異世界転生録～死と隣り合わせのこの世界で死なないため、力を付けます！！～

第141話 反乱

どうやらこの愚王は本気で俺を捕らえられると思っているらしい。

その証拠に、玉座で女を抱き始めた。



「ふざけるのも大概にしろよ…！！豚のような醜い容姿に腐りきった性根…はっきり言ってゴブリン以下だ！！」



「何だとぉ…！！お前ら！！！ぐちゃぐちゃに殺して魔物の餌にでもしてやれ！！」



しかし、衛兵たちは何故か全く動かない。

それどころか俺に向かって畏怖している。



「…どうした？」



どうやら俺は怒りで無意識のうちに”威圧”スキルを行使していたようだ。



「ヒッ…ヒィィィ！！！」



「い、嫌だ！！！俺はこんなところで死にたくねぇ！！！」



「お、俺たちの王はアッシュ様だけだ！！！死ねぇぇ！！！！！」



衛兵たちは俺との実力の差を感じたようで、逃げ出す者、愚王を殺そうとする者が現れた。

例の執事も先王派だったようで、愚王の殺害の方に回っていた。



「お、お前たち！！何のつもりだ！！！や、やめ…お、おい！！朕を助けろ！！」



先程抱いていた女にも冷たい目で見られ、衛兵たちの方に蹴飛ばされた。

そして愚王は衛兵たちに斬り殺された。

誰一人として愚王を慕っている者はいなかったようだ。



『…惨めだな。』



「ダグラス様。」



執事が話しかけてきた。

なぜか衛兵たちも皆こちらを向いている。



「…なんだ？」



「私たちは先日先王が亡くなった日から反乱の機を窺っておりました。巻き込んでしまい、申し訳ございません。」



「構わない。それで、お前たちだけで魔法国家との戦争はどうするつもりだ？」



「実は今回の戦争、イゴール様の独断専行だったのです。勇者の召喚、即ち魔王誕生の可能性が出てから武闘国家と魔法国家は不可侵条約を締結しておりました。」



確かに魔王という人族共通の敵がいるのに、人族同士で争っている場合ではないからな。

あの愚王は性格だけでなく政治センスもゴブリン以下だったようだ。



「ですのでこの首を持っていけば何とか…」



「…それで大丈夫だと思うか？」



「大丈夫…ではないでしょうね。」



「…乗り掛かった舟だ。手伝うよ。」



「…っ！！ありがとうございます…！！」



正直俺が同行したところでほとんど何も変わらないだろう。

ではなぜわざわざ魔法国家に向かうのか。

それは、ひとえに魔法国家の国王と顔合わせをするためだ。



今後ヴァルハラ帝国として世間に公表することになった際、後ろ盾になってほしいのだ。

そのためにも魔法国家に貸しを作っておきたい。



「ダグラス様、今日はもう昼を回っておりますので魔法国家を訪ねるのは翌朝でいいでしょうか？」



「ああ。できるだけ政務処理をしておくといい。」



「お気遣いいただきありがとうございます…」



その後話し合って予定を詰め、待ち合わせは翌朝に武闘国家の王宮前ということになった。

俺は屋敷に戻り、一旦休憩をとった。



とりあえずこの問題が解決するまでは武闘国家にいた方がいいだろう。

ヴァルハラにいる幹部たちにその旨を話し、了解をとっておいた。



『さて…敵国である武闘国家の愚王の政権を止め、そして莫大な被害が予想される戦争を事前に止めた。…これは手札として使えるはずだ。』



聞いた情報によると、魔法国家の国王キース＝リー＝ウェイラットは若干27歳にして基本属性すべてSランクに到達し、魔法国家の国王に就任した。

しかし、彼はその後自身の成長に限界を感じて病んでしまった。



『”限界突破”スキルの偉大さを改めて実感するな…』



ちなみに武闘国家との戦争は研究の実験程度にしか思っていないらしい。

まさにマッドサイエンティストといった人物なのだろう。



『狂人じゃなかったらいいが…』



最悪俺が習得している結界魔法や空間魔法などの珍しい魔法を教えれば何とか事態は収められるだろう。

しかし、それだと俺の損害があまりにも大きすぎる。



『…いや、この際魔法を教える代わりにヴァルハラ帝国に従属させるのも有りか？魔法騎士団として仕えさせるのも悪くない。』



しかし、今は人族の国家の従属より対等な関係の方が望ましい。

俺個人の損害で済むなら我慢することにしよう。

…それに長い目で見たらプラスになるかもしれない。



そんなことを考えながらヴァルハラ帝国の政務を行っているうちに、気が付けば日が沈んでいた。



『…上手くいってほしいな。』



そんなことを思いながら眠りについた。