」
「妙な感じ、ね」
「おまえだって、今までどおり向こうで抑えてもらえんなら、そのほうが楽だろ。抑えつけてる手、ここで離されたところで面倒しかねぇし。意図的だって言うなら、なおさら」
ただでさえ、うちの寮にいるのに、とうんざりとした調子を隠しもせず、篠原が吐き捨てる。
「風紀の問題児。あいつら、本尾がいなかったら、もっと好き勝手してる。絶対」
本尾とは違う「問題児」たちの言動が、目に余っているらしい。風紀委員会室の入っている校舎へと視線を移しつつ、「まぁな」と向原は認めた。
後先を考えないタイプの馬鹿だから、重しがなくなれば、それはもう好き放題することだろう。
――まぁ、べつに、潰してもいいんだけどな。
成瀬がうるさがりそうだから、適当なところで捨て置いているというだけのことだ。その問題児たちがいなくなろうが、どうだっていい。
追い出すことも、タイミングさえ誤らなければ、そう難しいことではない。
「あの、……向原?」
「なんだよ」
「すげぇ嫌なこと考えてそうな顔してて怖いんだけど。これ、あいつら追い出せって話じゃないからな?」
勘違いすんなよ、と念を押されて、軽く顔をしかめてみせる。
「おまえのために誰がそんな労力使うかよ」
「俺のためにするとは思ってねぇけど!」
打てば響くように弁明してから、篠原が派手な髪をかき上げた。その視線もまた委員会室の連なる窓へと向けられている。
「あいつが絡んでるから、心配してんの。やりすぎんなよって」
「……」
「面倒なやつらだけど、適当に共存してくしかねぇだろ。どう転んでもあと四年一緒なんだし」
追い出したら、無駄な我慢する必要もなくなるのにな、と思いながら、向原は灰を叩いた。金網の隙間から舞い落ちていく。
「おまえもそう思ってるから、本尾とずっとそうやってきてるんだろ」
生徒会と風紀とでバランスを取っている、ということだ。黙ったままでいると、篠原が呆れたように小さく笑った。
「本当、よくわかんねぇ付き合いだよな、おまえらも。成瀬に言わせると、本尾はおまえのこと『好き』で、『心配してる』らしいけど」
「言わせとけよ」
その認識が改まることはないとわかっていたので、苦笑ひとつで受け流す。べつに、なにをどう思われていようとも、構わないと言えば構わなかった。
「でも、なんつうか、おまえらみたいなのを腐れ縁って言うんだろうなとは思う。わかんねぇけど」
なくても困らないが、あるとそれなりに便利なもの。だから、利用できるうちは使ってやろうと決めている。それだけのことだったから、「そうかもな」とだけ向原は相槌を打った。
「まぁ、な」
「それに成瀬が気づいてない時点で、救いようがないっつうか、なんつうか」
まぁ、つまり、と篠原が諦めをたぶんに含んだ調子で首を振る。
「あいつ、変なとこで鈍いよな」
憐憫さえもこもっていそうな総評に、向原はもう一度小さく笑った。
「一番性質が悪いのは、自分は鈍くないって腹の底から思い込んでるところだろ」
本当に、性質が悪いと思う。
自分に向けられる憎悪や欲望という、マイナスな感情にはすぐに気がつくくせに、純粋な好意となると途端に認識しなくなるのだから。
自分にそんなものが向けられるわけがないと思い切っているような、幼い頑なさで。
そうかもな、と宥めるように苦笑してから、でもまぁ、と篠原が言う。
「本尾のほうは、また適当なとこでガス抜いといてやれよ。得意だろ?」
返事の代わりに紫煙を吐いて、眼下を見下ろす。ちらほらと帰寮する生徒の姿が増え始めているところだった。
適当なところで生徒会室に顔を出してやらないと、また寮で文句を言われかねない。べつに、それもどうでもいいと言えば、どうでもいいのだが。
「あの変な噂の出どころも風紀っぽいし。……本尾が放置してるんだとしたら、ちょっと妙な感じはするけど」
「妙な感じ、ね」
「おまえだって、今までどおり向こうで抑えてもらえんなら、そのほうが楽だろ。抑えつけてる手、ここで離されたところで面倒しかねぇし。意図的だって言うなら、なおさら」
ただでさえ、うちの寮にいるのに、とうんざりとした調子を隠しもせず、篠原が吐き捨てる。
「風紀の問題児。あいつら、本尾がいなかったら、もっと好き勝手してる。絶対」
本尾とは違う「問題児」たちの言動が、目に余っているらしい。風紀委員会室の入っている校舎へと視線を移しつつ、「まぁな」と向原は認めた。
後先を考えないタイプの馬鹿だから、重しがなくなれば、それはもう好き放題することだろう。
――まぁ、べつに、潰してもいいんだけどな。
成瀬がうるさがりそうだから、適当なところで捨て置いているというだけのことだ。その問題児たちがいなくなろうが、どうだっていい。
追い出すことも、タイミングさえ誤らなければ、そう難しいことではない。
「あの、……向原?」
「なんだよ」
「すげぇ嫌なこと考えてそうな顔してて怖いんだけど。これ、あいつら追い出せって話じゃないからな?」
勘違いすんなよ、と念を押されて、軽く顔をしかめてみせる。
「おまえのために誰がそんな労力使うかよ」
「俺のためにするとは思ってねぇけど!」
打てば響くように弁明してから、篠原が派手な髪をかき上げた。その視線もまた委員会室の連なる窓へと向けられている。
「あいつが絡んでるから、心配してんの。やりすぎんなよって」
「……」
「面倒なやつらだけど、適当に共存してくしかねぇだろ。どう転んでもあと四年一緒なんだし」
追い出したら、無駄な我慢する必要もなくなるのにな、と思いながら、向原は灰を叩いた。金網の隙間から舞い落ちていく。
「おまえもそう思ってるから、本尾とずっとそうやってきてるんだろ」
生徒会と風紀とでバランスを取っている、ということだ。黙ったままでいると、篠原が呆れたように小さく笑った。
「本当、よくわかんねぇ付き合いだよな、おまえらも。成瀬に言わせると、本尾はおまえのこと『好き』で、『心配してる』らしいけど」
「言わせとけよ」
その認識が改まることはないとわかっていたので、苦笑ひとつで受け流す。べつに、なにをどう思われていようとも、構わないと言えば構わなかった。
「でも、なんつうか、おまえらみたいなのを腐れ縁って言うんだろうなとは思う。わかんねぇけど」
なくても困らないが、あるとそれなりに便利なもの。だから、利用できるうちは使ってやろうと決めている。それだけのことだったから、「そうかもな」とだけ向原は相槌を打った。
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