パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 5 ⑦

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「それでね、皓太は完全に前者なんだけど、そもそもとして、暴力なんてありえないっていう健全な世界で生きてるから、頭を下げてでも回避すると思うよ。だから、あいつは喧嘩はしない」
「……」
「一番まともだと俺は思うよ」

 だから、と行人をまっすぐに見つめたまま、成瀬は続けた。

「大丈夫だよ。あいつのとなりにいたら」

 なんだ、と思った。言わなかったけれど。自分に気を使っていたのではなく、これを言いたかっただけだとわかったからだ。
 素直に頷けば、この人は安心してくれるのかもしれない。否定的なことを口にする気にはやはりなれなかったし、なによりも、本心で心配してくれているからこその言葉だと知っている。それに応えたいとも思う。でも、高藤は、と思考を巡らせたところで、わからなくなった。
 高藤は、成瀬が言うとおりで「まとも」だ。
 だから、少なくともここを卒業するまでのあいだは「行人のつがい」でいてくれるのだろうと思う。けれど、それは、正義感か、あるいは義務感のようなものでしかなくて。だから――。

「行人」

 優しい声に、うつむいてしまっていた顔を上げる。この学園の中で、彼だけが使う呼び名。はじめてそう呼ばれたときから、行人の特別だった。

「俺ね、行人たちが安心できる場所をつくりたかったんだよ。こう見えても」
「……知ってます」

 ぎこちないながらも、顔をほころばせる。知っていた、というと語弊はあるかもしれない。でも、想像でしかないけれど、この人は自分のために「学園をつくり変えた」わけではないだろうと思っていた。だから、そうなのだろうなと思ったのだ。
 じゃあ、誰のためだったのか、ということまで行人にはわからないし、自分のためだけだったと思うほど自惚れてはいないけれど。

「成瀬さんは、自分のためだけに、そこまでの労力は割かないですよね、きっと」
「そう言われると、ちょっと肯定も否定もしにくいんだけど」

 行人と話してると、みんないい人になるなぁ、と優しい表情で苦笑してから、でも、と成瀬は言葉を続けた。

「行人のことを一番って言っていいくらいに、心配してたのは本当。って言っても、行人に問題があったわけじゃもちろんなくて、俺の勝手だったんだけどね」
「え……?」
「でも、もう大丈夫かな。ここがどんな場所になっても、行人はひとりじゃない。皓太もいるし、友達もできただろ」

 にこりと成瀬がほほえむ。いつもどおりのはずなのに、一線を引かれた気がしてしまって、すぐに頷くことができなかった。
 昔よりも人間的に丸くなっただとか、成長しただとか、そういうふうに評してくれただけだとは思えなかったのだ。むしろ、ひとつひとつ手放しているみたいで。
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