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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 8 ③
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「このあいだ、水城、うちのクラスに来てたんだけどさ」
そういえば、と寮の部屋で話題を振ったのは、意外だったできごとが頭に残っていたからだった。
毛嫌いしていたはずのアルファと、こんなふうに話せるようになったのだから、入学してからの三年で、自分も丸くなったなぁ、とも思う。
「なんか、すごい機嫌良さそうだった。教室でもあんな感じなの?」
前、ちょっと苛々してるって言ってただろ、と問い重ねると、高藤が心持ち不思議そうに繰り返した。
「良かったんだ、機嫌」
「そう思ったけど……」
応えながら、回想する。行人の目には、少なくともそう見えたのだが、教室での様子はやはり違うのだろうか。
「ちょっと前に、渡り廊下でばったり話しかけられたことあったんだけどさ。そのときは、四谷のこと完全無視で、四谷が気ぃ悪くしてたんだけど。教室に来たときは、『あ、四谷くん』って、にこにこ話しかけてたから」
それはそれで、気持ちが悪いと四谷はものすごく嫌そうな顔をしていたけれど。とりあえず、態度が良かったことは事実である。
「それに、四谷だけじゃなくて、ほかのアルファじゃないやつにも。ほら、水城、……なんていうか、価値観の基準、アルファか、そうじゃないか、みたいなとこあるじゃん。それが誰にでも愛想良かったからさ」
機嫌良かったって思うだろ、と行人は説明してみせた。
「あぁ、まぁ、それは、そうかもね」
あけすけな水城評に、高藤は苦笑まじりに同意を示した。
とはいえ、水城は、ベータにあからさまな態度を取っていたわけではない。ただ、完全にいないものとして扱っていたというだけだ。
にこにこ笑ってはいるものの、自分からは決して喋りかけない。相手からも喋りかけさせない。
それを徹底して、高嶺の花のような存在になっていた、というだけだけのこと。
だから、ハルちゃんに話しかけられる気がしないというのが、ベータの生徒の常套句だったのだ。
「そういうわけで、けっこうみんなうれしそうでさ。そもそも、うちのクラスはアルファなんてほどんどいないし、水城が来ることなんて今までなかったんだけど」
それが急にどうしたのだろうと不審に思いもした。それでも、このあいだの一件で良い方向に変わったのかもしれない、という淡い思いもあって、そちらに少しだけ期待していた。
行人自身、自分の考え方は偏っている部分もあると知っているし、幼いところもあると理解している。けれど、成瀬や茅野、あるいは高藤と話す中で改めることもあったから。
だから、あるいは、と思っていたのに。鈍い反応に、先ほどの問いを繰り返す。
「自分の教室じゃ、そんなことないの? おまえ、自分のクラスは水城が牛耳ってるみたいなこと言ってなかった?」
「いや、……牛耳ってるとまでは言ってないと思うんだけど。でも、まぁ、機嫌良かったんなら、よかったじゃん。その分だと、榛名も絡まれなかったんでしょ?」
にこ、とほほえんだ顔の似非くささに、行人は思わずジト目になった。
「その顔、成瀬さんにそっくり」
「え」
「……嫌なら改めろよ」
というか、似てるだのなんだのと言われること自体いまさらだろう。自分はあまり言ったことはなかったかもしれないが。
そもそもとして、そこまで嫌がらなくてもいいのに、とも思うが、またなにか隠そうとしてるという非難も含んでいたので、そういう意味ではしかたなかったのかもしれない、とも思う。
「いや、その」
妙に焦った調子で、高藤は言い繕った。
「ちょっと似たようなこと向原さんに言われたばっかりだったから」
「向原先輩に?」
「そう。生徒会室でちょっと。あの人の言うこと基本的に正論だから、耳が痛くて。まぁ、そう。本当、改めようかなとは思ってたんだけど」
人間、そう簡単には変わらないってことだな、とひとりで納得したように苦笑してから、高藤はおもむろに切り出した。
「じゃあ、榛名は、なんで水城がベータに愛想よく接し始めたんだと思ったの? 機嫌が良かったから? なんか裏があるとか思わなかったんだ」
「裏っていうか、成瀬さんが言ったことで、思うところがあったんならよかったなって思ってたんだけど」
「あー……、なるほど。榛名って、そういうところ素直だよね」
「馬鹿にしてんのか、それは」
高藤の顔に浮かんだ生ぬるい笑みに、声のトーンが下がる。言葉どおりのものではなく、視野が狭いという意味だと取らざるを得ない。悪かったな。
「このあいだ、水城、うちのクラスに来てたんだけどさ」
そういえば、と寮の部屋で話題を振ったのは、意外だったできごとが頭に残っていたからだった。
毛嫌いしていたはずのアルファと、こんなふうに話せるようになったのだから、入学してからの三年で、自分も丸くなったなぁ、とも思う。
「なんか、すごい機嫌良さそうだった。教室でもあんな感じなの?」
前、ちょっと苛々してるって言ってただろ、と問い重ねると、高藤が心持ち不思議そうに繰り返した。
「良かったんだ、機嫌」
「そう思ったけど……」
応えながら、回想する。行人の目には、少なくともそう見えたのだが、教室での様子はやはり違うのだろうか。
「ちょっと前に、渡り廊下でばったり話しかけられたことあったんだけどさ。そのときは、四谷のこと完全無視で、四谷が気ぃ悪くしてたんだけど。教室に来たときは、『あ、四谷くん』って、にこにこ話しかけてたから」
それはそれで、気持ちが悪いと四谷はものすごく嫌そうな顔をしていたけれど。とりあえず、態度が良かったことは事実である。
「それに、四谷だけじゃなくて、ほかのアルファじゃないやつにも。ほら、水城、……なんていうか、価値観の基準、アルファか、そうじゃないか、みたいなとこあるじゃん。それが誰にでも愛想良かったからさ」
機嫌良かったって思うだろ、と行人は説明してみせた。
「あぁ、まぁ、それは、そうかもね」
あけすけな水城評に、高藤は苦笑まじりに同意を示した。
とはいえ、水城は、ベータにあからさまな態度を取っていたわけではない。ただ、完全にいないものとして扱っていたというだけだ。
にこにこ笑ってはいるものの、自分からは決して喋りかけない。相手からも喋りかけさせない。
それを徹底して、高嶺の花のような存在になっていた、というだけだけのこと。
だから、ハルちゃんに話しかけられる気がしないというのが、ベータの生徒の常套句だったのだ。
「そういうわけで、けっこうみんなうれしそうでさ。そもそも、うちのクラスはアルファなんてほどんどいないし、水城が来ることなんて今までなかったんだけど」
それが急にどうしたのだろうと不審に思いもした。それでも、このあいだの一件で良い方向に変わったのかもしれない、という淡い思いもあって、そちらに少しだけ期待していた。
行人自身、自分の考え方は偏っている部分もあると知っているし、幼いところもあると理解している。けれど、成瀬や茅野、あるいは高藤と話す中で改めることもあったから。
だから、あるいは、と思っていたのに。鈍い反応に、先ほどの問いを繰り返す。
「自分の教室じゃ、そんなことないの? おまえ、自分のクラスは水城が牛耳ってるみたいなこと言ってなかった?」
「いや、……牛耳ってるとまでは言ってないと思うんだけど。でも、まぁ、機嫌良かったんなら、よかったじゃん。その分だと、榛名も絡まれなかったんでしょ?」
にこ、とほほえんだ顔の似非くささに、行人は思わずジト目になった。
「その顔、成瀬さんにそっくり」
「え」
「……嫌なら改めろよ」
というか、似てるだのなんだのと言われること自体いまさらだろう。自分はあまり言ったことはなかったかもしれないが。
そもそもとして、そこまで嫌がらなくてもいいのに、とも思うが、またなにか隠そうとしてるという非難も含んでいたので、そういう意味ではしかたなかったのかもしれない、とも思う。
「いや、その」
妙に焦った調子で、高藤は言い繕った。
「ちょっと似たようなこと向原さんに言われたばっかりだったから」
「向原先輩に?」
「そう。生徒会室でちょっと。あの人の言うこと基本的に正論だから、耳が痛くて。まぁ、そう。本当、改めようかなとは思ってたんだけど」
人間、そう簡単には変わらないってことだな、とひとりで納得したように苦笑してから、高藤はおもむろに切り出した。
「じゃあ、榛名は、なんで水城がベータに愛想よく接し始めたんだと思ったの? 機嫌が良かったから? なんか裏があるとか思わなかったんだ」
「裏っていうか、成瀬さんが言ったことで、思うところがあったんならよかったなって思ってたんだけど」
「あー……、なるほど。榛名って、そういうところ素直だよね」
「馬鹿にしてんのか、それは」
高藤の顔に浮かんだ生ぬるい笑みに、声のトーンが下がる。言葉どおりのものではなく、視野が狭いという意味だと取らざるを得ない。悪かったな。
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