上 下
188 / 246

第188話 上級者向けダンジョン ラスボス戦

しおりを挟む
10層を攻略してから3日が経った。

俺達の目的はダンジョンに慣れることから満足するまで身体を動かすことに変わり、毎日10層攻略してボスを倒してはボス部屋で模擬戦をするのが日課となっていた。

そして今日、気が付けばこのダンジョンの最下層である47層ボス部屋前に辿りついていた。



「ちゃっちゃと倒して模擬戦始めよーぜ!!」



「今まで出てきた魔物から察するに、ボスはAランク魔物程度の強さですしね。」



「順番的にスーが戦う番だけど、今回はラスボスだから一応気を抜かずに全員でかかろう。」



「了解~じゃあ行こっか~」



軽いノリでラスボス部屋の扉を開けると、そこには巨大蜘蛛とその巣が天井いっぱいに広がっていた。

赤い8つの目がギラギラとこちらを睨みつけ、顎をぶつけ合ってカチカチと気味の悪い音を立てている。



その正体は口から酸性液を吐き、尻から毒糸を射出し、さらに死ぬ間際にBランク魔物ヒュージスパイダーを大量に産卵する性質を持つSランク魔物、クイーンスパイダーだった。

人里離れた遺跡の奥に存在しているため本来なら滅多に遭遇しない魔物で、毒抜きした糸は最高級の衣服に使われるという。



「気持ち悪っ!…オレこういうの無理だ…」



「確かに文献よりおぞましい見た目ですね。」



「ふむ…俺は見てるから4人だけで戦ってみるか?」



「いいの~?」



「ああ。俺が新遺跡で得た武器を使ったら瞬殺しそうだからな。」



「りょ、了解なのです!!」



俺は40層のボス戦で新遺跡から持ち帰った武器を試してみたのだが、流石SSSランク武器といった性能だった。

まるで豆腐を切っているかのような感触で岩を真っ二つに斬り裂き、貫くのだ。



ちなみに”鬼人剣”には毎日自傷して俺の血を吸わせているが、まだグレートバスタードソードと同程度の切れ味しかない。

吸血鬼になってTP消費で造血することができるが、延々と血を吸わせ続けている感覚が気持ち悪いので毎晩30分程度しか行っていない。



『…うわっ、危ねぇ。手出してないのになんでこっちに酸性液吐いてくるんだよ…』



戦闘の様子に視線を戻してみると、既にこちらは無傷のまま8本ある足の内3本を斬り落としていた。

俺に続くパーティーの第2司令塔であるスーが的確な指示を出しているようだ。

アイリスが俊敏性を生かして攻撃を引き付けているうちにクレアとイザベルが強撃を与え、ヘイトが2人に向いたら今度はアイリスが攻撃を与えているようだ。



『…なるほどなるほど。酸性液を吐くときには頭を引いて顎を開く予備動作があるのか。毒糸を射出するときは尻の部分が急激に膨らむ予備動作か。』



クレア達の戦闘を他所に、俺はクイーンスパイダーに関する情報を次々メモに書き記していった。

俺の目的はギルドに情報を売却して利益を得ることではなく、この情報を提供することで多くの冒険者の命を助けることだ。

俺としてはこういった偽善者的行動に興味はないのだが、師範からギルドマスターとして依頼されたことなので引き受けたのだ。



『…俺にとっても魔物の戦闘情報は役立つしな。』



「キシャァァー----!!!!」



そんなことを考えているうちに、4人は息を乱すことなくクイーンスパイダーを瀕死まで追い込んでいた。

クイーンスパイダーは威嚇の声を上げ、クレアのラストアタックで絶命すると同時にヒュージスパイダーを大量に産卵してすぐに孵化した。



『うわっ…前世の教科書でトラウマになったカマキリの孵化以上に気持ち悪いな…』



その数は約200匹、この広いラスボス部屋が体長2mほどの子蜘蛛で埋め尽くされた。

遠くで鳥肌を立てながら駆除しているクレア達の悲鳴が聞こえる。



「こっち来たし…これは手出していいか。」



何となく”鬼人剣”に蜘蛛の血は吸わせたくないと感じ、グレートバスタードソードに持ち替えて両手剣Lv.10”アトミックスターダスト”を仲間に当たらない程度に手加減して行使した。

1撃で周囲にいた70匹近くが粉々に斬り裂かれ、靄になって消えてゆく。



『フィールドじゃなくて良かった…間違いなく緑色の血や肉を浴びることになってただろうな…』



俺の攻撃を皮切りに、クレア達も広範囲ソードスキルを行使してヒュージスパイダーを殲滅した。

ラスボス部屋の床には煌めく大量の魔石が散らばっている。

いちいち拾うのは面倒くさいので、”アイテムボックス”の特性を生かして立ったまま範囲選択して収納した。



「お疲れ様。状態異常に罹った人は…いないみたいだな。」



「うん!昼食取って早く模擬戦しようよ~!!」



「スーは元気だな…オレはちょっと休む…」



「ボ、ボクも…」



おそらくクレアとイザベルは大量の蜘蛛という最悪な場面を見てSAN値が削られたのだろう。

俺も虫は苦手だったが、”アトミックスターダスト”もあるし実力的に絶対に身体に触れられないことを信じているので何とか心を保っているのだ。



それから昼食をとりつつ休憩し、模擬戦をしてパーティーハウスに帰った。

模擬戦を始める頃にはクレアとイザベルもSAN値が回復し、いつも通り全力で戦った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。  キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。  しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。  つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。  お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。  この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。  これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界に転生!堪能させて頂きます

葵沙良
ファンタジー
遠宮 鈴霞(とおみやりんか)28歳。 大手企業の庶務課に勤める普通のOL。 今日は何時もの残業が無く、定時で帰宅途中の交差点そばのバス停で事件は起きた━━━━。 ハンドルを切り損なった車が、高校生3人と鈴霞のいるバス停に突っ込んできたのだ! 死んだと思ったのに、目を覚ました場所は白い空間。 女神様から、地球の輪廻に戻るか異世界アークスライドへ転生するか聞かれたのだった。 「せっかくの異世界、チャンスが有るなら行きますとも!堪能させて頂きます♪」 笑いあり涙あり?シリアスあり。トラブルに巻き込まれたり⁉ 鈴霞にとって楽しい異世界ライフになるのか⁉ 趣味の域で書いておりますので、雑な部分があるかも知れませんが、楽しく読んで頂けたら嬉しいです。戦闘シーンも出来るだけ頑張って書いていきたいと思います。 こちらは《改訂版》です。現在、加筆・修正を大幅に行っています。なので、不定期投稿です。 何の予告もなく修正等行う場合が有りますので、ご容赦下さいm(__)m

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

処理中です...