252 / 484
第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 5 ⑦
しおりを挟む
「それでね、皓太は完全に前者なんだけど、そもそもとして、暴力なんてありえないっていう健全な世界で生きてるから、頭を下げてでも回避すると思うよ。だから、あいつは喧嘩はしない」
「……」
「一番まともだと俺は思うよ」
だから、と行人をまっすぐに見つめたまま、成瀬は続けた。
「大丈夫だよ。あいつのとなりにいたら」
なんだ、と思った。言わなかったけれど。自分に気を使っていたのではなく、これを言いたかっただけだとわかったからだ。
素直に頷けば、この人は安心してくれるのかもしれない。否定的なことを口にする気にはやはりなれなかったし、なによりも、本心で心配してくれているからこその言葉だと知っている。それに応えたいとも思う。でも、高藤は、と思考を巡らせたところで、わからなくなった。
高藤は、成瀬が言うとおりで「まとも」だ。
だから、少なくともここを卒業するまでのあいだは「行人のつがい」でいてくれるのだろうと思う。けれど、それは、正義感か、あるいは義務感のようなものでしかなくて。だから――。
「行人」
優しい声に、うつむいてしまっていた顔を上げる。この学園の中で、彼だけが使う呼び名。はじめてそう呼ばれたときから、行人の特別だった。
「俺ね、行人たちが安心できる場所をつくりたかったんだよ。こう見えても」
「……知ってます」
ぎこちないながらも、顔をほころばせる。知っていた、というと語弊はあるかもしれない。でも、想像でしかないけれど、この人は自分のために「学園をつくり変えた」わけではないだろうと思っていた。だから、そうなのだろうなと思ったのだ。
じゃあ、誰のためだったのか、ということまで行人にはわからないし、自分のためだけだったと思うほど自惚れてはいないけれど。
「成瀬さんは、自分のためだけに、そこまでの労力は割かないですよね、きっと」
「そう言われると、ちょっと肯定も否定もしにくいんだけど」
行人と話してると、みんないい人になるなぁ、と優しい表情で苦笑してから、でも、と成瀬は言葉を続けた。
「行人のことを一番って言っていいくらいに、心配してたのは本当。って言っても、行人に問題があったわけじゃもちろんなくて、俺の勝手だったんだけどね」
「え……?」
「でも、もう大丈夫かな。ここがどんな場所になっても、行人はひとりじゃない。皓太もいるし、友達もできただろ」
にこりと成瀬がほほえむ。いつもどおりのはずなのに、一線を引かれた気がしてしまって、すぐに頷くことができなかった。
昔よりも人間的に丸くなっただとか、成長しただとか、そういうふうに評してくれただけだとは思えなかったのだ。むしろ、ひとつひとつ手放しているみたいで。
「……」
「一番まともだと俺は思うよ」
だから、と行人をまっすぐに見つめたまま、成瀬は続けた。
「大丈夫だよ。あいつのとなりにいたら」
なんだ、と思った。言わなかったけれど。自分に気を使っていたのではなく、これを言いたかっただけだとわかったからだ。
素直に頷けば、この人は安心してくれるのかもしれない。否定的なことを口にする気にはやはりなれなかったし、なによりも、本心で心配してくれているからこその言葉だと知っている。それに応えたいとも思う。でも、高藤は、と思考を巡らせたところで、わからなくなった。
高藤は、成瀬が言うとおりで「まとも」だ。
だから、少なくともここを卒業するまでのあいだは「行人のつがい」でいてくれるのだろうと思う。けれど、それは、正義感か、あるいは義務感のようなものでしかなくて。だから――。
「行人」
優しい声に、うつむいてしまっていた顔を上げる。この学園の中で、彼だけが使う呼び名。はじめてそう呼ばれたときから、行人の特別だった。
「俺ね、行人たちが安心できる場所をつくりたかったんだよ。こう見えても」
「……知ってます」
ぎこちないながらも、顔をほころばせる。知っていた、というと語弊はあるかもしれない。でも、想像でしかないけれど、この人は自分のために「学園をつくり変えた」わけではないだろうと思っていた。だから、そうなのだろうなと思ったのだ。
じゃあ、誰のためだったのか、ということまで行人にはわからないし、自分のためだけだったと思うほど自惚れてはいないけれど。
「成瀬さんは、自分のためだけに、そこまでの労力は割かないですよね、きっと」
「そう言われると、ちょっと肯定も否定もしにくいんだけど」
行人と話してると、みんないい人になるなぁ、と優しい表情で苦笑してから、でも、と成瀬は言葉を続けた。
「行人のことを一番って言っていいくらいに、心配してたのは本当。って言っても、行人に問題があったわけじゃもちろんなくて、俺の勝手だったんだけどね」
「え……?」
「でも、もう大丈夫かな。ここがどんな場所になっても、行人はひとりじゃない。皓太もいるし、友達もできただろ」
にこりと成瀬がほほえむ。いつもどおりのはずなのに、一線を引かれた気がしてしまって、すぐに頷くことができなかった。
昔よりも人間的に丸くなっただとか、成長しただとか、そういうふうに評してくれただけだとは思えなかったのだ。むしろ、ひとつひとつ手放しているみたいで。
11
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
嫌われものの僕について…
相沢京
BL
平穏な学校生活を送っていたはずなのに、ある日突然全てが壊れていった。何が原因なのかわからなくて気がつけば存在しない扱いになっていた。
だか、ある日事態は急変する
主人公が暗いです
【BL】男なのにNo.1ホストにほだされて付き合うことになりました
猫足
BL
「浮気したら殺すから!」
「できるわけがないだろ……」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その結果、恋人に昇格。
「僕、そのへんの女には負ける気がしないから。こんな可愛い子、ほかにいるわけないしな!」
「スバル、お前なにいってんの…?」
美形病みホスと平凡サラリーマンの、付き合いたてカップルの日常。
※【男なのになぜかNo. 1ホストに懐かれて困ってます】の続編です。
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
悪役令息の兄には全てが視えている
翡翠飾
BL
「そういえば、この間臣麗くんにお兄さんが居るって聞きました!意外です、てっきり臣麗くんは一人っ子だと思っていたので」
駄目だ、それを言っては。それを言ったら君は───。
大企業の御曹司で跡取りである美少年高校生、神水流皇麗。彼はある日、噂の編入生と自身の弟である神水流臣麗がもめているのを止めてほしいと頼まれ、そちらへ向かう。けれどそこで聞いた編入生の言葉に、酷い頭痛を覚え前世の記憶を思い出す。
そして彼は気付いた、現代学園もののファンタジー乙女ゲームに転生していた事に。そして自身の弟は悪役令息。自殺したり、家が没落したり、殺人鬼として少年院に入れられたり、父に勘当されキャラ全員を皆殺しにしたり───?!?!しかもそんな中、皇麗はことごとく死亡し臣麗の闇堕ちに体よく使われる?!
絶対死んでたまるか、臣麗も死なせないし人も殺させない。臣麗は僕の弟、だから僕の使命として彼を幸せにする。
僕の持っている予知能力で、全てを見透してみせるから───。
けれど見えてくるのは、乙女ゲームの暗い闇で?!
これは人が能力を使う世界での、予知能力を持った秀才美少年のお話。
元生徒会長さんの日常
あ×100
BL
俺ではダメだったみたいだ。気づけなくてごめんね。みんな大好きだったよ。
転校生が現れたことによってリコールされてしまった会長の二階堂雪乃。俺は仕事をサボり、遊び呆けたりセフレを部屋に連れ込んだりしたり、転校生をいじめたりしていたらしい。
そんな悪評高い元会長さまのお話。
長らくお待たせしました!近日中に更新再開できたらと思っております(公開済みのものも加筆修正するつもり)
なお、あまり文才を期待しないでください…痛い目みますよ…
誹謗中傷はおやめくださいね(泣)
2021.3.3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる